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6巻
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◇
本当に、あのジジイは諦めが悪い。
俺――シャウトは二度と近付きたくなかった草原地帯へ来ている。
それもこれも、あの頭のおかしいジジイがうるさいからだ。
そこまでジジイに恩があるわけじゃない。食えない子供の頃に食わせてもらった程度だ。
そのくらいの恩、大人になる前に返したはずなんだが、食わせてもらったっていうのは頭で考えているよりも俺の中で大きいんだろうな。
「はぁ、古竜様ってなんでもアリなんだな。それに始祖の竜人か……ジジイが喜びそうだけど、言いたくない」
草原地帯に戻ってきて最初に判明した変化は、城塞都市の外でくつろいでいた黄金竜様がいなくなっていることだ。
帰ったのか? と思ったが、そのわけはすぐに分かった。
なんと黄金竜様は、人化して城塞都市内の屋敷で暮らしていた。そしてそのお世話係に、眷属である竜人を創りだしたらしい。これは城塞都市内に住む者ならみんな知っていることだったので、俺もすぐに知ることになった。
古竜は全部で五体だそうで、その内の黄金竜様が定住。他の古竜様方は、交代で訪れては休暇を楽しんでいるらしい。
古竜様方にも役目があるそうで、だいたい多くて四人の人化した古竜様が城塞都市にいて、四人の竜人が世話係をしているそうだ。
古竜様の役目については、世界を整えるとか何とか、壮大過ぎて俺には理解が及ばない。
「しかし、古竜様はともかく、竜人ならワンチャンありそうだから始末が悪いぜ」
俺の目が節穴じゃなければ、古竜様が創った眷属である竜人は、魔王国に住む竜人族なんかとは比べものにならないくらい格上だと分かる。
魔王国の竜人族も魔族の中では強者で知られているが、古竜様が眷属にしている竜人は格が一つも二つも上だ。
とはいえ、始祖と言っても竜人は、古竜様に比べれば、俺たち魔族でも生涯を懸ければ手が届く可能性はある。
……勝てるとは言ってないぞ。手が届くかもって話だ。
で、現状、俺やジジイじゃその竜人に勝てない。だけど血の一滴くらいは何とかなりそうなんだよな。
「まあ、古竜様や、その上の御方を敵に回すなんてあり得ないけどな」
そう。古竜様のお世話係である竜人に手を出して、古竜様やこの草原地帯の支配者が黙っているわけがない。
ただ、あのジジイがそれで納得するかどうか。しないだろうなぁ。嫌だなぁ。もう本当に、ジジイから離れるか。
そんな考えが頭をグルグルと巡る。
そんな俺に、背後から声が掛かった。
「少しよろしいですかな?」
「!?」
体が硬直する。俺が一切気付くことなく背後を取られるなんて。声を上げなかった自分を褒めたいくらいだ。
なるだけ自然に振り返ると、そこにいたのは魔王国では有名人であるセブール殿だった。
あの暴虐の先代魔王の側近にして、外縁部とはいえ深淵の森に屋敷を構えて隠居した、ジジイとはまた別のベクトルで頭のおかしな人物。
そして現在、この城塞都市を含めた草原地帯の支配者の部下であることまでは掴んでいる。
「私の仕える主人がお話を聞きたいとおっしゃっています。少しお時間よろしいですかな?」
「ひゃ、ひゃい」
思わず声が上擦ってしまった俺は悪くない。
目の前に立つ人物が、俺やジジイが逆立ちをしても届かない領域にいるのが分かるから。
(クソッ! 魔王よりもずっとやべえじゃねぇか!)
この状況で、俺に否と言えるはずもなく、せいぜい心の中で毒づくのが精一杯だった。
ちくしょう。恨むぜジジイ。
八話 嫌いじゃないよ
セブールが、コソコソと草原地帯を探っている魔族の男に声を掛けた。
魔族でも特に諜報方面が得意なようで、直接の戦闘力はそうでもないのかな?
