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第六十八話 六芒星
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地面に光り輝くラインとミミズが這った様な文字と記号。この世界には無い文字と記号が描かれたその魔法陣は六つの頂点を持つ星のカタチを描いていた。
六芒星…………、嘗てある男が使用していた陣の形。
その男のライバルである男が五芒星を使う事で有名だったが、その男は六芒星を好んで使った。
ギャアーーー!!
魔法陣の中に入れられたゴブリンが叫びをあげ、その体が変化していく。
筋肉が盛り上がり、人族の子供程度の大きさしかないゴブリンが、その背丈が大人程の大きさに変化していく。
『グゥアァァァーー!!』
雄叫びを上げて立ち上がったその姿は、ゴブリンの面影を残しながら、あきらかに別の生き物になっていた。
やがてホブゴブリンサイズに変化したソレは、魔法陣の側に立つ男の指示を受けて森へと入って行った。
「魔物でも人型の魔物なら鬼化しそうじゃな」
男は満足そうに独り呟く。
この世界とは違う理りの術を使うこの男も、ホクトやサクヤと同じ世界からの転生者だった。
男の名は、ドーマン。
かの大陰陽師、安倍晴明とライバル関係にあった陰陽師だった男、蘆屋道満。
安倍晴明の五芒星に対して、蘆屋道満は六芒星を使っていた。この世界に転生して、ドーマンは狂喜乱舞した。自分が収めた陰陽道以外の超常の現象【魔法】があったのだから。
平安時代、安倍晴明の影に埋もれた様に見られる蘆屋道満だったが、この男は生粋の研究者だった。己の術を向上させる事しか頭にない。それはこの世界に転生してからも変わらなかった。
今、ドーマンが取り組んでいるのが、人族やゴブリン、オーク、オーガなどを材料に、鬼を造る事だった。
ドーマンには一条天皇の時代、大江山の鬼の王、酒呑童子が強烈に記憶に残っていた。数多くの鬼達を従えた鬼の王酒呑童子が、源頼光と藤原保昌によって、毒酒を飲まされ泥酔させて、寝込みを襲って鬼共を成敗、酒呑童子の首級を京に持ち帰った。
ドーマンは、酒呑童子の強大な妖気に痺れるような憧れに近い気持ちを持っていた。故に、安倍晴明が主導した酒呑童子退治のやり口が気に食わなかった。
それは安倍晴明に対する反発なのか、今となっては分からないし、どうでもいい事だった。今のドーマンにとって大切なのは、自分の好きな様に研究が出来ること。その為に、人間達に被害が出る事などに、罪悪感を覚える事もない。それは蘆屋道満だった頃から変わりの無い、この男の性質だった。
「さて、次はあの被験体を試すか」
ドーマンはそう言うと姿を消した。
パンゲア大陸の南の端に位置する、サマンドール王国は、海に面した豊かな国だった。
海を挟んだアスカール王国とも細々と交易してはいるが、漁業資源や塩を隣接するシドニア神皇国やトリアリア王国との貿易で、多くの資金を得ている。
そのサマンドール王国の田舎町に一人の老人が床に伏していた。
ヴァンガス・ロッドン
サマンドール王国前騎士団長
貧しい少年の頃から、腕っぷしだけは強かったヴァンガスは、その腕で兵士になる事を目指した。
貴族の子息が多い、騎士団へ入団を許され、そこでもヴァンガスは、その剣の腕で這い上がって行った。
戦争や魔物討伐、盗賊や海賊退治と、その人生において、ヴァンガスは勝ち続けた。
やがて騎士団長に就任すると、戦いよりも事務仕事が多くなり、剣や槍を振っていればいい身分ではなくなった。
そして現在、ヴァンガスは騎士団長の職を辞して、田舎町で療養していた。
鍛え上げられた肉体も、よる年波には勝てなかったのだ。
ヴァンガスの胸にあるのは、戦いへの渇望。
戦いたい。
強い相手と戦いたい。
この大陸には、己の知らない強敵がいるだろう。
「ゴホッ、ゴホッ、…………足りぬ、儂はまだまだ闘い尽くしておらん」
2メートルを超える巨体のヴァンガスだったが、今は全盛期の面影はない。その鍛え上げられた肉体は、今は骨と皮になっていた。
己の腕一本で平民から一代騎士爵を賜り、妻と子供をもうけ、幸せな人生だったとは言えるだろう。
だが、こうして田舎町へ引っ込んで隠棲してから、衰える身体とは裏腹にその心は滾っていた。それは妻が亡くなって、子供が手を離れてから、ドンドン強くなっていった。
「儂にエルフの半分でも寿命があれば、もっと高みへと登れたものを…………」
ヴァンガスは夢見る…………、戦いの中での己の死を…………。
六芒星…………、嘗てある男が使用していた陣の形。
その男のライバルである男が五芒星を使う事で有名だったが、その男は六芒星を好んで使った。
ギャアーーー!!
