異世界立志伝

小狐丸

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カイト食を改善する

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 俺のやり過ぎたゴーレム馬車造りから少し経った頃、冒険者ギルドの依頼も簡単なものは受けている。
 ゴーレム馬車と言う名の装甲車両を造る際、深淵の森で狩った魔物の素材は、必要無いものを売ったので、また大金を得る事になった。
 「もう働かなくても良いんじゃない」なんて考えない。死んであの世に行った時に、ドルファレス師匠に怒られる。



 そんな鍛錬と依頼を繰り返す日々だが、最近どうしても食事に不満を覚えることが多い。
 独り小屋で暮らしていた時は、食べれたら良いやって思っていたけど、ノトスに来て食事をするようになり、やっぱり美味しい物が食べたいという欲が出て来た。

「カイトおにいちゃん、まだ~」
「もう出来たかな?……おぉ、見た目は成功かな」

 俺が何をしているかと言うと、庭に造った石窯でピザを焼いていたんだ。
 ピザの焼ける匂いに、ルキナも待ちきれないのか、さっきからしきりにまだかと聞いて来る。

 取り出したピザを庭に置かれたテーブルセットの所へ持っていく。

「さて、味はどうかな」

 皆んなに焼きあがったピザを配り試食をする。

「うわ~!チーズが溶けてて美味しい!」

 ルキナが夢中になって食べている。

「ピザと言う食べ物は初めてですが、美味しいですね」

 アンナさんも感心しているようだ。

「本当ね、カリッとした所とモチッとした感触とチーズのトロける感じ、トマトソースも美味しいわ」

 エルにもおおむね好評のようだ。

「ルキナ、慌てなくても焼いてあげるからね」

 口の周りをベタベタにしながら、ピザを食べるルキナの口を拭いてあげる。

 ノトスの街は北方寄りなので、ライ麦パンが主食だった。俺はライ麦パンは、あまり好きじゃなかった。
 サーメイヤ王国の中央部から南では、小麦が主食なので、ノトスでも小麦は高いが手に入る。俺は小麦で作ったパンのほうが高いけど好きだった。
 今日も強力粉が手に入ったので、ピザに挑戦してみた。

 野菜も名前が分からないけど、見知った物が多く、トマトソースを作るのも困らなかった。

 お約束のマヨネーズも作ったけど、こういった食品加工をする時に、活躍したのが【浄化】の魔法だった。お陰で生卵のサルモネラ菌汚染を解決出来た。
 使い手が少ない浄化魔法を、こんな使い方しているのは俺ぐらいかもしれない。


 俺としては味噌や醤油が欲しいけど、米の存在が確認出来ていないので、米を探すのが先だと思っている。呼び方が違うだけで似た物が有るかもしれないし。


「カイトおにいちゃん、ジュース」
「はい、はい、ちょっと待ってね」

 ルキナに果物を絞ったジュースを入れてあげる。
 テーブルではエルとアンナさんが、ピザ片手に二人で冷えたエールを飲んでいる。

「ふぅ~、冷えたエールは最高ですねお嬢様」
「そうねアンナ、でも飲み過ぎないでね」

 ジュースもエールも、俺が造った冷蔵庫の魔導具で冷やしてある。

 俺はルキナがピザを食べ終えたタイミングで、冷蔵庫からプリンを取り出し、ルキナの前に置く。

「わぁ~い!プリンだぁ~!」

 ルキナがプリンを見てバンザイして喜んでいる。
 始めてプリンを食べてから、ルキナはプリンの虜になった。

「「美味し~い!」」

 いや、ここにも虜になった者がいた。

「何個でも食べれそうね」
「本当ですねお嬢様」

 エルとアンナさん主従が、優雅にデザートを食べているが、アンナさんが段々とメイドじゃなくなってる気がするのは、俺の勘違いなんだろか。


 この世界では、砂糖は高級品である。カイトは気にせずに大量に購入しているが、庶民の口には中々入らない。蜂蜜も存在するのだが、こちらも希少品である。ヒュージビーと言う、中型犬サイズの魔物の巣から採れる為、採取が難しく市場には出回らない。

 今度、ヒュージビーの巣から蜂蜜をいただきに行こう。
 きっとエルやルキナも喜んでくれるだろう。



「ねぇねぇ、カイトおにいちゃん。今日の晩ごはんなぁに?」
「なんだルキナ。今食べたばかりなのに、もう晩ご飯の話なの?」

 ルキナも初めて会った頃から比べれば、随分とふっくらして子供らしい体形になってきた。
 栄養状態も改善されたからか、薄いピンクがかった銀の髪もつやつやとしている。白い兎の耳も毛並みがよく、時おりピクピク動く。
 体力も大分ついてきたので、もう少し大きくなったら、護身術でも教えようかと思っている。

「そうだな~、鳥肉がいっぱい余ってるから、鳥肉のクリームシチューにしようか」
「わ~い!クリームシチューだ~い好き!」
「ニンジンも食べなきゃダメだよ」
「ルキナ、ニンジン好きだよ!」

 ルキナがそう言って、俺の膝に乗ってくる。いまだに、ルキナは常に俺がエルに触れていると安心するみたいだ。俺もエルもあえてルキナの好きにさせている。ルキナの心のキズが癒えるのは、時間がかかるだろうから、ゆっくりいこうとエルと話している。


「ルキナ、お姉ちゃんとお昼寝しようか」

 エルがルキナをお昼寝に誘う。

「うん!エルおねえちゃんとお昼寝する」

 ピョンと俺の膝から跳び下りると、エルのもとへ走り寄る。
 エルとルキナが、手を繋いで家に入って行くのを見送って、アンナさんと後片付けを始める。

 こんな平穏な日々も良いもんだな。この世界に来てから、鍛錬しかしていなかった時間が長いからか、こんな何でもない日々も良いと感じた。

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