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第1章 生徒自治会時代

第5話 翻訳作業開始

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 生徒自治会室へ召喚された翌日の放課後、ちょっとしたトラブルが発生した。生徒自治会室問へ向かう途中の廊下で親衛隊の皆さまに囲まれたのだ。

「アシュノール、たかが子爵家のそれも5男がテオドーラ御嬢様のいる生徒自治会室へ通うなど身分不相応な行動であると思いませんか」

「本当に不敬罪ですわ」

「伯爵家の私でさえ生徒自治会室へ入れて貰えないのに」

「厳しく指導する必要がありますわ」

 おいおい勘弁してくれ。

「俺が決めたんじゃないぞ」

「でも辞退するべきですわ」

「身の程をわかっていませんね」

「これは査問会にかけるべきですわ」

 査問会って何だよ。そう思った時だ。

「おいおい、アシュノール君を呼んでいるのはテディだぞ」

 鮮烈な赤い髪の少女がすっと入って来た。彼女の進路先にいる親衛隊がさっと後退して道を空ける。

「これでアシュノール君が来なくなればテディが黙っていないな。親衛隊が解散になる位ならいいけれど、学内で私刑という事で退学になっても知らないぞ」

 一気にみなさん静まり返る。どうやらミランダさんは親衛隊の皆様に認められているらしい。逆らってはいけない相手として。

「じゃあアシュノール君行くとするか。テディが昨日の続きを待っているぞ」

 そんな感じで俺は無事生徒自治会室へ無事到着。
 なお翌日以降は親衛隊の皆さまに囲まれるなんて事も無くなった。ミランダさんの脅し、かなり効果があったようだ。
 以降はまあ親衛隊の皆様にも敵視の視線で見られる程度で済むようになった。元々会話も付き合いも無かった連中だから問題ないけれど。

 その事件以外は色々順調だ。翻訳作業も1人でやっていた時に比べるともう数倍以上の速さで進んでいる。魔法のおかげもあるけれど、生徒自治会の皆さんの協力のおかげも大きい。

 例えばちょうどいい花の名前を知りたかったり、日本にはあってここには無い概念を訳そうとした時。またはこの世界に存在する物だとは思うけれどその名前がわからない時。

 俺が独りで翻訳している時は翌日図書館へ行って調べるしかなかった。でも今はここにいる連中に尋ねれば大体の事は判明する。それでもわからない物等は書記のフィオナさんに御願いすれば図書室だの図書館だので調べてきてくれるのだ。

 フィオナさんは金髪ツインテールの小柄な人で、調べものが大好きという人。図書館にもしょっちゅう出入りしていると言っていた。そう言えば夏休みの図書館とか放課後の図書室でも見かけたような気もする。

 そしてフィオナさんの調査は極めて的確だ。お願いしたことをわかりやすいレポートにきっちりまとめてくれる。これを読んでわからなければアホですという位の完成度で。

 勿論フィオナさんだけではない。
 テオドーラさんは俺が色々書き込んだり修正したりして、ただでさえ癖字で読みにくい俺が書いた翻訳文を綺麗に清書してくれている。ついでに校正作業までやってくれるからありがたい。

「この役は真っ先にお話を読めるから嬉しいですわ」

 ちなみに清書時に複写魔法を使用して自分用コピーを作っているのはご愛敬。

 ただ俺的に一番有難かったのはミランダさんだ。
 翻訳体制から1週間6日経った放課後。

「あの『フィリカリス』、小金貨5枚50万円で売れたぞ」

 そう言って俺の前に契約書とともに小金貨5枚50万円が並べられたのにはビビった。
 金貨なんて小でも大でも普段は滅多にお見掛けしない代物だ。少なくとも俺みたいな貧乏貴族の5男では。本の召喚の時に御嬢様が出したのは例外として。

 例えば俺の小遣いは昼飯を含めて1月だいたい小銀貨5枚5,000円。貴族の子弟の癖に少ないなんて言わないでくれ。貧乏子爵の5男なんてその程度、貰えるだけありがたいと思えという奴だ。

 一方で庶民が1日働いた際の賃金が大体正銀貨1枚1万円程度。月給にすると1月が29~30日で6日に1度休みだから正銀貨で24枚24万円25枚25万円
 つまり今回の小金貨5枚50万円というのは、
  〇 俺の小遣いの100月分
  〇 庶民の平均的月給の2倍程度
という訳だ。
 大金だ! と俺が感じている事がわかるだろうか。

「いいんですか、こんな金額」
「『フィリカリス』はアシュノール君が独自に翻訳したし今回は初回だからさ、まあ手数料は無しという事で。
 ただこの先は清書担当や交渉担当、調査もの担当の手数料合わせて私達3人分として3割取ろうかなと思っている」

 それでも小金貨3枚分30万円正銀貨5枚5万円か。

「それじゃ申し訳ないですよ。実際色々手伝ってもらっていますし」

「私は真っ先にこの本を読めるだけで充分ですわ」

 いやいやそれは貴方が金持ちだからこそ言える事です。

「そうだな。ならもう少し貰うとするか。具体的にはアシュノール君以外が2割ずつ、アシュノール君が4割という事で」

 かなり減ったがそれでも小金貨2枚20万円だ。皆さんをこき使っているし、それくらいは分けないと申し訳ないだろう。

「皆さんはそれでいいですか」

「私は本が真っ先に読めるだけで充分ですわ」

 御嬢様はまあ置いておくとしよう。

「私は文句ない。交渉だけでこれだけ儲かるなんて御の字だ」

「僕もこれでいいかな。元々調べてレポート書くのは好きだし役立ててくれるなら更に嬉しいしね」

「言っておくが今回の試算はあくまで今の状態でだ。『フィリカリス』が予想より売れれば次回の原稿料はもっと高くなる。それに思ったより売れて追加で印刷したらその分追加収入も入る訳だ。
 勿論その逆もありうる。私は心配いらないと思っているけどさ」

「私もそう思いますわ。今訳しているお話もとっても面白いですし。清書しながらもうどきどきしています位です」

 うーむ、本当に大丈夫なのだろうか。
 でもまあ、元々あぶく銭みたいなものだ。だから心配する必要も無いだろう。

「それじゃこれで当面の体制と分配は決定だな。なら翻訳作業を続行するか」

「でも生徒自治会の本来の作業はどうするんですか?」

 ちょっと心配になったから聞いてみる。

「もともと生徒自治会なんてそんなに活動していないからさ。大体の事は先生たちが決めるし、うちがやるのは生徒の要望をまとめて担当の先生に渡す位だ。独自に何かするなんて業務は基本的に無い。私とフィオナがたまにやれば足りる程度だ」

「生徒自治会は元々、王族の子弟方が色んな階級の生徒と友達になれるようにという事で作った場なのですわ。今は王族の方がいないから私が代行で会長をしていますけれども。ですから実態のあるお仕事は無く、単なるサロン的な活動が主なのです。王家の方がいないので役員もそのままですわ」

 そうですか。

「それよりアシュノール君は早く翻訳をして欲しいですわ。今、ちょうどいい場所で翻訳が止まっているんですの」

「そうそう、何やかんやいって今回のも面白いからさ。アシュノール君はとにかく翻訳に集中な」

「それじゃ僕はお茶セット、準備するね」

 フィオナさんがお茶を入れ始める。つまり俺は翻訳に専念しろという事か。
 まあ仕方ない。喜んでくれる人もいるし、そうさせてもらうか。小遣いも手に入るしさ。小遣いという程小さい額ではないけれど。
 
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