不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百五十九話 闘い、闘い、闘い

 野暮用で出掛けていたセブールが戻って来た。

「どうだった?」
「はい。問題なく小屋を与えて釘を刺して起きました」
「ご苦労さま」

 何時ものシャウト君の気配を察知したと思ったら、一緒に魔物の気配も掴んだんだ。

 ああ、シャウト君が言ってたリッチロードの成り損ないかと理解した。

 確かセブールの顔見知りだったと思い、セブールに釘刺しと、それだけじゃ可哀想なので滞在する為の小屋を持って行ってもらった。勿論、シャウト君がアウロラや冒険者用の村へ入るのは問題ない。あの子は、この草原地帯で悪さするような馬鹿じゃないからね。

「しかしアンデッドなのに、オオ爺サマの近くに来るなんて、チャレンジャーだよな」
「まぁ、そこは腐ってもリッチロードですので、さすがに近付いただけで昇天する事はないでしょう」

 創造神が創ったとされる黄金竜のオオ爺サマ。その存在は間違いなく神聖な属性で、近寄るだけでゴーストやレイスくらい浄化されてしまうだろう。実際、俺が城塞都市を造る時に、基礎工事のついでと言っては何だが、土地を念入りに浄化したのに加え、オオ爺サマが滞在するだけで、森から瘴気が流れ込む事もないし、土地は清く保たれている。

 オオ爺サマ、様々だよな。



 その後、詳しいやり取りを含めて報告を受ける。

「へぇ。瘴気を浄化してくれるローブか。他の魔物と違って、アンデッドと瘴気はセットだからな」
「ええ。低位のスケルトンなら気にならない程度でしょうが、腐ってもリッチロードですから」
「しかし戦闘が苦手だと言っても、草原地帯に棲む魔物と怖いとか、リッチロードを名乗ったらダメだと思う」
「あやつは魔族の頃から戦闘面はからっきしでして、普通の人間よりも貧弱でしたから」

 感じる気配で何となく分かってはいたけど、セブールから聞くほどルバスっていうマッドなリッチロードは弱過ぎる。

 本来、リッチロードは厄災級の魔物だ。魔法の扱いに長け、魔法への抵抗も高く物理もある程度耐性がある非常に討伐し難い魔物だ。

 光の属性というか、神聖属性に弱点を保つけれど、ルバスが浄化を付与したローブを纏っているところを見ても分かるように、高い魔法耐性故に弱い光魔法なら効かない。

 ところが、あのルバス。魔法耐性も物理耐性も、そんなに高くなさそうなんだよな。

「生きたままリッチロードに成るって、禁呪を編み出し成功させ出るんだから、ある意味優秀なんだろうけどな」
「いえ、あんなに弱体化したリッチロードにしか成れないと想像できない愚か者ですよ」
「知り合いだからなのか、辛辣だな」
「それ程仲が良かった訳ではありませんからね」

 ルバスは、術式の開発なんかの才能に極振りなのかな。セブールも魔族時代から、戦闘面ではからっきしだと言っているし、それはリッチロードに至った今も変わらないみたいだしな。

 本当ならリッチロードは、攻撃魔法も強力なものを使い熟す筈が、元のルバスが魔法戦自体の経験もほぼ無いという。よくリッチロードに成ろうと思ったよな。もっと他の選択肢があった気がする。



「まぁ、今はリッチロード擬きはいいや。それより面白い事になってきたな」
「そうですな。私もここまで闘技場が盛り上がるとは思っていませんでした」

 ルバスの事は、シャウト君に任せておけば大丈夫だろう。それよりも今は闘技場での闘いだ。

 俺は今、闘技場の観客席の中でもVIP用のボックス席に居る。

「ご主人様、ルノーラさん、お茶をどうぞ」
「ありがとうリーファ」
「ありがとうございます。リーファさん」

 リーファが俺とルノーラさんにお茶を淹れてくれたので礼を言う。

 俺の視線の先では、舞台に立つ獣人の姿があった。

「獣王国か。国王自ら護衛の兵も付けずに草原地帯まで来るなんて、随分と脳筋な奴らだな」
「あの国は、先代魔王陛下と近しい価値観を持つ者達の集まりですから。あの戦争に於いても、何度負けてもなお目を輝かせて挑むしつこさに、魔王国としても辟易としたものです」

