いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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五話 勘違い国家の馬鹿

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ハジン視点

 あの奇妙な三人の女とは別のクラスだな。

 まあ、当然か。エルフや獣人族が、教養科な訳がない。

 同じクラスには、我がトリアリア王国のカクシュール侯爵家のベリス嬢と、ラシュール子爵家のドリス嬢がいる。トリアリア王国からの留学生を一纏めにしたようだな。

 ベリス嬢は、トリアリア王国の高位貴族の中でも名家で知られる家の長女だ。爵位も我がヘドロック伯爵家よりも高い。

 もう一人のドリスは子爵家で、爵位の上ではヘドロック家が上だが、奴の家は裕福で派閥の力も強い。癪だが、力関係ではヘドロック家は部が悪い。


 そしてバーキラ王国関係では、なんと王族が居やがる。

 クローディア・バーキラ。バーキラ王国の第三王女。まごう事なき王族だ。

 そのクローディアの側に居るのが、メルティアラ・バーティア。バーティア侯爵家次女だった筈だ。

 爵位は向こうが上だが、バーキラ王国と我がトリアリア王国が同列などあり得ない。実質、同列か俺が上の筈だ。

 あとのバーキラ王国の貴族は、名前を憶える必要もない有象無象だ。

 いや二学年上に、ランカート・バーキラがいたな。確か第三王子だったな。



 バーキラ王国と我がトリアリア王国とは戦争中である。今は滅びたシドニア神皇国と我が国の合同軍と、バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三国と未開地において戦闘が行われた。遡ること六十年程前にもユグル王国と戦闘があったらしいが、俺が生まれる前の話だ。まあ、その三国との戦争も俺の生まれる前の話なんだがな。

 その戦争で、我がトリアリア王国はユグル王国からエルフの奴隷を獲るという目的を果たせなかった。

 同時に、聖域の占領というもう一つの目的も果たせず撤退したと聞く。


 それ以来、我がトリアリア王国とバーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三国とは停戦も休戦もなされていない。

 その後、三国との戦闘も行われていないのだが、我がトリアリアも三国と戦争しているどころではなかったのだ。

 俺がまだ幼い頃、突然旧シドニア神皇国から黒い魔物が溢れた。いわゆるスタンピードというやつだ。

 そのスタンピードで、この大陸に在る国の中でも、我がトリアリアは一番大きな被害を受けた。

 ドワーフの国は、山脈に護られたいした被害は無かったし、ユグル王国は大陸の北西端で被害は無かっただろう。だがバーキラ王国やロマリア王国にほとんど被害が無かったのは納得できない。トリアリア王国よりも優れた国など存在しないのだから。


 そうだ。あのエルフと獣人族の女。俺の奴隷にしてやろう。奴らも俺の奴隷となるのだ。光栄に思うことだろう。






エトワール視点

 廊下を春香とフローラと三人で歩いていると、前からニヤニヤと気持ち悪い顔で近付いて来る男がいた。

「おい! お前!」

 偉そうに話し掛けてくるけど勿論無視する。

「おい! 俺が声を掛けてやってるのだぞ!」

 無視、無視。

「おい! お前達を俺の奴隷にしてやろうと言ってるんだ!」

 こいつ気でも狂ってるのかしら。ああ、確かパパに聞いた事があるわ。トリアリア王国は人族至上主義で、エルフや獣人族を不法に奴隷にしているって。

 あまりの馬鹿さ加減に、無視して横をすり抜けようとすると、気持ち悪い事に肩を掴もうと手を伸ばしてきた。

 ズダァーン!!

