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第1章 とりあえず最初の釣りをするまで

第3話 最初の依頼で

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 依頼受領証と街の簡単な案内図を貰って、依頼先のベルクタ漁業・水面管理事務所へ。
 思っていた以上に簡単に到着した。
 受付で貰った案内図のおかげもあるし、川の手前というわかりやすい場所だったおかげもある。

 事務所で業務説明の後、大きな背負いカゴ、分厚い革手袋、大きいトングを渡された。
 革手袋とトングはゴミを拾う際に怪我をしない為。
 背負いカゴはゴミを入れるためだそうだ

『午後4時の鐘が鳴ったらこの事務所に戻ってきてくれ』

 という事で俺は事務所のすぐ裏側の堤防を越えて川の方へ。
 ここから下流、海までおよそ2kmがゴミ拾いの範囲だ。

 潮の香りがする。爽やかなものではなく、少し生臭い系統の。
 海藻が打ち上げられたりして腐ったりすると臭う奴だ。
 なるほどゴミ拾いが必要そうだなと感じる。

 茂っているアシの間にある踏み跡を辿って川岸へ。水面が見える場所に出た。
 川幅はかなり広い。500m位はあるだろう。
 流れはほとんどない。海面と同じ高さという感じだ。
 
 今は干潮に近い時刻なのだろう。
 満潮時の川岸だろうアシが生えた部分からゴロタ石底、泥っぽい砂底部分が水面まで20m以上続いている。

 ゴミがあるのはそのゴロタ石部分が多い。
 最初は流木だの大きめの石だのに引っかかり、それにからまってゴミが増えるという感じだろうか。

 何も無い部分が続いていて、所々にそういったゴミが固まった部分があるという感じだ。
 俺は事務所で聞いた依頼の追加説明を思い出す。

『海藻や藻が打ち上げられたのは放っておくとすぐ腐る。また流木を放っておくとすぐそんな藻や海藻屑がひっついて取れなくなる。
 これを放っておくと臭い臭いが広がるだけじゃねえ。酷い時には川や海の色が変わって魚が大量死したり虫が発生したりする』

 それだけ大変ならもっと人が必要な気がする。
 しかし今日の午後雇っているのは俺一人という感じに見えた。
 これで本当に大丈夫なのだろうか。

 やりたくても予算がないなんて可能性はある。
 公的機関に限らずよくある事だ。

 予算がないけれど無視している訳じゃないよ。
 そんな言い訳で冒険者ギルドに安い金で依頼を出している。
 そんな可能性は高そうだ。

 なんてつい前世の知識でそう深読みしてしまう。

 ただ水辺が汚れては釣りにもならない。
 なら出来る限りがっちり清掃してやろう。

 ただし手作業では時間も手間もかかる。
 その上背負いカゴ1個に入る量などたかが知れている。

 ここは一気に魔法で勝負だ。
 周囲を見回す。目で見える範囲には人はいない。
 ならばという事で点々と落ちて固まっている海藻だの流木だのを、
 ① 転送魔法で手元へ移動
 ② タッチして収納魔法アイテムボックスへ収納
という形で片付ける。

 前世の俺の魔法収納アイテムボックス容量ははおよそ1,000kg。
 しかし今の俺の魔法収納アイテムボックス容量はどうやらずっと上のようだ。

 しかも従来の、生物は微生物を含め死んだ状態でないと収納出来ない魔法収納アイテムボックスだけではない。
 生きている状態の生物を持ち込める魔法収納アイテムボックスなんてのも使えるようだ。