まあ、俺からすると、魔王も魔族の子供もドングリの背比べなんだけどな。
セブールに連れて来られた魔族の男を改めて観察する。
直接的な戦闘能力はルノーラさんどころか、ミルやララよりも少し落ちるか。まあ、対人戦の経験が乏しいルノーラさんたちよりも、この男の方が実戦では有利だろうけどな。
「やぁ、はじめまして。俺はシグムンド。一応セブールの主人だな」
「あ、ああ、シャウトだ」
「ふむ。それで、依頼人の名前は?」
「ルバスっていう奴だ」
意外と言ってはなんだが、諜報系に特化したような男の割に、素直に俺の質問に答えてくれる。しかも、事前にセブールに聞いていた内容と違いがない。
ただ、セブールも思わずポカンとする話まで飛び出した。
「えっ!? ルバスがリッチロードですと?」
「あ、ああ。ただ、無茶な禁術だったみたいで、本来のリッチロードほどの力はないらしい。分かりやすく言うと、魔王陛下や武官長のイグリスはもちろん、文官長のアバドンやデモリス老よりも弱いんじゃないかな」
シャウトと名乗った男の話に、セブールは呆れて首を横に振って溜息を吐いている。
「前々から頭のネジが二、三本抜けた変な人物でしたが、魔族から魔物に至るとは……」
「それでたいして強くならなかったんだから、頭のおかしなジジイだ」
「まあ、ルバスは魔族では珍しい研究一筋の男でしたから。ですが、少なくとも寿命はなくなったのでしょうから、成功と言えるのでは?」
「ジジイは成功と思っていないから、俺は魔王国からはるばる草原地帯まで来ているわけだがな」
セブールとシャウトの話を聞いて、俺はルバスという男に、ある意味感心してしまった。
「ガッツあるなぁ。そのルバスっていう奴。魔族からリッチロードになるのが進化と言えるかどうかは分からないが、そんなチャレンジ、普通なら絶対しないぞ」
「ええ、進化とは生半可なことではできませんからな」
俺はともかく、セブールも進化を経験しているから、それが普通のことじゃないと分かっている。
セブールとリーファの二人は、俺の血を分けた眷属だ。逆に言えば、眷属にならなければ進化などとは無縁だっただろう。
まあ、ルノーラさんたちみたいに魔力の繋がりによる眷属化でも、種族が変わらない形で進化はしただろうけどな。その場合、二人の元の種族であるアルケニー種の中での進化だ。
ちなみにリッチロードは唯一、人族やエルフ、魔族などの種族にかかわらず至れる可能性のある魔物だ。元の実力が高い者が、強い怨みを残して死んだ後、濃い魔力に晒され、なおかつ長い時を過ごすことで進化する。
しかし、生前どんな実力のある魔法使いだったとしても、魔物となった時点でいきなりリッチロードになどなれない。せいぜいがレイス。よほど実力があり怨みも強く、瘴気に穢された濃い魔力に晒されたとしても、リッチが精一杯だろう。そこからリッチロードに進化するなんて、とてつもなく長い時間がかかる。短期間でなんて、深淵の森のダンジョンでもないと無理だ。
「いや、それにしても愉快な奴だな。頭のネジが二、三本と言わず、ごそっと抜け落ちてるんじゃないか?」
「まあ、魔族だった頃から変わった御仁でしたから」
セブール曰く、そいつは魔族だった頃から変人だったらしい。まあ、そうだろうな。
「ご主人様は、魔物になったルバスに対して寛容ですね」
「それはなぁ。まあ、俺もスタートはゴーストだったからなぁ」
リーファは、ルバスがリッチロードになったことを聞いて、俺が面白そうにしているのが意外みたいだ。ただ、俺自身がゴーストスタートで、特殊な個体だったが、リッチロードも通った道だからな。それで親近感を覚えているのかもしれない。
「ご主人様がゴーストだったなんて、何度聞いても信じられません」
「今から考えると、そもそも俺は普通のゴーストだったか怪しいけどな」
リーファに答えた俺の言葉に、セブールが頷く。
「そうですな。ゴーストにしっかりとした思考などありませんから。聞くところによると、旦那様はゴーストの頃から理性的だったと。そのようなゴーストは存在しません」
「だよな。俺もそう思う」
信じられないと言うリーファの反応が普通なんだろうな。当時の俺のステータスには確かにゴーストとあったが、今になってみれば、そもそもゴーストが自分のステータスを確認している時点で異常なことだと分かる。
しかし異常具合で言えば、その魔族も相当だろう。
「よし。面白そうだし、会ってみるか」
「えっ!? ジジイに会うっていうのか! もの好きだな」
「孤児院の子供たちや住民に迷惑をかけられる前に会った方がいいだろう。それに、オオ爺サマをどうこうできるとは思わないが、迷惑はかけたくないしな」
俺がルバスっていうリッチロードに会うと言うと、シャウトは驚いた様子をみせる。だが、変にトラブルを起こす前に会った方がいいだろう。
