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拾遺録6 俺達の決断
13 取り調べる前に
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5人を調べたいところだが、その前に一仕事残っているようだ。
面倒だが仕方ない。
「こっちの始末は頼む。客の方は俺があしらっておく」
そう皆に言って、そして門の方へ。
待つまでも無かった。一ブロック先から、衛士を20人余り引き連れた、偉そうなのが騎馬でやってきた。
「どけ! 衛士隊の捜査だ」
こういう無礼な輩は、普通では話が通じない。
だから少しだけ本気の威圧を放ってやる。
ヒヒヒヒーン!
馬が恐怖に煽られ、前足で地を蹴って立ち上がった。
乗っていた無礼者は手綱を握りしめていたおかげで、何とか落馬から免れる。
「一応職名と用向きは聞いてやる。何処の誰で何の用だ」
無礼者、震えてしまって答えられない。
少し威圧をかけ過ぎたようだ。これでは話し合いにもならない。
仕方ないので、こう申し向けてみる。
「なら副官でいい。職名と、此処へ入ろうとした用向きを答えろ。30数えても答えないなら、衛士に扮して不法行為を働いた現行犯として、国法に則りこの場で措置する」
これで副官も馬鹿だと面倒くさい。
衛士隊30人程度なら片付けるのは簡単だ。しかしそうしてしまった場合は、正規の手続きで衛士隊と、衛士隊を運営している領主家を訴えなければならなくなる。
訴え出て負けるとは思っていない。
衛士隊の捜査という一言だけで入ろうとしたのは、そもそも違法だ。
それを一応は男爵である俺が証言するなら、その時点で負けはない。
更に状況証拠として先程の襲撃、更にイレーネ達への襲撃や冒険者ギルドでやっておいた根回しも使える。
ただそうなった場合、領主家は責任を取らざるをえなくなる。
罰金で済めばいいが、転封や降爵となると大変だ。
ついでに言うと俺は一応男爵の身分を、陛下から授かっている。
つまり子爵家と男爵家の諍いとなると、どうしても大事にならざるをえない。
今の段階でそうなる事を、俺は望んでいない。
だから此処で話のわかる副官でも出てきて、引き下がってくれればいいのだが……
隊の中から、一人出てきた。
「アコルタ領衛士隊第一中隊第二小隊長マッシオです。ここの敷地内で暴力事件が発生しているとの通報を受け、こちらにやって参りました。国法第213条及び領条例第18条により、こちらに対して立ち入り捜査を行います」
こういった事態については、既に予測済みだ。
それなりの対処はしてあるし、頭の中にも入っている。
「ならばマッシオ小隊長に質問する。国法第213条による立ち入り捜査は、『どけ! 衛士隊の捜査だ』の一言で立ち入りが可能だっただろうか。その時点で違法捜査として、捜査の正当性は棄却されるのではないだろうか。
また通報を受けたということは、そちらの隊が犯罪を直接認知したのではないという事だ。その場合国法第213条における現行性は担保されていないと解するのが通例だろう」
この辺の法律は犯罪者を捕らえる時に必要だ。
なのでB級に上がったところで、冒険者ギルドの教則本を読んでひととおり覚えた。
法律とはなんと面倒なんだ、悪・即・斬でいいじゃないか。
そう思いつつ勉強した内容を、まさか使う羽目になるとは思わなかった。
そう思いつつ、更に続ける。
「まだ当方は、ごく最近、この近辺で別の暴力事件を取り扱った。その際に領主家の態度に疑問を感じた為、本件に関わる事案については国法第194条の規定により、捜査及び審判権を領主家ではなく冒険者ギルド・スティヴァレ支部直轄事案となるよう申請した。これについては領主家にも通知が来ているか、まもなく届く事だろう。
以上をもって、私は諸君らの捜査及び立ち入りを拒否する。それでも突入するというのであれば、強盗及び家宅侵入の現行犯、そこに領主家の命令があることが確認された場合は、貴族・領主家特別法19条3項と見なし、直ちに必要な措置を取った後、告訴する」
国法第194条の規定については、この前覚えたばかりだ。
タウフェン公爵と連絡を取った時に、今回はこの法律の枠組みを使うと聞いて、ギルドの図書室で勉強して。
何というか、本当に面倒くさいし難しい。
こっち方面はうちのパーティ、誰も協力してくれない。
本当なら俺よりヒューマの方が、こういった言葉と理屈のやりとりに適性があると思うんだが。
なんて思いつつ、口上をまくしたてる。
さて、マッシオ小隊長はどう出るだろう。
見た限りはまともそうだから、多分大丈夫だろうと思うのだけれど。
「了解しました。それでは当方は、本日はこれで引き上げることとします。ただ今後の連絡の為に、そちらの名前を伺いたいと存じます」
うん、正しい対応だ。正直ほっとする。
「私の名前をここで告げるつもりはない。領主家に届いた国法第194条における規定対象事案の連絡を見れば、わかる事ではある。しかしここで私が名乗った場合、当方としても正規の取り扱いとして記録を残す必要がある。その場合、先程の違法捜査未遂事案についても、当方の記録として残さざるを得ない」
話を大事にしたくない。
した場合、そちらが面倒なことになる。
そういう意味なのだが、伝わっただろうか。
「わかりました。それでは失礼致します」
何とか事案を予定の範囲内に治める事が出来た。
ほっとしつつ、衛士隊が去って行くのを見送る。
面倒だが仕方ない。
「こっちの始末は頼む。客の方は俺があしらっておく」
そう皆に言って、そして門の方へ。
待つまでも無かった。一ブロック先から、衛士を20人余り引き連れた、偉そうなのが騎馬でやってきた。
「どけ! 衛士隊の捜査だ」
こういう無礼な輩は、普通では話が通じない。
だから少しだけ本気の威圧を放ってやる。
ヒヒヒヒーン!