 戦闘狂で大陸中が困らされた先代魔王のバール。そのバールとの戦争に、嬉々として立ち向かい、何度負けても尚諦めなかったらしい。

 まあ、戦争に何度も負けて、生き残っているのが凄いと素直に思う。獣人族は、余程身体が強いんだろうな。

 見たところ、レベルはそこそこだが、戦闘の経験はそれなりにありそうな感じか。

「レベルはそれなりだな」
「獣王国にもダンジョンは在った筈ですが、大陸西側に在るダンジョンでは、そこまでレベルは上がりませんので」
「まぁ、適正なレベルの相手じゃないと、ほとんどレベルは上がらないからな」

 魔王国はまだ強い魔物が棲息しているからマシだが、西方諸国にはダンジョンを含めても居ないと言う。

 この世界の不思議というのか、理だと納得するしかないのだけれど、同レベル帯以下の魔物と数多く戦っても、加算される経験値は微々たるもののようだ。

 お陰で俺なんか邪神を滅しても、たいして経験値は得られなかったくらいだ。

「深淵の森ならレベル上げも可能ですが、今度は命懸けですから」
「なる程ねぇ。結果、獣王国を含めてどんぐりの背比べで、闘技場での戦いは白熱するって事だな」
「見ている分には面白いかと」

 闘技場では、自身の装備もものを言うので、レベルや技術だけじゃない勝ち負けになる。

 そこで闘技場が歓声が沸き上がる。

「おっ、黒い獣人が勝ったか」
「黒豹の獣人ですかな」
「結構ギリギリだったな」
「そうですな。ここのところグラディエーターの質が急激に上がっているそうですから。獣王国の精鋭だったとしても、そう差はないかと」

 歓声が上がったのは、獣王国の先鋒が勝ったからだった。

 黒豹の獣人らしく、速くキレのある動きが持ち味のようだ。ただ、対戦相手の元冒険者で、今ではグラディエーターの男との実力は拮抗していた。勝てたのは、本当にちょっとした差だったのだろう。

 セブールが言うように、闘技場で闘うようになった冒険者やグラディエーターの技量が上がっている。

 それもその筈で、死闘を繰り返しても俺の結界のお陰で死ぬ事もなく、ダメージはポーションで回復できるし、失った血も増血剤のお陰で比較的早く回復する。それは技量も上がるってものだ。



 次鋒戦は、獣王国が負けて一勝一敗の五分となった。

「若い獅子の獣人かな?」
「獅子王レオニダスの嫡男で、確かマグヌスといった筈ですな」
「へぇ。王子様か」
「いえ、獣王国は魔王国と同じく、一番強い者が王となる国ですので、王子や王太子といった呼び名はなかった筈です」
「筋金入りの脳筋国家なのね」

 若いマグヌスという獅子の獣人は、まだまだ経験不足なのか技術が拙い。きっと力任せの戦いしかしてこなかったんだろうな。

 次に出て来たのは、獣王国は巨漢の男。熊の獣人かな。

「相性が悪かったな」
「はい。正面から力勝負になりますと、もともと身体能力が優れた獣人族の中でも、彼は熊の獣人のようですから」
「逆に魔法使いならワンサイドゲームだったんだろうね」
「はい。獣人族は、魔法適性が低いですから。余程素早く間合いを詰めないと、勝負にならないでしょう」

 中堅戦は、獣王国の熊の獣人が勝った。とはいえ、これは相性が悪かっただけだと思う。対戦相手が、もう少し小手先の技術で立ち向かえば、十分逆転の可能性はあっただろう。

 それと魔法の発動が速い事が前提だけど、魔法使いが対戦相手の場合、スピードよりもパワーに極振りした感じの熊の獣人じゃ、何も出来ずに負けるだろうな。

「グラディエーターに魔法使いは少ないのかな」
「旦那様。グラディエーターだけではなく、魔法が使える冒険者も数は少ないですぞ」
「ふ~ん。エルフのミルやララはともかく、ポーラちゃんやジルとベルの姉妹も使えるんだけどな」
「孤児院の子供達は特別枠だと思います」
「そうか?」

