異世界立志伝

小狐丸

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娘の彼氏には会いたくないものです。

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「ま、待たんかー!エルレイーーン!!」

 部屋にバスターク辺境伯の声が響く。

「あらっ?何かしらバスターク卿」

 さっさと部屋を出て行こうとしていたエルをバスターク辺境伯、要するにエルの父親が呼び止めた。

「お前はいつになったら帰って来る気だ!」

 バンッ!テーブルを叩いて立ち上がる。
 ただ、その間俺の方をチラリとも見もしない。
 やっぱり男親は、娘に変な虫がついたと思うのかな?確かに貴族家の娘に、既にやる事やってるのは不味かったかな。

「私の帰る場所は、カイトの元よ。それ以外ないもの」
「陛下は認められたが、儂は許さんぞ!」
「あら?陛下の決定に臣下が逆らうのかしら?」

 このままじゃ不味いよな……。

「エル、ゆっくりと話し合ったらどう。俺はホテルに戻ってるよ」
「いいのよカイト。話すことはないわ」

 エルはそう言うと俺の腕を取り、さっさと部屋を出て城の外へ歩き出した。

「待たんかーーー!!」

 エルの父親さんの叫び声が響いていたが……。



 王城を出て、エルと腕を組みホテルへの道を歩いている。

「良かったのかエル?」
「あれで良かったのよ。カイトは私が豚の所へ嫁がされても良いの?」
「言い訳ないじゃないか」

 それは俺だって、今更エルを誰にも渡す気は無い。

「ただ、少しエルのお父さんの気持ちも分からないではないからね」

 俺も結婚はしなかったけど、アラフォーのおっさんだっただけあって。娘を嫁に出す父親の気持ちも同僚から良く聞かされていた。

「特にエルは貴族の娘だからな」
「今はただの冒険者よ。違うわね、準男爵夫人かしら」

 エルがにっこりと微笑んで俺を見る。

「その事だけど、平民がいきなり準男爵なんて大丈夫か」

 勲功爵は通常、騎士爵の筈だ。いきなり準男爵なんて前例がない筈だと思う。

「その辺は書類を誤魔化すんじゃないの。準男爵から直ぐに男爵にして、開拓が成功したら将来的には子爵か伯爵位にとは考えていると思うわ」
「ふ~~ん」

 俺は、あの未開地を貰えるなら良い話かもと考えていた。その位にはあの場所は気に入っていた。
 海には海の魔物が居るらしいから、小型の舟は出せないそうだが塩が作れる。
 森をある程度伐採して、魔物の領域を縮小出来れば、あの土地は発展するだろう。

「カイトもあの未開地気に入ったんでしょう」
「もっ、て事はエルも気に入ったのか?」
「だって海があるのよ。湖もあるし広い草原に、なだらかな果樹を育てられる斜面もあるわ。川が二本あるから水の心配もないし理想的じゃない」

 俺は長年小屋で住んでいたから、自然の中で暮らすのに抵抗はないけど、エルみたいな貴族令嬢が大丈夫かな?



 あれこれ話しながらホテルに着き、部屋のドアを開けると、ルキナが飛びついて来た。

「おかえりなさ~い!」
「ただいま」

 抱きあげるとルキナがしがみついて頭をグリグリ擦り付ける。

「なんだルキナ、いつにも増して甘えただな」
「今日はカイトおにいちゃんと寝るの」
「そっか、そういや最近一緒に寝てないな」

 ルキナが家に来た当初、四六時中一緒だった。勿論お風呂も一緒だし、寝るのも三人で寝ていた。
 母親のイリアがカイトに救われ、一緒に住む事になってからは、一緒に寝ることは余りなかった。

「よし!じゃあ今日はルキナと一緒に寝ようか」
「うん!一緒に寝るの」

 その様子をイリアは微笑んで見ている。



 次の朝、王都の屋敷に泊まっていたクリストフ君がホテルに訪ねて来た。その後ろには、レイラさんとフレデリックさんも一緒のようだ。

「おはようございますカイトさん、姉上」
「「おはよう」」

 スイートルームのリビングで、皆んなでお茶を飲んで寛ぐ。

「それで毒蛇王の森へは、直ぐに出発するんですか?」

 クリストフ君が聞いて来る。

「うん、今日の昼には出発しようと思う。明日の日が暮れる前には着くだろうし、次の朝から討伐かな」

 クリストフ君が真剣な表情を見て、何が言いたいのか察する。

「僕も連れて行って下さい」
「……そうだな、クリストフ君もう直ぐだよね聖騎士。この遠征でイケるか……」

 俺も中途半端で放り出すのは、勿体無いかと考えた。クリストフ君は、十二歳という年齢にして、既に国内の騎士の中でもトップクラスなのは間違いない。

「そうだな、バスターク辺境伯領に帰った時に、少しでも力をつけておいた方が良いか」
「クリストフのことよろしくね」

 レイラさんもクリストフ君が、毒蛇王討伐に同行することに反対ではないみたいだ。

「分かりました。必ず無事に返します」
「それよりも、ウチの人が御免なさいね。エルレインと言い合って、カイト君にちゃんと挨拶もしていないんでしょう」
「いや、娘の父親なんて皆んなそうだと思いますよ。大事な娘に虫が付いて帰って来たんですから」

 レイラさんが、コロコロと笑う。

「自分で虫なんて言っちゃダメよ」
「そうよ、私の旦那様なんだから虫なんて言っちゃダメ」

 レイラさんとエルが微笑みながら言う。

「ルキナも、カイトおにいちゃんのお嫁さんになるの」
「あら、お母さんの方が先よ」
「いえ、コレットが先です」

 カイトに抱かれているルキナが言うと、イリアとコレットが爆弾を放りこんでくる。

「あらあら、ウチの婿さまはモテモテね」
「いやぁ、皆んな冗談がキツイんだから」
「「冗談ではありませんよ」」

 おうふっ、マジか!俺ってモテ期?

「ふふっ、これはカイト君頑張らないとね」

 これは何としても、未開地の開発を成功させなきゃいけないな。

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