いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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11巻

11-1

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 1 オモチャを作ろう


 僕、タクミの奥さんである、エルフのソフィア、人族のメイドのマリア、兎人族うさぎじんぞくのマーニ、それぞれのお腹が膨らんできたような気がする今日この頃。我が家にいるのに、どういうわけかリビングでくつろげない僕は、我が家の中で工房が唯一気の休まる場所になってしまっていた。
 その原因は勿論もちろん――我が家のリビングで頻繁ひんぱんもよおされる、エリザベス様、フリージアさん、ルーミア様三人によるお茶会のせい。
 エリザベス様は僕の家で書類仕事を任せている文官シャルロットのお母さんで、ボルド男爵家の当主。フリージアさんはソフィアのお母さんで、騎士爵とはいえ一応貴族家の当主の夫人。ルーミア様は言わずもがな、ユグル王国の王妃だ。
 せめてお隣のミーミル様の家ですればいいのに、どうして僕の家なんだよ。
 特にルーミア様。お願いだから、娘のミーミル様の家でお茶会をしてください。心労で僕の胃がもちません。

「タクミ様も大変でありますね」
「母上が申し訳ありません」

 レーヴァがなぐさめてくれ、続いてソフィアが謝ってきた。
 言うまでもなくソフィアが悪いわけじゃない。フリージアさんだって、生まれてくる孫が楽しみなだけで悪気わるぎがないのは分かっている。ただ、少し行動が極端なだけだ。
 いずれにしてもリビングがそんな三人に占領されているので、僕は工房にいる事が多い。そうなるとソフィアやマリア、マーニが工房で過ごす事も多くなるわけで……
 それで妊婦に殺風景さっぷうけいな工房は良くないと、テーブルやソファーを置いたんだよね。工房は広くてスペースに余裕があるし。

「今、フリージアさんやエリザベス様達が何してるか知ってます?」
「えっ? リビングでお茶を飲んでいるんじゃないの」

 マリアがニヤニヤして聞いてくるが、何故なぜか分からない。我が家のリビングでお茶会をしていたはずだけど。

「フフッ、お茶会はお茶会ですけど、ものしながらですよ」
「あ、編み物って……まさか」
「私達の赤ちゃんのために、靴下くつしたを編んでくれているそうです」
「なっ!?」

 手先の器用きようなマリアやマーニが自分達の赤ちゃんのために、帽子ぼうしや靴下を編むのは分かる。けれど、何故にフリージアさん達が?

「申し訳ありません」
「いや、ソフィアが悪いわけじゃないし、ありがたい話だから……多分たぶん

 どうやら、次のような経緯があったらしい。
 編み物が苦手なソフィアを見かねたフリージアさんが、ソフィアの代わりに赤ちゃんの帽子や靴下を嬉々ききとして編んでいた。それを見てうらやんだのが、エリザベス様とルーミア様。赤ちゃんが三人も生まれるのだから私達も協力しないとね……と訳が分からない理屈だ。

「もう、何が起きても気にしないスタンスじゃないと、タクミ様が疲れますよ」
「うん、出来るだけそうするよ」

 マーニになぐさめられ、あの三人の事は一旦いったん考えない事にする。
 ちなみに、マーニはいつも獣人族らしい肌の露出が多い服を好んでいたんだけど、妊婦なので流石さすがに大人しい服装に落ち着いている。


 ソフィア達が工房のソファーでお茶を飲んでいるのを意識の外に追いやり、僕は作業用のテーブルに着く。
 さて、赤ちゃん用品を色々と作ったんだけど、まだまだ作りたい意欲はおとろえない。
 かごに始まり、ベビーベッドやベビーカー、紙おむつにお尻拭しりふきと作ってきた。
 そして僕が次に手掛けるのは、赤ちゃん用のオモチャだ。
 知育玩具ちいくがんぐというのを聞いた事がある。遊びながら子供の頭脳の成長を助けるのか……まあ、よくは分からないけど、日本でも色んなオモチャがあったのはおぼえている。
 当然、生まれたての新生児が遊べるオモチャなんてあんまりないと思うんだけど、確かベビーベッドに取り付けるメリーとかいうのがあった気がする。オルゴールの音を鳴らしながらクルクルと回って、赤ちゃんをあやすオモチャだ。
 早速さっそく、メリーの基礎部分をささっと作り、ゾウ、キリン、ウサギ、小鳥を可愛くデフォルメしたかざりを付けていく。
 回転部分には、低速でゆっくりと回るように術式じゅつしきを描き込んだ魔導具まどうぐを設置。さらに、回転を利用してオルゴールのつめを弾いてメロディーが鳴るようにする。
 ぶら下げる飾りの種類や色を変え、同じようなメリーを合計三人分作った。
 ソファーに座るマリアとマーニの会話が聞こえてくる。

