異世界立志伝

小狐丸

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最悪のシナリオ

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 サーメイヤ王国の中立派が地盤を固め、国王派や貴族派へのプレッシャーをかけていた。

 俺の義父を中心に、準備を始めてしばらくすると、ゴンドワナ帝国とローラシア王国から思いもよらぬ情報が届いた。
 それは、ゴンドワナ帝国とローラシア王国両国で、少しの時間差はあれど、ほぼ同時に内乱が発生し、それにともないサーメイヤ王国国内も不穏な空気が漂い始めた。

 ちょっと考えてみれば、ゴンドワナ帝国やローラシア王国は、内乱が何時起こっても不思議ではない状態だったのだろう。
 度重なる戦争、敗戦続きのゴンドワナ帝国はもとより、ローラシア王国も対帝国では勝ちきれずに国力だけが疲弊していた。



「ゴンドワナ帝国、ローラシア王国、どちらの内乱も終息の兆しが見えません。
 内乱には一般の市民だけでなく、一部の兵士や騎士まで参加している模様で、より混乱が拡大しているようです。
 我が領と、バスターク辺境伯領の国境は、既に固めています」

 フーガからもたらされた報告は、国内の地盤を固める為に奔走していた、俺や義父であるバスターク辺境伯にとって最悪のタイミングだった。

「はぁ……、確かに、ゴンドワナ帝国もローラシア王国も、何時内乱が起こっても不思議じゃない状態だよな」

 小競り合いを含め、あれだけ頻繁に軍を動かしていれば、その戦費は結局国民がツケを払う事になるのだから。

「それで、義父上の所へも報告してくれたんだよな」

「はい、バスターク辺境伯を始め、中立派へは警戒を促しています」

 バスターク辺境伯家にも、優秀な諜報部門があるだろうけど、中立派で情報を共有しておく必要がある。

「ランカスとバルデスに新兵の訓練を兼ねて、魔物の領域での食肉確保を勧める様に言っといてくれ。
 確実にサーメイヤ王国にも大きな影響があるからな。
 特に食糧確保は早急に進める必要がある」

 今までもゴンドワナ帝国とローラシア王国からは、流民が多数流れて来ていたが、戦争難民が大量に流入して来る事が予想される。

「我が領とバスターク辺境伯領なら、まだある程度戦争難民を受け入れる事が出来るでしょうが、他領では支えきれないでしょう」

「そうだよな」

 そうなった場合、治安の悪化どころか、サーメイヤ王国内で内乱が起こるかもしれない。それも他国の難民、自国の国民、王国と三つ巴の内乱が……。

「国内の貴族家で、体力がない家も多いからな」

「はい、我ら中立派はまだマシですが、国王派と貴族派の中には、借金で首が回らない家も多いですから」

「そんな家にかぎって、見栄だけでパーティーばっかり派手にやってるんだから救えないよな」

 貴族家が大金を使ってパーティーを開いたり、移動途中の街でお金を使うのは、国内市場にお金を回す意味もあるので無駄な訳でもない。ただ、領民に重税を課してまで見栄を張り、血税を散財する貴族家の多いことか。

「今のままでも、中立派以外の領地持ち貴族家なら、どこで領民が蜂起しても不思議ない状態ですからな」

 諜報部が集めた情報から、フーガが分析したところによると、サーメイヤ王国は、俺達中立派以外の貴族家は、今の時点でギリギリの家が多いと言う。
 その中で、例外的に問題ないのがベルトルト公爵家という辺りが、さすがと言うか何と言うか。

「万が一、俺達の領地以外に難民が流入した場合、出来ればバスターク辺境伯領とドラーク伯爵領へ誘導する様にしてくれ。
 馬鹿な貴族家が、難民を奴隷に落としたり、最悪虐殺しかねんからな」

「…………やりかねない家が数家ありますな。
 分かりました。その様に取り計らっておきます」

「難民の中に、間者が混ざってないかのチェックもしなければいけませんね」

 そこで、ずっと横でイリアが懸念を示す。

「そうだな。それだけじゃなく、選民思考が強い人間は、ウチの領地じゃトラブルの元だから、その辺の問題も起こるかもしれないな」

 サーメイヤ王国は、種族間差別を法律で禁止している。その中でも、俺のドラーク伯爵領では、人族以外の割合が、サーメイヤ王国内で最も多い。
 獣人族、エルフ、ドワーフ、ホビットを合わせると、その割合は半数を超える。
 その中に、種族間差別が根強いゴンドワナ帝国やローラシア王国からの難民が流入すれば、トラブルが起きない訳がない。
 今までは、流民の意識改革しながら受け入れて来た。それでも全くトラブルがなかった訳じゃない。これが、大量に難民が流入する様になると、俺達の対応にも限界があるだろう。

「難民村を建設するしかないか。

 フーガ、即応部隊を増強する様に指示を頼む」

 俺は、工兵部隊への難民村建設と、何時でも軍を動かせる準備を指示した。

 この大陸南にある、三国騒乱の時代が訪れようとしていた。


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