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3話 アルルとリンネ
おしゃべり行軍
しおりを挟む私には全く分かりませんが、リンネさんによると方角的には湖の脇を通り抜ける形で街の南西に向かっているそうで。
微妙に傾斜がついているとはいえ、トンネルはほぼ水平。
こうなると、向かう先はどこになるのか見当もつきません。
まだ発見されていない天然の洞窟なのは間違いないですが、先行きが見通せない分不安が募ります。
盗賊団のアジトでした、というオチだけは勘弁して欲しいです。
しばらくの間無言の行軍が続きました。
ランタン片手に前を行くリンネさんと、ついて行く私。
この距離感がどこか心地よく、ついつい雑多な考え事をしてしまいます。
「このトンネルが奇襲を仕掛けるための抜け穴だとして。どこまで続いているんだろう。ひょっとして王都かな? ちょっと楽しみ」
「どうでしょう? 人間の足だと歩き通しで十日はかかりますが」
「そんなに遠いの?」
「最近は何かと物騒ですし、観光はあまりお勧めできません」
お姫様が攫われたり、付近の村で若い娘の失踪事件が相次いでいたり、魔神王の復活が控えていたり。
確かに、こうもイベント目白押しとあっては歓楽気分も削がれるというもの。
「アルル様も、いずれはそうならざるを得ない状況になるかも知れません。このまま冒険者として名を上げれば、いつか大きな争いが起こった際、召集されることになるでしょう」
「あんまり危ないことはしたくないなあ」
正直なところを吐露すると、リンネさんは「おやおや」とおかしそうに口元を緩めます。
「随分と不真面目な発言ですね。冒険者たるもの、世の人々の安寧のため身を粉にして戦う責務を背負うというのに」
「そういうの全部ほったらかして、こんなところでスライム食べ漁ってていいの?」
私も負けじと、澄まし顔に言い返してやります。
「人間どうせいつかは死ぬのです。ならば、好きなものをお腹いっぱい食べて、心豊かに生きたいではありませんか」
「そんなんでよくギルドの人格査定通ったね?」
「そこはほら。神官ですので」
「先入観って大切……」
分かっていながら止められないのが、考える葦たる人間の本質なのでしょう。
楽しくおしゃべりしていても、先に待ち構える脅威に対する不安は募る一方。
それを確かるために進んでいるのですから、考えていても仕方ないのですが、どうにもままならないものです。
意味を持たない考察を脳内で転がし続けていた、その矢先。
「どうやら出口のようです。いいえ、入り口でしょうか」
単調なトンネルから這い出た先は、広大な閉鎖空間が広がっていました。
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