不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百六十話 絶対王者

 場外負けだったボルクスは、初級ポーションを飲むだけで全回復していた。他のメンバーも中級ポーションを飲む程の怪我は無く、マールとセレナは無傷で疲れもない。

「すまなかったな。みんな」
「ごめんニャ」
「相手は、獅子王レオニダス陛下と獣王国の精鋭ですから、仕方なかったと思いますよ」
「……私も相性が良かっただけ」
「アタシも勝ちはしたが、ギリギリだったからね。ボルクスさんを責められないよ」

 ここは冒険者パーティー緑の風の控室。ボルクスとミルケが、メンバーに頭を下げ謝ると、セレナやマールは仕方ないと首を横に振る。男っぽいアンナも大将のボルクスが勝てなかった悔しさはあるが、ボルクスとミルケを責める気持ちはなかった。自分も勝てたのは運だと思っている。

(ミルやララはともかく、ルノーラに見られなくてよかった。やましい事はないが、男が俺一人で女が四人のパーティーはさすがにルノーラに見られたくないからな)

 予選を通して観客席にミルやララ、ルノーラの姿は見なかったボルクス。その事にホッと胸を撫で下ろしていた。

 認識阻害が施されたボックスシートで、氷のような冷たい目でしっかりと見られていたとも知らず。


「だけど初めての挑戦で、よくここまで勝ち抜けたと思うニャ」
「まあ、そうだな。闘技場で闘う事を生業とした連中。グラディエーターって言ったっけ。奴ら対人戦に慣れてる感じだったもんな」

 ミルケが、ここまでよく勝ち残ったと言うと、アンナもグラディエーターとの対戦で、駆け引きに翻弄された試合を思い出す。

 闘技場の存在を知ると、参戦したいとパーティーメンバーを説得したのはアンナだった。

 シグムンドの結界のお陰で、本気の殺し合いにも関わらず、絶対死ぬ事もなく回復不能な怪我もない。安全に対人戦の経験値を積めるとくれば、脳筋気味のアンナが仲間を熱心に説得するのも仕方ない。

 結果、決勝戦だけじゃなく、全ての予選を勝ち抜く中で、冒険者パーティー「緑の風」が得たものは大きいと全員が思っていた。

 ボルクスも優秀な装備に頼り過ぎていた事を反省していた。

「レオニダス陛下もそうだ。あれは経験の差が出てしまった。俺達は盗賊の討伐経験はあるが、それを含めても対人戦の経験が少ないからな」
「……獅子王が捨て身で場外勝ちを狙うなんて思わない」
「ああ、対応出来なかった俺の負けだ」

 場外負けだったボルクスは、ダメージが少なかっただけに悔しそうだ。自分の未熟さを自覚し反省する。そのボルクスに、マールがレオニダスの形振り構わぬ姿勢を指摘、仕方ないとマールなりに慰めた。

 ボルクスは、いきなり冒険者用の村が出来ていたのをその目で実際に見た時は、それ程驚きはしなかった。

 岩山や城を城塞都市をあっという間に造るような存在だし、今回は竜人族の集落を先に見ていたのもある。

 ただ西方諸国でも見た事がない立派な闘技場が出来ていたのを見た時は、さすがに空いた口が塞がらなかった。

 しかも、その舞台に施された結界の内容を聞いた時、もうあの人何でもありだなと頭を抱えたものだ。

 ただ、そんなシグムンドに頼らなければいけなくなったのにもボルクスは憂鬱だった。

(俺のとアンナ、ミルケの防具は治してもらわないとダメだよなぁ)

 そう。激しい戦いを繰り広げた三人の防具は、大きなダメージがあった。

 シグムンドの本気の装備なら、獣王国のメンバーからの攻撃でもかすり傷が付くかどうか。そのかすり傷も時間と共に修復されただろうが、良過ぎる装備はボルクス達の為にならないと、セブールからも言われていたシグムンドは、世間に出しても問題にならない程度の装備に抑えていた。

 そんなシグムンド的にはそこそこの装備。世間的には、見た目はともかく高性能な装備のメンテナンスが必要になった。物によっては、新しい物を強請らなければならない。

 シグムンドに複雑な気持ちを抱えるボルクスが、憂鬱になるのも分かるというもの。

(……ヤタ経由で頼むか。うん、そうしよう)

 考えた挙句、自分が直接頼むのではなく、シグムンドの眷属で、ボルクスと一番接する機会の多いヤタを頼る事にしたようだ。




 一通り反省会が済むとボルクスがメンバーを見渡し確認する。

「どうする。チャンピオン戦は観戦する?」
「はい。これだけ厳しい闘いを勝ち抜かなければ挑戦出来ないチャンピオンとは、どのような方達なのか興味があります」
「獣王国がどう闘うのか見たいニャ」
「ああ、アタシ達も次こそはってね」
「……じゃあ決まり」
「そうだな。出場者用に割り当てられた席へと移動しようか」

