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1巻
1-1
しおりを挟むプロローグ 新たな天地
私はあたりを見回す。片側は岩場で崖がそびえており、もう片側が森だった。人の気配はない。先程まであった神様の気配も。
誰もいないなら問題ない。私は他人がいると落ち着かないのだ。思考速度も八割方落ちてしまう。
神様はそういった私の事情をご承知だった模様だ。だから説明を最低限にして、私を解放してくれたのだろう。
念のために記憶を確認してみる。
私は津々井文乃、十四歳、明原中学三年一組。保健室登校で三年になってから、まだ教室へ顔を出していない。こうして転移してしまったからには、学校関係はもう意味ないけれど。
今ここにいるのは神様の仕業だ。見慣れない神社で雨宿りしていたら、神様がなぜか語りかけてきたのだ。
『この世界で生きにくそうだけれど、もう少しあった世界に行ってみないか』と。
対人恐怖症なのでろくな応答はできなかった。けれどさすが神様だけあって、私の思考を読み取り、いくつかのアドバイスとともに、私をここへ送ったわけだ。
向こうの世界に残してきて困るものはない。友達もいない。母は私がいないほうが楽だろう。私がいなくなった分、貰える保護費が減ることに文句をつけるかもしれないけれど。
記憶に問題はなさそうだ。なら次は持ち物の確認。持っていたデイパックを開けて中を見る。
入っているのは学校指定のタブレット、筆箱、そして先程までなかった大きな辞書サイズの本。見ると背表紙に『大事典』とだけ書かれている。
これが神様が言っていた『大事典』だろう。つまり神様に出会ったことも神様が言っていたことも、おそらく全てが事実なのだと判断できる。
さて、ここはどんな場所だろう。私は周囲を見回す。森の樹木は広葉樹っぽい。葉がつやつやして厚めなのでおそらく常緑樹にちがいない。
日本でも地球でもないのだから当然だが、全く知らない木だ。しかしこの木が常緑広葉樹ということで、気候の想像はできる。
おそらく日本の西日本と同じような気候だろう。さらに言うと、葉の色や下草の感じから今は四月終わりから五月くらいだと思う。もしも四季があるならば。
『現地に着いたら、まずステータスを確認して、それから大事典を読んでくれ。それで必要なことは大体わかるようにしておいたから』
神様はそう言っていた。だから私は、ステータスを確認してみる。
「ステータス」
そう呟くと、すっと半透明な字幕が視界に出現した。
氏名:ツツイ・フミノ 14歳 女性
HP:130 MP:180 STR:63 VIT:63 DEX:63 AGI:63 INT:63
職業:なし 装備武器:なし ATK:52 装備防具:なし DEF:48
なるほど、これがステータスというやつか。
しかし、この数値が何を意味しているか、私はまだ知らない。
悪い値ではないはず。ただ、詳細は大事典を読まないとわからない。
使用可能魔法系統:地2/水2/火2/風2/空2
使用可能魔法:なし
スキル:アイテムボックス(極1)/自然言語理解(5)
使用可能な魔法がないのはがっかりだ。
でも、スキルは既に使えるものが二つある。
このスキル二つのうち、アイテムボックスの方は、私が神様から付与されたものの中で最大の目玉らしい。
このスキルについてだけは、神様も『詳細は大事典を読むように』ではなく、ある程度説明をしてくれた。
『生物以外ならなんでも思い通りに収納できる能力だ。入れたものが他の収納物と混じったり汚染されたりすることはない。時間経過もない。容量はまあ、何をどれだけ入れても困ることはない、と言っておこう』
無限に入る物置だと思えばいいようだ。時間経過がないから、冷蔵庫よりも有能。食べ物を入れてもいつでも新鮮なまま。
しかし生物以外なら、という点が気になる。どんなものでも、微少な細菌などは付着している可能性が高いと思うのだ。そういったものの扱いは、どうなるのだろう。
『生物を入れようとした場合は、魔力による抵抗を受ける。魔力が充分であれば死んだ状態で収納されるし、魔力が足りなければ収納できない。どんなものでも細菌などの微生物がついている。つまり、全くの魔力消費なしで収納することは不可能だ。ただし出すことは、魔力消費なしでできる。それ以上は自分で調べたり確かめたりしてみてくれ』
だいたいこれで、把握できたと思う。あとは神様の言う通り、実際に使って確かめるしかないだろう。