「グッ!!」

 無意識に投げちゃたじゃない。

「お、お前っ……」
「口を開けるな。うじ虫が」
「便所虫」
「ゴミ虫」

 ママが見てたら、女の子が口が悪いって怒られそうね。でも春香とフローラも汚物を見るような目で追撃の言葉を投げ掛けてるわ。



 本当、どこの子供かしら。頭が悪過ぎるわ。






ハジン視点

 教養科のオリエンテーションが終わり、今日はこれで寮に戻る。その教室から出ると廊下の向こうに、あのエルフと人族、獣人族の姉妹が歩いて来るのを見つけた。

(ククッ、丁度いい。俺の物にしてやろう。光栄に思うがいい)

「おい! お前!」

 声を掛けてやったのに視線も動かさず無視しやがった。

 カアっと頭に血が昇る。

「おい! 俺が声を掛けてやってるのだぞ!」

 亜人の分際で、貴族である俺を無視するなど、万死に値する。

「おい! お前達を俺の奴隷にしてやろうと言ってるんだ!」

 高貴な俺の奴隷にしてやると言っているのに、更に無視して通り過ぎようとしやかった。

 俺は先頭を歩くエルフの女の肩を掴もうと手を伸ばした。

 ズダァーン!!

「グッ!!」

 気が付いた時には、床に投げ付けられていた。何時投げた? どうやって? 痛みで息が出来ない。

「お、お前っ……」
「口を開けるな。うじ虫が」
「便所虫」
「ゴミ虫」

 奴ら、あろう事か、俺を蔑んだ目で見て暴言を吐いて去って行きやがった。




 何とか動けるようになった俺は、学園長室に怒鳴り込んだ。

「学園長! エルフと獣人族の女を捕らえろ!」
「捕らえられるのは君の方だよ。ハジン君」
「なに!?」

 俺の聞き間違いか?

「俺は、トリアリア王国の伯爵家の人間だぞ! 無礼を働いた奴らを死罪にするのは当然だろう!」
「それはあり得ませんな」

 そう言うと学園長は、何かの魔導具を取り出し俺に見せた。そこには、先程の様子が映っている。

「なんだ。証拠があるではないか。これで奴らを捕らえる理由になるな」
「ええ、ハジン君を捕縛する証拠ですね」

 そう学園長が言うと、部屋に騎士が入ってきて俺を拘束する。

「どうして俺を拘束する! 拘束するのは、あの女達だろう!」
「はぁ、我が国では借金奴隷と犯罪奴隷以外を認めていません。そしてここは、バーキラ王国の王立高等学園です。当然、何の罪もない生徒を奴隷になど許されません」

 こいつ、何を言っている。

「ハジン君。君は我が校の規則を理解していますか? 我が校では、身分を振りかざすのも禁止しているのですよ。それは王族でも変わりません」
「そんな事知るか! 俺を放せ!」

 校則? 貴族が亜人を奴隷にして何が悪い!

「それに何より、ハジン君が侮辱した相手が悪い」
「エルフと獣人族に平民の人族だろう。俺の奴隷となれるのだ。光栄に思って当然だろう!」
「彼女達はね、バーキラ王国のみならず、ロマリア王国やユグル王国でも最重要人物なのだよ。奴隷などととんでもない」
「何だと……」

 何故、エルフや獣人族が最重要人物なのだ。

「この事がユグル王国に知れば、同盟国であるバーキラ王国やロマリア王国に、トリアリア王国征伐軍を起こす提案がされても不思議ではありませんよ」
「なっ!?」

 何故、三カ国からトリアリア王国が攻められる話になる。

「それよりも彼女達の父親や母親に知られる事の方が怖いですね。一般の国民を殲滅などはないでしょうが、トリアリア王国が滅んでも私は驚きません」
「何を世迷言を……」

 平民の父親が、どうだと言うのだ。何人も囲う財力はあるのだろうが、所詮は商人だろう。貴族である俺に対する不敬で親も死罪にすればいい。

「取り敢えず、ハジン君、あなたは退学です」
「ふざけるなぁ!」
「ふざけてなどいませんよ。それだけではありません。あなたを捕虜として収監します。トリアリア王国が、引き取ってくれる事を祈っていてください」

 捕虜だとぉ! ふざけるな! 俺は怒りのあまり暴れようとするが、騎士に拘束されピクリとも動けない。

「連れて行ってください」
「放せ! 捕まえるのは亜人どもだろう!」

 拘束されたまま、引き摺られて連れて行かれる。

 こんな事が許されるのか! 許されていい訳がない。叫ぼうとすると、口に猿轡を噛まされ声も上げれなくなる。

 何故だ! どうして俺がこんな目に遭う!