 三時間後に行われるチャンピオンへの挑戦。自分達は叶わなかったが、獣王国のメンバーが闘う姿は見たい。何より、これ程勝ち抜いて初めて挑戦出来るチャンピオンとはどんな人達なのか、見ずにいられる訳がなかった。







 控室に戻って来た獣王国のメンバーも、三時間後のチャンピオン戦に向けて調整をしていた。

 特に、緑の風(ボルクスのパーティー)戦で敗れたマグヌスとグズルは身体を休め、少しでもコンディションを整えようと横になっている。

 それに負けたマグヌスとグズルだけじゃなく、レオニダスやディーガ、レーバーの対戦も、楽なものは一つもなかった。

 幸いなのは、初級ポーションで体力や疲労も回復する事か。

「しかし、思った以上に強いチームでしたな」
「ええ。男が一人で女が四人。なんてふざけたメンバーだと思いましたが、そんな気持ちも吹っ飛びました。下手したら負けてました」

 障壁に阻まれ引き分けたディーガと、勝ちはしたが苦戦したレーバーが、決勝戦での闘いを振り返る。

「俺は黒豹。あの女は猫。なのに差なんてほぼ無かった」
「決勝戦だけじゃなく、それまで勝ち抜いたのも、簡単な試合は一つもなかった。我らが獣王国に閉じこもっていたこの十年。西方諸国の冒険者は、ここまで力を付けていたのですな」

 レーバーの対戦相手であるミルケは猫の獣人。自身は黒豹の獣人。種族としての力関係は考えるまでもなくレーバーに有利な筈だった。

 実際、素のパワーはレーバーがかなり上だった。スピードは僅かにミルケが上か。

 ミルケはシグムンドから贈られた装備の付与による力で善戦したのだが、それを見抜く眼は獣人族には無かった。

 この闘技場でグラディエーターとして闘う者達の実力が、シグムンドの結界のお陰で急激に上がっているので、ディーガが西方諸国の人間の実力が上がっていると勘違いするのも仕方ない。

「はぁ。俺もあのガタイのいい女に負けちまったしな。小細工無しの正面からの殴り合いでだぜ」
「マグヌス。相手の実力をリスペクトするなら、正面から力勝負するのではなく、強みを活かす戦いをするべきだったな」
「オヤジ、そうは言うが、あの場面で熱くならなきゃおとこじゃないぜ」
「若、いや、マグヌス様、女相手に漢をと言われても……」
「そ、そうだけどよ」

 アンナに敗れたマグヌスの気落ちは大きい。獣王国は、男尊女卑の強い国ではないが、それでも女性を相手に正面から力勝負で打ち負けたのは心にくる。

 父のレオニダスが馬鹿正直に勝負せず、自分の強みを活かす戦法をアドバイスする。歴戦の戦士であるレオニダスは、小手先の技術や虚実が戦闘において重要な事を知っているからだ。

 ただ、そんなレオニダスのアドバイスに、マグヌスは漢が廃ると言い返すが、レーバーに女相手に漢がと言われてもと、もっともな事を指摘され何も言えなくなる。

 そんなマグヌスと同じく、元気がないのがグズル。そんなグズルにレーバーが文句を言う。

「おいグズル。デカイ図体して何時迄もうじうじするな。周りまで暗くなるわ」
「何もさせてもらえず負けた俺の気にもなれ。ディーガ殿のような時間切れなら、まだ俺も納得する。小ちゃな小娘に、ほぼ瞬殺だぞ」
「ま、まぁ、そうだな。確かに瞬殺はつれえな」

 足止めの風魔法を除けば、一撃で敗れたグズルが、文句を言うレーバーに俺の気持ちにもなれと言うと、レーバーも確かに瞬殺はつらいと納得するしかない。

 これでも獣王国を代表する戦士だ。小柄な小娘に瞬殺されたとあっては、落ち込むなと言う方が無理だ。

「わしもグズルとそう変わらん。全力で攻撃し続けたが、障壁は小揺るぎもしなかったからな。不甲斐なさで言えば同じよ」
「ディーガ殿……」

 セレナの張った魔法障壁を破れず、無様に膝を突いたのはディーガにとって屈辱だっただろう。

「あの強固な結界は仕方ない。宝物庫の宝刀があれば話は違ったかもしれんがな。アレはわしでも破るのは無理だっただろう。引き分けを狙ってその通りに実現した、あの小娘の勝ちだな」
「ですな」