まあ、半分は面白そうだからだけどな。
九話 合同買取所
魔王国で話し合いの場がもたれ、一応関係者たちの賛同を得て「合同買取所」を造ることになり、建設予定地を俺とセブールで決めた。俺が直接、合同買取所の建物を建設することはないが、土地の所有者である以上、縄張りまでは面倒みないといけないからな。
ちなみに、なぜ「関係者たちの賛同を得て」の前に「一応」が付くのかというと、商業ギルドが欲をかいてゴネたからだ。
それ以外の冒険者ギルド、錬金術師ギルド、薬師ギルドは、先日の魔王国での話し合いで、無条件で全面的に魔王国に協力すると約束した。それで、合同買取所の建物の中に出張所となる支部を置くことが決まっている。
俺やセブールたちが素材を卸し、欲しいギルドがそれを買い取る。競合した場合はセリにするのか、それともどこかのギルドが調整して話し合いで決めるのかは未定だ。
どのギルドが主体となって運営するのかも決まっていない。それぞれのギルドから人を出して共同で運営すればいいと思うんだけどな。
ところで、そこに竜人族が独自に出張所を置くのか、それとも冒険者ギルドが窓口になるのかは、まだ調整中らしい。
竜人族の長老は独自に出張所を置きたいみたいだ。
何せ竜人族は、黄金竜のオオ爺サマ詣でをするのが目的なんだから。できるだけ自由が利く形にしたいんだろう。
もう竜人族は、草原地帯の入り口辺りに集落を造ればいいんじゃないだろうか。俺さえ認めてしまえばアスラ――グレートタイラントアシュラベアという、咆哮一つで軍隊を丸ごと気絶させてしまうSSランクの魔物だ――の巡回もあるし、深淵の森の魔物が襲うこともないだろう。
ちなみに、俺はこの件はダーヴィッド君に丸投げして調整してもらっている。俺からの要望なんてないしな。何か思いついても、セブールが先に言ってくれてるだろう。
俺としては、ボルクスさんが戻ってきて責任者として働いてくれたらいいと思うんだけど。でも、今はハーレム冒険者パーティーを楽しんでるから無理だよな。俺でもハーレムパーティーを選ぶ。
まあ、城塞都市に子供を預けて出稼ぎしている身としては、どうかと思うが……
それは置いといて、そもそも合同買取所に俺は関与していないので、ボルクスさんをねじ込むのも違うか。俺はあくまでスペースを貸してるだけだ。
俺がそんな事を考えながらボーっとしてると、ダーヴィッド君が近付いてきた。
「シグムンド様。広さはこのくらいで大丈夫でしょうか? 無理ならもう少し小さくします」
「んっ、いいんじゃないか。このくらいなら各ギルドもそれなりに人を置けるだろうしな」
縄を張りマーキングされた敷地を確認して、オッケーを出す。土地はまだまだ余裕があるから少々広くても大丈夫だ。
実は城塞都市の外に農地を拡げて、逆に城塞都市の中の農地は減らしたんだ。住民が増えた分、必要なお店や施設が増えたからな。
とはいえ、お店や宿なんかは充実しているとは言えない。どの種類のお店も、まだまだ順調に売り上げを出せてはいないようだ。なんでも屋とか雑貨屋みたいなのが多いようだし。
「ありがとうございます。では、この範囲で縄張りを始めます」
「うん。頑張って」
ダーヴィッド君が部下と一緒に自ら縄張り作業をしている。彼、魔王国の王子なんだけどな。
◇
シグムンドがダーヴィッドと合同買取所の建設場所を決めていた頃、さっそく魔王国の竜人族たちが動いていた。
各集落の代表者が集まっている。
普段ならこの集会は一年に一度集まればいい方だった。それが、黄金竜のオオ爺サマが草原地帯に居着いてから、もう何度目の集会になるだろう。
今回も当然、オオ爺サマ絡みの議題だ。
「俺は黄金竜様のお社を草原地帯に建てるべきだと思う」
「お社を建てるのは問題なかろう。じゃが、城塞都市の中には無理じゃ」
「なぜだ!」
竜人族の若手代表の青年の主張に対し、長老の一人が、社を建てる場所を城塞都市の中にするのは無理だと口を挟んだ。竜人族の青年が反発して大きな声をあげる。
「それはワシが黄金竜様から忠告されておるからじゃ。あの地は、黄金竜様の土地ではない。黄金竜様を始めとする古竜様方が頼り助力を願った御方のものじゃ。黄金竜様からは、くれぐれも迷惑をかけぬよう言われておるのじゃ」
「……そ、それは、仕方ないですな」
長老の説明に竜人族の青年も何も言えなくなる。古竜以上の存在などにわかに信じ難いが、深淵の森の奥に暮らし、誰も支配できなかった草原地帯を統べる存在なのだ。尋常な存在でないことくらいは青年にも分かる。
第一陣で挨拶に向かった長老が、直接黄金竜様から忠告を受けたのだ。それを違えるなどあり得ないということくらい、若手とはいえ理解できる。
