はやゆうの話

皇 晴樹

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観察日記

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四月

今日からとある二人の日記を書こうと思う。
続くといいな。


五月

席替えで隼人と優那は隣の席になった。
授業に集中している優那と、ほぼ毎時間寝ている隼人。
寝てばかりいる隼人の成績が良いのは、優那のおかげといっても過言ではない。というかむしろ、半分は彼のおかげ。

「優那。ノート貸して」

テスト前になるとこの言葉が耳に入る。
以前俺も優那にノートを借りたことがあるけど、要点がまとまっていてわかりやすかった。

「真面目に授業受けなよ」

この言葉を聞くのは何回目だろうか。
隼人が寝てばかりいるのは、毎回ノートを貸してあげる優那にも原因がある気がする。

今回も学年の一位と二位は、彼らだろう。


六月

梅雨入りをして、毎日雨ばかり。
憂鬱だ。
それは彼らも同じらしく、

「隼人」
「ん?」
「帰りたい」
「俺も」

朝からこんな会話が聞こえてきた。
優那が「帰りたい」なんて口にするのは珍しい。

「今日、泊まりに行ってもいい?」
「急だな」
「ダメ?」
「別にいいけど」

念のために書いておこう。
明日は平日です。

「隼人の部屋で生活したら、この憂鬱さもきっと吹き飛ぶよ」
「そうか?」
「うん。だから、一緒に寝よう?」

俺は何も聞いていない。


七月

明日から夏休みだ。
といっても、受験生だから勉強しないといけない。

この二人の夏休みは……

「あとで荷物取りに行く」
「うん。ありがとう」

どうやら夏休みの間、優那は隼人の家で生活するらしい。

「海に行きたいな」
「そうだね」

おっ、海に行くのか?

「山もいいね」
「星が綺麗だろうな」

山、か。バーベキューとかしたいかも。

「ねぇ、どっちがいいと思う?」

突然振り返り、俺に問いかけてきた。
驚いた俺は「う、海かな」と小さな声で答えた。
正直どちらでもいい。

「じゃあ、海に行くか」
「一緒に行かない?」

い、いいの?

「みんなで行った方が楽しいと思う」

隼人は嫌そうな顔をしていたけど、それは見て見ぬ振りをした。

「決まり次第連絡するね」

楽しい旅になりそうだ。


八月

遂にやってきた 海。

「うわぁ! 僕、海は初めてなんだ」

楽しそうに笑う優那とそんな彼を見て隣で微笑む隼人。
そんな二人を少し後ろから見ている俺。

今日は海を楽しみつつ、日記を書くことにしよう。

「隼人。行こう」
「走るなって」

まるで小さな子供と父親みたい。

「何書いてるの?」

隼人の弟が俺の横に座ってきた。

「もしかして、二人の観察記録?」

なぜかバレてる。

「見てて飽きないよね。身内のオレでもそう感じるんだから、君は毎日が新鮮だろうね」

そして俺が一番引っかかっていることを口にした。

「言っておくけどあの二人…付き合ってないよ」

あんなに親密な関係なのに、付き合ってないんだ……

「二人とも! 一緒に遊ぼうよ!」

優那が俺たちに声をかける。

「今行く!」

弟くんの後に続いて俺も海へと駆け出した。


九月

どうやら今日は優那が風邪で休みらしい。

いつも寝ている隼人が、珍しく真面目に授業を受けていた。

「この問題わかる人!」

スッと手を挙げて答える隼人。

……隼人の株が一気に上がった。
女子が見てるよ、隼人くん。

「なぁ、」

心臓に悪いから、突然振り返らないで。

「優那の代わりになってくれない?」

は?

「先生。木村が黒板見えないらしいので、優那の席に座ってもいいですか?」
「いいぞ」

いや、俺が良くないわ。

「これで寝れる」

……俺=優那=壁?


十月

今日は芋煮会。
俺たちの班は芋煮の他に、焼きそばを作った。
そしてシメは焼きマシュマロ。

「美味しい!」

甘党な優那は、焼きマシュマロばかり食べている。
それを眺めながら、俺は残りの焼きそばを食べた。

「優那」
「隼人も食べる?」

そう言って優那は、彼の口元へマシュマロを運んだ。
パクリと食べた隼人は、目を細めて一言。

「美味いな」

ごちそうさまでした。


十一月

最近さらに寒くなった。

寒がりの優那はホッカイロで暖をとっていた。

「俺にも貸して」
「いいよ」

優那は隼人の頬に手を添える。

「あったかい」
「でしょ?」

隼人も優那の頬に手を添えて、お互い見つめあった。

「隼人の手、冷たい」
「優那がホッカイロ」
「僕の体温奪わないでよ」

俺にとって君たちは暖房です。


十二月

クーリスマスが今年もやーってくるー♪

なんて、そんなCMが流れ始め、クリスマスを前に今年も終わるんだなぁとしみじみ思う。

「クリスマスは?」
「施設のみんなとパーティーの予定だよ」
「年越しも?」
「うん。今年で最後、だからね。来年は寮の予定だし」
「そっか。楽しんで」
「隼人も。初詣は一緒に行こう」
「もちろん!」
「メリークリスマスと良いお年を」
「また来年」

俺の日記も残り三ヶ月……
今年もお世話になりました。


一月

あけましておめでとうございます。

たまたま初詣先で彼らを見つけたので、書いておこうと思います。

「隼人は何をお願いしたの?」
「願い事を他の人に言ったら叶わないから秘密」
「えー」

ちなみに俺は、高校合格しますように。

「やったー! 大吉だ」
「……俺も」
「今年も良い年になりそうだね」
「優那がいればそれだけで十分」
「絶対同じ高校に行こうね」
「当たり前だろ?」

二人とも、頑張れ。

俺も、頑張ろう。


二月

バレンタインデー。

バレたら先生に怒られるよ……?

そうそう。噂の二人はというと。

「え、いいの?」

おーい、そこの女子たちー。
校門の外で渡せばセーフみたいなやつ、絶対アウトだからな。

「俺は…いい」

優那は甘党だからチョコをもらえて嬉しそう。
隼人は迷惑そうに断ってるけど、結局押しに負けて受け取ってるみたい。

「隼人。いつもありがとう」

チュッパチャプスを手に、ニコッと微笑む。

あれはずるい。

隼人は一瞬何か考えて、優那に抱きついた。

「こちらこそ。ありがとう、優那」

二人とも、ありがとう。


三月

卒業式。

彼らはいつも通り。

だって、四月からも変わらず二人一緒だから。
それに、寮生活。
同じ部屋かはまだわからないらしいけど、隼人のことだから同じ部屋に変えてもらいそう。

ちなみに俺は……

「三年間、ありがとう。四月からもよろしくね」

二人と同じ。

続けるかはわからないけど、
とりあえず、観察日記はここまで。


二人の幸せを願って……










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