「タクミ様がまた何か作り始めましたね」
「タクミ様は、物を作る事が仕事ですからね」
「でも流石に私達の妊娠が分かってからのタクミ様は、何かタガが外れた気がします」
「フフッ、良いじゃないですか。赤ちゃんのための物ばかりなのですから」

 マリアが言う通り、自分でも少しタガが外れている気はしないでもない。だけど男親に出来る事って少ないからね。だからだと思う。
 さて、次はでも作ろうかな。
 積み木は、木を四角や三角、丸や円柱にすれば良いだけなので、作るのはあっという間だ。
 おお、そうだ。赤ちゃんがかじったり出来るのを作ろう。歯がえそうな時期は色んな物を齧りたくなるって聞いた事がある。
 形や硬さを色々変えて、尚且なおかつ危険のない素材と形で作る。
 あっ、ガラガラも作ろうかな。
 起き上がり小法師こぼしは古いか。
 そんなこんなで、僕は前世で見た事のある赤ちゃん用のオモチャを、かたぱしから作っていった。
 あとでソフィア達から少し自重じちょうしてくださいと言われるも、後悔はしていない。ただ、パペックさんにはバレないようにしよう。



 2 穏やかな一日


 エリザベス様やフリージアさんが僕の屋敷にいるのが普通にさえ思えてきた今日この頃、僕は庭のテーブルでお茶を飲んでいた。
 因みにルーミア様はミーミル様の屋敷で暮らしているはずなんだが、ほぼ毎日我が家に来て女子会を開いている……ユグル王国に帰らなくて大丈夫なんだろうか?
 それはさておき、ソフィア、マリア、マーニのお腹がさらにふっくらとしてきた。
 ソフィアは運動するのを制限されてストレスを溜めているかなと思ったけど、フリージアさんに振り回されているのが逆に良いストレス発散になっているのか、イライラしている様子はない。
 マリアからは、お母さんになるのが純粋に嬉しいというのが伝わってくる。得意の裁縫さいほうや編み物で赤ちゃん用品をせっせと作っている。
 マーニは三人の中で一番悪阻つわりが軽かったせいか、赤ちゃんが生まれるまでのこの期間を楽しんでいる感じだ。悪阻が軽いのは獣人族の種族特性らしい。
 庭でお茶を飲んでいる僕の視界の先、少し離れたテーブルで同じようにお茶を飲むのは、いつものごとく三人の貴婦人方。
 何故か、それぞれのひざの上にケットシーのララ、猫人族ねこじんぞくのサラ、人族のシロナの幼女三人組を乗せていた。

「ほら、ララちゃん、お口が汚れていますよ」
「このケーキ美味おいしいニャ~!」
「サラちゃん、こっちのケーキも美味しいわよ」
「ニャ~! ケーキがいっぱいニャ~!」
「シロナちゃん、ジュースもあるわよ」
「ありがとう、ルーミアさま」

 幼女三人組を見たエリザベス様、フリージアさん、ルーミア様の三人は、瞬時にその心を鷲掴わしづかみにされたみたい。
 まだおさなく仕事の割り当ての少ないララ、サラ、シロナの三人は、もともとちょくちょく僕の屋敷に遊びに来ていた。そこで、貴婦人方に見つかってしまったようだ。
 ユグル王国の王宮では、王女のミーミル様以降何年も子供が生まれていない。そんな事情があって久し振りの子供に浮足立つルーミア様は勿論の事、エリザベス様もシャルロットを育て上げてから小さな子供と触れ合う機会はなかった。フリージアさんも、ソフィアの弟のダーフィが小さかったのはもう何十年も前の話だ。
 貴婦人方はララ達をあやす事で、生まれてくる赤ちゃんのお世話の予行演習をしているのだろうか。
 そんな事を思いつつ視線を移すと、ケットシー姉妹のお姉ちゃんであるミリ、人族姉妹の姉のコレット、エルフ姉妹のメラニーとマロリーが、ソフィア達のお腹を触らせてもらっていた。
 因みに、猫人族兄妹の兄であるワッパは男友達と遊びに行っているらしい。男の子と女の子は、だんだんと別々に集まって遊ぶようになるものなんだね。僕の子供の頃を思い出してもそうだった。女の子の中に交ざるのは照れくさくなってくるからね。

