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安らぎと罪悪感
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「……」
開いた口が塞がらなかった。
こんなちっこくて僕の作ったクッキーを泣きながら食べるスライムがこんなに強いだなんて……
S級冒険者もレベルは高くて150あたりだ。
なのに、この子は……
僕が罪悪感に打ちひしがれていると、僕のクッキーを食べ終わったぷるんくんが泣き止んで明るい表情を向けてくる。
僕はそんなぷるんくんに向かって言葉を発する。
「家に帰ろう」
ぷるんくんは
「ぷりゅん!」
僕の左胸のところにジャンプして引っ付いた。
そして気持ち良さそうにブルブル体を震わせている。
僕は歩き出した。
だが、
ちょっと気になることがある。
死んだキングレッドドラゴン。
「ぷるんくん、ちょっといいかな?」
「ん?」
小首を傾げるぷるんくん。
まだ試してないことがある。
僕はキングレッドドラゴンのところへ行き、手を伸ばした。
「収納……」
唱えると、僕の前に小さく光る空間が現れて、そのまま巨大なキングレッドドラゴンをあっという間に吸い込んだ。
「すごい……」
どれほど保管できるかはわからない。
収納スキルは20万人に一人が使うことができると言われているスキルだ。
物流や建築分野などで非常に重宝されている。
ぷるんくんが僕にくれたスキルはどれも非戦闘系スキルだが、とても貴重なものだ。
キングレッドドラゴンを全部収納した僕は、ぷるんくんの頭をなでなでしながらダンジョンの外をめがけて進んだ。
外に出た僕たち。
この周辺も危険なモンスターが蔓延っている。
けれど、僕は怯まない。
ぷるんくんを抱えた僕はテクテクと歩く。
もう時間がない。
時間的に正午くらいだが、早く行かないと明日の学院に間に合わない。
僕は歩調を早め、気がつくと全力で走っていた。
「ぷるんくん、離れないようにちゃんと捕まってよ!」
「ぷるん!」
ぷるんくんから返事を聞いた僕は危険地域をあっという間に抜け出した。
広々とした小麦畑が見えてくる。
灰色ではなく、収穫を待つ新鮮な黄金色で埋め尽くされている。
できれば領主様のところへ顔を出しておきたいところだが、時間がない。
暖かい風に当たりつつ、僕は畑道をひたすら走った。
どれくらい走ったんだろう。
駅が見える。
ライデン駅。
駅と言っても、小屋とそう変わりない。
小屋の隣には見慣れた馬車がある。
「はあ……はあ……よかった間に合って」
僕は早速王都行きの切符を購入して御者へと歩む。
「おやおや?今朝ここを降りたマホニア魔法学院の学生さんじゃありませんか?」
御者さんが僕を見てにっこり笑う。
よく見ると、結構年を取った初老の男だ。
「はい!」
「もうすぐ出発するので、乗ってください」
「わかりました!」
言われて馬車に乗ろうとしたが、初老の御者さんはぷるんくんを見つめる。
「ほお?そのスライムはなんですかね?」
と、馬に乗った状態で小首を傾げる御者さん。
見つめられたぷるんくんはというと、
「んん……」
何かを思い出したのか、僕の背中に隠れるぷるんくん。
人見知りなのか。
そういえば6年前に、僕がぷるんくんを抱えて家に帰る時、人に見られてぷるんくん非常にビビっていたな。
それの名残だったりするのか。
僕はぷるんくんを胸から引っぺがして僕の腕で抱えて、自信満々に言う。
「この子は僕の家族です!」
言われた御者さんは目を丸くして不思議なものを見るかのような表情でいう。
「ほお、スライムを使い魔にした話は初耳ですな」
当然の反応だろう。
