頑張った結果、周りとの勘違いが加速するのはどうしてでしょうか?

高福あさひ

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「セシル!!」

「おひいさん、最後の通告だ。俺はアンタにふさわしい護衛にはなれない」

「そん、な、そんなことない!!」

泣きそうな表情で笑みを浮かべるセシルに、私は自分の思っていた気持ちを打ち明けた。自分にとって、セシルがいかに必要な人間であるか、大切でずっとそばにいてほしい、そんな存在であることを。

「どう、して……」

「セシル。それはね、あなたが成しえたことなの。あなたが、私との間に作り上げた関係がそう私に思わせている。あなたの力よ」

「なんで!! なんで……、アンタは、俺を……」

突き放さない、と小さく聞こえる。

「突き放したりなんてしないよ、セシルが私にしてくれたように、私も言うね。いつもありがとう、セシル。私にとってあなたはかけがえのない人よ、あなたを失いたくない、側にいてほしい」

「おれ、アンタにふさわしくなんて……」

「それを決めるのは、私よ。あなたが私に相応しいと思えなくても、私が相応しいと思う。それでいいじゃない」

「おれは……」

ぽつりぽつりと、セシルが話を始めた。立ったままだったセシルを近くのソファに座らせて、私も隣に座って聞く。セシルの過去は想像を絶するほどに苦しいものだった。

「娼婦の母親とどこの誰とも知れない父親から生まれたのが俺だった。そんなある日、母親がどこぞの貴族に見初められて囲われた。だけど当然ながら俺はそこに含まれない」

だから、奴隷として売られた、痛い言葉だった。この国に奴隷制度はないから、奴隷制度のある国でセシルが生まれたことはわかる。でもセシルにはその国の名前さえも知らぬうちに奴隷にされてしまったのだ。

「俺はまだ幼かったから、すぐに買い手がついた。それが暗殺を専門の生業とする、闇ギルドだった。殺しの依頼が入れば、どんな人間も殺す、狂った場所だったよ。当たり前ながら、働かざるもの食うべからず、だ。子どもにだって容赦しない。そこで俺は必死に殺しの技術を覚えた」

同じように買われた子どもが逃げ出すのを殺したこともある、とセシルは言った。彼は幼いころからそうやって苦しんできたのだ。

「俺は、暗殺者としてギルド内で力をつけた。一人でも依頼がこなせるようになったころから、暗殺対象は眠っている間に殺すようになった。だって、苦しませたくないから。いや、殺す側が何を言っているんだろうな……」

自嘲したセシルを、私はとっさに抱きしめていた。ずっと泣きそうなのに、涙をこぼさないのだ。それを見て、私はすぐに気が付いてしまった。セシルは、泣けなくなってしまったのだと。

「苦しませたくない、そう思えるあなたはすごいわ。快楽で人を殺す人間だっているんだから。でもセシル、あなたも痛くて苦しかったのね。ずっと気づかなくて、ごめんなさい」

私には人を殺すという状況になったことがないから、気持ちすべてを理解することはできない。同じ環境で同じように生きていたとしても、誰かの気持ちを理解するのは難しい。それが全く異なる環境で育ったのなら、なおさら。

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