なにより主立った竜人族は、草原地帯の支配者であるシグムンドがどんな存在なのかは、魔王国の第二王子であるダーヴィッドから耳にタコができるくらい聞いていた。
深淵の森と隣接する草原地帯に人々が暮らしても魔物の餌場にならないのが、そのシグムンドのお陰だということも説明されている。そんな存在に逆らうなどあり得ない。
そして長老が一つの提案をする。
「そこでじゃ、草原地帯の城塞都市近くに、具体的には城塞都市から日帰りできる距離に、ワシらで集落を造り、そこにお社を建てるのはどうじゃ」
「いや、長老。草原地帯に集落など、俺たち竜人族でも自殺行為だろう」
「慌てるな。当然、森神様にお伺いをたてる。許可していただけたなら、森からの魔物も心配はいらぬだろう」
偶然にもシグムンドも考えていた、草原地帯に竜人族の拠点を造るという案が出され、その場の者たちが驚きの声を上げる。
ギータたちオオ爺サマが創りだしたオリジナルと呼べる竜人と、魔王国に暮らす竜人族は別モノなのだ。
ギータたちのように、シグムンドによる深淵の森でのパワーレベリングを少しこなせば多少変わるかもしれないが、現状の竜人族に一人でも森を歩けるような者はいない。草原地帯に集落など造り、森から魔物が襲ってくれば、全滅するかもしれないのだ。
ただ、長老も当然そのことは分かっている。集落云々もシグムンドの許可を得ることが前提だ。そしてシグムンドが許可をくれたのなら、城塞都市の外であっても森の魔物が狙ってくることはないだろう。
「そ、それなら大丈夫か。実際、俺たちが城塞都市に拠点なんか持つと、絶対黄金竜様に迷惑をかけるくらいはしゃいでしまうだろうしな」
「黄金竜様だけじゃないだろう。ギータ様目当ての若手が騒ぐのは目に見えてる」
「うむ。どのみち城塞都市内にも場所を設ける必要はあるじゃろうが、お社の拠点から通う者たち用の宿泊施設程度じゃな」
「「「オオッ、さすが長老。それなら森神様にもあまり迷惑はかけずに行き来できる!」」」
「いや、あまりって……迷惑かけぬと言いきらんか」
城塞都市に竜人族が大勢で詰めかけると、オオ爺サマを前に興奮してはしゃぎ迷惑をかけるだろうと考えた長老による、草原地帯にお社を含む拠点を造るという案は受け入れられた。
「では、急ぎ森神様に、お願いに向かわねばならんな」
「長老、集落建設の資材も集めておくべきです」
「魔王国からも職人を連れていくのは当然として、草原地帯と近い西方諸国からも職人を集めては?」
「ふむ。王城にも話を通すべきじゃな」
決定が下されるなり、さっそく具体的な動きを始める面々。この辺、行動力の塊のような竜人族たちだった。
「では、ヴァンダード陛下へはワシが話そう」
一人の長老がそう言うと、既に草原地帯でオオ爺サマに挨拶し、面識を持っている長老が立ち上がる。
「そうか。ならワシは草原地帯に急ぎ戻るか」
「護衛は、若手を数人連れていけば十分じゃろう」
「ああ、年寄りには少々こたえるが、騎獣で駆け抜けるわい」
老齢の長老とはいえ、そこは長寿で頑丈な魔族の中でも、竜の血が混じった優れた種族なだけはある。草原地帯まで馬車ではなく騎獣で向かうようだ。
本来なら、オオ爺サマが暮らす草原地帯の城塞都市に、今度こそ自分がと言い出しそうな他の長老も異を唱えない。
黄金竜のオオ爺サマや魔王国の王子ダーヴィッドはともかく、シグムンドとの交渉など怖くて遠慮したいからだ。
ただ、前回草原地帯に出向いた長老は、城塞都市に暮らす人々の明るい表情を見ている。そこから、シグムンドは圧倒的上位の存在であるものの、こちらが誠意を持って対応すれば、理不尽なことは言わないのではないかと感じていた。
何はともあれ、魔王国の竜人族は草原地帯に拠点を造るべく動き出した。
十話 諦めない奴ら
草原地帯の城塞都市に合同買取所が建設されることが決まり、実際に建設スペースが準備された。竜人族、冒険者ギルド、薬師ギルド、錬金術師ギルドが建物の設計に入った頃、その動きから締め出されたことで不満を爆発させていたのが、商業ギルドだった。
各ギルドと竜人族、魔王国との話し合いで思うような成果を得られなかった、商業ギルドの本部長モーガンは荒れていた。
「クソッ! トカゲ擬きと荒くれ者どもと偏屈者どもめっ!!」
商業ギルド本部の自分の部屋に戻ってきたモーガンは、部屋の備品を投げつけ暴れ、それだけで大量の汗をかき肩で息をしている。
そんなモーガンに一人の女が声を掛ける。
「あらあら、随分と荒れていますわね。その様子だと上手く利を持ち帰れなかったみたいね」
「……バーバラか。来ていたのか」
「それはそうよ。上手くすれば大儲けできそうって噂を聞けば、無駄足になる可能性があったって足を運ぶわ」
モーガンにバーバラと呼ばれたこの女は、西方諸国や魔王国を股に掛けるローズ商会を営む商会長だった。
