中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生

小狐丸

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越後の龍

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 永禄十年(1567年)一月 桑名城

 正月の気分も抜けた頃、北からの訪問者が訪れた。

「雪深いなか大変でしたでしょう」

 挨拶を済ませた後に、源太郎がそう声を掛けた相手。

「いや、左中将様のご領地は街道が広く整備されて、雪も掻いてあり大変歩き易く助かり申した」

 そう言った男は、四十前後の年頃の小柄な体躯を侮らせぬ威厳に満ちていた。

「弾正少弼殿にそう言って頂けると、雪掻きをした領民も喜ぶでしょう」

 そう、突然桑名への訪問者は上杉弾正少弼輝虎、あの軍神と唄われた上杉謙信だった。
 一月も終わろうかという時、謙信の右腕とも目される直江景綱と僅かな供回りと共に、桑名へと訪れた。
 いきなりの大物のフットワークの軽さに、源太郎以下北畠家臣は大層驚いた。

 一方の謙信来訪の目的は、表向きは交易をしましょうと言うことだったが、謙信が自分の目で北畠具房という男を見て判断する為だった。




「自分の見で見ることの如何に大事かようわかる」

 直江景綱は近江に入ってから桑名までの、広く整備された街道にも感心したが、一番感じたのは領内の明るさだった。
 暗く逼塞した感じはなく、領民は笑顔で雪掻きをしていた。話を聞くと日当が出るらしい。冬の間のいい稼ぎになり、それで好きな物を買うと、嬉しそうに話していた。
 物に溢れる北畠領では、銭の使い道が色々とある。飢えず凍えず娯楽もある。

(なるほど、領民の指示を得るのも当然か)

 六角家や浅井家との戦さにおいても、北畠軍は乱取りをせず、寧ろ銭を払い街道整備を行い、余った作物を相場に色を付けて買い取ったという。

 日の本中が、冷害による飢饉に苦しむなか、伊勢から近江にかけては、飢えに苦しむ領民は見なかった。
 最近では、尾張から美濃にかけても農作物は豊作だと言う。その尾張と美濃の支配者、織田信長も乱取りは許さないと聞いた。
 民が飢えさせないよう、他国から奪う為に戦さをする。そこで食糧を奪い人を攫い人買いに売る。上杉家でも当然の如く行われている。

(民を富ませる故の強国か)




 たくさんの土産を持って、謙信一行は越後へ帰って行った。

「坂本の町の様子は噂通りか?」

 越後への帰る道中、謙信が景綱に聞く。

「はっ、軒猿の報告によれば、噂通りの酷い有り様ですな。とても坊主の所業ではないそうです」
「朝廷を恫喝したというのも誠の事であろうな」
「それにしても左中将様は太っ腹ですな。
 まさか、米の増産に助力して頂けるとは、思ってもみませんでした」

 今回、交易とは別に、越後国の農業技術の指導をすることになった。
 どうせいずれは広まる事なので、源太郎は上杉家に対しての貸しになると決断した。

「人には生まれによる貴賎など無いと言うことだろう。特に我等武士は農民のお陰で食わして貰っているのだ。
 左中将殿は、我等が当たり前の様に関東で、火付け、略奪、人売りなどの乱取りを行っていることを知っているのだろう。
 左中将殿からすれば、人道にも劣る所業を止めさせるには、越後の民を豊かにする必要があったのではないか。
 所詮、儂などは自己顕示欲の強い、度量の狭小な男だという事だ」

「…………」

 謙信の自虐的な言葉に、景綱は何も言えなかった。





「はぁ~、なんで急に来るかな」

 軍神上杉謙信の来訪に、どっと疲れる源太郎だった。

「某としては、上杉家との交易は有り難いですな。日本海側でも蝦夷地への交易の道が出来ました」

 本多正信が満足そうに言った。

「軍事的に観ても上杉家と敵対せぬ事は、我が方に利があります。一向一揆との共闘も考えられますし、越後の民が飢えない事も大事です」
「これで国内の統治を盤石にするべきですな」

 半兵衛と十兵衛は上杉家に安定して貰いたいようた。

「謙信殿は、手伝い戦さが多過ぎるな。関東も関東管領職に拘らず、無闇な出兵は止めるべきだな。越中での一向一揆との戦いと、甲斐の武田信玄との戦いと、一度に抱え過ぎだな」

「金山開発や新田開発など内政にも非凡な才をお持ちなだけに、勿体無いですな」

「朝倉義景が一向一揆に苦戦している様ですから、我等が越前国朝倉義景を亡ぼし、上杉家と共闘して越中、加賀から一向衆を一掃することも視野に入れなければ、いけませんな」

 半兵衛と十兵衛に一軍を任せて二面作戦も視野に入れた方が良いかもな。
 総大将に大之丞に任せれば可能だろう。

「今年は越前国と比叡山か、織田殿は紀州に行くのか、丹波・但馬・播磨に行くのか……」

「おそらく播磨・丹波・但馬を目指されるでしょうな。我等とどの程度棲み分けるか分かりませんが」

 源太郎の呟きに十兵衛がそう言う。

「我等は、紀州をそのままにするわけには、いけませんから」

 半兵衛が紀州の事を言うが、嫌そうな顔をしている。紀州は魔窟だが、ここを平定する意味は大きい。
 石山本願寺や堺の会合衆への圧力になる。


 今年も忙しい一年になりそうだと源太郎は気を引き締める。

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