馬が恐怖に煽られ、前足で地を蹴って立ち上がった。
乗っていた無礼者は手綱を握りしめていたおかげで、何とか落馬から免れる。
「一応職名と用向きは聞いてやる。何処の誰で何の用だ」
無礼者、震えてしまって答えられない。
少し威圧をかけ過ぎたようだ。これでは話し合いにもならない。
仕方ないので、こう申し向けてみる。
「なら副官でいい。職名と、此処へ入ろうとした用向きを答えろ。30数えても答えないなら、衛士に扮して不法行為を働いた現行犯として、国法に則りこの場で措置する」
これで副官も馬鹿だと面倒くさい。
衛士隊30人程度なら片付けるのは簡単だ。しかしそうしてしまった場合は、正規の手続きで衛士隊と、衛士隊を運営している領主家を訴えなければならなくなる。
訴え出て負けるとは思っていない。
衛士隊の捜査という一言だけで入ろうとしたのは、そもそも違法だ。
それを一応は男爵である俺が証言するなら、その時点で負けはない。
更に状況証拠として先程の襲撃、更にイレーネ達への襲撃や冒険者ギルドでやっておいた根回しも使える。
ただそうなった場合、領主家は責任を取らざるをえなくなる。
罰金で済めばいいが、転封や降爵となると大変だ。
ついでに言うと俺は一応男爵の身分を、陛下から授かっている。
つまり子爵家と男爵家の諍いとなると、どうしても大事にならざるをえない。
今の段階でそうなる事を、俺は望んでいない。
だから此処で話のわかる副官でも出てきて、引き下がってくれればいいのだが……
隊の中から、一人出てきた。
「アコルタ領衛士隊第一中隊第二小隊長マッシオです。ここの敷地内で暴力事件が発生しているとの通報を受け、こちらにやって参りました。国法第213条及び領条例第18条により、こちらに対して立ち入り捜査を行います」
こういった事態については、既に予測済みだ。
それなりの対処はしてあるし、頭の中にも入っている。
「ならばマッシオ小隊長に質問する。国法第213条による立ち入り捜査は、『どけ! 衛士隊の捜査だ』の一言で立ち入りが可能だっただろうか。その時点で違法捜査として、捜査の正当性は棄却されるのではないだろうか。
また通報を受けたということは、そちらの隊が犯罪を直接認知したのではないという事だ。その場合国法第213条における現行性は担保されていないと解するのが通例だろう」
この辺の法律は犯罪者を捕らえる時に必要だ。
なのでB級に上がったところで、冒険者ギルドの教則本を読んでひととおり覚えた。
法律とはなんと面倒なんだ、悪・即・斬でいいじゃないか。
そう思いつつ勉強した内容を、まさか使う羽目になるとは思わなかった。
そう思いつつ、更に続ける。
「まだ当方は、ごく最近、この近辺で別の暴力事件を取り扱った。その際に領主家の態度に疑問を感じた為、本件に関わる事案については国法第194条の規定により、捜査及び審判権を領主家ではなく冒険者ギルド・スティヴァレ支部直轄事案となるよう申請した。これについては領主家にも通知が来ているか、まもなく届く事だろう。
以上をもって、私は諸君らの捜査及び立ち入りを拒否する。それでも突入するというのであれば、強盗及び家宅侵入の現行犯、そこに領主家の命令があることが確認された場合は、貴族・領主家特別法19条3項と見なし、直ちに必要な措置を取った後、告訴する」
国法第194条の規定については、この前覚えたばかりだ。
タウフェン公爵と連絡を取った時に、今回はこの法律の枠組みを使うと聞いて、ギルドの図書室で勉強して。
何というか、本当に面倒くさいし難しい。
こっち方面はうちのパーティ、誰も協力してくれない。
本当なら俺よりヒューマの方が、こういった言葉と理屈のやりとりに適性があると思うんだが。
なんて思いつつ、口上をまくしたてる。
さて、マッシオ小隊長はどう出るだろう。
見た限りはまともそうだから、多分大丈夫だろうと思うのだけれど。
「了解しました。それでは当方は、本日はこれで引き上げることとします。ただ今後の連絡の為に、そちらの名前を伺いたいと存じます」
うん、正しい対応だ。正直ほっとする。
「私の名前をここで告げるつもりはない。領主家に届いた国法第194条における規定対象事案の連絡を見れば、わかる事ではある。しかしここで私が名乗った場合、当方としても正規の取り扱いとして記録を残す必要がある。その場合、先程の違法捜査未遂事案についても、当方の記録として残さざるを得ない」
話を大事にしたくない。
した場合、そちらが面倒なことになる。
そういう意味なのだが、伝わっただろうか。
「わかりました。それでは失礼致します」
何とか事案を予定の範囲内に治める事が出来た。
ほっとしつつ、衛士隊が去って行くのを見送る。
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