では次の行動は、大事典を読むことだ。
ただ本を読むのなら、それなりに安全な場所で読んだ方がいいだろう。本に夢中になった結果、気づいたら猛獣がガブリ、なんてなったらまずいから。
安全な場所か。
頑丈なログハウスなんてものが建築できれば一番だが、今の私には技術も知識も工具もない。
ただ神様が言うことだ。できないとは思わない。
ならば、きっとここで説明のあったアイテムボックスのスキルを使うのだろう。
考えたことを試してみる。目の前の大きな樹木を見て、収納したいと念じる。さっと木が切り株になった。つまり、樹木が切られた形でアイテムボックスに収納されたわけだ。
ステータスを確認してみると、魔力が微妙に減っている。
樹木そのものの生命の分と、樹木についていた虫とか細菌や地衣類などの生命の分、魔力が減ったのだろう。
ついでにアイテムボックススキルの使い方で、思いついたことを試してみる。
樹木の枝を全部払って、樹皮も剥いだ状態をイメージして収納したいと念じてみた。
バサバサバサバサ。樹木の幹が消えて、枝だの樹皮だのが降ってくる。
「わわわっ~」
慌てて避けつつそれでも思う。思い通りに収納するという意味が理解できたぞと。
さて、アイテムボックスの使い方はわかった。それではこのスキルでどうやって安全な居場所を作ろうか。
周囲にあるのは木の他は崖だけ。なら穴を掘るのが簡単だろう。横穴状に土を収納すれば洞窟になる。これなら簡単だし雨風をしのげる。万が一の際も入口を塞げば安全だ。
作る前に少し考える。ただやみくもに穴を掘るだけではなく、どういう穴にすればいいかを。
とりあえず中に水が溜まってはまずい。雨が降ったときに内部に水が流れ込まないよう、入口から上向きの傾斜をつけた方がいいだろう。
形は崩れないように馬蹄形がいい。
最初だから広さは最低限でいいだろう。それではやってみよう。
掘る穴の形を意識して、そして念じる。土を収納!
よし、思い通りの形の横穴が開いた。少し待ってみたが崩れる様子はない。
これで完成だ。私は崩れないか注意しながら、中へと入ってみる。
ここなら安全なはずだ。前方向さえ塞げば猛獣が入ってくることはない。
では、入口を塞げば問題ないだろうか? 大事典をゆっくり読めるだろうか?
「まだ、無理か」
そう独り言が出てしまった。そう、まだ無理だ。下が土だから座ると服が汚れる。このままでは、立ったまま読書することになってしまう。
まずは下をなんとかしよう。ピクニックシートなんてものがあれば広げるのだけれど、ないから私が調達できる材料で作る必要がある。
現在調達可能で手っ取り早いものは木だ。これを使おう。板にして敷き詰めれば、とりあえず板の間っぽくなるだろう。
最初に材料調達から。私は洞窟の外に出て、付近の太そうな樹木を見繕う。
「あれとこれ……余裕を持って十本くらい伐採すればいいか」
方法は先程と同じで、丸太状態にして収納する。
それでは次、床板をつくろう。
収納してある丸太を出して、洞窟に入る大きさに切断した状態をイメージして収納する。
これを出して、今度は丸太が板状にカットされた状態をイメージして収納する。
この繰り返しでできた板を、洞窟内で出して下へ敷き詰めれば、木の床が完成だ。
よし、そこそこの居心地を確保できただろう。座っても寝転んでも汚れなくて済む。
中に入って、前から猛獣などが入ってこないように、洞窟前に丸太を積み上げる。これで一応は安全だ。
それでは、大事典を読む作業に入ろう。
神様は私に確かこう言った。
『君は会話を非常に苦手としている。代わりに本が好きなようだ。だから、ここで僕が詳細を説明するよりは、本という形にして自分で読んでもらった方が頭に入るだろう』
さすが神様だ。私のことをよくわかっている。
私は洞窟入口からの光を頼りに、大事典を開いてみた。
『まずはじめに~早急に覚えるべきこと』
大事典というよりは、入門書だな。何もわからずとも、最初から読めば問題ないようにできている、この世界で生きていくための教則本。
今はこの方がありがたい。難しい知識を知る楽しみより、まずは生存することが大事だ。
『その一、まずは生活及び自衛のため、基礎的な魔法を覚えましょう』
いきなり魔法か。これは無茶苦茶楽しみだ。ぼっちゆえにこじらせた過去の記憶が蘇る。
ふっ、邪気眼を持たぬ者にはわかるまい。
静まれ私の腕よ。闇なる氷よ全てを覆い尽くせ、エターナルフォースブリザード!
