異世界立志伝

小狐丸

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再びの王都

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 結局、全員で王都へ来ることになった。

「俺が王城に行ってるあいだ皆んなはどうするの」

 ルキナを片手で抱きながら王都を歩く。

「私は一緒に行くわよ」

 エルが一緒に行ってくれるのは有り難い。俺だけじゃ心細すぎる。

「私達は宿で待ってます」

 イリアがそう言うと皆んなが頷く。
 そりゃ王城なんかに行きたくないよな。

「うん、分かった。じゃあ先ずは宿を探すか」



 以前来た時に泊まった、豪華なホテルに泊まることにした。
 スリーベッドルームのスイートルームにした。
 クリストフ君は、王都の屋敷にレイラさんへの事情説明を兼ねて、バスターク家の屋敷で一泊する。

「じゃあ行って来るね」
「早く帰って来てね」

 ルキナが俺の腰にしがみついている。
 母親のイリアと再会してから、少しだけ俺達への依存度は下がったけど、男親が居ないからか、兄兼父親替わりなのか、相変わらず甘えて来ることが多い。

「せっかくだから、王都見学して来れば良いよ。
 お小遣い渡しておくね」

 金貨10枚をイリアに渡しておく。

「カイト様、多過ぎます」
「いや、皆んなで好きな物を買って来てよ。よく考えたら、最初に服を買ったきりだったからね」
「そうよ、遠慮なんかしなくても、カイトはお金の使い道が無くて貯まる一方だから」

 エルにそう言われて何とか受け取った。
 確かに俺でも、いきなり100万円渡されると引くな。



 エルと連れだって王城へ向かうと、入り口で招喚状を見せると、控え室の様な部屋に通された。

「なぁエル、謁見とかするのかな?」

 荘厳で豪華な王城の雰囲気に、とても場違い感半端ない。

「多分違うと思うわ。今の時点で有象無象の貴族達に、カイトの事を知られたくない筈だから」

 コン コン

 執事風の文官なのだろうか?呼びに来たようだ。

「お迎えにあがりました」

 迎えに来た人の後に付いて、王城の中を歩き、ある部屋の前でたどり着く。

 コン コン 案内をして来れた人がドアをノックする。

『入れ』中から声が聞こえ、執事風の人がドアを開ける。

「どうぞ、中へお入り下さい」

 中へ入るよう促され部屋に入ると、そこは会議室の様な場所だった。
 その部屋に、見知らぬ男性が3人待ってた。

「そこに立って居ないで座りたまえ。正式な謁見ではないから、礼儀を気にする必要もない」

 そう言われて、とりあえず言われた通りに座る。
 俺に礼儀を求められても、元はアラフォーのしがないサラリーマンだ。お偉いさんなんて会う機会もなかった。

 エルからの事前情報によると、この国の王バージェス・サーメイヤは、賢王として知られているそうだ。
 元々この国は、他の人族主体の国の中では、唯一種族間差別を国法で禁止し、種族間融和を進めて来た。さらに当代の王になってからは、他国の侵略に対してのみ軍を動かすが、他国へ侵攻した事はない。戦争よりも魔物による国民の被害を減らす為に力を注いできたそうだ。

 エルも幼い頃から何度か会う機会があったそうだ。

「先ずは自己紹介をしておこう。予がこの国の王、バージェス・サーメイヤだ」

 やっぱりこの人が王様だったか、40歳位で引き締まった身体は、どちらかと言うと武人の雰囲気を醸し出している。
 王様自ら自己紹介したり、かなり気さくな方なのかもしれない。

 その横にいかにも文官と言う壮年の男と、反対側に座るガッシリとした体躯の40歳半ばの男は、間違いなくエルの父親、バスターク辺境伯だろう。
 だって物凄い目で俺を睨んでいる。

「ノトスの街の冒険者、カイトと申します」
「同じくノトスで冒険者をしております。カイトの妻のエルレインでございます。陛下に拝謁の機会を頂き光栄に思います」

 エルが俺の妻と言った瞬間から、バスターク辺境伯が血走った目で、さらに俺の事を睨んで来る。
 視線で人を殺せそうだ。
 エルはエルで、父親の事が気に入らないのか、部屋に入ってからずっと無視している。

「私が宰相を任せて頂いている、メルコム・フライヘーア・フォン・メッテヒルニと申します。お見知り置きを」

 文官ぽい人は宰相だったのか。

「……ゴドウィン・マーグレイブ・フォン・バスタークだ」

 俺を睨みながら自己紹介するエルの父親。
 勘弁してほしいけど、エルとそうなっているのは事実だからな。

「背後に控えているのが、サーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバードだ」

 王様の背後に、さっきからずっと立っている騎士鎧を着た壮年の男を王様が紹介する。

「先ずは予から礼を言いたい」

 王様が話し始める。

「先の帝国の侵攻を防いでくれた事感謝する。我が国の国土が蹂躙され、民に被害を被るところであった」
「ここからは、私がお話しします」

 宰相が話を引き取る。

「先の帝国の侵攻時の多大なる貢献に対して、準男爵への授爵が決まっています。
 本来、勲功爵としては騎士爵までが決まりなのですが、今回は特例的に準男爵への授爵と陞爵が決まりました。
 ただ、準男爵ではバスターク辺境伯の長女であるエルレイン様との釣り合いが取れません。
 そこでカイト殿には、毒蛇王タイラントトライヘッドバイパーの討伐を王国から指名依頼致します。その毒蛇王の討伐を持って、男爵への陞爵が決まっています」

 俺が準男爵?男爵?

「そのお話、謹んでお受けします」

 俺が当惑するあいだに、エルがこの話を受けていた。

「有り難い。だが、話はこれだけではないのだ。未開地の探索をした、貴殿らならば気付いたと思うが、彼の地は毒蛇王の森さえ何とかなれば開発出来る土地が広がっています。
 ですが、毒蛇王が討伐されても、森はAランク推奨の危険地帯に変わりありません。
 並みの冒険者や貴族家の領軍では、森に分け入るのは無理でしょう。
 そこで男爵となったカイト殿に、未開地を領地として下賜することになりました」
「故に、次に会う時は謁見の間での陞爵の儀になろう。
 今日は態々王都までご苦労だった。期待しておるぞ」

 王様が騎士団団長と退出して行った。

「では、これが依頼書になります。授爵と陞爵の儀を行なっていませんが、カイト殿は既に準男爵となりましたので、国からは年金が支給されます」

 宰相から依頼書と革袋に入ったお金が渡された。

「では、私も仕事が有りますので、これで失礼します」

 宰相が部屋を退出する。

「さっ、カイト、皆んなが待ってるわ。ホテルに帰りましょう」

 エルが席を立ち、さっさと帰ろうとする。


「ま、待たんかー!エルレイーーン!!」

 ゴドウィンの叫び声だけが響いていた。

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