悪役令嬢は推しを愛でるのに忙しいので婚約破棄して構いません!~『推し活工房』を作って聖遺物を販売中!

水月

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13 悪役令嬢、断頭台の予感に震える

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 推し活工房が王都の片隅に産声を上げてから、二週間。  
 売上は右肩上がりの放物線を描き、店内は連日、推しの尊さに魂を焼かれた淑女たちの熱気で溢れかえっていた。

 学院でも、推し活という言葉が、まるで福音のように広まり始めている。  
 すべては順風満帆。
 破滅エンドの影など、春の陽光に溶けて消えたかのように思われた。 
 
 ――そう、あの……保守派の逆襲が始まるまでは。

 ある朝、学院の教室に一歩足を踏み入れた瞬間、私は肌を刺すような冷気を感じた。 

「アルマデリア様よ」 

「貴族協議会で、あの方の処遇が話し合われているんですって」  

 ひそひそと交わされる囁きは、まるで毒蛇の這う音のよう。
 私の背筋に、断頭台の冷たさが走り抜ける。

「一大事ですわ!」  

 ソフィアが、いつもの華やかさをかなぐり捨てた必死の形相で駆け寄ってきた。 

「昨夜の協議会で、モンルフォール侯爵が貴女の事業を、貴族の腐敗だと糾弾したの。令嬢が商売に走るなど言語道断、殿下や騎士を見世物にする不敬罪だと……!」 

 く、モンルフォール侯爵……! 
 原作でも、古き良き秩序遵守に命を懸けていた、あの頑固親父!?  
 登場早すぎるんだけど。

 私の脳内で、破滅の文字が点滅する。
 午後の臨時の貴族協議会。
 そこで私の処遇――そして工房の存続が決まるという。

「大丈夫よ、ソフィア。私にはエドウィン殿下の許可があるわ。……たぶん。おそらく。……うう、心臓が口から出そう」



 昼休み、私は逃げるように工房へと向かった。  
 店の奥では、ユーフィとリオンが今にも泣き出しそうな顔で私を待っていた。 

「お嬢様、僕たちの魔法加工が……不敬罪になるんですか?」 

「そんなの、芸術への冒涜ですわ!」  

 二人の不安に、私の心は千々に乱れる。
 そこへ、死神の如き足音と共に、あの男が現れた。

「アルマデリア様……顔色が、幽霊のように真っ白ですよ」

 その冷徹な美貌は、今日に限っては救いの神か、あるいは引導を渡す審判官か。 

「……レイナルド卿。貴方も、私を糾弾するために?」  

 事務室に二人きりになった瞬間、私は震える声で問いかけた。  
 レイナルドは長い沈黙の後、意外にも低く、柔らかな声で答えた。

「いいえ。私は、貴女の事業が品位を貶めているとは思いません」 

 ……えっ、まさかの全肯定!? 

「この二週間、店に集まる人々の瞳を見て確信したのです。貴女は、彼らに生きる希望を与えている。それは、決して醜い商売などではないかと」  

 レイナルドの瞳に、わずかながらの熱が宿る。

「……それに」

 レイナルドは一瞬言葉を切り、私から視線を逸らした。

「貴女が心血を注いだこの場所が、理不尽に踏みにじられるのを……私は、見過ごす気にはなれません」 

 その声は微かで、けれど鋼のように硬い意志を含んでいた。 
 えっ、今の何?
 推しに守られるヒロインみたいなセリフ……いやいや、気のせいね! 
 徹夜明けの幻聴幻聴。

「協議会の老骨どもは感情では動きません。必要なのは、論理です。この事業が王国にどれほどの利益をもたらすか、数字と意義で黙らせるしかありません……準備は宜しいですか?」

 その言葉は、私の中に潜む、オタクの底力に火をつけた。 

「……やります。工房を中心とした人の流れが、周囲の商店街の売上を三割底上げしている……この推し活経済効果の試算表で、守銭奴たちの首を縦に振らせてみせるわ。私の推しを、そして私の聖域を守るためなら、侯爵の一人や二人、論破して差し上げます!」

 つい、早口になっちゃうのは、中々直らない。
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