 なおどちらの魔法収納アイテムボックスも時間停止タイプ。
 つまり生ものを入れても腐ったり傷んだりしない。

 これもきっと釣り仕様なのだろう。
 生き餌を使ったり生きたままの魚を持ち運んだりする時用と、食用としての魚を細菌や寄生虫含めて殺して収納する為用という。

 これだけでも相当に便利だ。
 そう思いつつ俺は海に向かって歩きながら魔法でゴミを収納していく。

 勿論歩きながら魚のいそうなポイントの確認も忘れない。
 河口部だからハゼ、クロダイ、セイゴ、ボラといったところだろう。

 基本的には川側は泥底。
 しかし一部はゴロタ石部分が川面すぐ近くまであったり、アシが川すぐ近くまで生えていたりする。

 このゴロタ石部分が川面に近い部分は釣りに良さそうだ。
 ここから投げると川の流心部分に届く。
 なら大物も釣りやすいだろう。

 あとこのゴロタ石部分そのものもポイントだ。
 こういった場所の石の隙間には往々にしてハゼとかがいるもの。まだ早いが夏になったら釣果が期待できそうだ。

 なお前世の俺に実釣経験はない。忙しすぎて行けなかったから。
 だからこの辺は全て本で読んだ知識だったりする。

 ああ、早く確かめたい。
 その為にはまず道具を揃えて……

 今の俺は何も釣り道具を持っていない。
 金があれば買ってもいいが今の俺の財政では無理だろう。

 前世では釣り道具は比較的高価だった。金がある層の趣味だったから。
 この世界でもきっとそうだろう。まだ釣り人は見かけていないけれど。

 そして今の俺は貧乏だ。
 何せ今現在一銭も持っていない。
 
 しかし俺は前世では神殿技術者。何かを作る事は得意だ。
 大物だろうと小物、精密細工的なものでも。
 これでもかと無理難題を押しつけられて鍛えられたから。

 だから釣り道具は当分の間、買うのでは無く自分で作る事をメインに考えよう。

 材料の調達方法は色々だ。
 竹なんて生えていれば高熱魔法と圧縮魔法、乾燥魔法でそこそこの品質の竿を作る事が出来る。

 針や重りは錆びるけれど鉄で作ればいい。
 少量なら鉄を手に入れるのは簡単だ。
 赤土から鉄成分を分離できるから。

 乾燥状態の赤土なら4%程度の酸化鉄を含んでいる。
 魔法で分離して、更に木炭と一緒に密閉して高温をかけてやれば鉄が得られる。
 この辺は全部魔法で出来るし難しくない。

 ゴミに鉄屑があればもっと簡単だ。
 しかし残念ながら今のところ集めたゴミには鉄くずは無い。

 まあ何処の世界でも金属は貴重だ。だから仕方ない。
 そんな事を考えつつ、魔法でゴミを収納して歩いて行く。

 そして川面近くまでアシが生えているところで。アシの葉の先端が無造作にちぎられているのを見つけた。
 潮が満ちて満潮になると浸かりそうな部分の葉がほぼ全部ちぎれているのだ。

 なるほど……俺は悟った。
 いるな、ここに。アシの葉を好んで食べる大物が。

 ソウギョだ。水草や水辺の草をガシガシ食べるコイ科の魚。
 成長すれば2mにも達するという大型魚だ。

 なるほど、あの魚にはいい場所だろう。
 こいつらは大量に水草や水辺の草を食べる。
 ソウギョを放した湖の水草が食いつくされたなんて話もあるくらいだ。

 しかしここはかなり大きく広い川だ。
 上流方向含めて水草も食べ尽くせない程度に生えている。

 なら仕掛けは簡単でいい。
 ソウギョの大きいのは水草よりもアシなどのイネ科の普通の草を好む。

 だからアシの葉っぱをまとめて、中に針を仕込んで水面に投げてやればいいだけ。
 糸と針があれば充分。竿やリールはあると便利だが無くても問題無い。

 ただし糸や針は大物対応のぶっといものが必要だ。
 何せ最大2mを超すという大型魚だから。

 糸は何処かで買った方がいいだろう。
 勿論専用のテグスなんてものは高くて買えない。
 だから服その他に使用する糸を転用する事になるだろう。
 ソウギョが相手なら頑丈なタコ糸っぽいもので充分だけれども。

 よし、この依頼が終わったら赤土を採取して、町で良さそうな糸を買って、魔法で製鉄して針造りだ!

 でも今は依頼をきっちりこなしておこう。
 あまり真面目にやっても報酬にあわないけれど、良さそうな釣り場維持の為だと思えば腹もたたない。
 
 カゴに入らないような大きい流木も魔法でガンガンに収納する。
 依頼の報酬に見合わなくても釣り場整備の為。

 でも適当に太い流木はゴミに出さずにキープしておこう。
 木炭用としても工作材料用としてもそこそこ便利だから。
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