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「わ、たしっ……」

 急にカアっと頬に熱が集まる。私を助けてくれたオリヴァーの言葉が、恋愛的な意味を持っていると、いくら前世で恋愛経験がない私でも気づく。

 そして、自分自身が無意識に彼を好きだったことも、気づいてしまった。それもずっとずっと、前から。私たちが一緒にいたころから。

「オリヴァーのこと、が……」

 好きだったんだ、その言葉は声にならないで空気に溶けた。

「ユーフェミア様?」

「あ、お、オギさん!」

「どうかなさいましたか?」

「な、なんでもありません! お散歩、今日もお願いします!」

「はい、もちろんです!」

真っ赤になっているであろう顔を必死で冷まし、オギさんにそのことについて指摘されないように誤魔化した。


           ******            ******


「ユーフェミア様、お加減はどうですか?」

「大丈夫です、ありがとうございます」

オリヴァーが仕事へ行った後、私は彼に言った通り、庭を散歩していた。とても大きなお庭には、たくさんの花たちが咲いていて、オリヴァーが言うには季節ごとに変わるとのこと。わざわざ温室を作って、季節関係なく咲くようにしているものもあるんだとか。

「この花……」

「あ、それは、オリヴァー様が抜かないように、と庭師にお願いしていたものです。普段であれば雑草として抜かれてしまう草花ですね」

「……私が、あげた花……」

そのあたりで自生する、生命力の強い、いわば雑草。綺麗な花を咲かせるのに、畑の厄介者扱いされてしまうものだ。以前、修道院にいたころ、彼に手渡した花で、とても思い出深い花でもある。

 あの日は、たしか……そう、彼が奉公手伝いで出た場所でもらったお給料を使ってプレゼントを買ってきてくれたんだ。本当に少ないお給料だったはずなのに、甘いお菓子を買ってきてくれて、一緒にこっそりとそれを食べた。

「そ、っか……覚えていてくれたんだ」

「何か、その花とご関係が……?」

 オリヴァーと一緒に食べたあのお菓子は、本当に美味しくて幸せの味がした。そのお礼に、と翌日、野花だったけれど、山でたくさん摘み取って花束として渡した。その時の事を知っているのは、このお屋敷では私とオリヴァーしかいない。

「はい。私と彼が……昔、修道院にいたころに、お礼に渡した花です」

 ここで働いている人たちは、みんなオリヴァーが修道院の出身だということを知っているので、正直にすべてを伝える。貴族なのに修道院から引き取られた、と普通は知られてはならない内容だけれど、オリヴァーは隠すことをしない。

「彼が奉公手伝いで働きに出ていた日、いただいたお給料で甘いお菓子を買ってきてくれたんです。それを、二人でこっそりと食べました」

「まあ! 素敵ですね!」

「とても少ないお給料だったと思うんです。一つのお菓子を半分にして……今でも覚えています。食べた時に、胸の
あたりがとても温かくなって、これを幸せと言わずして何と言うのか、と」

 それも、彼と一緒に食べた、ということが大事なのだ。私の、大切な思い出の一つ。いつだって彼は、私に優しかった。修道院で馴染めずにいた私にずっと寄り添っていてくれた。

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