 仲間を信じ、最初から引き分け狙いのセレナの勝ちだとレオニダスが言うとディーガも頷く。

「わしが対戦した大将のエルフも強かった。ボルクス殿といったか。エルフ故に、年齢は分からんが、まだ若いだろう。潜り抜けた修羅場の差で勝てたが、一つ間違えていれば勝敗は分からなかっただろうな」
「聞いたところによると、彼等はボトックという街の冒険者でもトップクラスだとか。グラディエーターとしての経験を積めば、もっと手強くなるでしょうな」
「ああ、国に帰るのが惜しくなる」

 レオニダスも勝つには勝ったが、楽に勝てた試合ではない。経験値の差がものを言った闘いだった。

 ディーガがボルクスパーティーが、グラディエーターとして経験を積めば、今日以上に手強くなるだろうと評価すると、レオニダスは、国へ帰りたくなくなると言ってニヤリと笑った。



 コンコンコン

 その時、控室の扉がノックされ、冒険者ギルドの職員が入って来た。

「失礼。装備のメンテナンスはどうされます? 時間が三時間を切っているので、可能な限りとなりますが」
「ああ、全員の物をお願いする。剣は研ぐだけでも構わん。それと簡単に腹に入れる物を頼む」
「分かりました。何か摘む物を持って来ます。その間に手入れする装備を纏めておいてください」
「分かった」

 予選を通じて激戦だっただけに、装備のメンテナンスは必要になる。とはいえ剣を研いだり、鎧の補修をしたりと、時間が無いので出来る事はしれている。

 それと早めに食事を摂り、スタミナを回復させる必要もある。

 幸いレオニダス達の武器に関しては、多少の刃毀れ程度で、研げば問題なく使えるだろう。防具に関しては、帰国後に新調する必要がありそうなダメージの物もあるが、あと一回チャンピオンに挑む分には耐えうるだろう。

「各自、可能な限り万全な状態に整えよ」
「「「ハッ」」」
「おう!」

 挑戦する為の準備は整いつつある。

 レオニダス達が、闘技場の王者に挑むまであと僅か……








 闘技場の観客席は満席で、一番後ろには立ち見のスペースが急遽設けられたくらいだ。

 そこにグランツ支部長が姿を見せると、観客席から待ち切れないとばかりに歓声が上がった。

「凄い熱気だな」
「久しぶりにチャンピオンを観れると、皆楽しみなのでしょう」

 少々熱くなり過ぎのような気もするけど、楽しんでいるならいいか。



「勝ち抜きチャンピオンに挑む猛者が現れた!」

 オオォォォォーー!!

「強敵を退け挑戦権を手に入れたのは、獅子王レオニダス陛下率いる、獣王国チームの登場だぁー!」

 ウォォォォーー!!

 グランツ支部長が煽るから、観客席の熱気が凄い事になってるな。

 レオニダスを先頭に、獣王国チームの五人が入場して来て、観客席から歓声が上がる。

「コンディションは大丈夫みたいだな」
「はい。装備のメンテナンスを含め万全に近いのではないでしょうか」

 獣王国チームが揃うと、観客席が水を打ったように静まる。

「さて、ここまで勝ち抜いた獣王国チームの猛者達を迎え討つのは、闘技場のチャンピオン! 常勝不敗、万夫不当の絶対王者! キングオブキング! グラディエーターチーム『森の妖精』!!」

 ウォォォォーー!!

 ドッドッ! パンッ! ドッドッ! パンッ!

 ドッドッ! パンッ! ドッドッ! パンッ!

 観客席から足が踏み鳴らされ手を打つ音が闘技場全体に響く。

「これ、練習してるの?」
「さぁ、どうでしょう。自然発生的に行われているそうですよ」
「派手だなぁ」

 闘技場に強化の付与をしていなければ、観客席が崩れてきそうだな。

 そしてチャンピオン側の入場口が開き、そこから獣王国チームと比べると、随分と小さな五つの人影が現れ、観客席の熱狂は最高潮になる。

「はぁ。どうしてこうなったんだろうな」
「まあ、本人達は喜んでいるのでいいのではないですか」
「そうなんだろうけどな」

 本人達は楽しそうだ。観客も喜んでいる。いいんだけどね。俺が微妙な気持ちになるのは仕方ない。


 そう。チャンピオンとして堂々と入場して来たのは、ミルーラ、ララーナ、ポーラ、ジル、ベルの五人。そして付き従うシロ、クロ、マロンの三匹の従魔。

 ミル達が観客席に笑顔で手を振ると、観客席の熱狂は耳を押さえたくなるくらいに盛り上がる。

「確かに、グラディエーターになりたいって言ってたけどさ。常勝不敗、万夫不当って……」
「まあ、圧倒的な実力差で負け無しですから」

 確かに、治安の良くないこの世界。俺は過保護と言われようが、深淵の森でパワーレベリングを施し、どんな悪意も跳ね返すようにと鍛えたよ。

 深淵の森に住んでいるミルとララは別にしても、ポーラちゃんやジルとベルも最近では、森の深い場所で狩りをするまでになっている。それだけでも草原地帯に集まる腕利きの冒険者が敵う訳がない。