ベリス視点

 我が国から留学生として入学した筈のヘドロック伯爵家の次男ハジンが退学となり、しかも収監されたと報告を受けたわ。

 それを聞いて溜息しか出なかった。

 詳細な報告を受けたけど、あまりに馬鹿な内容に、騙されているのかしらとすら思ったわ。

 昔、我が国にはエルフや獣人族の奴隷がいた。奴隷狩りという部隊が、他国から狩って来ると聞いた事がある。バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三ヶ国と戦争中だから、敵国の民を攫う事自体はおかしな話ではないけれど、今の私達はバーキラ王国に留学しているのよ。そこでバーキラ王国の民を奴隷になど出来る訳がないじゃない。

「ベリス様、一応本国へ連絡しておきました」
「ご苦労様ドリス」

 そこにラシュール子爵家の次女ドリスが戻って来た。今回、私が留学するにあたり側近として着いて来てくれました。

「ヘドロック家は何を考えているのでしょう? あの様な人間を送るなんて」
「カクシュール侯爵家に対抗したいんでしょうけど、馬鹿を寄越して台無しよね」

 我がトリアリア王国は、大陸で孤立しています。

 南のサマンドール王国とは交易していますが、バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国とは敵対していますから。

 前回の戦争から十年以上経ちますが、国内は疲弊したまま。黒い魔物のスタンピードの影響も未だ大きく、発展著しい三ヶ国との差は開き続けています。

 あの十年以上前にあった未開地での戦争も、本国では痛み分けと国民には報されていますが、実際には大敗し逃げ帰ったのが真実です。

 決して本国では言えませんが、それを知る貴族は多いでしょう。這う這うの体で逃げ帰った貴族家の当主も多いのですから。

「あんな馬鹿は置いておいて、寮の魔導具を見ましたか?」
「ええ、灯りの魔導具。トイレの魔導具。浴室にも水とお湯が出る魔導具と、学生が住む寮にですよ」
「ですよね。あのトイレの魔導具を是非売ってくださらないかしら」
「ええ、それはもう切実にですわね」

 お父さまからバーキラ王国の内情を探るよう言われて来たけれど、この国は我が祖国と違い過ぎる。

 寮の魔導具は貴族用の施設だからかと思いきや、平民の部屋にも同じ物が有るそうです。違いと言えば、使用人用の部屋の有る無しと広さくらい。驚くことしか出来ません。

 貴族の乗る馬車にしても、バーキラ王国の物は揺れずにお尻が痛くならないと聴きました。この国はどうなっているのでしょう。昔からトリアリア王国とそれ程の差があったのでしょうか?

「ベリス様、満遍なく授業を取ったのですね」
「ええドリス。この国の魔法のレベルや武術のレベルを知りたいですから」

 ドリスがオリエンテーションで、私が選択した授業のリストを見て言う。

 黒の氾濫と呼ばれているスタンピードに於いて、この国はほぼ被害を抑え込めている。その理由を調べないといけない。

「宗教学だけは取れませんわね」
「ええ、人族至上主義を掲げる我が国は、他国の宗旨とは違いますから」

 トリアリア王国民として、選択出来ない授業もあるわ。

「丁度このクラスには、この国の第三王女も居る事ですし、可能な限り情報収集に努めましょう」
「はい。ベリス様」

 馬鹿なハジンのお陰で、余計に目立った動きがし辛くなってしまったけど、私たちなりに頑張るしかないわね。






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