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「殿下、神子と愛し子の記録の中にあった、国の繁栄に何か関係があるのではないのですか」

「オリヴァー……?」

 いつになく怖い表情をしたオリヴァーが殿下へ詰め寄った。その表情の意味が分からなくて、ただただ、首をかしげることしかできない。

「そうだ、オリヴァー。ユーフェミア、言わなくてはいけないことがもう一つあるんだ」

「それは、いったい……」

殿下の表情も、先ほどよりずいぶんと硬い。あまりよくないことなのだということは、すぐに理解できた。

「ユーフェミアには、今、後ろ盾がない。それはすなわち、身柄を狙われるということだ」

「狙われる……?」

「ああ、そうだ。アデルは皇族でこの国の皇女だ。だから当たり前ながら、手を出せば皇家が出て来る。そのリスクをわかっているから、手を出せない。でも、ユーフェミア、君は違う。君は、その身一つで国の繁栄をさせることができるんだ」

「それは、私が……政治の道具にされるということ、なのですね」

「端的に言えば、そうだ」

 皇太子殿下は私を傷つけないように、言葉を選びながら話をしてくれた。神子と愛し子が揃った時は、どの時代よりも繁栄したそうだ。それも、神子、愛し子を手に入れた一族も同様に。皇家に生まれる神子が外部へ嫁ぐ、婿養子に入る、ということは
少なかった分、愛し子の話は広がってくる。

「独占したい、と邪なことを考える輩も、いないとは言えない」

「ユーフェミアを無理やりにでも、ということですね、殿下」

「そういうことだ」

 嫌な感覚が身体を支配する。自分が、誰かの道具にされるという事実が、恐ろしい。私に価値などない、そう言いたいのに。

「また、誰かの道具にされる、その可能性があるのですね」

 私が、あの国で人々のヘイトを集める道具にされたのと同じように。

「どうすれば、いいのですか」

オリヴァーが、硬い表情のまま殿下に問う。

「オリヴァー、陛下はお前に爵位を与えるつもりだ。言いたいことは、わかるな?」

「はい、殿下」

 何かを決意したような顔になったオリヴァー。きっと、私が知らない話を、交わしていたのだろう。

「ユーフェミア、我々皇室は君の後ろ盾になる。少しでも力になれるといいのだが」

「殿下、もったいなきお言葉です。私のようなものに、ご助力をいただけるとは……身に余るものではないでしょうか?」

「気にすることはない。もともと、オリヴァーのためにもそうするつもりだったからな」

「殿下、それ以上は」

「わかってるよ、オリヴァー」

 皇太子殿下の言葉を途中で止めたオリヴァーを、不思議に感じるが、言われたくないことがあったのだろうと、自身を納得させた。

「ユーフェミア、困ったことがあればいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます、殿下」

 優しい笑みを浮かべた皇太子殿下との会話を終え、私はオリヴァーに連れられてお屋敷へ帰ることとなった。帰り道の馬車内、オリヴァーの顔は少し強ばっている。

「オリヴァー……何か、あった……の?」

 何かがあった、と断定できずに、変な聞き方になってしまった。私の言葉に、パッと顔をあげた彼は焦ったように首を振る。

「わ、私には、言えない……?」

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