 俺の周りは普通に魔法を使う。それこそ従魔でも使えない方が少ないんじゃないかな。

 ミルとララも、俺が保護した当初は年齢の事もあって、魔法は未だだったけれど、俺達が余りにも日常生活で普通に魔法を使うので、いつの間にか魔法を使い始めていた。

 勿論、魔力操作や魔力感知はスキルが生えるよう教え、二人も熱心に訓練していたしな。


 ドッっと闘技場が沸いた。獣王国の副将が勝ち、これで三勝で勝ち抜けが決まった。

「ホワイトタイガーの獣王か」
「確か獅子王の右腕でディーガ殿といった筈です」
「セブールは、他国の事をよく知ってるな」
「先の戦争では、私も魔王様近くに居ましたから」

 セブールが詳し過ぎると思ったら、先代魔王の側近だった頃に見た事があるそうだ。それを抜きにしてもセブールはもの知りだけどな。



 そして大将戦。

「あれが獅子王レオニダスか。そこそこ歳だよな」
「はい。国王として先代魔王陛下と何度も戦いましたが、あれから十年以上です。そろそろ代替わりしてもいい頃なのですが、……まだまだ現役のようですな」

 開始の合図で両者が間合いを詰め、お互い正面から剣を打ち合う。

 偶然なのか両者同じような大剣を持ち打ち合い受け流す。

 頑丈な大剣が打ち合わされる音が闘技場に響き、観客の興奮のボルテージも上がっていく。


 お互いに傷を負いながらも怯まず剣を振るう。

 やがて自力に勝る獣王国の王が致命の一撃を加え、専属グラディエーターの男は結界の機能により舞台の外へと転移。すぐに冒険者ギルドの職員と魔王国の衛生兵が治療する。

 大歓声の闘技場。賭けに勝った者の喜びの声と、賭けに負けた者の嘆きの声が入り混じる。これ、子供の教育に悪くないか?

「この後、少し時間が空いて決勝なんだな」
「はい。お互いあと一つ勝てば、闘技場のチャンピオンへの挑戦権が得られます」
「はぁ。どうしてこうなったんだろう」
「まあ、皆さん喜んでいるのでいいではありませんか」
「まぁ、そうなんだけどな」

 そう、あと一つでチャンピオンへの挑戦権を得れるチームがもう一つあり、この後少しだけ時間をおいて決勝戦とも言える対戦が行われる。まあ、観衆は楽しみなんだろうな。俺としては少し複雑なんだけどな。俺の居る貴賓席、広めのボックスシートになっているんだけど、空気も何故か重い。いや、何故かじゃないんだけどな。




 獣王国のメンバーが、ポーションにより回復し、いよいよ決勝戦が始まる。

 闘技場に獣王国のメンバーが入場し、それを観客が大歓声で迎える。

 そして反対側の入場口から入って来たチームは、冒険者として護衛依頼で草原地帯に訪れていた新顔のチーム。

「はぁ。セブール、このボックスシート、認識阻害はかけてあるよな」
「はい。軽くではありますが、それで十分だと思います」

 一応セブールに確認しておく。このボックスシートは、外から認識しづらい状態が望ましい。




 獣王国のメンバーが入場した反対側の入場口から、対戦相手のチームが姿を見せ、会場の盛り上がりは更に熱を帯びる。

 観客の多くは冒険者や商人だけど、アウロラや農地の住民も多く居る。これはアウロラや外の農地、竜人族の集落やこの冒険者用の村など、草原地帯に暮らす人には格安でチケットを販売しているからだ。

 もともと安めの観覧チケットが、更に安く買えるので、たまの休みの良い娯楽になっているんだ。



 俺達の居る貴賓席の温度が少し下がった気がするのは、多分俺の気のせいだと思いたい。

 俺達の視線の先、獣王国と対峙するように並ぶのは、男一人に女四人のハーレムパーティー。そう、ボルクスさんのパーティーだった。

 ルノーラさんの冷たい視線は気にしない事にして、ボルクスさんパーティーは、ここまで危なげなく勝ち抜いてきた。

 初めて会った森へと逃げて来た時と比べても、随分と強くなったのが見受けられる。

「とはいえミルやララの方がずっと強くなっているんだよなぁ」
「それは仕方ないかと。ミル嬢やララ嬢は、旦那様の眷属となり、深淵の森で鍛えていますから」
「そうですね。それに加えて最近は、黄金竜様の加護までいただいたので、比べてはボルクス様がかわいそうかと」

 俺がボソリと呟いた言葉に、セブールとリーファから当然だとツッコミが入る。

 実際、森の外で冒険者として活動するボルクスさんと、シロやクロとの共闘だとしても、森の拠点周辺で魔物を狩れるミルやララとは比べものにならないくらいの差がある。しかも最近、ミルとララを含めた孤児院の子供達には、古竜の長であるオオ爺サマの加護まで得た。

