中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生

小狐丸

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本願寺の終焉

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 永禄十一年(1568年)七月 摂津国  石山

 木津川口を封鎖する南蛮船の大艦隊。その中には鉄製で煙を吐く船まで混じっている。

 石山本願寺の周りには、北畠・織田の大軍が包囲していた。
 本願寺が築いた支城や砦は、既に全て落とされている。本願寺顕如には、北畠家に下るか、籠城する道しか残されていなかった。



 丹後、丹波を制圧し、畿内のほぼ全てを手中に収めた源太郎は、本願寺顕如に対して、摂津を治める立場から武装解除と寺領の放棄、石山からの退去を求めた。その替わりとして北畠家よりの扶持での寺の運営を認めた。
 顕如は激怒して徹底抗戦の準備を始める。

 これを好機と源太郎は軍を動かす。その一方で、朝廷に働きかけ、正親町天皇より石山平定の勅を得た。




 上町台地にある石山本願寺からは、巨大な南蛮船や、煙を吐きだし、帆を畳んだまま進む鉄の南蛮船が見る事が出来た。
 北畠水軍の船の数は勿論、そのどの船にも多数の砲門が見られる。長島での艦砲射撃を憶えている門徒達は、それだけで恐怖に震えた。





 永禄十一年(1568年)七月 安芸国  吉田郡山城

「……村上水軍の派遣は無理か」

 毛利元就が、孫と息子達の前で溜め息をついた。

 毛利輝元、吉川元春、小早川隆景を前に、元就は、己の老いて細くなった手を見る。
 この数年、元就の体調は良くない。足利義輝が名医  曲直瀬道三を派遣して元就の治療に当たらせた。そのお陰か、持ち直しはしたが、己の命の時間は、誰よりも己が分かっていた。

 それと毛利元就は、天下を狙っている訳でわなかったし、それが叶う力があるとも思っていなかった。

 毛利家当主となった、輝元を見てみる。
 元就は首を横に振る。……勝てる筈がない。

 毛利も忍びを使い、北畠家をつぶさに調べている。……いや、つぶさに調べているとは言い辛い状態ではある。何故なら、北畠家の重要な情報を手に入れた事は無いのだから。
 毛利家は北畠家に、忍びの質で勝負出来なかった。いや、元就は思う。どこの大名も重要な情報を掴めた家は無いだろう。
 それでも数少なくも手に入れた情報から考えれば、北畠家と毛利家の力の差は明らかだ。
 経済力、軍事力、朝廷との繋がり、毛利家自慢の水軍も、北畠水軍に勝てる保証はない。

「(北畠左中将と我が孫を、比べる事が馬鹿げておるわ)」

 瞬く間に、中伊勢から支配を広げて行った左中将と、己が孫ながら優柔不断な所があり、戦国武将としては頼りない輝元を比べ溜息を吐く。
 本当は、例え領地を減らす事になっても、北畠家とは争うなと言いたい元就だったが、吉川元春、小早川隆景の二人の息子達は戦わずにはいられないだろうと思い気鬱になりそうだった。

「顕如殿から救援要請の書状が何度も来ています。どうしますか父上」

 吉川元春が元就の思考を切るように聞く。

「兵糧を水軍で運び込まないのですか?」

 小早川隆景が、水軍を動かさないのか聞くと、元就は首を横に振る。

「せっかくの水軍を失う積りか、お主は北畠水軍の船を知っておろう」

「…………」

 元就にそう言われ、小早川隆景は言葉に詰まる。

「……本願寺はもう終わりじゃろう。相手が悪過ぎた。お主らは、儂亡き後、毛利がどう生き残れるかを考えよ」

 そう言うと元就は、動かし辛くなった身体を起こし、部屋を出て行った。
 後に残された三人は、それぞれ考え込み、誰も口を開こうとしなかった。
 何故なら、吉川元春と小早川隆景が既に、毛利水軍と村上水軍合わせておよそ千隻からなる軍勢を派遣した後だった。






 瀬戸内海を乃美宗勝率いる毛利水軍と、村上武吉率いる村上水軍が、大船団を組み進んでいた。

 木津川口まで、あと一里(約3.9km)先に北畠水軍の船団が見えて来た。

 村上水軍頭領村上武吉は、北畠水軍の南蛮船が舷側を見せて並んで居るのを見て、嫌な予感がしてならなかった。

「……おい!」

「何ですお頭!」

「船を回して逃げる準備をしておけ!」

 それを聞いた部下は訝しく思うが、味方の船に指示を出す。


 一方の毛利水軍を率いる乃美宗勝は、千隻からなる大船団に対して、北畠水軍の船が半数に満たないのを見ると、勝利を確信していた。
 その音が響きわたるまでは…………。

 ドォン! ヒューー  ドガァーーン!!

 爆音と共に、味方の安宅船が爆発し沈んでいく。
 やがて連続して爆音が響き、水柱が上がり、味方の船が沈んでいく。小型の小早船などは木っ端微塵になっている。
 乃美宗勝が慌てて状況を確認すると、それが北畠水軍からの砲撃だと分かる。そこで初めて、北畠水軍が舷側を晒して並んでいた意味を理解する。

「……ひっ、引け!たっ、退却だー!」

 乃美宗勝は引き鐘を鳴らさせて、一刻も早くこの海域からの離脱を指示する。
 見ると、村上水軍は一足早く撤退行動に移っていた。
 降り注ぐ砲弾の雨に曝され、逃げ果せた毛利水軍と村上水軍の数は、半数に満たなかった。
 特に、初動の遅れた毛利水軍の損害が大きかった。




 永禄十一年(1568年)七月 摂津国  石山本願寺

 下間頼廉は目の前で、北畠水軍に討ち破られ撤退する毛利・村上水軍を見ていた。
 そして気付く、あの大砲は石山にも届く事を。

「顕如様、これまでです。朝廷に和睦の仲立ちを頼みましょう」

 下間頼廉は苦渋の決断を顕如に迫った。

「……条件はどうする」

 顕如が悔しげに問う。

「石山の退却と武装解除で話をつけましょう」

「武田殿か毛利殿、どちらを頼るか……」

「顕如様、武田殿は今川、徳川、織田、上杉と敵に囲まれています。特に上杉と一向宗は不倶戴天の敵同士です」

 顕如が何処へ向かうか悩んでいると、下間頼廉が毛利家を薦める。

「分かった。朝廷へ和睦の仲立ちをお願いしてくれ」

 下間頼廉は、一礼すると部屋を退出して行った。


 こうして朝廷の仲立ちで、北畠家と本願寺は和睦を結ぶのだが、本願寺と毛利・村上水軍の被害は大きかった。
 石山を包囲する過程で落とされた、城や砦で戦死した門徒、雑兵、傭兵達と、砲撃に曝されて沈んだ毛利・村上水軍の兵士達、本願寺顕如の求心力が落ち、組織が衰退していくのを止める事が出来なかった。

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