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第5章 微妙に休まらないバカンス
第31話 後始末というかそんなもの
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「気のせいかな。2日目からずっとウニ採取をやっていた気がするよ」
「奇遇だな。私もそんな気がするんだが」
「私もですわ」
帰りの馬車の中、3人がそんな白々しい会話をしている。
あのプライベートビーチ、採れそうな処にいたウニはほぼ全滅した。何せ2日目昼、夜、3日目朝と食べてお土産分まで持ってきている。
「もし来年があるならもう少しリゾートらしい休暇を目指しましょう」
もしも来年あの別荘が借りられるならばだ。ウニ限定環境破壊がバレて別荘が借りられなくなったらまあ、その時はその時で。
一方で俺はかなり疲れている。回復魔法で誤魔化してはいるけれど。
何があったか言わぬが花という奴だ。この体制になって初めての旅行なのだ。一日目は皆疲れてあっさり寝てしまったが2日目は……
以降察してくれ。
しかしだ。
「でも今回の旅行、本当に楽しかったですわ」
テディに満面の笑顔でそう言われてしまうと俺もそんな気になったりする。美人の笑顔というのは反則だよな、まったく。
一方でミランダがにやにや笑いつつこんな事を。
「取り敢えず今日の夕食もあの海鮮丼だよな」
取り敢えず今夜は色気より食い気のようだ。どっちもかなり肉食系な彼女だがまあいいだろう。
「その代わり手伝ってくださいよ」
9合の飯を魔法で炊く作業は疲れる。なお9合というのは間違いではない。8合でも足りなかったから9合である。更にパンとかパスタもつけるのに。
何なんだ君達は! 摂取カロリーは何処へ消えた!まさかその分、昨晩に発散したんじゃ……いや考えすぎか。
「天は私に料理をするなと言っているみたいでさ。申し訳ないが料理の手伝いだけは他の人に頼んでくれ」
「ただ水を3半時間沸騰させ続けるだけの簡単なお仕事です」
「悪い、それすら何気に自信無い」
おいミランダ!
「ミランダは魔力は大きいのですけれどコントロールはいまいちですよね」
「そうそう。きっと鍋を爆発させるよ、米炊きなんかさせたら」
テディとフィオナがそれぞれ弁護している。2人ともそう言うならきっとそうなのだろう。ならいっそ米炊き専用に木炭か何かを使う炉を専用に作るかな。
しかし木炭を手に入れるのが大変だ。この世界はなまじ皆魔法を使えるだけにそういった物の需要があまり無い。
例えば木炭は基本的に金属精錬用。専門の場所でプロが使うだけだ。
「帰る途中に市場で買い出しな。米と魚と、あと何が必要だ?」
ミランダは完全に海鮮丼の気分らしい。
「魚じゃなくても生で食べられるものなら載せられるかな」
「お肉を載せるとまた雰囲気は変わりますでしょうか」
魔法で殺菌できるだけにその辺いくらでもやりようはある。
ただあまり俺を困らせないで欲しい。海鮮丼は作るのがかなり面倒だ。ただ魚をおろして切りそろえるだけではない。
醤油代わりの魚醤《コラトゥーラ》は刻みニンニクやショウガ、レモングラス、ゴマ、蒸留酒を入れて一度煮立たせて冷ました物を用意するし、ワサビ代わりのホースラディッシュは直前に磨り潰す必要がある。その上で刻み卵やキュウリなんてのも用意するのだ。
まあ一番手間なのはこいつら用に大量のコメを炊いて冷まして酢飯にする作業だけれども。
でもちょっとやってみたい事を思いついてしまった。自分が面倒になるとわかっていながらつい提案してしまう。
「何なら今度は勝手丼形式にするか。載せるものを色々大皿で並べて好きなものを載せる形式で」
「いいね。じゃあ僕は最初はウニ丼で」
おいちょっと待てフィオナ。
「ウニは配給制にしようぜ」
「そうですわ」
はいはい。何だか食欲系ばかりを話しながら、馬車はゼノア中心部へ。
◇◇◇
買い物して帰って全員に手伝わせて飯を作って食べて。そんな事をやったらまだ少し明るいのに皆さん寝てしまった。やっぱりそれなりに疲れたのだろう。