セクシーなロングドレスに身を包み、世の男連中を手玉に取る女傑。儲け主義で金に目がなく、金儲けのためなら少々あくどい手法も厭わない。
「それで、話は草原地帯に突然現れた城塞都市の件だったんでしょう?」
「バーバラはどこまで掴んでいる?」
「そうねぇ。深淵の森の魔物が近寄らない強固な城塞都市が突然できて、そこに魔王国の第二王子が頻繁に出入りしていると聞いているわ。それに、ジーラッド聖国が痛い目にあったらしいわね」
大陸を渡り歩く女商会長のバーバラだが、この世界の情報伝達の速度や精度を考えればこの程度が普通だろう。
「そうだ。概ねワシの認識と一緒だな。ジーラッド聖国が、草原地帯に侵攻しようとして大失敗したのも事実だ。バーバラも知っているだろうが、魔王国の竜人族が城塞都市と定期的に交易したいらしい。それで、冒険者ギルドと薬師ギルド、錬金術師ギルドが合同で城塞都市内にマーケットを立ち上げる計画をしたらしい」
バーバラも大商会の会頭だけあり、魔王国や草原地帯、ジーラッド聖国の動きは、ある程度掴んでいた。モーガンは、自分もバーバラの認識と変わらないことを認め、今回の話の内容を説明した。
本当に、あのジジイは諦めが悪い。
俺――シャウトは二度と近付きたくなかった草原地帯へ来ている。
それもこれも、あの頭のおかしいジジイがうるさいからだ。
そこまでジジイに恩があるわけじゃない。食えない子供の頃に食わせてもらった程度だ。
そのくらいの恩、大人になる前に返したはずなんだが、食わせてもらったっていうのは頭で考えているよりも俺の中で大きいんだろうな。
「はぁ、古竜様ってなんでもアリなんだな。それに始祖の竜人か……ジジイが喜びそうだけど、言いたくない」
草原地帯に戻ってきて最初に判明した変化は、城塞都市の外でくつろいでいた黄金竜様がいなくなっていることだ。
帰ったのか? と思ったが、そのわけはすぐに分かった。
なんと黄金竜様は、人化して城塞都市内の屋敷で暮らしていた。そしてそのお世話係に、眷属である竜人を創りだしたらしい。これは城塞都市内に住む者ならみんな知っていることだったので、俺もすぐに知ることになった。
古竜は全部で五体だそうで、その内の黄金竜様が定住。他の古竜様方は、交代で訪れては休暇を楽しんでいるらしい。
古竜様方にも役目があるそうで、だいたい多くて四人の人化した古竜様が城塞都市にいて、四人の竜人が世話係をしているそうだ。
古竜様の役目については、世界を整えるとか何とか、壮大過ぎて俺には理解が及ばない。
「しかし、古竜様はともかく、竜人ならワンチャンありそうだから始末が悪いぜ」
俺の目が節穴じゃなければ、古竜様が創った眷属である竜人は、魔王国に住む竜人族なんかとは比べものにならないくらい格上だと分かる。
魔王国の竜人族も魔族の中では強者で知られているが、古竜様が眷属にしている竜人は格が一つも二つも上だ。
とはいえ、始祖と言っても竜人は、古竜様に比べれば、俺たち魔族でも生涯を懸ければ手が届く可能性はある。
……勝てるとは言ってないぞ。手が届くかもって話だ。
で、現状、俺やジジイじゃその竜人に勝てない。だけど血の一滴くらいは何とかなりそうなんだよな。
「まあ、古竜様や、その上の御方を敵に回すなんてあり得ないけどな」
そう。古竜様のお世話係である竜人に手を出して、古竜様やこの草原地帯の支配者が黙っているわけがない。
ただ、あのジジイがそれで納得するかどうか。しないだろうなぁ。嫌だなぁ。もう本当に、ジジイから離れるか。
そんな考えが頭をグルグルと巡る。
そんな俺に、背後から声が掛かった。
「少しよろしいですかな?」
「!?」
体が硬直する。俺が一切気付くことなく背後を取られるなんて。声を上げなかった自分を褒めたいくらいだ。
なるだけ自然に振り返ると、そこにいたのは魔王国では有名人であるセブール殿だった。
あの暴虐の先代魔王の側近にして、外縁部とはいえ深淵の森に屋敷を構えて隠居した、ジジイとはまた別のベクトルで頭のおかしな人物。
そして現在、この城塞都市を含めた草原地帯の支配者の部下であることまでは掴んでいる。
「私の仕える主人がお話を聞きたいとおっしゃっています。少しお時間よろしいですかな?」
「ひゃ、ひゃい」
思わず声が上擦ってしまった俺は悪くない。
目の前に立つ人物が、俺やジジイが逆立ちをしても届かない領域にいるのが分かるから。
(クソッ! 魔王よりもずっとやべえじゃねぇか!)
この状況で、俺に否と言えるはずもなく、せいぜい心の中で毒づくのが精一杯だった。
ちくしょう。恨むぜジジイ。
八話 嫌いじゃないよ
セブールが、コソコソと草原地帯を探っている魔族の男に声を掛けた。
魔族でも特に諜報方面が得意なようで、直接の戦闘力はそうでもないのかな?
