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7巻
7-2
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3 宴会と狩り
僕が提供した大量の食材を、マリア、マーニ、有翼人族の女性達が協力して調理していく。
もちろん、僕、ソフィア、ルルちゃんも解体は出来るのでお手伝いをする。
不思議なんだけど、ソフィアは料理は絶望的なのに解体だけは上手いんだよね。料理と魔物の解体は別ものなんだろうね。
「うわぁー! ママ! お肉がいっぱいだよー!」
「本当ね、よかったわね」
有翼人族の小さな子供が、どんどん運ばれてくる料理を見て目を輝かせる。
調理器具も僕が魔導具のコンロとかを提供しているというのもあって、次々と手早く料理が出来上がっていった。
「魔物が溢れて二百年、狩りが難しくなった事で、十分な食料の確保が出来なくなりました……子供達にはひもじい思いをさせぬよう頑張ってはいたのですが……」
バルザックさんは料理を目の前にして申し訳なさそうにしていた。
孤島の有翼人族達もそうだったけど、メインの武器が軽い弓矢しかない彼らは、魔物に対抗出来る手段を持っていなかった。鏃の素材に魔鋼でも使えれば話は変わってくるだろうけど、彼らの中にはそんな高度な鍛冶の技術を持つ者はいない。
バルカンさんがバルザックさんに向かって言う。
「バルザック兄さん、狩りなら儂達に任せてくれ」
「そうだ、伯父さん。俺達に任せてくれよ。俺達の武器ならこの辺りの魔物なんてヘッチャラだぜ!」
バルカンさんに息子のバート君が続いた。
それからバート君はバルト君をチラッと見ると、挑発するように胸を叩く。バルト君は悔しげな顔をしてバート君を睨んでいた。
はぁ、なんで仲よく出来ないのかな……
「同族嫌悪よ」
「そうなんだ」
僕の思考を読んだアカネの言葉に、僕は頷く。しかし、バート君とバルト君は双子かと思うくらいよく似てるな。
それはともかく、この天空島には察知した気配の印象だと手強い魔物はいないと思う。
天空島の森の魔素は少し濃いけど魔境ほどじゃないから、魔境で鍛えた有翼人族であれば問題ないだろう。
僕がそう考えていると、ふいに大声が上がった。
「親父! 俺も狩りに行くぞ!」
バルト君である。
「……いや、バルトお前、ついこの前、魔物に怪我を負わされたばかりだろう」
「うっ! 今度は大丈夫だ! そいつが狩りに行くなら、俺だって魔物を狩れるさ!」
心配するバルザックさんをよそに、バルト君はやる気になっている。
もともとこの天空島には野生動物が多く生息しており、そこに住む者は狩りをして生活を営んできた。古代文明時代の住民も有翼人族達も狩りをしてきたが――森が広がり魔物が溢れ出してからは、それもままならなくなってしまった。
「二百年前までは豊かな森の恵みのおかげで、儂ら有翼人族の生活は貧しくも安定したものだったというのにな……」
バルザックさんが懐かしむように口にする。
それなら森の魔物を間引き、ダンジョンコアの制御を取り戻せば、天空島は彼らにとって再び暮らしやすい地に戻るだろう。正常化したダンジョンコアにより、魔素の濃度も落ち着くはずだ。
カエデが、参加表明したバルト君に向かって言う。
「うーん、そっちのお兄ちゃんは危ないよ」
「そうだニャ、ミノムシはギリOKニャ」
「なっ! おまっ!?」
カエデに続いてルルちゃんにダメ出しされたバルト君が言い返そうとした時――彼は初めてカエデがいるのに気がついた。
「おまっ、おまっ……」
カエデは有翼人族が怖がらないように、気配を消して認識阻害の外套まで被り、隠密スキルを使用していた。カエデに気がついていたのは、僕達パーティメンバーくらいだっただろう。
アラクネというS級の魔物を目にしたバルト君は気絶しそうになっている。一方、バート君は情けない顔をし、カエデに向かって手を合わせて震えていた。
「カエデさん、ミノムシはやめてください。お願いしますから……」
初めてカエデに会った時、糸でグルグル巻きにされたうえ吊り下げられたバート君は、カエデがトラウマになっているらしい。
「まあ、狩りの事はまたあとで考えるとして、今は食事を楽しみましょうよ」
僕がそう言うと、バルザックさんは顔を青くしながらも、なんとか冷静になろうとして頷いてくれる。
「あ、ああ、そうですな」
「兄さん、カエデ殿はイルマ殿の従魔だから安心していいぞ」
「そ、そうなのか? あ、ああ、分かった」
バルカンさんに言われ、バルザックさんもようやく落ち着けたようだ。