 オマケにミル達は、グラディエーターになりたいと、対人戦のスキルを磨き始め、岩山の城に在る訓練施設も、今じゃ孤児院の子供だけじゃなく、ロダンさんやアーシアさん、メルティーさんまでが通っている。

「これ、オッズどうなったの?」
「まぁ、勝ったとしても増える事はないでしょうね。ミル嬢達への投票券は、お守りらしいですよ」
「そ、そうなんだ」

 ミル達が強過ぎて、賭けが成立しないんじゃないかと心配になるが、ダメ元で穴に賭ける者は少数だけど居るそう。それにオッズが低くても、ミル達の投票券自体がお守り代わりになりつつあるそうだ。

 これ、初見の獣王国チームはやりずらいだろうな。

 ボルクスさん。何処かで見てるかな。きっとミル達の強さに引くだろうな。






 チャンピオン側の入場口から出て来た五人の姿を見て、獣王国チームが唖然とする。

「なっ!? ふざけて「やめろ」っ、親父!」
「若、相手を姿形で侮ってはなりません」
「ああ、背中の冷や汗が止まらないぜ」
「マグヌス。お前には、あの幼児達の存在感が分からんのか。見た目で判断するな」

 マグヌスが激昂しそうになるが、レオニダスがそれを止める。ディーガやグズルも歴戦の戦士らしく、チャンピオン達の恐ろしさを肌で感じているようだ。

 ただ、マグヌスがふざけるなと怒鳴りそうになるのも理解できる。何故なら、チャンピオン達の入場口から出て来た五人。闘技場のチャンピオンとは、ミルーラ、ララーナ、ポーラ、ジル、ベルの子供達だったからだ。

「よく観察すれば分かる。彼女達は、我等よりも格上だ」
「なっ!?」
「ええ、エルフのハーレムパーティー。ボルクス殿でしたか。彼等よりも確実に強いのは確かですな」
「そこまでかよ」

 レオニダスがミル達を自分達よりも格上だと言い切り、ディーガも決勝戦で戦ったボルクス達よりも確実に強いと頷く。それを信じられないといった表情でマグヌスは唖然とするも、獅子王である父やその右腕で歴戦の戦士であるディーガの言う事だ。信じない訳にはいかない。

「若、それにあの子達が従えているのは、おそらく高ランクの魔物ですぞ」
「ええ。威圧感がハンパねぇ」
「嘘だろ……」

 ミルとララ、ポーラの従魔であるシロとクロ、マロンの強さを指摘するディーガ。レーバーもシロ達の醸し出す威圧感に頬を引き攣らせる。

 それを聞いて初めてマグヌスも気付いたのだろう。あの魔物はやばい。あんなのが出没すれば、西方諸国なら大きな街が幾つも壊滅するレベルだと。

「クックックッ。これが深淵の森近くに住む者達という事か。この歳になって、童に挑む事になるとはな」
「親父……」

 闘志を漲らせるレオニダスを信じられないという表情で見るマグヌス。

 先の戦争以降、レオニダスは獣王国では常に挑戦される立場だった。それがここにきて、あきらかに格上へと挑む挑戦者の眼をしている。戦争を知らないマグヌスが戸惑いをみせる。



 


 そしてマグヌス以外にも、驚き茫然とする者達が居た。

「嘘だろぅ」
「あんな子供達が?」
「ニャー達は、あの子達に挑戦する為に必死だったのかニャ」
「……みんな侮るのはよくない。あの子達、隠しているけど魔力量は凄い。観客もあの子達の強さを知っているから、この熱狂」
「なっ…………」

 アンナやセレナやミルケは、ミル達を見て子供がチャンピオンだった事に驚いているが、魔法使いのマールだけは、子供達の魔力量が普通ではない事を見抜いていた。

 因みにボルクスは、顎が外れそうなくらい大きな口を開けて困惑してるので、仲間達の会話に混ざる余裕などない。この闘技場の中で、最も動揺し混乱しているのはボルクスだろう。

「魔力量ね。エルフの子が二人いるけど、残りは人族だよ」
「……アンナは脳筋。そんなだからよくミスをする」
「うるさいね。そんな事より、そんなにあの子達は凄いのかい?」
「……どんな戦い方をするか分からないけど、チーム名が「森の妖精」。只者の訳がない」
「……森とは、深淵の森ことなのね」

(ど、どうしてミルとララがあの場所に? いや、もし俺達が獣王国に勝てば、挑戦者は俺達だったのか。イヤイヤイヤ、待て待て待って。ミル達がチャンピオン? 嘘だろう?)

