ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
206 / 322
拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⑻ 迷宮の魔物⑵

しおりを挟む
 翌日、俺はサリアにゴーレムを1体借りた。
 予備部品で組み上げられたばかりのTシリーズゴーレム、セイバーだ。
 借りた理由はゴーレム操作の練習の為。

 俺も一応ゴーレムを操る事は出来る。
 ただしヒューマと同程度に、という注釈付きで。

 このパーティでゴーレム操作を最も得意とするのは文句なくサリアだ。
 5体を同時に動かしながら自分の作業をする事が出来る。
 次に上手いのはレウスで、3体までなら自分と同時に、自分の身体と同じくらいに動かせる。

 サリアとレウスは操作が難しいゴーレム馬のグラニーでさえもTシリーズと同様に扱う事が可能だ。

 3番目がレズンで、自分とTシリーズのゴーレム2体を使って戦闘や防御が可能。
 グラニーも使えるが、その時は他のゴーレムは使えない。

 アギラは自分と同時に動かせるのは人型のTシリーズ1体までで、グラニーは使えない。
 しかしその1体は自分自身と同時に、自由自在に動かせる。
 自分とゴーレムでそれぞれ別の患者を治療なんて事も可能だ。

 残るヒューマと俺も一応Tシリーズのゴーレムなら操る事は出来る。
 ただし操る際は自分自身は動けない。
 なおかつ操作そのものも自分の身体並みとはいかない。
 歩いて、喋って、棒立ちで魔法を使う位だ。

 しかし今度の迷宮ダンジョンでは作戦上、ゴーレムを使った討伐しか出来ない。
 だから少しでも活躍するにはゴーレムに慣れて、ゴーレムを使った戦闘が出来るようになる必要がある。

「別にカイルがゴーレムを使う必要はないと思いますよ」

「僕もそう思うな。僕もレズンさんもアギラさんもいるんだから」

 ヒューマとレウスにはそう言われた。
 しかし俺だって土属性はレベル3あるのだ。
 適性が無い筈はない。

 ちなみに俺達のパーティ、ヒューマ以外は全員土属性のレベルが3以上ある。
 それぞれ育った家が農業をやっていて、手伝わされる際にちょいちょいと魔法を使った影響だろう。
 ヒューマの土属性がレベル1のままなのは商家出身だからだ、多分。

 俺の土属性魔法の適性はレウスと同じレベル3。
 だから練習すればいつかはレウスと同じくらいにゴーレムを使えるようになる筈だ。

 レウスとサリアは先生達の家で暮らしていて、ゴーレムを操る機会が多かった。
 だからその分ゴーレムに慣れている。

 一方、俺はゴーレムを使った事はほとんど無い。
 パーティを組んだ後、試しに2回使ってみただけ。
 明らかに経験というか練習が足りない。

 そんな訳で今更ではあるが、練習を開始した訳だ。
 なお俺はまだゴーレムを操作しながら自分が動く事は出来ない。
 だから俺自身の身体は自分の天幕内で横になった状態。
 傍目にはサボって昼寝しているようにしか見えない。
 勿論パーティの皆は何をしているかわかっているけれど。

 ゴーレムのセイバーを拠点内に作った広場に移動させ訓練開始。
 まずは座る、立つ、歩く、走る等の基本動作をやってみる。
 どうにも自分の身体と違い、動きに違和感がある。

 試しに思い切りジャンプしてみる。
 自分の身体でやるより高く飛び上がれるが、意識してから動くまで1テンポ遅れる感じだ。

 次は斜めにかけたポーチ型自在袋から槍を取り出す。
 リディナ先生と同じコボルトキングの槍だ。
 いつも通り右半身を前にして構え、基本通り振ってみる。
 いつもより軽く振れる代わりに重心が違う気がしてしっくりこない。

 何度もやって身体との違いを叩きこむしかないのだろう。
 動かしているのはゴーレムだから身体的には疲れない筈だ。 
 なら今日1日はみっちり訓練をする事にしよう。

 ◇◇◇

「飯なんだな」

 レズンの声で時間に気づく。

「わかった。ゴーレムを戻したら行く」

 自分の口でそう返答。
 ゴーレムを操作し槍をポーチ型自在袋に収納。
 ゴーレムを俺のテントに戻して座った姿勢にして起動解除する。

 立ち上がると身体が重く感じる。
 思い通りに動かないというか何か違和感があるというか。
 午前中ずっとゴーレムを動かしていたせいだろう。
 自分の身体なのに何となくぎこちなさを感じながらゴーレム車の方へ。

「どうだった、あの魔物や討伐の方は?」

 そう皆に声をかけつつ席につく。
 今日の昼食は半月デミデューマ
 薄い円形に焼いたパンの上にトマトソースをかけ、肉や野菜をのせ、更にチーズをたっぷり入れて焼いた後、半分に折った食べ物だ。