最弱スライムをわざわざテイムしようだなんて誰も思わないんだもん。
だが、ぷるんくんは格別だ。
僕の声を聞いて、自信ななさそうにしていたぷるんくんがいきなりドヤ顔をする。
そして両手を生えさせ、拳を振るう。
もちろんぷるんくんは小さいので、拳は虚空をよぎった。
「ぷる!ぷるぷる!ぷるるるん!!」
どうやら『わたい、つよおおおおおいスライムううううう』と言っている気がした。
「ほら、見てくださいよ。ぷるんくんは強いんですよ!」
「ほほほ、人生わからないものですな」
御者さんは冷や汗をかきながら、ぷるんくんがパンチするかわいい姿を見て戸惑う。
これでいいんだ。
他の人が認めなくても、僕はぷるんくんの強さをよく知っている。
僕たちは馬車に乗った。
客は僕たちだけ。
貸切状態だ。
僕はぷるんくんを僕の横の椅子にそっとおく
しばし待つと馬の蹄が音を鳴らして馬車はゆっくりとしたスピードで動き始める。
微風が緑の香りを運び、僕の鼻腔を通り抜ける。
清流のせせらぎ、な知らぬ昆虫の鳴き声、馬車の車輪と馬の蹄が地面と接触する音などが合わさって僕の耳の中に入った。
これまでは自分のことで手一杯で、周りのことを気にする余裕はあまりなかったが、こうやって耳と目を澄ましてみると、僕の心を落ち着かせてくれる要素が多いことに気がついた。
大自然をぼーっとなって見つめていたら、僕の肩に柔らかい感触が伝わってくる。
「ぷるんくん?」
どうやらぷるんくもこの大自然に興味津々のようだ。
ぷるんくんも僕と同じく周りの風景を眺める。
雑草、花、土、青空、谷、水辺などなど。
色とりどりの光景だ。
いつもの灰色に色彩が加わった。
ぷるんくんにこの眺めがどう映るんだろう。
いじめてくるアランたち、金欠、両親を亡くしたことへの寂しさ。
僕を取り巻く環境は変わってない。
けれど、
この子と一緒にいるだけで僕は心の安らぎを感じていた。
罪悪感と共に。
開いた口が塞がらなかった。
こんなちっこくて僕の作ったクッキーを泣きながら食べるスライムがこんなに強いだなんて……
S級冒険者もレベルは高くて150あたりだ。
なのに、この子は……
僕が罪悪感に打ちひしがれていると、僕のクッキーを食べ終わったぷるんくんが泣き止んで明るい表情を向けてくる。
僕はそんなぷるんくんに向かって言葉を発する。
「家に帰ろう」
ぷるんくんは
「ぷりゅん!」
僕の左胸のところにジャンプして引っ付いた。
そして気持ち良さそうにブルブル体を震わせている。
僕は歩き出した。
だが、
ちょっと気になることがある。
死んだキングレッドドラゴン。
「ぷるんくん、ちょっといいかな?」
「ん?」
小首を傾げるぷるんくん。
まだ試してないことがある。
僕はキングレッドドラゴンのところへ行き、手を伸ばした。
「収納……」
唱えると、僕の前に小さく光る空間が現れて、そのまま巨大なキングレッドドラゴンをあっという間に吸い込んだ。
「すごい……」
どれほど保管できるかはわからない。
収納スキルは20万人に一人が使うことができると言われているスキルだ。
物流や建築分野などで非常に重宝されている。
ぷるんくんが僕にくれたスキルはどれも非戦闘系スキルだが、とても貴重なものだ。
キングレッドドラゴンを全部収納した僕は、ぷるんくんの頭をなでなでしながらダンジョンの外をめがけて進んだ。
外に出た僕たち。
この周辺も危険なモンスターが蔓延っている。
けれど、僕は怯まない。
ぷるんくんを抱えた僕はテクテクと歩く。
もう時間がない。
時間的に正午くらいだが、早く行かないと明日の学院に間に合わない。
僕は歩調を早め、気がつくと全力で走っていた。
「ぷるんくん、離れないようにちゃんと捕まってよ!」
「ぷるん!」