有翼人族の女性や子供達はカエデにもすぐに慣れたのか、一緒になって食事を楽しみ始めた。ベールクト達が一緒だったのがよかったのかもしれないな。
その日僕がワインを提供し、宴は大いに盛り上がり、夜中まで続いたのだった。
◇
翌朝、狩りと魔物の調査を兼ねて、僕達は森に足を踏み入れた。といっても、食料は僕のアイテムボックスにまだまだあるから、調査の意味合いが強い。
森の中を進みながら、僕はバルザックさんに尋ねる。
「遺跡の中心に、この島を浮かせているダンジョンコアがあるんですよね」
「はい。しかし儂ら有翼人族といえど、行った事があるのは遺跡中心部まで。そこから先に進み、ダンジョンコアを確認出来た者はおりません」
僕達のパーティは、案内してくれるバルザックさんを囲むようにして進行していった。
ちなみに、有翼人族達は森の上空を飛ぶ事はないらしい。空には、ワイバーンやグリフィンといった強力な魔物がいるわけではないが、好戦的な猛禽類系が出るので危険なんだとか。
「ハッ!」
ベールクトの繰り出した槍が、猿の魔物の喉を貫く。続けてバート君が放った矢が、猿の魔物の眉間に突き刺さった。
バルザックさんが驚きつつ尋ねる。
「……バルカン……お前の息子とあの少女はなんなんだ。どうして魔物に普通の矢が通じる? 少女の槍はいったい?」
実際、バート君もベールクトも戦士として見違えるほどレベルアップした。特にベールクトは、魔大陸で僕らが鍛えた有翼人族の中で一番の戦士になっている。
バルカンさんがバルザックさんに注意する。
「兄さん、大きな声で話さないで。魔物が寄ってくるぞ」
「あっ、ああ、すまない」
「でも、兄さんが驚くのも仕方ない。イルマ殿が私達を戦えるようにしてくださったんだ」
それからバルカンさんは、僕らが魔大陸で行ったパワーレベリングの話をした。バルザックさんが頷きながら呟く。
「……なるほど、魔境ですか。強力な魔物が跳梁跋扈する地とは……想像出来ませんな」
「魔素が濃く、瘴気に汚染された魔境には、強力な魔物が多いんですよ」
僕がそう言うと、バルカンさんが続く。
「そういった魔物をイルマ殿達の助けを借りて斃し、レベル上げをしたのだ。バルザック兄さん達もやってもらえば、この森の魔物くらいなら狩りが出来るようになるぞ」
「おっ、おう、そ、そうか」
バルザックさんは話を聞きながら、頬を引きつらせていた。
そこへ、斥候に出ていたソフィアとカエデが戻ってくる。二人は森で目にしたという魔物の種類を教えてくれた。
「タクミ様、いるのは野生動物がほとんどですね。発見出来た魔物の種類としては、猿系、狼系、虎系、あとは蛇や蜥蜴です。ゴブリンやコボルトがいないのは幸いでしたね」
「ああ、アイツらは際限なく増えるからな」
「マスター、虫さんも少ないみたい」
「カエデもありがとうな」
「えへへぇーー」
この森は魔素が濃くないだけあって、魔物よりも野生動物の方が多いみたいだ。
ソフィアが報告してくれたように、ゴブリンやコボルトがいないのはラッキーだったな。アレは放っておくと爆発的に増えるから。あいつらのせいで土地がさらに侵され、魔境が拡大してしまうっていうのはよくあるんだ。
「魔物を間引いてダンジョンコアの制御を取り戻したら、開墾して農業も出来るようになるかもしれませんね」
「おお、本当なら嬉しいですな。狩りで獲れる動物や魔物を頼りにする生活は、どうしても不安定ですからな」
僕が言った事に、バルザックさんは喜んでいた。実際、狩猟生活って大変だろうしね。
僕はソフィアに声をかける。
「魔物の傾向も分かった事だし、この辺でいったん戻ろうか」
「そうですね。バルザック殿もお疲れのようですし、それがいいと思います」
僕達はまだまだ大丈夫だけど、バルザックさん達にはこれ以上無理はさせない方がよさそうだ。
調査結果として分かったのは、脅威となる魔物はいない、魔物の数は標準的な魔境に及ぶべくもない、という事。
野生動物の熊や狼に対抗出来るなら、問題なさそうかな。
別行動していたレーヴァによると、薬草の類はほとんど見つけられなかったらしい。薬草は魔素がある程度濃い場所に生えるので、この森で一定量確保するのは難しいみたいだ。
明日こそ遺跡の中心に向かおうと決め、僕達は適当に狩りをしながら洞窟へ帰った。
4 探索準備の準備
僕達の視線の先に、子鹿のように足を震わせてなんとか立っている、ボロボロの青年がいる。
「なっ、なんで勝てねぇんだ……」
バルザックさんの息子、バルト君だ。
そのバルト君を一方的にボコボコにしたのが、バート君。
どうしてこうなったのかというと、きっかけはベールクトだった。
