部長と私のカンケイ

桜井 ミケ

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第04話 お詫びのプリン

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「大丈夫。これで死ぬわけじゃあるまいし…大丈夫。なるようになる!」
 朝、私はオフィスに入る扉の前で、気合いを入れていた。母に飲み会の一件を聞き、今日はそのお詫びをしようと思っているのだ
「よし、行く!」
「…さっきから、ドアの前で何してるんだ?」
 扉に手をかけた時、後ろから声をかけられた
「…ひっ!」
 この声は…
「邪魔だ。入らないなら、避けろ」
「部長!」
朝だからかいつもより機嫌の悪そうなその人は、私がいきなりパッと自分の方を振り返ったので少し驚いている
「…なんだ?」
「あの…母から飲み会の事を聞きました。すみませんでした!ご迷惑をおかけしました!」
そう言いながらすぐにバッ頭を下げ、謝る
「…そのことなら、別にいい」
「いや、駄目です。いくら鬼部長とはいえ、こういうのはきちんとしなくては…あ、タクシー代今払いま…」
 慌てて財布をカバンから出そうとした時、部長は私の手を掴んで、止めた
「いいって言っているだろ。…迷惑だ」
「……そういうと思って、昨日も休みだったので、朝から並んで駅前の限定プリン買ってきました。部長、好きですよね?」
「……」
そう言ってプリンの入った袋を手渡すと、部長は素直に受け取ってくれた
「よかったです、受け取ってもらえて。…並んだ甲斐がありました」
安心して、微笑むと、部長はなんだか怖い顔をしている
「…それより、さっき俺のこと鬼部長って言ったか?」
「はっ、つい……いや、言ってません。幻聴じゃないですか?」
「…幻聴のわけあるか。誤魔化すな」
「お先失礼します!」
私は部長から逃げるように部屋に入った







「…まぁ、謝れてよかったわね」
ランチタイム、いつものように美好とおしゃべりをする
「まぁね」
「それより、私思ったんだけどさ」
「何?」
「あんた、どういう経緯で部長に送ってもらうことになったか知ってるの?」
「へ?」
鋭い親友の指摘に、一仕事終えたと安心しきっていた私の心がまた揺らいだ
「その様子じゃ知らないのね…」
「いや…うん、まぁ」
「あの、吉岡部長のことだから、変なことは何もないと思うけど…男はみんな狼って言うしね」
「ちょっと待って、なんでそんな話しになるの?」
「…だって、あんたそのあたりの記憶ないんでしょ?」
「まぁ、そうだけど…。でも、部長は私のこと全然タイプじゃないって言ってたし…」
「…私が言ってるのは、《もしも》の話よ。」
「うん…」
「それにしても、吉岡部長って優しいのね。酔いつぶれた部下を背負って家に送り届けてくれるなんて…それに、……」
「うん…」
美好の言葉が右から左に流れ、頭に入ってこない。…確かにあの日の記憶はない。アイツと私の間に何かあったとは思えないけど…気になる
「…ねぇ、聞いてるの?」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
「もう…。 不安な気持ち掻き立てちゃったみたいね。気になるなら、直接聞くのが楽だと思うわよ」
「そうよね…ありがと」
私はざわざわと騒ぐ胸をなんとか押さえつけ、席をたった
「あら、もう行くの?」
「うん…気になるから確かめてくる」
「…そう。あ、今日またお見合いするのよね、頑張って」
「あー、うん、頑張る」
 お見合いなんてスッカリ忘れていたが、そんなこと今は関係ない。部長のところに真相を確かめに行こう

 
 話を聞こうと意気込んで、オフィスに戻るが、部長はいなかった
「あれ…一体どこへ行ったのかしら。 いつも、この時間には戻ってるはずなのに…。 まぁ、
いっか。 待ってよう」
 しかし、彼が帰ってきたのはランチタイムが終わるギリギリの時間で、その後もお互い忙しく結局事実を確かめることは出来なかった









 お見合いは、今日の相手で最後だと両親は車の中で告げた。今まで私もよく頑張ったと思う
「茉莉、今まででどの人が一番良かった?」
 母親が隣から私に話しかけてきた
…はっきり言って、全員タイプじゃない。ほとんどの人は私とだいぶ年の離れたおじさまだったし、歳が近くても、趣味や性格が合わない人が多かったからだ。しかし、そんなことは言ってられない
「んーー…やっぱり最初の貴幸さんかな」
「あぁ、川崎さんとこの」
「そう。歳も近いし、趣味も合うし」
…ただ、今思うとちょっと合いすぎだったんじゃないかと思う。まるで、事前に調べられていたかのような…
「ふーん」
 私の言葉を聞くと、何故か母はニヤニヤしだした
「…何よ」
「ううん、ふふ。 こう言ったらなんだけど、今日のお相手はね、今までと比べ物にならないくらい素敵な方なのよ」
「うん、それ言ったらダメよね。失礼すぎるわ」
「見たら分かるわよ! きっと茉莉も喜ぶわ」
「へー。 何?格好よくて仕事も出来て私を大切にしてくれそうな人?」
 どうせ大したことないのだろうとたかをくくって母をからかってみる
「えぇ、そうね。その条件には全て当てはまるわ 」
「は?…どうしてそんな堂々と言い切れるのよ」
 真顔で答えられ、少し驚いてしまった
「だって確証済みだもの」
「確証済み…?」
 両親は今日のお相手とそこまで親しい仲なのだろうか
「…お父さんとも話し合って、彼なら貴女を任せられるってことになったのよー」
「はぁ…」
…本当に能天気な人たちだ。私が彼を、あるいわお見合い相手全ての中の誰かと結婚しなければ、借金地獄に引きずり込まれるというのに…
「あ、もうすぐ着くぞ」
 運転席に座る父親が振り返らずにそう言う
…別に今まで育ててもらったお礼に結婚くらい……しても…
その時、何故か部長の顔が脳裏をよぎった
「…なんでよ」
「え?何か言った?」
 ポツリと呟いたのが聞こえたのか、母は不思議そうに頭を傾げる
「別に」
「そう?」
……なんでアイツの顔が…?私が好きなのは吉岡さんなのに…。 あ、そうか今日ランチタイムに話せなかったから、この時間になっても気になってるだけだ。うん、そうだ









 車を降りて料亭に入り、名を名乗ると、お店の人の人は私たちを個室まで案内してくれた
いつもこの流れで、すっかり覚えてしまう

 いつも通りなるべく優雅な仕草に見えるように頑張って中に入り、相手を見ると、私の身体は石みたいにかちんと凍ってしまったと勘違いするくらいに、固まってしまった
「…こんにちは。 」
営業用の笑顔を浮かべこちらを見ているのはなんと…
「部長!?…何故ここに…?」
先程脳裏をかすったまさにその人だったのだ
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