「ソフィアさんの赤ちゃん楽しみ。生まれたら抱かせてね」
「私も! 私も!」
「ええ、生まれたら仲良くしてね」

 エルフの姉妹、メラニーとマロリーがソフィアのお腹をでて嬉しそうだ。
 メラニーとマロリーは、ユグル王国にいた時には小さな子供と触れ合う機会がなかったらしく、同族の赤ちゃんが生まれてくるのをとても楽しみにしてくれている。

「マリアさん、マーニさん! 私も生まれたら抱かせてね!」

 コレットも女の子だからか赤ちゃんには興味津々きょうみしんしんで、マリアやマーニのお腹を触らせてもらっていた。
 人族や獣人族は繁殖力が高いので、何処どこの国でも子供の姿は珍しくない。とはいえ、極貧の生活環境で育ったコレットやワッパは、えや寒さでくなっていく小さな子供をたくさん見てきた。
 だからこそ、飢える事なく、雨風にさらされる事もなく、清潔な環境で大人にまもられる暮らしの中で、新しい生命の誕生を心から歓迎し喜ぶ事が出来る、そうした状況が何より嬉しいみたいだった。
 そんな光景を眺めながらのんびりしていると、ボード村から聖域に移住してきたバンガさんとマーサさんが訪ねてきた。

「おうタクミ、ウサギのお裾分すそわけだ」
「卵も持ってきたわ、タクミちゃん。ソフィアちゃん達にせいを付けてもらわないとね」
「ありがとうございます。バンガさん、マーサさんもお茶を飲んでいってください」

 バンガさんが両手にウサギを四羽ぶら下げ、マーサさんは籠に卵をいっぱい持ってきてくれた。
 バンガさんは、移住してからも以前と同じように狩りをしていた。マーサさんには僕からお願いして、にわとりに似た鳥を飼育してもらい、卵の生産をしてもらっている。
 持ってきてくれた物をメイド達が受け取ると、僕は二人と一緒にお茶を飲む。

「しかしタクミちゃんがお父さんとはね~。自分の孫が生まれるような気分だわ」
「なに、俺達の孫も同然だぜ。何せ俺達はタクミの親みたいなもんだからな」
「ハハッ、そうかもしれませんね」

 実際、初めてこの世界に降り立ち、右も左も分からない僕を、無条件に優しく受け入れてくれたバンガさんとマーサさんは、本当に親のように感じている。
 このお二人がいなかったらと思うとゾッとする。
 悪意を向けられる事も多いけど、それを含めても良い人達との出会いに恵まれているとつくづく思うよ。



 3 初めての子


 時が経つのは早いもので、ソフィア、マリア、マーニのお腹はさらにさらに大きくなり、シルフ、ウィンディーネ、ドリュアス、セレネーら大精霊達が僕の屋敷にいる事が多くなった。
 それは、三人の予定日が近づいてきた事を示している。
 結局、フリージアさんはユグル王国に一度も戻る事なく、仕方ないので旦那だんなさんのダンテさんに手紙を書くようにお願いした。
 勿論、僕もソフィアも、ダンテさんに事情を説明する手紙を書いた。
 ダンテさんからは、「迷惑をかけるが、フリージアの気の済むようにさせてほしい」と返事が来た。フリージアさんの尻に敷かれているように思えるが、ダンテさんの包容力があってこそだな……そう思いたい。
 なお、エリザベス様も王都に戻る気配を見せない。
 エリザベス様の父親であるパッカード子爵が迎えに来た事もあったが、それでもエリザベス様は帰らなかった。バーキラ王国の貴族なのに良いのだろうか?
 そして、ルーミア様。
 流石にユグル王国の王妃なので、聖域で暮らすのは無理だと思うのだけど……二度ほど帰っただけで、直ぐに戻ってきている。
 ルーミア様専属の侍女も増え、「隠居いんきょして聖域でミーミル様と住む」と言い出しユグル王を困らせているようだ。
 そのルーミア様、ケットシーの姉妹ミリとララをよほど気に入ったらしく、膝の上に乗せ頻繁にモフッているのを目にする。