夜中に誰かが腹が減って起きてきても大丈夫なよう、食料用の共用保管袋にパンとシーチキンマヨネーズのパテ、ウニバターの残りを入れておいてから俺も自室へ。
自室というのは勿論あの広すぎる主寝室だ。これでもあの別荘の寝室と比べたらやや狭いしベッドも小さい。ちょっと狭い分落ち着くかというとまあそれは別の話だけれども。
さて、俺自身は今日も何故か目が冴えている。なので荷物の中から1冊の本を取り出す。
『Structure of spacetime』
そう、国王陛下から畏れ多くも下賜されたものだ。なんて言い方は単なるお遊びだが、事実としては間違っていない。
ただ英語は正直俺も自信が無い。なのでちょっと手抜きが出来るか試してみる。
魔法陣を描いて魔法式を描いて、奥付を見てもう一度確かめて。あと小銀貨5枚をテーブルの上に置いてと。
「我此処に強く望む。空間系の魔素よ我が元へ集いたれ。我此処に強く望む、我が魔力と魔素によって……」
そう、日本語訳があればその本を直接召喚した方が早い。例え魔法を新たに構築したとしてもだ。
「……以上これら我が祈願を『特殊日本語書物召喚』と命名する。特殊日本語書物召喚! ここにある『Structure of spacetime』の日本語訳にあたるような内容の本、起動!」
思ったよりがっしり魔力を取られる。時代を限定しない分魔力を余分に使った模様だ。でも最初に失敗した時のように無制限に魔力を吸われる感じではない。
成功。本が出て来た。
『宇宙の構造と時空間~我々のいるのはどんな場所なのか』
いわゆる新書版の入門書というか雑学書みたいな感じの本だ。本当にこれでいいのだろうか。わからないけれど取り敢えず奥付を確認してみる。
『2132年3月 初版発行』
陛下からもらった本より30年くらい後の本だ。きっと陛下からもらった本から更に先の時代に、陛下からもらった本の内容も含めて一般人にもわかるように書いた本がこれなのだろう。
ならあの本の内容が全部網羅されているかは分からないが読みやすい筈だ。なら読んでみるかと思って頁をめくる。
『第一章 特殊相対性理論の基礎』
……今日読むのはやめよう。俺は元々は文系。受験勉強でやったとはいえ、感覚的に理解できるのはニュートン力学やユークリッド幾何学まで。それ以上となると感覚がついて行かない。
これはもう少し脳みそに余裕がある時に読むことにしよう。それに今日はまだ休暇だ。
寝よう。ベッドに横になり、灯火魔法を消去して、睡眠魔法をかけておやすみなさい……
「奇遇だな。私もそんな気がするんだが」
「私もですわ」
帰りの馬車の中、3人がそんな白々しい会話をしている。
あのプライベートビーチ、採れそうな処にいたウニはほぼ全滅した。何せ2日目昼、夜、3日目朝と食べてお土産分まで持ってきている。
「もし来年があるならもう少しリゾートらしい休暇を目指しましょう」
もしも来年あの別荘が借りられるならばだ。ウニ限定環境破壊がバレて別荘が借りられなくなったらまあ、その時はその時で。
一方で俺はかなり疲れている。回復魔法で誤魔化してはいるけれど。
何があったか言わぬが花という奴だ。この体制になって初めての旅行なのだ。一日目は皆疲れてあっさり寝てしまったが2日目は……
以降察してくれ。
しかしだ。
「でも今回の旅行、本当に楽しかったですわ」
テディに満面の笑顔でそう言われてしまうと俺もそんな気になったりする。美人の笑顔というのは反則だよな、まったく。
一方でミランダがにやにや笑いつつこんな事を。
「取り敢えず今日の夕食もあの海鮮丼だよな」
取り敢えず今夜は色気より食い気のようだ。どっちもかなり肉食系な彼女だがまあいいだろう。
「その代わり手伝ってくださいよ」
9合の飯を魔法で炊く作業は疲れる。なお9合というのは間違いではない。8合でも足りなかったから9合である。更にパンとかパスタもつけるのに。
何なんだ君達は! 摂取カロリーは何処へ消えた!まさかその分、昨晩に発散したんじゃ……いや考えすぎか。
「天は私に料理をするなと言っているみたいでさ。申し訳ないが料理の手伝いだけは他の人に頼んでくれ」
「ただ水を3半時間沸騰させ続けるだけの簡単なお仕事です」
「悪い、それすら何気に自信無い」
おいミランダ!