ベールクトに一目惚れしたバルト君は、積極的にモーションをかけていた。ベールクトは、バルト君が天空島の有翼人族集落の族長の息子だからというのもあり、適当にあしらっていたが……
キレたのがバート君だった。
三人で次のような言い争いがあったという。
「ベールクトは俺と一緒になるんだ! ちょっかい出すな、この野郎!」
「……いや、一緒にならないよ」
バート君がバルト君に怒りをぶつけたところ、ツッコミを入れたのはベールクトである。そんな彼女に構う事なく、バルト君は言い返す。
「なんだと! ベールクトさんには俺が相応しい! お前なんかと一緒にさせるか!」
「……いや、お前も嫌だからな」
「テメェ! 身のほどを知らせてやる!」
「おぅ! 望むところだ! 叩き潰してやる!」
「……コイツら聞きゃしねぇ」
バート君とバルト君の口喧嘩はやがて本気の殴り合いとなり――当然ながら僕達によるパワーレベリングを経験したバート君に軍配が上がる。
そういえば、バート君ってベールクトからソフィアに乗り換えたんじゃなかったっけ……
それはさておき、バルザックさんが謝ってくる。
「イルマ殿、愚息が申し訳ない。これも儂の不徳のいたすところ。あとで責任持ってしっかりと言い聞かせておきます」
「いえ、気にしなくて大丈夫ですよ。バルト君と喧嘩しても、レベル差がありすぎてバート君が怪我する事もないでしょうし」
すると、バルザックさんが意外な事をお願いしてきた。
「その事なのですが、儂らもバルカン達のように鍛えていただけないでしょうか?」
急にどうしたのかなと思ったけど、バルザックさんも危機感を覚えているみたいだ。天空島には強力な魔物がいないとはいえ、熊や狼でも彼らには強敵だし。
「……そうですね。バルザックさん達の地力が上がるのは、これから天空島で暮らすのにもプラスですからね。分かりました。準備が必要なのですぐにというのは無理ですが、遺跡の探索と並行して訓練しましょう」
「ありがとうございます、イルマ殿。今では狩りをするのも命懸けですからな。特に若い者が犠牲になるのがやりきれません」
「この際、皆さんの装備も含めて面倒を見ますよ。考えている事もあるので、数日待ってください」
バルカンさん達には特製の装備を作ってあげたから、バルザックさん達にあげないのは不公平だよね。
僕とバルザックさんが話していると、それを聞いていたソフィアが声をかけてくる。
「タクミ様、パワーレベリングをするという事は、魔大陸とここを繋ぐのですか?」
「うん。またソフィア達にも協力してもらわないとダメだけど、お願いね」
魔大陸の拠点には、孤島の有翼人族達を残したままだ。彼らを移動させる必要があったから、どっちみち天空島にゲートを設置する予定だったんだよね。
ベールクトが僕のところに駆けてきて言う。
「タクミ様、同胞を鍛えるの、私にも手伝わせてよ」
「別にそれは構わないけど、喧嘩はダメだよ」
「大丈夫だよ。私は弱い者イジメはしないから」
ちなみにバルザックさん達のパワーレベリングは、ソフィアとマリアに任せるつもりだ。僕とレーヴァとアカネは、彼らの装備製作で手一杯になるだろうからね。
遺跡の探索と並行して進める予定だったけど、しばらくバルザックさん達の強化にかかりっきりになりそうだな。
別に僕達だけならすぐにでも行けるだろうけど、バルカンさんやバルザックさん達が同行するなら、しっかりと準備してからじゃないと。
僕はふと思いついて、ベールクトに尋ねる。
「と、それでバート君は大丈夫なの?」
「ああ、アイツは私がシメといた」
「あ、ああ、そう……」
ベールクトが向けた視線の先には、バルト君以上にボロボロになったバート君が転がっていた。そんなバート君を、カエデとルルちゃんが集落の子供達と一緒になって木の枝でつついている。
「ツン、ツン」
「ツン、ツンニャ」
「キャハハハハッー、ツン、ツン」
うん、見なかった事にしよう。
◇
「……さて、ゲートを設置する部屋を作るね」
山の中腹の洞窟に戻った僕は、ゲート設置場所の選定をする事にした。その前に、洞窟に手を加えなきゃダメかな。
「まずは洞窟の壁面と天井を強化しよう」
「崩落防止ですね」
「うん、かなり硬い岩盤みたいだけど、念には念を入れてね」
洞窟の拡張とゲートの設置をするため、洞窟の入り口から壁面の硬化を施していく。崩れる恐れのある場所は、形状を変えてから硬化していった。
この山は火山じゃないし、天空島には地震がないらしいので、ガチガチに強化しなくても崩落の心配はないだろう。
「ついでだから煙突代わりの穴を開けて、換気の魔導具も設置しておこうか」
「そうですね。有翼人族達は時折、風属性魔法を使って換気していたそうですが」
