異世界立志伝

帰ってきた日常

　戦争から一月が過ぎた。
　俺は新しく領地となった旧チラーノス辺境伯領の、半分程の広大な領地を掌握するのに忙しく働いていた。
　何せ、今までの領地の開発も同時に行わないといけないので人手が足りない。
　各地から集まった職人や領民による人海戦術と合わせて、俺やエル、ルシエル、コレット、他にも魔法使い部隊が魔法を使っての領地開発に勤しんでいるけど、人手が足りないのは解消されていない。

　治安維持の為の守備隊も全く足りていない。

　そこで俺は領地となった、旧チラーノス辺境伯領の街にある奴隷商で、犯罪奴隷以外で使えそうな人材を片っ端から買った。
　特に、奴隷狩りにあって、無理矢理連れて来られた獣人族、ドワーフ族、エルフ族は全て解放した後、協力を要請した。
　他にも、俺の領地となったいくつかの街を拠点としていた豪商達が買った違法奴隷を解放した。
　サーメイヤ王国での違法であって、ゴンドワナ帝国では合法だったのだろうが、この地はもうドラーク子爵領なのだから、王国法に基づいて治めていく。

　胸くそ悪い話だが、チラーノス辺境伯の屋敷にも、無理矢理連れて来られ、売られたエルフや獣人族の奴隷が多く居た。
　彼等彼女達を解放し、希望があればドラーク子爵領の民として暮らして貰う事にした。
　幸いにもエルフにはルシエルが、獣人族にはバルデス、ボーデン、ユーファンが、ドワーフにはスーラがサポートしてくれて助かった。

　斥候職のホビット族サンクと、諜報部隊を纏めるフーガが、いまだに混乱が続く帝国で、奴隷狩りの犠牲にあった者達の保護に向かった。

　保護された元奴隷達は、全員ウチの領民として残ってくれた。
　獣人族は主に騎士団や守備隊に、戦闘が苦手な獣人族はメイドや文官に、エルフも騎士団や守備隊以外に文官や狩人に、ドワーフは鍛治師や大工などの職人になる事を望んだ。
　特に性奴隷にされていたエルフや獣人族の女性は、ルシエルやコレットに心のケアをお願いして、暫くの間、領主館で保護する事になった。



　そんな忙しい日々を過ごし、領地へ転移で帰った時、屋敷の雰囲気が少しいつもと違うのに気付く。

　イリアとルキナと一緒にお風呂へ入り、一日の汚れを落としてリビングのソファーに座る。

　アンナさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、自分の感じた違和感を聞いてみる。

「なあエル、なんかあった？」

　決して悪い事があったような感じではないので、よけいに訳がわからない。

　領主館の広いリビングには、エルの他にルシエル、コレット、イリアとルキナ、アンナさんを除けば俺の家族が勢ぞろいしていた。

「ふふふっ、おめでたですよカイト様」

「……へっ？！」

　アンナさんが満面の笑みでそう言う。

「……エル！子供が出来たのか！」

「カイト、落ち着きなさい」

「いやっ！落ち着けないよ！」

　エルが落ち着けと言うけど、落ち着いてる場合じゃないよな。だけどエルはその後さらなる爆弾を落としてきた。

「私だけじゃないのよ」

「えっ？！」

「ルシエルとイリアもよ」

「…………」

　確かにする事してるんだから不思議じゃないんだろうけど……。

「子供が出来にくいハイエルフの私が子を授かるなんて、神にいくら感謝してもしきれません」

　ルシエルが聖母のように微笑んで、自分のお腹をさすっている。

「カイト様の護衛に暫く付けないのが残念ですが、出来るだけ早く復帰出来るようにします」

「イヤイヤイヤ、イリアはお腹の子供の事だけ考えて。護衛は代わりはいるんだから」

「ルキナの妹か弟が出来るの？」

　ルキナが嬉しそうに聞いてくる。

「そうだよ、ルキナはお姉ちゃんになるんだよ」

「やったーー！！」

　ルキナがソファーの上でピョンピョン跳ねる。

「カイト、だから暫く私達は領都付近での開発ぐらいしか出来ないの」

「イヤイヤ、エルもルシエルも無理だけはしてくれるなよ」

「大丈夫ですよカイトさん。私がエルさん、ルシエルさん、イリアさんのサポートをしますから」

　回復魔法の得意なコレットが居てくれれば大丈夫だろう。

「頼むよコレット、皆んなも自分と子供の事を優先で頼むよ」

　一度に三人が妊娠するなんて、今まで以上に頑張らないと……。