まあ、俺からすると、魔王も魔族の子供もドングリの背比べなんだけどな。
セブールに連れて来られた魔族の男を改めて観察する。
直接的な戦闘能力はルノーラさんどころか、ミルやララよりも少し落ちるか。まあ、対人戦の経験が乏しいルノーラさんたちよりも、この男の方が実戦では有利だろうけどな。
「やぁ、はじめまして。俺はシグムンド。一応セブールの主人だな」
「あ、ああ、シャウトだ」
「ふむ。それで、依頼人の名前は?」
「ルバスっていう奴だ」
意外と言ってはなんだが、諜報系に特化したような男の割に、素直に俺の質問に答えてくれる。しかも、事前にセブールに聞いていた内容と違いがない。
ただ、セブールも思わずポカンとする話まで飛び出した。
「えっ!? ルバスがリッチロードですと?」
「あ、ああ。ただ、無茶な禁術だったみたいで、本来のリッチロードほどの力はないらしい。分かりやすく言うと、魔王陛下や武官長のイグリスはもちろん、文官長のアバドンやデモリス老よりも弱いんじゃないかな」
シャウトと名乗った男の話に、セブールは呆れて首を横に振って溜息を吐いている。
「前々から頭のネジが二、三本抜けた変な人物でしたが、魔族から魔物に至るとは……」
「それでたいして強くならなかったんだから、頭のおかしなジジイだ」
「まあ、ルバスは魔族では珍しい研究一筋の男でしたから。ですが、少なくとも寿命はなくなったのでしょうから、成功と言えるのでは?」
「ジジイは成功と思っていないから、俺は魔王国からはるばる草原地帯まで来ているわけだがな」
セブールとシャウトの話を聞いて、俺はルバスという男に、ある意味感心してしまった。
「ガッツあるなぁ。そのルバスっていう奴。魔族からリッチロードになるのが進化と言えるかどうかは分からないが、そんなチャレンジ、普通なら絶対しないぞ」
「ええ、進化とは生半可なことではできませんからな」
俺はともかく、セブールも進化を経験しているから、それが普通のことじゃないと分かっている。
セブールとリーファの二人は、俺の血を分けた眷属だ。逆に言えば、眷属にならなければ進化などとは無縁だっただろう。
まあ、ルノーラさんたちみたいに魔力の繋がりによる眷属化でも、種族が変わらない形で進化はしただろうけどな。その場合、二人の元の種族であるアルケニー種の中での進化だ。
ちなみにリッチロードは唯一、人族やエルフ、魔族などの種族にかかわらず至れる可能性のある魔物だ。元の実力が高い者が、強い怨みを残して死んだ後、濃い魔力に晒され、なおかつ長い時を過ごすことで進化する。
しかし、生前どんな実力のある魔法使いだったとしても、魔物となった時点でいきなりリッチロードになどなれない。せいぜいがレイス。よほど実力があり怨みも強く、瘴気に穢された濃い魔力に晒されたとしても、リッチが精一杯だろう。そこからリッチロードに進化するなんて、とてつもなく長い時間がかかる。短期間でなんて、深淵の森のダンジョンでもないと無理だ。
「いや、それにしても愉快な奴だな。頭のネジが二、三本と言わず、ごそっと抜け落ちてるんじゃないか?」
「まあ、魔族だった頃から変わった御仁でしたから」
セブール曰く、そいつは魔族だった頃から変人だったらしい。まあ、そうだろうな。
「ご主人様は、魔物になったルバスに対して寛容ですね」
「それはなぁ。まあ、俺もスタートはゴーストだったからなぁ」
リーファは、ルバスがリッチロードになったことを聞いて、俺が面白そうにしているのが意外みたいだ。ただ、俺自身がゴーストスタートで、特殊な個体だったが、リッチロードも通った道だからな。それで親近感を覚えているのかもしれない。
「ご主人様がゴーストだったなんて、何度聞いても信じられません」
「今から考えると、そもそも俺は普通のゴーストだったか怪しいけどな」
リーファに答えた俺の言葉に、セブールが頷く。
「そうですな。ゴーストにしっかりとした思考などありませんから。聞くところによると、旦那様はゴーストの頃から理性的だったと。そのようなゴーストは存在しません」
「だよな。俺もそう思う」
信じられないと言うリーファの反応が普通なんだろうな。当時の俺のステータスには確かにゴーストとあったが、今になってみれば、そもそもゴーストが自分のステータスを確認している時点で異常なことだと分かる。
しかし異常具合で言えば、その魔族も相当だろう。
「よし。面白そうだし、会ってみるか」
「えっ!? ジジイに会うっていうのか! もの好きだな」
「孤児院の子供たちや住民に迷惑をかけられる前に会った方がいいだろう。それに、オオ爺サマをどうこうできるとは思わないが、迷惑はかけたくないしな」
俺がルバスっていうリッチロードに会うと言うと、シャウトは驚いた様子をみせる。だが、変にトラブルを起こす前に会った方がいいだろう。
まあ、半分は面白そうだからだけどな。
九話 合同買取所
魔王国で話し合いの場がもたれ、一応関係者たちの賛同を得て「合同買取所」を造ることになり、建設予定地を俺とセブールで決めた。俺が直接、合同買取所の建物を建設することはないが、土地の所有者である以上、縄張りまでは面倒みないといけないからな。