魔法陣の中に入れられたゴブリンが叫びをあげ、その体が変化していく。
筋肉が盛り上がり、人族の子供程度の大きさしかないゴブリンが、その背丈が大人程の大きさに変化していく。
『グゥアァァァーー!!』
雄叫びを上げて立ち上がったその姿は、ゴブリンの面影を残しながら、あきらかに別の生き物になっていた。
やがてホブゴブリンサイズに変化したソレは、魔法陣の側に立つ男の指示を受けて森へと入って行った。
「魔物でも人型の魔物なら鬼化しそうじゃな」
男は満足そうに独り呟く。
この世界とは違う理りの術を使うこの男も、ホクトやサクヤと同じ世界からの転生者だった。
男の名は、ドーマン。
かの大陰陽師、安倍晴明とライバル関係にあった陰陽師だった男、蘆屋道満。
安倍晴明の五芒星に対して、蘆屋道満は六芒星を使っていた。この世界に転生して、ドーマンは狂喜乱舞した。自分が収めた陰陽道以外の超常の現象【魔法】があったのだから。
平安時代、安倍晴明の影に埋もれた様に見られる蘆屋道満だったが、この男は生粋の研究者だった。己の術を向上させる事しか頭にない。それはこの世界に転生してからも変わらなかった。
今、ドーマンが取り組んでいるのが、人族やゴブリン、オーク、オーガなどを材料に、鬼を造る事だった。
ドーマンには一条天皇の時代、大江山の鬼の王、酒呑童子が強烈に記憶に残っていた。数多くの鬼達を従えた鬼の王酒呑童子が、源頼光と藤原保昌によって、毒酒を飲まされ泥酔させて、寝込みを襲って鬼共を成敗、酒呑童子の首級を京に持ち帰った。
ドーマンは、酒呑童子の強大な妖気に痺れるような憧れに近い気持ちを持っていた。故に、安倍晴明が主導した酒呑童子退治のやり口が気に食わなかった。
それは安倍晴明に対する反発なのか、今となっては分からないし、どうでもいい事だった。今のドーマンにとって大切なのは、自分の好きな様に研究が出来ること。その為に、人間達に被害が出る事などに、罪悪感を覚える事もない。それは蘆屋道満だった頃から変わりの無い、この男の性質だった。
「さて、次はあの被験体を試すか」
ドーマンはそう言うと姿を消した。
パンゲア大陸の南の端に位置する、サマンドール王国は、海に面した豊かな国だった。
海を挟んだアスカール王国とも細々と交易してはいるが、漁業資源や塩を隣接するシドニア神皇国やトリアリア王国との貿易で、多くの資金を得ている。
そのサマンドール王国の田舎町に一人の老人が床に伏していた。
ヴァンガス・ロッドン
サマンドール王国前騎士団長
貧しい少年の頃から、腕っぷしだけは強かったヴァンガスは、その腕で兵士になる事を目指した。
貴族の子息が多い、騎士団へ入団を許され、そこでもヴァンガスは、その剣の腕で這い上がって行った。
戦争や魔物討伐、盗賊や海賊退治と、その人生において、ヴァンガスは勝ち続けた。
やがて騎士団長に就任すると、戦いよりも事務仕事が多くなり、剣や槍を振っていればいい身分ではなくなった。
そして現在、ヴァンガスは騎士団長の職を辞して、田舎町で療養していた。
鍛え上げられた肉体も、よる年波には勝てなかったのだ。
ヴァンガスの胸にあるのは、戦いへの渇望。
戦いたい。
強い相手と戦いたい。
この大陸には、己の知らない強敵がいるだろう。
「ゴホッ、ゴホッ、…………足りぬ、儂はまだまだ闘い尽くしておらん」
2メートルを超える巨体のヴァンガスだったが、今は全盛期の面影はない。その鍛え上げられた肉体は、今は骨と皮になっていた。
己の腕一本で平民から一代騎士爵を賜り、妻と子供をもうけ、幸せな人生だったとは言えるだろう。
だが、こうして田舎町へ引っ込んで隠棲してから、衰える身体とは裏腹にその心は滾っていた。それは妻が亡くなって、子供が手を離れてから、ドンドン強くなっていった。
「儂にエルフの半分でも寿命があれば、もっと高みへと登れたものを…………」
ヴァンガスは夢見る…………、戦いの中での己の死を…………。
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