ぷるんくんから返事を聞いた僕は危険地域をあっという間に抜け出した。
広々とした小麦畑が見えてくる。
灰色ではなく、収穫を待つ新鮮な黄金色で埋め尽くされている。
できれば領主様のところへ顔を出しておきたいところだが、時間がない。
暖かい風に当たりつつ、僕は畑道をひたすら走った。
どれくらい走ったんだろう。
駅が見える。
ライデン駅。
駅と言っても、小屋とそう変わりない。
小屋の隣には見慣れた馬車がある。
「はあ……はあ……よかった間に合って」
僕は早速王都行きの切符を購入して御者へと歩む。
「おやおや?今朝ここを降りたマホニア魔法学院の学生さんじゃありませんか?」
御者さんが僕を見てにっこり笑う。
よく見ると、結構年を取った初老の男だ。
「はい!」
「もうすぐ出発するので、乗ってください」
「わかりました!」
言われて馬車に乗ろうとしたが、初老の御者さんはぷるんくんを見つめる。
「ほお?そのスライムはなんですかね?」
と、馬に乗った状態で小首を傾げる御者さん。
見つめられたぷるんくんはというと、
「んん……」
何かを思い出したのか、僕の背中に隠れるぷるんくん。
人見知りなのか。
そういえば6年前に、僕がぷるんくんを抱えて家に帰る時、人に見られてぷるんくん非常にビビっていたな。
それの名残だったりするのか。
僕はぷるんくんを胸から引っぺがして僕の腕で抱えて、自信満々に言う。
「この子は僕の家族です!」
言われた御者さんは目を丸くして不思議なものを見るかのような表情でいう。
「ほお、スライムを使い魔にした話は初耳ですな」
当然の反応だろう。
最弱スライムをわざわざテイムしようだなんて誰も思わないんだもん。
だが、ぷるんくんは格別だ。
僕の声を聞いて、自信ななさそうにしていたぷるんくんがいきなりドヤ顔をする。
そして両手を生えさせ、拳を振るう。
もちろんぷるんくんは小さいので、拳は虚空をよぎった。
「ぷる!ぷるぷる!ぷるるるん!!」
どうやら『わたい、つよおおおおおいスライムううううう』と言っている気がした。
「ほら、見てくださいよ。ぷるんくんは強いんですよ!」
「ほほほ、人生わからないものですな」
御者さんは冷や汗をかきながら、ぷるんくんがパンチするかわいい姿を見て戸惑う。
これでいいんだ。
他の人が認めなくても、僕はぷるんくんの強さをよく知っている。
僕たちは馬車に乗った。
客は僕たちだけ。
貸切状態だ。
僕はぷるんくんを僕の横の椅子にそっとおく
しばし待つと馬の蹄が音を鳴らして馬車はゆっくりとしたスピードで動き始める。
微風が緑の香りを運び、僕の鼻腔を通り抜ける。
清流のせせらぎ、な知らぬ昆虫の鳴き声、馬車の車輪と馬の蹄が地面と接触する音などが合わさって僕の耳の中に入った。
これまでは自分のことで手一杯で、周りのことを気にする余裕はあまりなかったが、こうやって耳と目を澄ましてみると、僕の心を落ち着かせてくれる要素が多いことに気がついた。
大自然をぼーっとなって見つめていたら、僕の肩に柔らかい感触が伝わってくる。
「ぷるんくん?」
どうやらぷるんくもこの大自然に興味津々のようだ。
ぷるんくんも僕と同じく周りの風景を眺める。
雑草、花、土、青空、谷、水辺などなど。
色とりどりの光景だ。
いつもの灰色に色彩が加わった。
ぷるんくんにこの眺めがどう映るんだろう。
いじめてくるアランたち、金欠、両親を亡くしたことへの寂しさ。
僕を取り巻く環境は変わってない。
けれど、
この子と一緒にいるだけで僕は心の安らぎを感じていた。
罪悪感と共に。
応援ありがとうございます!
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