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冒険しましょう

ゴブリンの巣の掃討作戦を始めました

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現実逃避したい。
現状を正しく把握したくない。

私、シルヴィーは目の前に広がる緑の海とこんもりした丸い山のフォルムを眺め、ため息ばかりを吐いている。
ちなみに私の隣に腰を下ろしたセヴランも、遠い目をして同じようにため息を吐きだしているわ。

アンティーブ国の港町アラスに滞在しながら、そこそこの冒険者の活動と買い物とのんびり過ごしていた私たちが、冒険者ギルドに招集されたのは昨日のこと。

身だしなみも整え、肩を覆う長さの茶色の髪をアルベールにハーフアップに結ってもらって、まだ鏡越しに見慣れない茶色の瞳をパチリパチリと瞬きして身だしなみを整え、宿屋を出る。
ゆっくり歩きながら冒険者ギルドに着くまではそんなに訝しむこともなかったけど、ギルドマスターの執務室に入った瞬間に怪しくなってきた。
だって、呼ばれた内容はゴブリンの巣の掃討作戦のはずなのに、そこには厳しい顔をしたギルドマスター、ヴァネッサと背の高い細身の男性しかいないんだもん。
ゴブリンの巣の掃討作戦に参加する冒険者は、その巣の規模にも依るが複数名または複数パーティーが必要だ。
なのに・・・私たちしかいない。



「まさか、私たちだけでゴブリンの巣の掃討をするとはね・・・」

「冗談であってほしかったです・・・」

今、ゴブリンの巣が作られている洞窟がある森の手前で、最終確認中です。
アルベールとリュシアンと、アラスの街の冒険者ギルドから唯一付いてきた細身の男性とで。
森の規模は小さく、前世の記憶と比べるならばちょっと広い公園ぐらいの広さで、洞窟のある山は、小山程度の高さだ。
その洞窟の中には小規模から中規模に成長途中のゴブリンの巣があり、ギルドの調査員が調べた結果、ゴブリンの上位種が何体かいるらしい。

「ゴブリンジェネラルだって」

「キングよりはマシだろうと言われました」

ゴブリンだって数多くいたら脅威だろうし、臭いし、気持ち悪い。
うじゃうじゃいるゴブリンを討伐するのも気が重いのに、掃討後の巣の始末もつけなければならない。
なのに・・・。

「正式なギルドの依頼じゃないなんて・・・」

「報酬だって、馬とポーションですよ」

まったく、骨折り損のくたびれ儲けだわ・・・。

ギルドマスターのヴァネッサが説明するには、こういう事情があるらしい。
ここのゴブリンの巣の掃討の依頼をギルドに出すのは領地内にある領主が出すべきで、ここはアラスを治める領主の領地ではなく、隣の領地でゴダール男爵領地になる。
しかし、今、ゴダール男爵は後継ぎ問題で揉めており、どこの領地とも音信不通の陸地の孤島状態に陥っているらしい。

冒険者ギルドは国を越えての組織なので、そんな問題には関係ないはずなのだが、ヴァネッサ曰く「ギルドが正常に運営されいない」とのこと。
今回のゴブリンの巣のことも報告はしているが、返事は無し。
訪ねて行ったギルド職員は街に入れず、門兵とも思えない粗野な男どもに攻撃され、怪我を負って戻ってくる状態。

だからと言って、ゴブリンの巣を放置するわけにもいかず、苦肉の策で私たちに内密に片付けてほしいと依頼がきた。
私たちは旅をしている途中、ゴブリンに気づいて討伐し、ゴブリンの巣も見つけて掃討する・・・て流れ。

正式な依頼ではないので、金銭による報酬は払われない。
とりあえず、欲しい物として「馬」と私がまだ上手に作れない「解毒ポーション」数種と冒険者が野営に必要な必需品を人数分を上げ、了承してもらった。
馬はそれなりに高値かもしれないが・・・、後はゴブリンの巣の掃討依頼にしては低額な報酬だろう。

「「はあーっ」」

私とセヴランのため息が重なる。

ちなみに付き添いのギルド職員は掃討作戦には参加せず、私たちが依頼を達成するかどうかの見届け人だ。
つまり、6人で百人程度のゴブリンを上位種を含め討伐しなければならない。

え?お前はチート能力持ちで攻撃魔法をバンバン放てるだろうって?
そうなんだけどさー、面倒だから私も一発最強魔法を打ち放って終わりにしたかったんだけど・・・。
アルベールとリュシアンが反対するんだもん。

洞窟の入り口を塞いで、中を火炎魔法で蒸し焼きにするとか、真空状態にして窒息死させるとか、衝撃破を当てて破裂死させるとか、異世界あるあるの方法を提示したのだが、全て却下された。
どうやらこの世界のゴブリンも女性を苗床にして増えるらしく、洞窟内に捕まった女性やまだ生きている人がいるかもしれないからって。
うーむ、そう言われれば仕方ない。
ちまちま倒していくしかないよね?

「おーい、そろそろ行くぞ。諦めて腹くくって来いよ!」

リュシアンの無情な誘い声に、ふたりしてよっこいしょと重い腰を上げる。
アルベールの横には楽し気に尻尾をフリフリしているルネとリオネル。

「作戦は決まったの?」

「おう!洞窟内にはアルベールの爺を先頭にルネとリオネル、セヴランが入って、俺とお嬢は洞窟の入り口で逃げてきたゴブリンを討つ」

「な!なんで私が洞窟の中に入るチームなんですかっ!わ、私も外でいいですよー」

ふさふさ耳と尻尾をビーンと立てて、セヴランが悲鳴を上げた。

「いや、お前は戦闘員じゃなくて、中に人がいたときにその人らを保護して避難してほしいんだよ。他にできそうな奴がいないだろう?」

リュシアンとセヴランがぐるりと私たちを見回す。

「・・・ですね」

絞り出すような苦し気な言葉に、こてんと首を傾げるルネとリオネル。
うん、君たちは戦闘に夢中になって、囚われている人達を助けて逃げることは出来なさそう。

「俺とアルベールは別行動のほうがいいし」

確かに、指示系統は分散しておかないと、いざというときに初心者の私たちでは決断に迷いがでる。
私はポンポンとセヴランの肩を叩き彼を労わり、ここまで乗って来た馬車を「無限収納」にしまう。

「えっ!!」

冒険者ギルド職員が私の収納スキルの大きさに驚いているけど、無視、無視。
連れて来た馬は1頭は普通の馬で、馬車を牽いてきた馬とリュシアンが乗っていた馬は魔獣馬だ。
馬たちとギルド職員はここで待機。

「じゃあ、行きますか」

アルベールの号令とともに、私たちは陽光降り注ぐ森の中へと入っていった。


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