悪役令嬢は推しを愛でるのに忙しいので婚約破棄して構いません!~『推し活工房』を作って聖遺物を販売中!

水月

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19 悪役令嬢、原作外隠れキャラ?に戦慄する

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 芸術祭という名の狂乱から一週間。
 工房が王国公認という不可侵の聖域となった直後、運命は新たな試練を私の前に投げ出した。

 王城からの使者がもたらしたのは、隣国ヴェルディアン王国の第一王女、ミアリベルリリィ殿下の視察決定という衝撃の報せ。

 彼女は芸術祭の熱狂を耳にし、この『推し活』という名の布教活動を、自らの瞳で確かめたいと願ったという。

 ……ミアリベルリリィ王女?
 名前からして盛りすぎじゃない?
 しかも原作には一ミリも出てこなかったはず。
 隠しシナリオの没キャラとか? 

 それとも、私の行動が引き起こしたバタフライエフェクトなの!?

 私の脳内にある原作知識という名の羅針盤が、激しく狂い始める。

 翌日、私は定例会議に訪れたレイナルドに、この未知なる強敵について問いかけた。

「彼女は、社交界という名の戦場に咲く薔薇。美貌と才知、そして何より、手に入れたいものを決して逃さない、熾烈なまでの競争心をお持ちの方です。……かつて国際会議で同席した際も、各国の外交官を言葉一つで沈黙させていました」

 レイナルドの青灰色の瞳が、かつてない警戒の色を帯びる。
 彼はミアリベルリリィ王女が、この事業のノウハウを奪い、隣国で国家規模のライバル事業を立ち上げる可能性を示唆した。

「……もし彼女が本気になれば、この工房にとって最大の脅威となるでしょう。アルマデリア様、くれぐれも油断なさらぬよう」

 ちょっとまって、国家規模のライバル出現……。
 でも、推し活文化が世界に広まるのは、オタクとしては全銀河待望の神展開じゃないかしら?

 不安と、ほんの少しのワクワク。
 けれど、三日後に現れた彼女の姿を見た瞬間、私の悠長な期待は、北風にさらされた硝子細工のように粉々に砕け散った。



「これが、噂の推し活工房ですのね。……思っていたよりも、愛に満ちた場所だわ」

 扉を開けて現れたのは、プラチナブロンドの髪を光のカーテンのように揺らし、サファイアの瞳で世界を射抜く、完璧なまでの美貌を持つ女性。

 ミアリベルリリィ王女だ。
 
 彼女が纏う空気は、高級な香油と、圧倒的な強者の魔力が混ざり合った独特の芳香を放っていた。
 彼女は私の説明など不要と言わんばかりに、店内の魔法加工や販売実績を、冷徹なまでの知性ですべて把握していく。

 そして彼女は、私を試すかのように、唇を艶やかに歪めて問うた。

「ところでアルマデリア様。貴女に聞きたいことがありますの。……貴女の『推し』は、どなた?」

 その挑発的な響きに、私は逃げ場を失う。
 ここで嘘をつけば、私の推し活哲学が瓦解する。

 私は喉の奥で震える心臓を抑え込み、凛と前を見据えた。

「……私の推しは、近衛騎士団副団長。レイナルド・シュタイナー卿です」

 言い切った瞬間、店内の空気が、凍てつく刃のように鋭く研ぎ澄まされた。

 ミアリベルリリィ王女の瞳に、激しい、あまりにも激しい情熱の炎が宿る。

「……奇遇ですわね。実はわたくしも、国際会議で彼と言葉を交えて以来、彼の誠実さと強さの虜……。つまり、わたくしの『推し』も、レイナルド卿ですの」

 !! 
 まさかの『推し被り』!
 しかも隣国の、物理的にも政治的にも最強すぎる王女様と!? 
 こんなの、史上最悪の地獄のオフ会じゃない!!

 私の心の中のオタクが、阿鼻叫喚の叫びを上げる。
『同担拒否』なんて生温い言葉じゃ足りない。
 
 彼女の瞳には、公式(本人)すらも手中に収めかねない圧倒的な略奪者の輝きがあった。

 ミアリベルリリィ王女は、冷たく、しかし至高の美しさで微笑んだ。
 その笑みは、私にこう告げているようだった。

「どちらの『愛』が本物か、分からせて差し上げますわ」
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