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一 章 ・ 幕 末

玖. 対面②

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土方「俺はそんな物を着た事はねえぜ。つか、女のお前が柔術も剣術も何で出来る?」


土方さんは私が近藤さんたちの知ってる桜じゃないと思ったのか警戒心を向ける。
私の本心を探ろうと土方さんの質問の内容に、無意識に口を閉ざしてしまう。


嘘を云って後々バレた時、凄く面倒くさい事が起きるのは確実。
だけど私の起こった出来事を素直に信じてくれる筈が無いのは分かっていた。
嘘を付くことも真実を話すことも出来ずに唇を噛み締める。


土方「言えねえって事は、長州側の人間だからか?」


土方さんが威圧感を漂わせ始めて、私はここに来て初めて恐怖心を感じる。


「ち、違います。私は長州の人間でも、間者でもありません。…私は、未来の江戸から来たんです!!」


違う理由で疑われ、最悪殺されるかもしれない。
それに気付いた瞬間、無意識に叫んでいた。


土方「有り得ねえ…。言い逃れしてえならもっとマシな虚言を言え」


一同が私の言葉に驚いて目を見開く。
シーンと静まる室内で、先に口を開いたのは土方さんだった。


近藤「虚言に聞こえないが…山南さんはどうだい?」
山南「私も虚言には聞こえませんでした…」


土方さんの言葉を否定する近藤さんが山南さんに視線を向ける。
真剣な表情で私を見ていた山南さんの表情が初めて穏やかな表情に変わった。


「私がここに来た理由が分かりません。両親の安否も知らないんです…私は両親を捜したいっ。だから…暫くここに置いて下さい!!」


私がここにいるなら、もしかしたら両親も一緒に幕末に来ているかもしれない。
こうやって少しでも期待してなきゃ、不安で足元が崩れてしまう。
屯所から放り出されたら行き場を無くして、両親を捜すことが出来なくなる。

土下座するように頭を畳みに頭をつけて「お願いします!」と何度も懇願した。


近藤「女中を一人増やそうと思っていたんだ。――桜くんが良かったら、仕事に就いてくれるか?」


私の必死さが通じたのか、近藤さんがワザとらしく今思い出したように声を出す。
顔を上げると、「近藤さん!」って言葉を止めようとする土方さん。
彼の言葉を手で制して近藤さんは言葉を続けた。


「ありがとうございます!一生懸命働きますので宜しくお願いします」


もう一度、頭を下げて顔を上げると、近藤さんが笑顔を向けて頷く。
近藤さんの笑顔を見て私は、父に似ていると感じた。

今どこにいるのかも、無事なのかも分からない両親の現状。
きゅうっと胸が締め付けられて、早く両親に会いたくなった。


近藤「いつから仕事に――…大丈夫か?」


近藤さんの心配そうな表情。
どうしてかと、自分の顔に触れて気付く。

私は、泣いていた。

両親の安否、住む場所の確保等、色々な感情が複雑に絡み合い、涙となって溢れたのかもしれない。


「…ご、めんなさ…い…っ…」


心配そうな表情を向ける数人の視線。
緊張の糸が切れた私は謝罪をしながら気絶していた。
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