『この世界では「地」「水」「火」「風」「空」の五大元素が全ての基本です。全てのものはこれら五大元素、もしくは発展形、あるいは複合形で成り立っています。魔法もまた同様です。それではまず、すぐに必要となるだろう五大元素の基本魔法を覚えましょう』
いきなりエターナルフォースブリザードは無理のようだ。しかし魔法を使えるだけでもありがたい。
最初の例題付き説明は、灯火魔法だった。火属性のレベル1の魔法で、暗いところを明るくするものだ。
ちなみに、魔法は簡単な順にレベル1、レベル2と区分されているらしい。
ちょうどこの洞窟は本を読むには少し暗い。きっと神様もその辺を想定して、最初にこの魔法を載せたのだろう。
ふむふむ。魔法の要点はイメージを形成することと魔力の流れを意識することか。
手を伸ばしたり曲げたりしながら私は教本、いや大事典で魔法を学ぶことに集中する……
一時間くらい集中して読んだあと。レベル1の基本魔法を五つ覚えたところで――
「こんなものか、今は」
そう独り言を呟いて、そして大事典から目を離す。
灯火魔法を解除してみる。こころなしか外が暗くなってきたように感じた。だから入口に積み上げた丸太を収納して、洞窟の外へ。
空が赤みを帯びはじめていた。もう夕方、つまりまもなく夜が訪れてしまう。
そろそろお腹が空いてきた。もちろん食料なんて持っていない。どうしよう。
わからないときは大事典だ。さっと目次を見ると……あるある。『食料確保の基本』なんて項目が。
『この世界で自力採取できる食料は次のようなものがあります――』
なるほど。この季節でこの場所だと、木の実などは期待薄のようだ。だから葉っぱ関係以外は、魚や獣を狩る必要がある。
そして、この付近で出会える獲物というと、鳥類、山鼠、栗鼠、蛇、鼬、鹿、カモシカ、猪、山猫、狼、熊……あとは、それらが魔素を取り込んで魔獣に進化したものと、魔素が凝集して形成されたオークなどの魔物。
魔素とは、魔法を使うために必要な魔力の素となる微粒子で、この世界の空気中や水中に存在しているらしい。
魔物と言えば、定番のゴブリンもいるようだ。だが、肉が少ない上に、臭くて不味くて食えたものではないらしい。少なくとも大事典にはそう記載されている。
それを知っているということは、神様はゴブリンを食べたことがあるのだろうか。それとも、神様だからそんなことをしなくてもわかるのだろうか。
そんな疑問はともかくとして、今から狩れそうなのは鳥類か鼠、栗鼠の類だろう。もっと大物もいるらしいが、それはとりあえず後回しにしておこう。
とにかく急いで狩りだ。暗くなっても灯火魔法で明るくはできる。しかし、間違いなく目立つだろう。獣に対しても魔物に対しても人間に対しても。
目立つのは、私の望むところではない。特に人間には会いたくない。この世界で落ち着くまでは。落ち着いても、できれば会いたくないけれど。
洞窟の外で私は、覚えた監視魔法を使い、周囲の気配を探る。山鼠らしき気配を確認。気配の方へと歩き出す。
体感で三分くらい歩いた場所にある木の根元だった。私の握りこぶし程度の穴が開いている。監視魔法によると、この穴の中にいるようだ。
さてどうやって捕らえるか。おそらくここ以外にも出口の穴はある。水攻めをしてもその穴から逃げ出すだろう。
少しだけ考えて、そして思いつく。頭の中で順番を考えて……よし!
まずは、アイテムボックスで木を伐採するイメージで収納!