「洞窟の中にキッチンがあると大変だもんね」
ちなみにバルカンさん達は今後、バルザックさん達と一緒にこの洞窟群で暮らすそうだ。確かに森で暮らすよりは断然安全だからね。だけど、森の安全が確保出来るようになったら、古代遺跡を復興して住むのも面白いと思うんだけどな。
それはさておきこの際だから、今ある洞窟の拡張もやってあげる事にした。新たに倍の数の洞窟を掘った。
それに加えて魔大陸の拠点と繋ぎ、有翼人族にはそっちの管理も頼む。
魔大陸の拠点はバルカンさん達にとっても、魔物を狩って食料にするためとレベル上げに便利だと思うんだよね。
5 ボロゾウキンとミノムシ
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
天空島とは比べものにならないほど濃い魔素の中を、俺、バルトは肩で息をしながら必死で走っている。
なんなんだコイツら、女子供じゃないのかよ。
絶え間なく襲いかかる魔物を、鼻歌混じりに葬っていやがる。俺はその後ろを、置いていかれないように死に物狂いでついて行っている。
俺が連れてこられたのは、魔大陸にある魔境の一つらしい。
魔境とは、魔素の濃度が高い場所の事だと教えられた。そして、魔素が濃いというのは、そこには魔物が多く生息している事なんだとか。
天空島にいるような魔物を想像していたけど――「なんだその程度、ちょっと頑張れば平気だ」なんて思っていたあの時の自分を怒鳴りつけてやりたい。
こう言っておくべきだったのだ。
「魔境になんて、行っちゃダメだ!」と……
「キシャァーー!!」
「ヒッ!」
疲労困憊で足を引きずるように歩いてた俺目掛け、木の上から冗談みたいな大きさの蛇の魔物が飛びかかってくる。
蛇の魔物が大きな口を開けて襲いかかるのを、逃げる事も出来ない俺は目を瞑り、ただ悲鳴を上げてしゃがみ込んだ……
アレ? 襲ってこない?
助かったのか?
俺が怖々と目を開けると、視界に映ったのは――巨大な狼だった。
「グルルゥ」
「……」
バタンッ!
「あっ! おーい! バルトが気絶したぞー!」
「フェリルやめなさい。そんなの美味しくないわよ」
薄れゆく意識の中で、周りがそんな事を言っていた気がした。
◆
「はっ! ど、どうなった!」
俺は身体を起こして怪我がないか確認する。その時、嫌な野郎の声が聞こえた。
「おぅ、やっと起きたかボロ雑巾」
「誰がボロ雑巾だ!」
そう、こいつはバルカン叔父さんの馬鹿息子バートだ。
俺と同い年のはずだが、憎らしい事にコイツは俺よりもはるかに強い。思いっきり手加減されてボコボコにされたからな。それは認めたくないが、事実だ。
だけど、俺が奴よりも劣っているなんて、そんな事許せるか!
俺がバートと睨み合っていると、鈴の音のように可憐な声が割って入ってきた。
「ちょっと! 魔境の中で喧嘩しないでよ!」
「チッ、ベールクトは関係ないだろ!」
「あ、あ、ベールクトさん」
バートは勢いよく言い返したが、俺はその子を見てドギマギしてしまう。
女の子の名はベールクトさん。
顔は小さく、体型はスレンダー。それでも女性らしく出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。何より白く輝くような翼が美しい。汚い茶色の馬鹿バートの翼とは大違いだ。
ベールクトさんが俺に優しく声をかけてくれる。
「大丈夫バルト君? 歩ける?」
「はっ、はい、大丈夫です!」
「ベールクト、こんな奴、気にかける事ないぞ」
「こんな奴とはなんだ!」
俺とバートが再び睨み合うと――どこか見覚えのある巨大な狼が突っ込んでくる。
「ガァウゥ!!」
「「ヒッ!」」
ベールクトさんが喧嘩しそうになった俺達を叱りつける。
「ほら、フェリルちゃんが怒る前にやめときな」
続いて人族の女、確かアカネとかいった奴がやって来た。
「フェリル、行くわよ」
「ウォン」
巨大な狼の魔物は、あの女の従魔だったらしい。人族ってのは女でもあんなバケモノを従えているものなのか……
それはさておき、なぜ俺がこんな目に遭っているのか。
親父があのイルマとかいうガキに、あろう事か、誇りある有翼人族である俺達の訓練を頼み込んだからだ。
その結果、こんなところに連れてこられちまった。
天空島の洞窟を勝手に魔法で弄り始めたアイツは、ゲートとかいうヘンテコな魔導具の部屋を作った。さっそくそれを使って、奴が魔大陸で拠点としている場所に俺達は連れてこられたわけで……
いや、意味が分からねぇ。
ゲートってなんなんだよ! ここどこだよ! 魔大陸ってなんだよ! 俺はさっきまで天空島にいたんじゃないのかよ! 天空島の外はみんなこんななのかよ!