 神に近い古竜の加護は、身体能力や魔力が上昇するだけじゃなく、種族としての限界を超える事が可能になる。

 もともと俺が眷属としたミルとララは、それだけで上位種族に至れる切符を手に入れていたんだが、それが確実になったってとこか。

 エルフの上位種なハイエルフだろうけど、人族の上位種は何なんだろうな。




 そこに魔道具の拡声器を持った、冒険者ギルド支部長のグランツさんが出て来た。

「これから決勝戦を行う!」
「「「「ウォォォォーー!!」」」」
「先鋒! 獣王国レーバー! 緑の風ミルケ! 両者、前へっ!」

 獣王国はレーバーという黒豹の獣人。ボルクスさんパーティーからは、確かミルケという名前だった筈、猫の獣人。緑の風というのは、ボルクスさんパーティーの名前らしい。

 種族としては、同じ猫科でも黒豹の方が上だろうが、見たところそこまで差はなさそうだ。

「始めっ!」

 グランツさんの合図で、高速で駆け回る二人の影。連続する剣撃の音が絶え間なく闘技場に響き、観客のボルテージも上がる。

「共に双剣。技量もほぼ互角。ミルケ嬢はスピードも負けていません。ただ……」
「あの体格差は不利だな」
「はい」

 拮抗する闘いを観戦しながらもセブールが冷静に分析する。それに俺も頷き、技量やスピードが互角なだけに、その体格差でミルケの不利を指摘し、セブールもそれを肯定する。


 実際、互角だった闘いの趨勢は、徐々にレーバーに傾いてゆき、やがて結界の機能が強制的に戦闘を止め、舞台には肩で荒く呼吸するレーバーが立っていた。

「勝者! レーバー!」
「「「「ウォォォォーー!!」」」」

 賭けに勝った者も負けた者も大きな声を上げる。盛り上がり過ぎじゃねぇ。



「次鋒! 獣王国マグヌス! 冒険者パーティー緑の風アンナ!」

 獣王国のマグヌスは、獅子王レオニダスの息子。ボルクスさんパーティーのアンナは、女性にしては大柄で、パーティーでは盾役を担うパワーファイター。いい勝負になるかもしれないな。

「始め!」

 ドガッ!!

 アンナは、獅子の獣人相手に力負けしていない。盾役な事もあり、荒削りなマグヌスの攻撃を上手く封じている。

 逆にマグヌスもアンナのカウンター気味の攻撃を何とか避けたり受け流している。

 これ、将棋なんかで言う千日手だな。個人戦ならともかくこれは三つ勝てば良い団体戦なので、お互い一か八かの勝負には出ないだろうな。

「こういう場合って、どういう決着の付け方?」
「……もうまもなく、時間切れの引き分けですな」
「そこまで!!」

 俺がセブールに、膠着した勝負の決着の付け方を聞くと、セブールはチラリと懐中時計を見て、時間切れの引き分けだと告げ、そのタイミングでグランツ支部長が戦闘を止めた。

「時間切れ! 両者引き分け!」

 これで一勝一分。獣王国が一歩リードか。

「まあ、ボルクスさんのパーティーは、闘技場初参戦なのに健闘していると言えるのかな」
「はい。この闘技場での闘いは、自身の装備で挑みますから、旦那様が与えた装備の力もあるとは思いますが、それを差し引いても獣王国の精鋭相手に健闘しているのではないでしょうか」

 人間相手の戦闘経験が豊富な獣王国の面々と違い、ボルクスさんのパーティーは魔物との戦いが主だった筈だ。

 勿論、冒険者だから盗賊の討伐なんかの経験もあるだろうけど、先代魔王の戦争を生き抜いた戦士と比べると、どうしても戦い方がぎこちない。

 それを考えれば、よくここまで勝ち抜いたと感心する。


「次、中堅戦! 獣王国グズル! 冒険者パーティー、緑の風マール!」

 獣人族の中でも一際巨漢の熊獣人と、それに対するのは、人族の中でも小柄な女性。

「一見、余りにも勝負にならなそうな組み合わせだけど、これ相性最悪だな」
「はい。特にマール嬢には、旦那様製の装備もありますから。グズル殿のスピードでは難しいかと」
「だよな」