これは既にやったことだから簡単だ。今回は板材にせず、切り株の上側はそのままの状態で収納する。
目の前に残ったのは、鼠さんの巣穴と切り株。この状態でもう一回アイテムボックスを発動させる。今度は土を収納だ。このときミミズだの小動物は収納しないよう強く意識する。
巣穴があった木の根元の土がばっさりとなくなり、大穴が開いた。木の根がゆっくり落ちる。
穴の下でちょろちょろする気配があった。
さて、いよいよ魔法の出番だ。
「哀れな鼠よ、我が糧となるがいい。ウォーターハザード!」
いかにもそれっぽく呪文を唱える。もちろんこの呪文に意味はない。単なる自己満足だ。しかし、そこはやっぱり様式美というやつだろう。たとえ使用したのが、実際は水属性のレベル1魔法『出水』であっても。
穴の中に水が溜まっていく。
おっとまだ邪魔物があった。木の根だ。アイテムボックスで収納する。これで鼠さんも隠れる場所がなくなった。
空属性のレベル1魔法『監視』で鼠さんの気配を確認する。
うん、生命反応が弱くなっている。都合十匹が、順調に溺れているようだ。
我が糧となる命に感謝を。両手を合わせて祈りを捧げる真似をしているうちに、鼠さんたちは溺死した。
「アーメン」
一応そう唱えておこう。私はキリスト教徒ではないけれど、他に手ごろな神様への言葉を知らないから。南無阿弥陀仏は神様ではなく仏様だし。
さて、それでは仕上げだ。アイテムボックスに水を収納する。この際、泥とかゴミとか生物類が混じらず水だけが収納されるよう強く意識する。
そうすると、穴の中にはゴミと死骸が残った。
穴の中が暗いので、灯火魔法を発動させる。外に光が広がらないように明かりの位置を低くして確認する。
……いたいた、お亡くなりになった鼠さんが。
思ったより大きいやつまでいる。家猫程度というビッグサイズが二匹、いかにも鼠さんというサイズが八匹だ。
ありがたくアイテムボックスに収納する。毛皮や肉にわけるのは洞窟でやろう。
鼠を捕るために開けた穴はどうしよう。
少し考え、とりあえずそのままにしておくことにした。
大した理由はない。そろそろ暗くなってきたから。あと、面倒だったから。
では拠点に帰ろう。これら鼠さんを調理しなくてはならない。かなり腹も減ってきたし、狩りについては今日はこの辺で勘弁してやろう。
拠点の洞窟に帰ってきた。入口に丸太を積み上げたあと、灯火魔法を発動させて中を明るくする。
それでは夕食の料理をしよう。そう思って、鍋も箸もスプーンも、包丁やまな板さえもないことに気づいた。
仕方ない。これもアイテムボックスで作るとしよう。
先程カットした丸太のうち短いものを洞窟内に出す。出した丸太をじっと睨んで、鍋の形をイメージして収納。
取り出すと、なんと歪んだ鍋の形をした木製食器が!
歪んだのは、私が収納した際のイメージがうまくなかったのだろう。でもいい、使えれば。
同じ方法で深皿、浅い皿、おわん、スプーン、箸、まな板を作成。ついでに座卓も作成だ。
「匠が生み出した一木造りの名作です」
なんて自分でナレーションしてみたけれど、実際は迷作の方だろう。どれも微妙に歪んでいるし。でも、実用的に問題ないからいいとしよう。
作ったばかりの座卓の上に、やはり作ったばかりのまな板をのっける。さらにその上に、私のために犠牲になった鼠さんのうち二番目に大きいのを出す。
こうやって見ると、鼠さんは思ったより可愛い。少しだけ罪悪感を覚える。でも仕方ない。君の命は無駄にしないよと祈って、調理開始だ。
包丁もナイフもない以上、全てはアイテムボックスと魔法頼み。
まずは皮だけを収納と念じる。なかなかエグい状態の肉塊が残された。あと出血もちょっと。
血はどうしようか。少し考えて収納しておく。アイテムボックスに入れた以上、細菌もウィルスも寄生虫も死んでいるはずだ。だから食用にしても問題ないはず。塩の持ち合わせがないから、血で塩分を取る必要性が出てくることも考慮しておきたいので。
しかし今は生々しすぎる。だから、飲むのはとりあえず今は遠慮したい。
次いで内臓と目玉、脳などを収納し、いよいよ骨と肉だけが残された。
骨だけ収納と念じてみる。うまくいかない。肉と骨はくっついているがゆえに、単純に念じるだけでは分離できないようだ。仕方ない。面倒そうな首から上だけを、収納してしまおう。首ちょんぱ!