「ミランダは魔力は大きいのですけれどコントロールはいまいちですよね」
「そうそう。きっと鍋を爆発させるよ、米炊きなんかさせたら」
テディとフィオナがそれぞれ弁護している。2人ともそう言うならきっとそうなのだろう。ならいっそ米炊き専用に木炭か何かを使う炉を専用に作るかな。
しかし木炭を手に入れるのが大変だ。この世界はなまじ皆魔法を使えるだけにそういった物の需要があまり無い。
例えば木炭は基本的に金属精錬用。専門の場所でプロが使うだけだ。
「帰る途中に市場で買い出しな。米と魚と、あと何が必要だ?」
ミランダは完全に海鮮丼の気分らしい。
「魚じゃなくても生で食べられるものなら載せられるかな」
「お肉を載せるとまた雰囲気は変わりますでしょうか」
魔法で殺菌できるだけにその辺いくらでもやりようはある。
ただあまり俺を困らせないで欲しい。海鮮丼は作るのがかなり面倒だ。ただ魚をおろして切りそろえるだけではない。
醤油代わりの魚醤《コラトゥーラ》は刻みニンニクやショウガ、レモングラス、ゴマ、蒸留酒を入れて一度煮立たせて冷ました物を用意するし、ワサビ代わりのホースラディッシュは直前に磨り潰す必要がある。その上で刻み卵やキュウリなんてのも用意するのだ。
まあ一番手間なのはこいつら用に大量のコメを炊いて冷まして酢飯にする作業だけれども。
でもちょっとやってみたい事を思いついてしまった。自分が面倒になるとわかっていながらつい提案してしまう。
「何なら今度は勝手丼形式にするか。載せるものを色々大皿で並べて好きなものを載せる形式で」
「いいね。じゃあ僕は最初はウニ丼で」
おいちょっと待てフィオナ。
「ウニは配給制にしようぜ」
「そうですわ」
はいはい。何だか食欲系ばかりを話しながら、馬車はゼノア中心部へ。
◇◇◇
買い物して帰って全員に手伝わせて飯を作って食べて。そんな事をやったらまだ少し明るいのに皆さん寝てしまった。やっぱりそれなりに疲れたのだろう。
夜中に誰かが腹が減って起きてきても大丈夫なよう、食料用の共用保管袋にパンとシーチキンマヨネーズのパテ、ウニバターの残りを入れておいてから俺も自室へ。
自室というのは勿論あの広すぎる主寝室だ。これでもあの別荘の寝室と比べたらやや狭いしベッドも小さい。ちょっと狭い分落ち着くかというとまあそれは別の話だけれども。
さて、俺自身は今日も何故か目が冴えている。なので荷物の中から1冊の本を取り出す。
『Structure of spacetime』
そう、国王陛下から畏れ多くも下賜されたものだ。なんて言い方は単なるお遊びだが、事実としては間違っていない。
ただ英語は正直俺も自信が無い。なのでちょっと手抜きが出来るか試してみる。
魔法陣を描いて魔法式を描いて、奥付を見てもう一度確かめて。あと小銀貨5枚をテーブルの上に置いてと。
「我此処に強く望む。空間系の魔素よ我が元へ集いたれ。我此処に強く望む、我が魔力と魔素によって……」
そう、日本語訳があればその本を直接召喚した方が早い。例え魔法を新たに構築したとしてもだ。
「……以上これら我が祈願を『特殊日本語書物召喚』と命名する。特殊日本語書物召喚! ここにある『Structure of spacetime』の日本語訳にあたるような内容の本、起動!」
思ったよりがっしり魔力を取られる。時代を限定しない分魔力を余分に使った模様だ。でも最初に失敗した時のように無制限に魔力を吸われる感じではない。
成功。本が出て来た。
『宇宙の構造と時空間~我々のいるのはどんな場所なのか』
いわゆる新書版の入門書というか雑学書みたいな感じの本だ。本当にこれでいいのだろうか。わからないけれど取り敢えず奥付を確認してみる。
『2132年3月 初版発行』
陛下からもらった本より30年くらい後の本だ。きっと陛下からもらった本から更に先の時代に、陛下からもらった本の内容も含めて一般人にもわかるように書いた本がこれなのだろう。
ならあの本の内容が全部網羅されているかは分からないが読みやすい筈だ。なら読んでみるかと思って頁をめくる。
『第一章 特殊相対性理論の基礎』
……今日読むのはやめよう。俺は元々は文系。受験勉強でやったとはいえ、感覚的に理解できるのはニュートン力学やユークリッド幾何学まで。それ以上となると感覚がついて行かない。
これはもう少し脳みそに余裕がある時に読むことにしよう。それに今日はまだ休暇だ。
寝よう。ベッドに横になり、灯火魔法を消去して、睡眠魔法をかけておやすみなさい……
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