 かぶりつくと溶けたチーズの塩味とトマトソースの甘みと酸味がたまらない。

「冒険者ギルドで調べたところ、あの魔物はリントヴルムと呼ばれるもののようです。記録では80年前、ヘルウェティア国のエレストフェルト迷宮ダンジョンに出現し、ルツウェンやツークといった地方を壊滅させたそうです」

 冒険者ギルドに報告書を届けに行ったヒューマからそんな報告。

 ヘルウェティア国はスティヴァレの北側にある山国だ。
 しかし俺はヘルウェティア国の地理は良く知らない。
 だからヒューマが言った地方がどれくらいの広さでどれくらいの人間が住んでいるのかわからない。

 それに重要なのは被害状況ではなく、どうすれば倒せるかだ。

「攻略に参考になる情報は無いか?」

「出現時には倒せなかったようです。記録では迷宮ダンジョンから出た12日後、突如地上に落下し、そのまま身体が分解して消えたとあります。
 迷宮ダンジョンの魔物なので、外で活動できる日数に制限があったのではないか、そう考察されています。

 攻撃は2本の足にある強靭な鉤爪の他、口から吐く冷凍波コールドブレス、地属性魔法の地震、同じく地属性の岩塊落下、水属性の広域冷凍魔法を使ったと記録にはあります。

 戦闘記録では
  〇 迷宮ダンジョン内での戦闘時には冷凍波で凍らされるので接近出来ず
  〇 迷宮ダンジョン外では飛行しており剣や槍は使用不能で
  ○ 長弓の攻撃程度は無効で、ただし弩弓の攻撃は避けたとあるので効くかもしれない
  〇 攻撃魔法は全属性効かない
とありました」

 なるほど。
 弩弓が効くなら剣や槍も効くかもしれない。
 ならば今度はサリアに聞いてみよう。

「Tシリーズのゴーレムは冷凍波コールドブレスを受けて動けるか?」

「無理です。確かにゴーレムは人間よりは寒さに強いですが、冷凍波コールドブレスや冷凍魔法に耐えられる程ではありません」

「毛皮等を着せても無理か」

「ええ。冷凍波コールドブレスや冷凍魔法をかけられると、毛皮でも固まって動かせなくなりますから」

 ゴーレムで接近戦を挑むのは無理のようだ。
 少なくとも普通に戦うのならば、だけれども。

 サリアは一呼吸おいて、そして続ける。

「リントヴルムが出てきそうになった場合、普通に考えれば土属性魔法を使って迷宮ダンジョン出口を塞ぐくらいしか対策は無いと思います。

 ただリントヴルムは水属性と地属性を使えるようです。ですから土や氷で出口を塞いでも効果は無いかもしれません」

「絶望的だな、これは」

 アギラの言う通りのようだ。
 しかし実はそうでもない。

 弩弓の攻撃を避けたという事は、それに類する攻撃を当てれば倒せる可能性があるという事だ。
 なら何とかなるかもしれない。
 まだ確実ではないので言えないけれども。

 ただ、一応サリアには聞いておこう。

「サリア、ゴーレムは冷凍波コールドブレスは無理と聞いたけれど、高温にはどれくらい耐えられる?」

 サリアは何かに気付いたような表情をする。
 きっと俺の作戦に気付いたのだろう。
 こいつは控えめだけれど頭の回転は早い。

「普通ですと水が沸騰するよりやや高い程度までです。ただ部品と潤滑油次第で紙が発火する程度までなら耐えられるようにする事が出来ます。
 そのかわり水が凍る温度以下では少し動きがにぶります。ただし低温側で動けなくなる温度はそこまで変わりません」

 間違いない。
 サリア、俺がやろうとしている事に気付いている。

「今のはどういう意味なの、姉さん?」

「カイルさん、あとレウスならリントヴルムを倒せるかもしれない。そういう事です。勿論今のままでは無理ですけれど」

 俺とレウスというのは、火属性と風属性がレベル4以上という意味だ。
 やはりサリア、完全にわかっている。

 それにしても今のままでは無理、か。
 はっきり言われたが、確かにその通りだ。

 そして俺も気付いた。
 先程サリアは言ったのだ。

『普通に考えれば土属性魔法を使って迷宮ダンジョン出口を塞ぐくらいしか対策は無いと思います』

 つまり普通でない方法をサリアは考えついている。
 おそらく俺と違う方法を。
 聞いてみよう。

「サリアも思いついたんだろう。リントヴルムを相手に戦う事が出来る、俺と違う方法を」

 彼女は頷いた。

「ええ。うまく行くかはわかりませんけれど」
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。