 アンナやセレナ、マールが、ミル達の事を考察しているが、ボルクスの耳には入らない。

 娘達を見るのも久しぶりと言っていい。いくら寿命が長く、時間の感覚が人族とは違うエルフだといっても、このところ帰っていないと自覚する程度には久しぶりだ。

 ただ実の娘を見間違うなどあり得ない。しかも側にはシロとクロがいるのだ。間違えようがない。

 娘達がアウロラの孤児院へ、頻繁に顔を出しているのは知っていた。だからタイミングがよければ、アウロラでの再会もあるかな。などと考えていた。

 タイミングが悪くても、ヤタが繋ぎをつけてくれるだろうから、その後少し時間が取れればいいな。なんて呑気に考えていたというのに。

 それがどうだろう。草原地帯に護衛依頼で来て、闘技場にグラディエーターとして挑戦するというイレギュラーはあったものの、この後妻や子供達に会いに行くつもりだった。それなのにこんな再会とはあんまりだと。





 そんな父親であるボルクスの事など頭の隅にもないミルーラやララーナは、円陣を組んで何やら相談していた。

「どうする?」
「何時ものでいいと思うよ。ねっ、ポーラちゃん」
「そうだね。順番はジャンケンでいいと思うよ。ジルちゃんとベルちゃんもそれでいい?」
「うん。わたしは何番でもいいから」
「わたしも」
「じゃあ、いくよ。ジャンケン、ホイ」
「あいこで、ホイ!」
「ホイ!」
「ホイ!」

 何の事はない。戦う順番を決める相談だ。楽しそうに円陣を組んでジャンケンをするミル達。外から見ても何をしているのか分からない。

「決まったね。一番はジルちゃん」
「頑張るよー」
「二番はベルちゃん」
「うん、頑張る」
「三番目がポーラちゃん」
「ギッタンギッタンにしちゃうよ」
「四番目がララで、最後がわたしだね」

 ジャンケンでの順番は決まったようだ。それによる子供達に緊張感はない。実際、誰がどの順番でも問題ないと皆んなは分かっているから。

「向こうのおじちゃん達、出て来る順番、さっきと同じかな」
「誰が相手でも関係ないけど、多分同じだと思うよ。予選はずっと同じ順番だったって聞いてるから」

 子供達の中でもミルとララは別格に強い。それはシグムンドが眷属としている事で、能力に下駄を履かせてもらった状態なので仕方ない。

 次にパワーレベリングの機会が早く、そして孤児院の子供の中でも、従魔のマロンがいる関係で、森に入る事が多いポーラが続く。

 ジルとベルは、比較的最近に草原地帯の孤児院に入所した組だが、一度攫われた経験からパワーレベリングに対して熱心で、今では他の孤児院の子供達と遜色ない力を身に付けていた。

 そんな子供内での力の差はあれど、闘技場で対戦するグラディエーター相手や、戦闘民族とはいえ獣王国チーム相手なら、誰が誰に当たっても全く問題ないと言えた。

 そんな事もあり、ララの興味は既に対戦後に移っていた。

「今日の晩ご飯、何かなぁ~」
「ポーラちゃん達も一緒に食べない?」
「えっ、行きたい!」
「わ、わたし達も一緒でいいの?」
「お兄ちゃんに頼めば大丈夫だよ」

 アウロラにある孤児院の食事事情は大陸中でも一番良いと言い切れるが、それでもシグムンドの屋敷で出される食事には勝てない。ミルから誘われ、嬉しくて飛び跳ねるポーラ。ジルとベルは、森の中の拠点に招待される機会も少なかったので、期待に満ちた顔でミルとララを見る。

 チャンピオンとして、闘技場で勝ち抜いてきた挑戦者を迎え討つというのに、緊張感のカケラもなくキャッキャと盛り上がる子供達。


 子供達と獣王国チームとの対戦が始まる。




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コミック版『不死王はスローライフを希望します6』が、3月16日(月)から順次全国の書店様に並ぶ予定です。

手に取って頂ければ幸いです。


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