残ったのは首から下部分、大きさにして私の手のひら二つ分の肉塊、もちろん骨付きだ。まだ少々生々しいが仕方ない。作ったばかりの箸で大きめの平皿の上に置く。
生でもアイテムボックスのおかげで食中毒になることはないはずだ。
とはいえ、この形のものを生で食べるのは、さすがに元現代日本人として抵抗がある。だから焼く。魔法で焼く。温度上昇の魔法で。
肉をじっと睨んで念じる。温度よ上がれ。だいたい七十度でいいかな。あまりやるとパサパサになるし。
そんなことを念じていると、肉の色が明らかに変わってきた。よしよし、いい感じだ。
最後の仕上げで表面だけ二百五十度。表面の脂肪部分がパリッとなった。これで完成だ。
異世界最初の食事が完成した。メニューは鼠の首から下丸焼き。
「ペルー風、異世界鼠の丸焼きです。野趣たっぷりに仕上がりました」
今ひとつ食事という感じがしないので、自分でナレーションをつけてみた。なお南アメリカのペルーに鼠の丸焼き料理があるのは本当だ。ネットで見ただけで食べたことはないけれど。
今後もどうせこんな食生活が続くだろう。ここで怯んでも意味はない。やるべきことはひとつ。鼠さんの命に感謝して、いただきます。
箸で肉をつまんでみる。一応崩せる程度のかたさだ。
そして、中から肉汁がじわっと出てくる。
うん、肉としては美味しそう。それまでの姿は忘れる方向で行こう。
それでは実食。一口食べてみた感想を、料理番組風に呟いてみる。
「鶏肉、それも胸肉に似た風味です。健康的な感じでいいですね」
食べたことはないけれど、サラダチキンとはこういう感じだろうか。でも、鶏肉よりは少しだけ旨味が濃いかな。そんな感想を抱きながらいただく。
骨が結構あるし、内臓を抜いた部分は空だしで、大きさの割に可食部分は少ない。
あと本当は少し醤油が欲しい。塩味が薄いのだ。でも悪い味ではない、多分。
骨のせいで食べるのに結構時間がかかる。しかし急いで食べる必要はない。だからゆっくりと食べる。骨に肉が残らないよう、食べられる部分は全部食べるつもりで。
この時間のかけ方だけは、異世界に来る前よりは優雅だ。家でも学校給食でも、他人が動き出す前にさっさと詰め込んでいたから。そうしないと実害のある環境だったし。
それにくらべれば充分に優雅だ。見た目は原始人だけれども。
軟骨も骨にこびりついた肉も全て完全に食べてごちそうさま。
うん、腹もほどよく膨れた。
片づけは深く考えなくていい。ゴミとそれ以外を意識して収納すれば済む。
さて、それでは寝るか。そう思って、また気づいてしまった。布団もなければ寝袋もない。
あるのは作ったばかりの板の床だけ。学校指定デイパックが枕になるかな……ならないな、やっぱり。
少し考えたが、解決策は思いつかない。
今の環境でも、巨大な箱に草や木の葉を敷き詰めてクッションにすることくらいはできるだろう。
しかし、もう外は暗い。やるなら昼間だ。
仕方ない。今日はここのまま横になろう。下がかたいし掛け布団どころか、毛布もないけれど。
寒いので魔法で気温を上げて……と。うん、これで少しマシになったかな。
灯火魔法を解除する。急に真っ暗になった。木々を揺する風の音が妙に大きく聞こえる。原始の不安とでもいうような感覚が私を襲う。
大丈夫、この中に危険な大物は入ってこない。
無茶苦茶重い丸太を何本も積んで、入口を塞いでいるのだ。入れるのは子鼠程度まで。
だから問題ない。きっと問題ない。そう思っても不安は消えない。おまけに寝にくい。
でも寝なきゃ明日が辛いだろう。寝なきゃ。寝なきゃ……
かなり頑張ったつもりだが、やはり眠れない。
仕方ない。どうしようもなく眠くなるまで、大事典を読んでいよう。私は再び灯火魔法を発動させた。
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