俺は、あまりの急展開に精神が崩壊寸前だった。
まあ、ショックな事は他にもあった。
魔大陸の拠点で、二百年前に別れたという同胞達と再会したんだが、女子供や年寄りは別にして、全員が俺達天空島組よりもずっと強かったんだ。
さらにショックだったのは、俺がボロボロに負けたあのバートの野郎が、その中でも一番弱いと知った事だ。
僕が提供した大量の食材を、マリア、マーニ、有翼人族の女性達が協力して調理していく。
もちろん、僕、ソフィア、ルルちゃんも解体は出来るのでお手伝いをする。
不思議なんだけど、ソフィアは料理は絶望的なのに解体だけは上手いんだよね。料理と魔物の解体は別ものなんだろうね。
「うわぁー! ママ! お肉がいっぱいだよー!」
「本当ね、よかったわね」
有翼人族の小さな子供が、どんどん運ばれてくる料理を見て目を輝かせる。
調理器具も僕が魔導具のコンロとかを提供しているというのもあって、次々と手早く料理が出来上がっていった。
「魔物が溢れて二百年、狩りが難しくなった事で、十分な食料の確保が出来なくなりました……子供達にはひもじい思いをさせぬよう頑張ってはいたのですが……」
バルザックさんは料理を目の前にして申し訳なさそうにしていた。
孤島の有翼人族達もそうだったけど、メインの武器が軽い弓矢しかない彼らは、魔物に対抗出来る手段を持っていなかった。鏃の素材に魔鋼でも使えれば話は変わってくるだろうけど、彼らの中にはそんな高度な鍛冶の技術を持つ者はいない。
バルカンさんがバルザックさんに向かって言う。
「バルザック兄さん、狩りなら儂達に任せてくれ」
「そうだ、伯父さん。俺達に任せてくれよ。俺達の武器ならこの辺りの魔物なんてヘッチャラだぜ!」
バルカンさんに息子のバート君が続いた。
それからバート君はバルト君をチラッと見ると、挑発するように胸を叩く。バルト君は悔しげな顔をしてバート君を睨んでいた。
はぁ、なんで仲よく出来ないのかな……
「同族嫌悪よ」
「そうなんだ」
僕の思考を読んだアカネの言葉に、僕は頷く。しかし、バート君とバルト君は双子かと思うくらいよく似てるな。
それはともかく、この天空島には察知した気配の印象だと手強い魔物はいないと思う。
天空島の森の魔素は少し濃いけど魔境ほどじゃないから、魔境で鍛えた有翼人族であれば問題ないだろう。
僕がそう考えていると、ふいに大声が上がった。
「親父! 俺も狩りに行くぞ!」
バルト君である。
「……いや、バルトお前、ついこの前、魔物に怪我を負わされたばかりだろう」
「うっ! 今度は大丈夫だ! そいつが狩りに行くなら、俺だって魔物を狩れるさ!」
心配するバルザックさんをよそに、バルト君はやる気になっている。
もともとこの天空島には野生動物が多く生息しており、そこに住む者は狩りをして生活を営んできた。古代文明時代の住民も有翼人族達も狩りをしてきたが――森が広がり魔物が溢れ出してからは、それもままならなくなってしまった。
「二百年前までは豊かな森の恵みのおかげで、儂ら有翼人族の生活は貧しくも安定したものだったというのにな……」
バルザックさんが懐かしむように口にする。
それなら森の魔物を間引き、ダンジョンコアの制御を取り戻せば、天空島は彼らにとって再び暮らしやすい地に戻るだろう。正常化したダンジョンコアにより、魔素の濃度も落ち着くはずだ。
カエデが、参加表明したバルト君に向かって言う。
「うーん、そっちのお兄ちゃんは危ないよ」
「そうだニャ、ミノムシはギリOKニャ」
「なっ! おまっ!?」
カエデに続いてルルちゃんにダメ出しされたバルト君が言い返そうとした時――彼は初めてカエデがいるのに気がついた。
「おまっ、おまっ……」
カエデは有翼人族が怖がらないように、気配を消して認識阻害の外套まで被り、隠密スキルを使用していた。カエデに気がついていたのは、僕達パーティメンバーくらいだっただろう。
アラクネというS級の魔物を目にしたバルト君は気絶しそうになっている。一方、バート君は情けない顔をし、カエデに向かって手を合わせて震えていた。
「カエデさん、ミノムシはやめてください。お願いしますから……」
初めてカエデに会った時、糸でグルグル巻きにされたうえ吊り下げられたバート君は、カエデがトラウマになっているらしい。
「まあ、狩りの事はまたあとで考えるとして、今は食事を楽しみましょうよ」
僕がそう言うと、バルザックさんは顔を青くしながらも、なんとか冷静になろうとして頷いてくれる。
「あ、ああ、そうですな」
「兄さん、カエデ殿はイルマ殿の従魔だから安心していいぞ」
「そ、そうなのか? あ、ああ、分かった」
バルカンさんに言われ、バルザックさんもようやく落ち着けたようだ。
有翼人族の女性や子供達はカエデにもすぐに慣れたのか、一緒になって食事を楽しみ始めた。ベールクト達が一緒だったのがよかったのかもしれないな。