ちなみに、なぜ「関係者たちの賛同を得て」の前に「一応」が付くのかというと、商業ギルドが欲をかいてゴネたからだ。
それ以外の冒険者ギルド、錬金術師ギルド、薬師ギルドは、先日の魔王国での話し合いで、無条件で全面的に魔王国に協力すると約束した。それで、合同買取所の建物の中に出張所となる支部を置くことが決まっている。
俺やセブールたちが素材を卸し、欲しいギルドがそれを買い取る。競合した場合はセリにするのか、それともどこかのギルドが調整して話し合いで決めるのかは未定だ。
どのギルドが主体となって運営するのかも決まっていない。それぞれのギルドから人を出して共同で運営すればいいと思うんだけどな。
ところで、そこに竜人族が独自に出張所を置くのか、それとも冒険者ギルドが窓口になるのかは、まだ調整中らしい。
竜人族の長老は独自に出張所を置きたいみたいだ。
何せ竜人族は、黄金竜のオオ爺サマ詣でをするのが目的なんだから。できるだけ自由が利く形にしたいんだろう。
もう竜人族は、草原地帯の入り口辺りに集落を造ればいいんじゃないだろうか。俺さえ認めてしまえばアスラ――グレートタイラントアシュラベアという、咆哮一つで軍隊を丸ごと気絶させてしまうSSランクの魔物だ――の巡回もあるし、深淵の森の魔物が襲うこともないだろう。
ちなみに、俺はこの件はダーヴィッド君に丸投げして調整してもらっている。俺からの要望なんてないしな。何か思いついても、セブールが先に言ってくれてるだろう。
俺としては、ボルクスさんが戻ってきて責任者として働いてくれたらいいと思うんだけど。でも、今はハーレム冒険者パーティーを楽しんでるから無理だよな。俺でもハーレムパーティーを選ぶ。
まあ、城塞都市に子供を預けて出稼ぎしている身としては、どうかと思うが……
それは置いといて、そもそも合同買取所に俺は関与していないので、ボルクスさんをねじ込むのも違うか。俺はあくまでスペースを貸してるだけだ。
俺がそんな事を考えながらボーっとしてると、ダーヴィッド君が近付いてきた。
「シグムンド様。広さはこのくらいで大丈夫でしょうか? 無理ならもう少し小さくします」
「んっ、いいんじゃないか。このくらいなら各ギルドもそれなりに人を置けるだろうしな」
縄を張りマーキングされた敷地を確認して、オッケーを出す。土地はまだまだ余裕があるから少々広くても大丈夫だ。
実は城塞都市の外に農地を拡げて、逆に城塞都市の中の農地は減らしたんだ。住民が増えた分、必要なお店や施設が増えたからな。
とはいえ、お店や宿なんかは充実しているとは言えない。どの種類のお店も、まだまだ順調に売り上げを出せてはいないようだ。なんでも屋とか雑貨屋みたいなのが多いようだし。
「ありがとうございます。では、この範囲で縄張りを始めます」
「うん。頑張って」
ダーヴィッド君が部下と一緒に自ら縄張り作業をしている。彼、魔王国の王子なんだけどな。
◇
シグムンドがダーヴィッドと合同買取所の建設場所を決めていた頃、さっそく魔王国の竜人族たちが動いていた。
各集落の代表者が集まっている。
普段ならこの集会は一年に一度集まればいい方だった。それが、黄金竜のオオ爺サマが草原地帯に居着いてから、もう何度目の集会になるだろう。
今回も当然、オオ爺サマ絡みの議題だ。
「俺は黄金竜様のお社を草原地帯に建てるべきだと思う」
「お社を建てるのは問題なかろう。じゃが、城塞都市の中には無理じゃ」
「なぜだ!」
竜人族の若手代表の青年の主張に対し、長老の一人が、社を建てる場所を城塞都市の中にするのは無理だと口を挟んだ。竜人族の青年が反発して大きな声をあげる。
「それはワシが黄金竜様から忠告されておるからじゃ。あの地は、黄金竜様の土地ではない。黄金竜様を始めとする古竜様方が頼り助力を願った御方のものじゃ。黄金竜様からは、くれぐれも迷惑をかけぬよう言われておるのじゃ」
「……そ、それは、仕方ないですな」
長老の説明に竜人族の青年も何も言えなくなる。古竜以上の存在などにわかに信じ難いが、深淵の森の奥に暮らし、誰も支配できなかった草原地帯を統べる存在なのだ。尋常な存在でないことくらいは青年にも分かる。
第一陣で挨拶に向かった長老が、直接黄金竜様から忠告を受けたのだ。それを違えるなどあり得ないということくらい、若手とはいえ理解できる。
なにより主立った竜人族は、草原地帯の支配者であるシグムンドがどんな存在なのかは、魔王国の第二王子であるダーヴィッドから耳にタコができるくらい聞いていた。
深淵の森と隣接する草原地帯に人々が暮らしても魔物の餌場にならないのが、そのシグムンドのお陰だということも説明されている。そんな存在に逆らうなどあり得ない。
そして長老が一つの提案をする。
「そこでじゃ、草原地帯の城塞都市近くに、具体的には城塞都市から日帰りできる距離に、ワシらで集落を造り、そこにお社を建てるのはどうじゃ」
「いや、長老。草原地帯に集落など、俺たち竜人族でも自殺行為だろう」
「慌てるな。当然、森神様にお伺いをたてる。許可していただけたなら、森からの魔物も心配はいらぬだろう」
偶然にもシグムンドも考えていた、草原地帯に竜人族の拠点を造るという案が出され、その場の者たちが驚きの声を上げる。