 ◇


 そうした何でもない日常を過ごしていたある日、とうとうその時はやって来た。
 ソフィアの陣痛が始まったんだ。

「ちょっと! 廊下をうろうろくまみたいに歩かないでよ!」
「そうですニャ。タクミ様、落ち着いてニャ」
「あ、ああ、ごめん」

 ソフィアがいる部屋の前で落ち着きなくウロウロしていると、僕と同じ日本出身のアカネとその従者の女の子ルルちゃんにしかられる。
 部屋の中には、ソフィアは勿論だけど、産婆さんばさんの技術を持つメイドのメリーベルと助手にマーベル、それとシルフ、ウィンディーネ、ドリュアス、セレネーの大精霊達がもしもの事がないようにと見守っている。
 実際、僕に出来る事は少なく、回復魔法くらいなら力になれるんだけど、セレネーがいるからね。
 気持ちを落ち着けようと、廊下に置かれた椅子に座る。


 カタカタカタカタカタカタ……


「タクミ様、貧乏びんぼうゆすりがウザいであります」
「あっ、ご、ごめん」

 自分でも気付かないうちに、貧乏ゆすりしていたみたいだ。レーヴァに注意された。

「父親になるんだから、もっとドッシリと構えていれば良いのよ」
「はぁ、フリージアさんは落ち着いてますね。心配じゃないんですか?」

 娘の初めての出産だし、初孫だから少しは僕の気持ちが分かると思っていたフリージアさんは、何故か平常運転だった。

「それはね、シルフ様達がいるからよ。大精霊様に見守られた出産だもの。無事に生まれてくるに決まってるわよ」
「そういうものですか?」
「そういうものよ。私達エルフにとって大精霊様達は絶対的な信仰の対象。そんな方々がいるんだから大丈夫よ」

 改めてエルフにとって大精霊という存在は大きいんだと思った。その存在だけで娘の出産を安心して待てるなんて……普段のシルフやドリュアスを見ている僕には無理だな。
 その後、フリージアさんから初産ういざんは時間がかかるからお茶でも飲まないかとリビングに誘われたけど、僕は部屋の前から動けなかった。
 フリージアさんはアカネとルルちゃんを連れてリビングに行っちゃった。
 レーヴァが飲み物を持ってきてくれたり、メイドが軽食を持ってきてくれたり、シャルロットが書類を持ってきたり……最後のはどうかと思うけど。
 前世を含め、僕にとって初めての経験だから落ち着かない。役に立てない自分にもどかしさを感じつつ、そんな時間が六時間続いた。
 どのくらいの時間がかかるのか、平均が分からない。
 そしてフリージアさん、アカネ、ルルちゃん、レーヴァと雑談していた時だった。


 オギャー! オギャー! オギャー!


 僕達は全員ガバッと立ち上がって部屋のドアを見る。
 ガチャ、ドアが開いてメリーベルが出てきた。


「……おめでとうございます、旦那様。元気な女のお子様です。ソフィア様もご無事です」


「おめでとうタクミ」
「おめでとうニャ」
「おめでとうであります」

 アカネ、ルルちゃん、レーヴァが祝福してくれ、僕は思わず大声を上げてしまう。

「い、や、やったぁーー!!」

 あまりに嬉しくてその場で飛び上がって喜んでしまったら、メリーベルやフリージアさんから叱られてしまった。
 けど、仕方ないよね。


 ◇


 それからしばらくして、いよいよ面会する事になった。

「念のため、浄化をしてから入室してください」
「了解」

 メリーベルから浄化魔法を使うように言われ、僕は全員にかける。

「では入室してもいいですが、くれぐれもお静かにお願いしますね」
「分かってるよ」

 そおっと部屋の中に入ると、ベッドに横たわりその手に生まれたばかりの赤ちゃんを抱くソフィアがいた。
 ソフィアとはいえ、流石に少し疲れた様子が見て取れる。でも、それ以上にその表情は柔らかく慈愛に満ちていた。

「ほら、タクミさん、抱いてあげて」
「タクミ様、抱いてあげてください」
「う、うん」

 フリージアさんとソフィアから促され、怖々こわごわ赤ちゃんを抱き上げる。
 ……小さい。
 とても頼りなく、親の庇護ひごがなければ生きられない存在。
 抱いた瞬間、護ってあげないと、と思った。
 妊娠期間から長い時間を共に過ごしてきた母親と違い、この抱き上げた瞬間に僕は、本当に父親になったんだと自覚出来た。