その日僕がワインを提供し、宴は大いに盛り上がり、夜中まで続いたのだった。
◇
翌朝、狩りと魔物の調査を兼ねて、僕達は森に足を踏み入れた。といっても、食料は僕のアイテムボックスにまだまだあるから、調査の意味合いが強い。
森の中を進みながら、僕はバルザックさんに尋ねる。
「遺跡の中心に、この島を浮かせているダンジョンコアがあるんですよね」
「はい。しかし儂ら有翼人族といえど、行った事があるのは遺跡中心部まで。そこから先に進み、ダンジョンコアを確認出来た者はおりません」
僕達のパーティは、案内してくれるバルザックさんを囲むようにして進行していった。
ちなみに、有翼人族達は森の上空を飛ぶ事はないらしい。空には、ワイバーンやグリフィンといった強力な魔物がいるわけではないが、好戦的な猛禽類系が出るので危険なんだとか。
「ハッ!」
ベールクトの繰り出した槍が、猿の魔物の喉を貫く。続けてバート君が放った矢が、猿の魔物の眉間に突き刺さった。
バルザックさんが驚きつつ尋ねる。
「……バルカン……お前の息子とあの少女はなんなんだ。どうして魔物に普通の矢が通じる? 少女の槍はいったい?」
実際、バート君もベールクトも戦士として見違えるほどレベルアップした。特にベールクトは、魔大陸で僕らが鍛えた有翼人族の中で一番の戦士になっている。
バルカンさんがバルザックさんに注意する。
「兄さん、大きな声で話さないで。魔物が寄ってくるぞ」
「あっ、ああ、すまない」
「でも、兄さんが驚くのも仕方ない。イルマ殿が私達を戦えるようにしてくださったんだ」
それからバルカンさんは、僕らが魔大陸で行ったパワーレベリングの話をした。バルザックさんが頷きながら呟く。
「……なるほど、魔境ですか。強力な魔物が跳梁跋扈する地とは……想像出来ませんな」
「魔素が濃く、瘴気に汚染された魔境には、強力な魔物が多いんですよ」
僕がそう言うと、バルカンさんが続く。
「そういった魔物をイルマ殿達の助けを借りて斃し、レベル上げをしたのだ。バルザック兄さん達もやってもらえば、この森の魔物くらいなら狩りが出来るようになるぞ」
「おっ、おう、そ、そうか」
バルザックさんは話を聞きながら、頬を引きつらせていた。
そこへ、斥候に出ていたソフィアとカエデが戻ってくる。二人は森で目にしたという魔物の種類を教えてくれた。
「タクミ様、いるのは野生動物がほとんどですね。発見出来た魔物の種類としては、猿系、狼系、虎系、あとは蛇や蜥蜴です。ゴブリンやコボルトがいないのは幸いでしたね」
「ああ、アイツらは際限なく増えるからな」
「マスター、虫さんも少ないみたい」
「カエデもありがとうな」
「えへへぇーー」
この森は魔素が濃くないだけあって、魔物よりも野生動物の方が多いみたいだ。
ソフィアが報告してくれたように、ゴブリンやコボルトがいないのはラッキーだったな。アレは放っておくと爆発的に増えるから。あいつらのせいで土地がさらに侵され、魔境が拡大してしまうっていうのはよくあるんだ。
「魔物を間引いてダンジョンコアの制御を取り戻したら、開墾して農業も出来るようになるかもしれませんね」
「おお、本当なら嬉しいですな。狩りで獲れる動物や魔物を頼りにする生活は、どうしても不安定ですからな」
僕が言った事に、バルザックさんは喜んでいた。実際、狩猟生活って大変だろうしね。
僕はソフィアに声をかける。
「魔物の傾向も分かった事だし、この辺でいったん戻ろうか」
「そうですね。バルザック殿もお疲れのようですし、それがいいと思います」
僕達はまだまだ大丈夫だけど、バルザックさん達にはこれ以上無理はさせない方がよさそうだ。
調査結果として分かったのは、脅威となる魔物はいない、魔物の数は標準的な魔境に及ぶべくもない、という事。
野生動物の熊や狼に対抗出来るなら、問題なさそうかな。
別行動していたレーヴァによると、薬草の類はほとんど見つけられなかったらしい。薬草は魔素がある程度濃い場所に生えるので、この森で一定量確保するのは難しいみたいだ。
明日こそ遺跡の中心に向かおうと決め、僕達は適当に狩りをしながら洞窟へ帰った。
4 探索準備の準備
僕達の視線の先に、子鹿のように足を震わせてなんとか立っている、ボロボロの青年がいる。
「なっ、なんで勝てねぇんだ……」
バルザックさんの息子、バルト君だ。
そのバルト君を一方的にボコボコにしたのが、バート君。
どうしてこうなったのかというと、きっかけはベールクトだった。
ベールクトに一目惚れしたバルト君は、積極的にモーションをかけていた。ベールクトは、バルト君が天空島の有翼人族集落の族長の息子だからというのもあり、適当にあしらっていたが……
キレたのがバート君だった。
三人で次のような言い争いがあったという。