 俺とセブールが話している間に試合は始まった。

「グォー!」
「ブラスト!」

 グズルも分かっているんだろう。試合開始の合図と共に、マールに向け突撃するが、マールの魔法の発動の方が早かった。

「グッ!?」

 グズルの巨体が後方に吹き飛ばされる。

「……これで終わり。ファイヤーストーム!」
「グゥワァッ!!」

 グズルを炎の渦が包み、そして結界により舞台の外へと転移させられ勝負は決した。

「勝者! 緑の風マール!」
「「「「ウォォォォーー!!」」」」

 見た目とは裏腹の小柄なマールによる巨漢のグズルの瞬殺と言っていい結果。観客が沸かない訳がない。

「まあ、こうなるよな」
「はい。魔法適性の低い獣人族が、距離を空けて魔法使いと戦うのは自殺行為ですな」

 これがレーバーくらいスピードがあり、魔法使いがマールほど魔法の発動が早くなければ、もう少し状況は違ったかもしれないが、舞台で一定の距離をおき、準備の出来た魔法使いを相手にするには、獣人族は魔法適性が低くく相性が悪過ぎた。

「まあ、魔法使いは希少ですから、対魔法装備の用意などなかったのでしょう」
「そりゃそうだな。それこそ戦争に行くなら用意したかもしれないけどな」

 俺や俺の眷属達のように、魔法に対する耐性が高かったり、魔法障壁を張れる存在は多くない。俺の周りに居る人達が普通じゃないだけだ。

「グズル殿も不運でしたな。対戦相手がマール嬢でなかったら、多少のダメージを無視して一撃という手段も成功したかもしれません」
「俺が用意した魔法発動体の性能もあるけど、それに頼らず研鑽した結果だな」
「はい。旦那様の装備を使い熟していますな」

 セブール曰く、在野にあれ程の魔法使いは珍しいらしい。対戦相手のグズルは不運だったな。




 一勝一敗一分となり次の対戦が始まる。

「副将戦! 獣王国ディーガ! 冒険者パーティー、緑の風セレナ!」

 獣王国の副将は、ホワイトタイガーの獣人。歴戦の戦士らしく、なかなかの雰囲気を身に纏っている。

 対するボルクスさんパーティーの副将は、これまた華奢な女性。神官のセレナ。

「ボルクスさんパーティーは、これで引き分け一つ確実に取れるな」
「はい。負けない事は重要ですから」

 ボルクスさんパーティーのセレナが負けない訳、それは試合開始と共にすぐに分かる。


 グランツ支部長の「始め」の合図と共に、ディーガは突撃するが、それよりもセレナが障壁を張ったのが早かった。

「チッ!」

 舌打ちするディーガ。

「クレバーだよね」
「ええ。若い娘さんとは思えない冷静さですな」

 ボルクスさんパーティーの回復役セレナは、本来ならグラディエーターとして闘技場で闘うタイプじゃない。そんな彼女の戦い方が、強固な魔法障壁でひたすら相手の攻撃を防ぎ、時間切れの引き分けを狙うという戦法だ。

 これ、相手の攻撃を防ぎきる自信がなければ難しいし、攻撃に晒され続けるストレスに耐えなきゃいけない。それを冷静に黙々と行えるセレナは、ボトックの街のトップパーティーの一員だけある。


 ガンッ! ギンッ! ドガッ!

 ディーガが必死に攻撃を加えるが、強固に張られた結界を揺るがす事も出来ない。

 俺や俺の眷属の攻撃には保たないだろうけど、かなりの練度なのは分かる。

「あれ、Cランク程度の魔物が攻撃しても普通に防ぎそうだな」
「数回ならBランクの魔物にも通用しそうですな」
「西方諸国で活動する冒険者としてなら十分だな」
「はい。彼女は回復や防御に特化した術者なのでしょうな」

 セブールとセレナの魔法障壁をあれこれと考察している間も、ディーガの必死な攻撃は続く。

 お互い、自分達のチームの大将を信頼しているのだろうけど、ここで勝てば負けはなくなる。逆に引き分けると、最終の大将戦の結果で勝負が決まる。ディーガが必死になるのも分かるな。


「まぁ、時間内に結界を破るのは無理か」
「はい。魔法剣でも使えるのなら話は別でしたが、普通の出来の良い剣では無理でしょうな」

 ディーガの剣が魔法剣か、それとも自前で剣に魔法を付与出来れば、あの結界を破れる可能性もあったが、それは獣人族の不得意とするところだ。ダンジョンから産出される魔法剣も有るらしいが、凄く希少な物らしいからな。