「ありがとう、ソフィア」
「いえ、私こそタクミ様に感謝してもしきれません」

 改めて、生まれた我が子を見る。
 女の子だからか、生まれたばかりにしては髪の毛は多い。
 その髪の毛は、僕に似て銀色に輝いていた。それでいて、多分顔立ちはソフィア似なのかな? まだ生まれたばかりだから分からないけど。

「ちゃんと耳が長いね」
「はい」

 僕が赤ちゃんの重みを噛み締めていると、フリージアさんが我慢出来なくなったのか、騒ぎ出した。

「タクミ君、もういいでしょ。次は私の番よ」
「わ、分かりましたから、かさないでください」

 そっとフリージアさんに赤ちゃんを渡すと、流石は二人の子供を育てた母親だけあって、赤ちゃんを抱く姿はさまになっていた。

「次は私ね。シルフィード家に連なる子に祝福を」
「私にも抱かせてね~。新しい家族に祝福を」
「あっ、私も私もー!」

 フリージアさんに続いて、シルフが赤ちゃんを受け取った。どうやら祝福を授けたみたいだけど、ドリュアス、ウィンディーネ、セレネーと代わる代わる赤ちゃんが渡されていって んな祝福を授けてるように見えるんだけど……
 ちょっと不安になって、ソフィアに尋ねる。

「ねえ、あれは大丈夫なの?」
「……多分、大丈夫かと。大精霊様から祝福される子供なんて、ユグル王国でもここ千年記録にないので、問題と言えば問題ですが」
「……それは大丈夫だとは言わないね」

 いつの間にか、ルーミア様まで赤ちゃんを抱いて嬉しそうにあやしている。

「フフッ、銀髪のエルフなんて珍しいですね。大精霊様達の祝福を受けた稀有けうな子。国にバレたら大変ね。だって王家の誰も祝福なんて授かってないものね」

 ルーミア様が聞き捨てならぬ事を言ったので、僕は慌てて言う。

「ルーミア様、出来れば内密にする方向で」
「あら、そんなの無理よ。精霊は自由ですもの。シルフィード家に連なる血筋の赤子が生まれたのだから、自由な風精霊がはしゃいで、直ぐに国には伝わるわ」
「えっ!」
「ああ、安心してちょうだい。何もユグル王国の国民全員に知られるわけじゃないわ。風精霊と結びつきが強い者だけよ」
「いや、全然安心出来ませんよ」

 僕がガックリと肩を落としている間も、大精霊達、フリージアさん、ルーミア様が赤ちゃんを囲んでいた。
 やがて――
 パンッ、パンッ、パンッ!

「ハイハイ、皆様方、ソフィア様もお子様もお疲れです。面会はまた明日にしてくださいませ」

 見かねたメリーベルが赤ちゃんを取り上げ、そのままベッドに寝かせた。

「そうね。私達には考えないといけない事もあるし、リビングに参りましょうか」
「そうね。色々と候補を出さないとね」
「フフッ、お姉ちゃんに任せなさい」
「よし、じゃあリビングでお菓子を食べながら会議ね」

 ルーミア様が何か決める事があると言い出し、それにシルフとドリュアスが賛同し、お菓子を食べながら会議だと言ったのはセレネーだ。
 ウィンディーネに至っては、すでに何かを考え始めているようだった。
 あっという間にぞろぞろと出ていったルーミア様と大精霊達を見送り、僕はソフィアに声をかける。

「もしかして、あれって名前を考えようとしているよね」
「間違いないと思います。母上も一緒に付いていきましたし」
「いや、初めての子供の名前くらい、僕とソフィアに付けさせてよ」
「ま、まあ、色々と候補を挙げてもらうと考えればいいのではないでしょうか」
「うーん。参考になるなら良いのか」
「そうですね。大精霊様達やルーミア様に名前を考えていただけるなんて、光栄な事だと思いましょう」

 そういえば僕は、この世界に名前を付ける時の決まりがあるのかどうかさえ知らないんだよな。ひょっとすると、種族や氏族ごとにあるのかもしれない。
 出来れば自分達で考えたいけど、ここは皆さんの知恵も借りるとしようかな。


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