ギータたちオオ爺サマが創りだしたオリジナルと呼べる竜人と、魔王国に暮らす竜人族は別モノなのだ。
ギータたちのように、シグムンドによる深淵の森でのパワーレベリングを少しこなせば多少変わるかもしれないが、現状の竜人族に一人でも森を歩けるような者はいない。草原地帯に集落など造り、森から魔物が襲ってくれば、全滅するかもしれないのだ。
ただ、長老も当然そのことは分かっている。集落云々もシグムンドの許可を得ることが前提だ。そしてシグムンドが許可をくれたのなら、城塞都市の外であっても森の魔物が狙ってくることはないだろう。
「そ、それなら大丈夫か。実際、俺たちが城塞都市に拠点なんか持つと、絶対黄金竜様に迷惑をかけるくらいはしゃいでしまうだろうしな」
「黄金竜様だけじゃないだろう。ギータ様目当ての若手が騒ぐのは目に見えてる」
「うむ。どのみち城塞都市内にも場所を設ける必要はあるじゃろうが、お社の拠点から通う者たち用の宿泊施設程度じゃな」
「「「オオッ、さすが長老。それなら森神様にもあまり迷惑はかけずに行き来できる!」」」
「いや、あまりって……迷惑かけぬと言いきらんか」
城塞都市に竜人族が大勢で詰めかけると、オオ爺サマを前に興奮してはしゃぎ迷惑をかけるだろうと考えた長老による、草原地帯にお社を含む拠点を造るという案は受け入れられた。
「では、急ぎ森神様に、お願いに向かわねばならんな」
「長老、集落建設の資材も集めておくべきです」
「魔王国からも職人を連れていくのは当然として、草原地帯と近い西方諸国からも職人を集めては?」
「ふむ。王城にも話を通すべきじゃな」
決定が下されるなり、さっそく具体的な動きを始める面々。この辺、行動力の塊のような竜人族たちだった。
「では、ヴァンダード陛下へはワシが話そう」
一人の長老がそう言うと、既に草原地帯でオオ爺サマに挨拶し、面識を持っている長老が立ち上がる。
「そうか。ならワシは草原地帯に急ぎ戻るか」
「護衛は、若手を数人連れていけば十分じゃろう」
「ああ、年寄りには少々こたえるが、騎獣で駆け抜けるわい」
老齢の長老とはいえ、そこは長寿で頑丈な魔族の中でも、竜の血が混じった優れた種族なだけはある。草原地帯まで馬車ではなく騎獣で向かうようだ。
本来なら、オオ爺サマが暮らす草原地帯の城塞都市に、今度こそ自分がと言い出しそうな他の長老も異を唱えない。
黄金竜のオオ爺サマや魔王国の王子ダーヴィッドはともかく、シグムンドとの交渉など怖くて遠慮したいからだ。
ただ、前回草原地帯に出向いた長老は、城塞都市に暮らす人々の明るい表情を見ている。そこから、シグムンドは圧倒的上位の存在であるものの、こちらが誠意を持って対応すれば、理不尽なことは言わないのではないかと感じていた。
何はともあれ、魔王国の竜人族は草原地帯に拠点を造るべく動き出した。
十話 諦めない奴ら
草原地帯の城塞都市に合同買取所が建設されることが決まり、実際に建設スペースが準備された。竜人族、冒険者ギルド、薬師ギルド、錬金術師ギルドが建物の設計に入った頃、その動きから締め出されたことで不満を爆発させていたのが、商業ギルドだった。
各ギルドと竜人族、魔王国との話し合いで思うような成果を得られなかった、商業ギルドの本部長モーガンは荒れていた。
「クソッ! トカゲ擬きと荒くれ者どもと偏屈者どもめっ!!」
商業ギルド本部の自分の部屋に戻ってきたモーガンは、部屋の備品を投げつけ暴れ、それだけで大量の汗をかき肩で息をしている。
そんなモーガンに一人の女が声を掛ける。
「あらあら、随分と荒れていますわね。その様子だと上手く利を持ち帰れなかったみたいね」
「……バーバラか。来ていたのか」
「それはそうよ。上手くすれば大儲けできそうって噂を聞けば、無駄足になる可能性があったって足を運ぶわ」
モーガンにバーバラと呼ばれたこの女は、西方諸国や魔王国を股に掛けるローズ商会を営む商会長だった。
セクシーなロングドレスに身を包み、世の男連中を手玉に取る女傑。儲け主義で金に目がなく、金儲けのためなら少々あくどい手法も厭わない。
「それで、話は草原地帯に突然現れた城塞都市の件だったんでしょう?」
「バーバラはどこまで掴んでいる?」
「そうねぇ。深淵の森の魔物が近寄らない強固な城塞都市が突然できて、そこに魔王国の第二王子が頻繁に出入りしていると聞いているわ。それに、ジーラッド聖国が痛い目にあったらしいわね」
大陸を渡り歩く女商会長のバーバラだが、この世界の情報伝達の速度や精度を考えればこの程度が普通だろう。
「そうだ。概ねワシの認識と一緒だな。ジーラッド聖国が、草原地帯に侵攻しようとして大失敗したのも事実だ。バーバラも知っているだろうが、魔王国の竜人族が城塞都市と定期的に交易したいらしい。それで、冒険者ギルドと薬師ギルド、錬金術師ギルドが合同で城塞都市内にマーケットを立ち上げる計画をしたらしい」
バーバラも大商会の会頭だけあり、魔王国や草原地帯、ジーラッド聖国の動きは、ある程度掴んでいた。モーガンは、自分もバーバラの認識と変わらないことを認め、今回の話の内容を説明した。
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