「ベールクトは俺と一緒になるんだ! ちょっかい出すな、この野郎!」
「……いや、一緒にならないよ」
バート君がバルト君に怒りをぶつけたところ、ツッコミを入れたのはベールクトである。そんな彼女に構う事なく、バルト君は言い返す。
「なんだと! ベールクトさんには俺が相応しい! お前なんかと一緒にさせるか!」
「……いや、お前も嫌だからな」
「テメェ! 身のほどを知らせてやる!」
「おぅ! 望むところだ! 叩き潰してやる!」
「……コイツら聞きゃしねぇ」
バート君とバルト君の口喧嘩はやがて本気の殴り合いとなり――当然ながら僕達によるパワーレベリングを経験したバート君に軍配が上がる。
そういえば、バート君ってベールクトからソフィアに乗り換えたんじゃなかったっけ……
それはさておき、バルザックさんが謝ってくる。
「イルマ殿、愚息が申し訳ない。これも儂の不徳のいたすところ。あとで責任持ってしっかりと言い聞かせておきます」
「いえ、気にしなくて大丈夫ですよ。バルト君と喧嘩しても、レベル差がありすぎてバート君が怪我する事もないでしょうし」
すると、バルザックさんが意外な事をお願いしてきた。
「その事なのですが、儂らもバルカン達のように鍛えていただけないでしょうか?」
急にどうしたのかなと思ったけど、バルザックさんも危機感を覚えているみたいだ。天空島には強力な魔物がいないとはいえ、熊や狼でも彼らには強敵だし。
「……そうですね。バルザックさん達の地力が上がるのは、これから天空島で暮らすのにもプラスですからね。分かりました。準備が必要なのですぐにというのは無理ですが、遺跡の探索と並行して訓練しましょう」
「ありがとうございます、イルマ殿。今では狩りをするのも命懸けですからな。特に若い者が犠牲になるのがやりきれません」
「この際、皆さんの装備も含めて面倒を見ますよ。考えている事もあるので、数日待ってください」
バルカンさん達には特製の装備を作ってあげたから、バルザックさん達にあげないのは不公平だよね。
僕とバルザックさんが話していると、それを聞いていたソフィアが声をかけてくる。
「タクミ様、パワーレベリングをするという事は、魔大陸とここを繋ぐのですか?」
「うん。またソフィア達にも協力してもらわないとダメだけど、お願いね」
魔大陸の拠点には、孤島の有翼人族達を残したままだ。彼らを移動させる必要があったから、どっちみち天空島にゲートを設置する予定だったんだよね。
ベールクトが僕のところに駆けてきて言う。
「タクミ様、同胞を鍛えるの、私にも手伝わせてよ」
「別にそれは構わないけど、喧嘩はダメだよ」
「大丈夫だよ。私は弱い者イジメはしないから」
ちなみにバルザックさん達のパワーレベリングは、ソフィアとマリアに任せるつもりだ。僕とレーヴァとアカネは、彼らの装備製作で手一杯になるだろうからね。
遺跡の探索と並行して進める予定だったけど、しばらくバルザックさん達の強化にかかりっきりになりそうだな。
別に僕達だけならすぐにでも行けるだろうけど、バルカンさんやバルザックさん達が同行するなら、しっかりと準備してからじゃないと。
僕はふと思いついて、ベールクトに尋ねる。
「と、それでバート君は大丈夫なの?」
「ああ、アイツは私がシメといた」
「あ、ああ、そう……」
ベールクトが向けた視線の先には、バルト君以上にボロボロになったバート君が転がっていた。そんなバート君を、カエデとルルちゃんが集落の子供達と一緒になって木の枝でつついている。
「ツン、ツン」
「ツン、ツンニャ」
「キャハハハハッー、ツン、ツン」
うん、見なかった事にしよう。
◇
「……さて、ゲートを設置する部屋を作るね」
山の中腹の洞窟に戻った僕は、ゲート設置場所の選定をする事にした。その前に、洞窟に手を加えなきゃダメかな。
「まずは洞窟の壁面と天井を強化しよう」
「崩落防止ですね」
「うん、かなり硬い岩盤みたいだけど、念には念を入れてね」
洞窟の拡張とゲートの設置をするため、洞窟の入り口から壁面の硬化を施していく。崩れる恐れのある場所は、形状を変えてから硬化していった。
この山は火山じゃないし、天空島には地震がないらしいので、ガチガチに強化しなくても崩落の心配はないだろう。
「ついでだから煙突代わりの穴を開けて、換気の魔導具も設置しておこうか」
「そうですね。有翼人族達は時折、風属性魔法を使って換気していたそうですが」
「洞窟の中にキッチンがあると大変だもんね」
ちなみにバルカンさん達は今後、バルザックさん達と一緒にこの洞窟群で暮らすそうだ。確かに森で暮らすよりは断然安全だからね。だけど、森の安全が確保出来るようになったら、古代遺跡を復興して住むのも面白いと思うんだけどな。
それはさておきこの際だから、今ある洞窟の拡張もやってあげる事にした。新たに倍の数の洞窟を掘った。