「そこまで! 時間切れで、両者引き分け!」
「「「「オォォォォーー!!」」」」

 やがて時間が経ち、グランツ支部長が試合の終了を告げると、ディーガは片膝を突き肩で荒い息をしていた。



「これで一勝一敗二分か」
「大将戦で決まるとは、盛り上がるでしょうな」

 ディーガとセレナが舞台から降りるが、観客のざわつきが収まらない。

 そしてグランツ支部長が拡声器の魔道具で声を張り上げる。

「大将戦! 獣王国、獅子王レオニダス! 冒険者パーティー、緑の風ボルクス!」
「「オゥ!」」

 レオニダスとボルクスさんも気合いが入っている。自分で勝負が決まるんだから当然か。


「ボルクスさん、気合い入ってるな」
「まさかルノーラ様が観戦しているとは思っていないでしょう」
「……だな」

 ボルクスさんの技量では、このボックスシートにかけられた認識阻害は見破れない。

 まあ、ルノーラさんが観ていると知っていたら、そもそも闘技場での闘いに参加しなかっただろうけどな。


「始め!」

 ガキッイィン!!

 大剣を振り回すレオニダスと、ロングソードに小盾のオーソドックスタイプのボルクスさん。撃ち合いでもボルクスさんは負けてない。

 一撃の威力が大きい大剣の斬撃を、剣と盾で上手く受け流し反撃をしている。

 ボルクスさんの成長に感心してしまう。

「ボルクスさん。上手くなってるな」
「はい。ダンジョンなどにも挑んでいるようですな」

 対人戦はそれ程多くない筈のボルクスさんだけど、ここまでのところ上手く対応している。


 ただ、経験値の差は大きく、徐々に劣勢になっていく。

 それでもこのまま時間切れ引き分けかと思われた時、レオニダスが大きく動く。

 渾身の一撃を振るった大剣を手放し、タックルから投げを放ったんだ。

 虚を突かれたボルクスさんは、舞台の外へと放り投げられてしまう。

「そこまで! 緑の風ボルクス! 場外により敗退! 勝者、獣王国、獅子王レオニダス!」
「「「「ウォォォォーー!!」」」」

 舞台で片膝を突き肩で息をしながら、片腕を天へと突き上げるレオニダス。観客席は歓声と怒号に包まれる。

 歓声を上げるのは賭けに勝った奴ら。怒号なのは負けた奴らだな。

「ボルクスさん、惜しかったな」
「経験の差が出たのでしょう。結果的によかったのでは?」
「……まぁ、そうだな。ボルクスさんのパーティーが、チャンピオンに挑戦するよりはよかったか」

 両チームの差は僅かなものだった。どちらに転んでもおかしくなかったけれど、俺やセブール的には、この結果でよかったと胸を撫で下ろしていた。



 初級ポーションや中級ポーションで両チームが回復したところで、グランツ支部長が獣王国チームの方へと歩み寄る。

「レオニダス陛下。チャンピオンへの挑戦はどうされる?」
「勿論、挑ませてもらう」
「日程はどうする?」
「出来るなら今日お願いしたい」
「……大丈夫か?」
「戦場を数日駆け回る事に比べれば、これくらい何て事はない。それに外傷はポーションで回復済みだ」
「失った血はすぐには戻らねぇんだがな。まあ、いい。では三時間後にチャンピオンとの対戦だ。それまで十分身体を休めるんだな」
「うむ」

 控室に下がって行く獣王国チームとボルクスさんパーティー。

 グランツ支部長の確認に、レオニダスは即答したね。周りのメンバーも当たり前だと頷いている。こいつら激戦を終えたばかりなのにな。


「賭けの締め切りは、試合開始十五分前までだ! 遅れるなよ!」

 グランツ支部長が、三時間後のチャンピオンとの対戦に関して、賭けの締め切り時間をアナウンスする。

 それを聞いた観客が、ぞろぞろと券売所へと移動して行く。

 俺達みたいな貴賓席。ボックスシートの客は、券売所に行かなくても、ここから賭けれるんだけどな。

 まあ、次の対戦は買わないけどな。





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コミック版『不死王はスローライフを希望します6』が、3月16日(月)から順次全国の書店様に並ぶ予定です。

手に取って頂ければ幸いです。




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