ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録6 俺達の決断

32 話し合いの開始

「それでは移動しましょう。入り方のお勧めはブッカロの別邸、正門から素直に入るコースです。ということで、そろそろリーダーであるカイルの出番ですよ。出るメンバーと場所を決めて、移動を命令してください」

 何だかなと思うけれど、仕方ないので俺は口を開く。

「わかった。行くメンバーは、イレーネ、ロザンナ、サリア、イリア、アギラ、ヒューマ、俺。あとは申し訳ないが、ここで待機を頼む。出発は早い方がいいだろう。戦闘にはならないだろうから、装備は特に必要ない。ということでイレーネ、ロザンナ、支度にどれくらいかかる?」

「このまま出ても大丈夫です」

 イレーネの言葉に、ロザンナが頷く。
 確かに2人とも外出できそうな格好だ。
 2人だけでなく、レズンとレウス以外の全員が。

 俺は持って行く話の都合上、すぐに出る可能性を考慮していた。
 しかしほかの皆も、そういう判断をしていたからこそ、すぐに外出できる格好をしていたのだろう。
 イレーネとロザンナも含めて。
 微妙に怪しいが、今はちょうどいいと思っておこう。

「わかった。それでは行こう。隊列は2列。俺とイレーネ、ロザンナとサリア、イリアとヒューマ。最後がアギラでいいか」

「それじゃそこに並ぼうか」

 レズン、レウス、エミリオ以外が席から立って、部屋の端に並ぶ。

「それではサリア、頼む。場所はヒューマの指定通り、門の前で」

「わかりました」

 おなじみの浮遊感の後、周囲が暗くなる。
 冬の冷気が頬を刺した。

 灯火魔法を起動。
 俺たちのテモリの施設よりやや小さい門と、その奥が見える。
 警備している者は見当たらない。

 偵察魔法で周囲を確認する。
 人がいるのは建物内だけだ。
 全部で5人。1人は魔法使いだ。
 偵察魔法で5人それぞれの居場所と状態を確認。

 なるほど、レノアは確かにこちらを待ち受けていたようだ。
 攻撃をするためではなく、話し合いをするために。

 魔法使いの魔力が動いた。
 この距離なら俺でも、この魔力の動きが状態異常解除の魔法だとわかる。
 目的は眠っていたダニエーレさんと思われる男を起こすこと。

 レノア、小柄な女性魔法使い、ダニエーレさんと思われる男は同じ部屋にいる。
 男はベッドに横になっているが、部屋そのものはどう見ても病室ではない。
 そこそこ広い、おそらくは客を呼んで会食するための部屋だ。

 中央には10人以上が就くことが可能な大テーブルがあり、その端に不似合いなベッドが置かれている。
 おそらくは話し合いのため、ベッドごと部屋を移動したのだろう。

 ダニエーレさんと思われる男が、ベッドからゆっくり起き上がる。
 向こうの準備はできたようだ。
 ならこちらも、ここから鍵を開けて等、わざわざ順序を踏む必要はあるまい。

「サリア。それじゃあの部屋の手前の廊下まで、移動を頼む」

「わかりました」

 近いので移動はほぼ一瞬だ。
 全員揃っているのを魔力で確認し、俺は扉をノックする。

「どうぞ。開いていますわ」

 レノアの返答を確認した後、扉を開けて中へ。

「どうぞお座りになってくださいな。あとケティ、今までご苦労様でした。現時点で『光の欠片』に引き継いだということで、依頼達成と認めます。完了証は既にお渡ししたもので大丈夫です。あとは自由にしていただいて結構ですわ。部屋で休んでいただいても、家に帰っても」

「なら依頼は終了として、私の意思でここに残ります」

「わかったわ」

 魔法使いはケティという名前らしい。
 そして単に雇われているだけではなく、それなり以上の人間関係があるようだ。

 さて、俺たちとしては座る前にひとつ確認しておきたいことがある。

「座る前に、そちらの男性の確認をしていいだろうか」

「もちろんですわ。どうぞ自由にご確認なさって」

「ならイレーネ、ロザンナ、あとアギラ、頼む」

「わかりました」

 イレーネがささっとベッドへ近寄る。

「お父様……」

「イレーネ、済まない」

 本人に間違いないようだ。
 まあそうだろうとは思っていたが。
 身体の様子はどうだろう。

「アギラ、どうだ」

「弱ってはいるが、3時間程度までなら問題ない」

 アギラがそう言うのなら、体調的には気にしなくていいのだろう。

「わかった。では俺たちも座るとしよう」

 ここまで来て、レノアが攻撃を仕掛けてくる可能性はほぼ無い。
 そう判断して、俺はテーブルを挟んでレノアの反対側へと率先して座る。

 イレーネとロザンナが座ったところで、レノアが口を開いた。

「さて、お話の前にまずは自己紹介させていただきましょう。もうご存じだと思うけれど、私はレノア。そちらのベッドに横になっているのが、現アコルタ子爵のダニエーレです」

 さて、それではこちらの自己紹介の番だ。
 立場上はこちらの代表はイレーネだが、レノア相手では少々荷が重い気がする。

 ここは俺が主体で進めた方がいいだろう。
 いざという時はヒューマやサリア、イリア辺りの力を借りるとして。
 こちらをちらっと見たイレーネを手で制して、俺は口を開く。

「俺はそこにいるダニエーレさんの娘、イレーネに依頼を受けた冒険者集団『光の欠片』のカイルだ。こちらが依頼者のイレーネと、側近のロザンナ。あとはうちの集団クランメンバーで、イリア、サリア、アギラ、ヒューマだ」

「有名な方のパーティ名は、名乗られないのでしょうか?」

 領主館を仕切っていたのなら、俺たちの正体を知っていて当然だろう。

「あっちの名前は、自分たちで名乗ったことはない。説明のために仕方なく使ったことはあるが。あくまで冒険者集団クラン『光の欠片』だ。集団クランメンバーも若干異なるから、この名前で頼む。
 さて、それではいくつかの現状の確認と質問から、話を始めていいだろうか」

「ええ、なんなりとどうぞ。そのつもりでここにいるのですから」

 話し合い開始まで持ち込んだ。
 ただ問題はここからだ。

 先程のヒューマの話のおかげで、俺もある程度の状況は把握できたつもりでいる。
 しかしそれが正しいかは、まだわからない。
 それにおそらくだが、ヒューマとイリアはまだ何か言いたいこと、あるいはここで言おうとしていることがある。

 本来なら、あらかじめ集団クラン内でしっかり話し合い、意思統一してから来るべきだったのだろう。
 しかし物事にはきっとタイミングというものがある。
 昼間、俺が不用意にこの別邸に近づいたせいで、そのタイミングが早まってしまった。

 ただそれでも今回の場合、まだ俺たちが読み切れていない何かがあるような気がした。
 行き先がはっきりしないまま話し合いを始めるのが正解、という気もする。
 だから俺は、まずは無難だと思うところから話を始める。

「それじゃまずはアギラ。ダニエーレさんの現在の体調について教えてくれ」
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