それに加えて魔大陸の拠点と繋ぎ、有翼人族にはそっちの管理も頼む。
魔大陸の拠点はバルカンさん達にとっても、魔物を狩って食料にするためとレベル上げに便利だと思うんだよね。
5 ボロゾウキンとミノムシ
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
天空島とは比べものにならないほど濃い魔素の中を、俺、バルトは肩で息をしながら必死で走っている。
なんなんだコイツら、女子供じゃないのかよ。
絶え間なく襲いかかる魔物を、鼻歌混じりに葬っていやがる。俺はその後ろを、置いていかれないように死に物狂いでついて行っている。
俺が連れてこられたのは、魔大陸にある魔境の一つらしい。
魔境とは、魔素の濃度が高い場所の事だと教えられた。そして、魔素が濃いというのは、そこには魔物が多く生息している事なんだとか。
天空島にいるような魔物を想像していたけど――「なんだその程度、ちょっと頑張れば平気だ」なんて思っていたあの時の自分を怒鳴りつけてやりたい。
こう言っておくべきだったのだ。
「魔境になんて、行っちゃダメだ!」と……
「キシャァーー!!」
「ヒッ!」
疲労困憊で足を引きずるように歩いてた俺目掛け、木の上から冗談みたいな大きさの蛇の魔物が飛びかかってくる。
蛇の魔物が大きな口を開けて襲いかかるのを、逃げる事も出来ない俺は目を瞑り、ただ悲鳴を上げてしゃがみ込んだ……
アレ? 襲ってこない?
助かったのか?
俺が怖々と目を開けると、視界に映ったのは――巨大な狼だった。
「グルルゥ」
「……」
バタンッ!
「あっ! おーい! バルトが気絶したぞー!」
「フェリルやめなさい。そんなの美味しくないわよ」
薄れゆく意識の中で、周りがそんな事を言っていた気がした。
◆
「はっ! ど、どうなった!」
俺は身体を起こして怪我がないか確認する。その時、嫌な野郎の声が聞こえた。
「おぅ、やっと起きたかボロ雑巾」
「誰がボロ雑巾だ!」
そう、こいつはバルカン叔父さんの馬鹿息子バートだ。
俺と同い年のはずだが、憎らしい事にコイツは俺よりもはるかに強い。思いっきり手加減されてボコボコにされたからな。それは認めたくないが、事実だ。
だけど、俺が奴よりも劣っているなんて、そんな事許せるか!
俺がバートと睨み合っていると、鈴の音のように可憐な声が割って入ってきた。
「ちょっと! 魔境の中で喧嘩しないでよ!」
「チッ、ベールクトは関係ないだろ!」
「あ、あ、ベールクトさん」
バートは勢いよく言い返したが、俺はその子を見てドギマギしてしまう。
女の子の名はベールクトさん。
顔は小さく、体型はスレンダー。それでも女性らしく出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。何より白く輝くような翼が美しい。汚い茶色の馬鹿バートの翼とは大違いだ。
ベールクトさんが俺に優しく声をかけてくれる。
「大丈夫バルト君? 歩ける?」
「はっ、はい、大丈夫です!」
「ベールクト、こんな奴、気にかける事ないぞ」
「こんな奴とはなんだ!」
俺とバートが再び睨み合うと――どこか見覚えのある巨大な狼が突っ込んでくる。
「ガァウゥ!!」
「「ヒッ!」」
ベールクトさんが喧嘩しそうになった俺達を叱りつける。
「ほら、フェリルちゃんが怒る前にやめときな」
続いて人族の女、確かアカネとかいった奴がやって来た。
「フェリル、行くわよ」
「ウォン」
巨大な狼の魔物は、あの女の従魔だったらしい。人族ってのは女でもあんなバケモノを従えているものなのか……
それはさておき、なぜ俺がこんな目に遭っているのか。
親父があのイルマとかいうガキに、あろう事か、誇りある有翼人族である俺達の訓練を頼み込んだからだ。
その結果、こんなところに連れてこられちまった。
天空島の洞窟を勝手に魔法で弄り始めたアイツは、ゲートとかいうヘンテコな魔導具の部屋を作った。さっそくそれを使って、奴が魔大陸で拠点としている場所に俺達は連れてこられたわけで……
いや、意味が分からねぇ。
ゲートってなんなんだよ! ここどこだよ! 魔大陸ってなんだよ! 俺はさっきまで天空島にいたんじゃないのかよ! 天空島の外はみんなこんななのかよ!
俺は、あまりの急展開に精神が崩壊寸前だった。
まあ、ショックな事は他にもあった。
魔大陸の拠点で、二百年前に別れたという同胞達と再会したんだが、女子供や年寄りは別にして、全員が俺達天空島組よりもずっと強かったんだ。
さらにショックだったのは、俺がボロボロに負けたあのバートの野郎が、その中でも一番弱いと知った事だ。
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