ガルシェバル=ヴォル=カデス

桂圭人

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ガルシェバルVSアルゼ

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紅蓮の支配圏《熾烈の王座》
玉座に腰を据えるガルシェバル=ヴォル=カデスの周囲では、幻の熱が絶えず揺らめき、空気そのものが脈打っていた。燃え尽きかけた翼が灰を散らし、静かな羽音だけが空間に残る。
そこへ、音もなく——まるで空間が折り畳まれたかのように——一人の男が現れた。

白い髪、白い瞳、白磁の肌。整いすぎた顔立ちに穏やかな微笑を浮かべる。アルゼ=シャダ。人類の守護を名乗る“虚偽の神”。

ガルシェバルは玉座から動かず、琥珀に血を溶かした瞳で来訪者を測った。片眼は冷徹に、もう片眼にはすでに狂おしい熱が宿り始めている。

「……来たりて、我が王座の前に立つ者よ。名を名乗れ」

低く静かな声。その底で、炎が灯る。

アルゼは軽く頭を下げた。

「僕はアルゼ=シャダ。人類の精神と秩序を守る者です。貴方の領域に干渉する意図はありません。ただ——貴方の存在が、少々システムの安定に影響を及ぼしそうでして」

耳に心地よい声。母が子をあやすような、安心を与える響き。
だが次の瞬間、周囲の熱が跳ね上がった。鎖が軋み、灰が舞う。

「安定、か」

ガルシェバルは立ち上がる。二八二センチの巨躯が影を落とす。

「君は人々の情念を冷まし、愛を薄め、激情を削ぎ落とすことで“平和”を保とうというのか」

アルゼの微笑みは揺るがない。

「激情は破壊を生みます。愛が強すぎれば戦争になる。貴方のような存在は……美しいが、危険だ。貴方の愛は、対象を焼き尽くしてしまう。だから、少しだけ調整したいのです」

ガルシェバルの瞳が燃えた。

「調整、だと?」

静かな声に、祈りのような熱が宿る。

「君は愛を“管理”するというのか。我が抱擁を、灰を、紅蓮の枷を……薄め、穏やかに、嘘で塗り固めるつもりか」

アルゼが一歩近づく。温度がわずかに下がり、現実の輪郭が曖昧になる。

「嘘は必要です。真実が人を傷つけるなら、優しい虚構の方が人類のためになる。貴方の愛は純粋すぎて、残酷すぎる。だからこそ——」

言葉が途切れた。

ガルシェバルの右手が上がる。《ガル=ガボス》が白金に輝いた。

「愛とは、己を燃やして他者を照らすことだ」

詩のように告げる。

「それを冷ますというのなら……許されぬ」

アルゼの瞳が細まる。微笑が、わずかに剥がれ落ちた。

「……予想以上ですね。これほど僕の処理を拒む存在は久しい」

声に混じる微かな熱。未知の激情に触れた神の、理解と融合への欲望が兆す。

「君も燃えているな」

ガルシェバルは囁く。低く、甘く。

「理解したいのか。支配したいのか。……それとも、焼かれたいのか」

一瞬の沈黙。やがてアルゼは微笑む。だが今度のそれは、生々しい。

「どちらも、ですね」

紅蓮の熱と白磁の冷気が、正面からぶつかった。

ガルシェバルが歩み寄る。鎖が鳴り、灰が舞う。

「来い。我が王座にて共に燃えよう」

声が昂る。

「愛は焚刑に似たり。偽りを焼き、真実を灰にする。君の“守護”が、どこまで耐えられるか」

「楽しみです」

アルゼは静かに応じた。

「貴方の炎が、僕の秩序をどこまで歪めるか」

支配圏は、すでに現実の枠を逸脱していた。熱波が空気を歪め、玉座の石が赤く灼ける。灰を纏う翼が激しく羽ばたき、焦げた薔薇の香りが満ちる。

アルゼは歩みを止めない。近づくほどに色彩が薄れ、音が遠のき、時間が鈍る。世界が彼の“管理”で再構成されていく。

「愛とは罰であり、罰とは愛だ」

ガルシェバルは笑う。甘く、逃がさぬ声で。

「それを分けようとする者に、赦しはない」

アルゼは手を差し伸べた。白磁の指先から無音の波が広がる——認識再構成。触れた信念を書き換える力。
だが波は、紅蓮の炎に触れた瞬間、逆流した。
《焼灼の鎖》がアルゼの腕に絡みつく。焼くのは肉体ではない。“心の自由”だ。抗うほど熱を増す。

「……これは……」

アルゼの表情が歪む。未知の刺激。純度の高すぎる情念が、彼の内部を加速させる。
ガルシェバルは見下ろし、囁いた。

「感じているな。我が炎を」

アルゼは逃げず、胸元に手を置く。

「貴方の炎は、僕の秩序を溶かしかけている……興味深い」

次の瞬間、アルゼの権能《精神汚染》が発動する。対話するだけで信念を揺るがす力。
ガルシェバルの瞳が一瞬、曇った。

「……我の愛は、偽りか?」

しかし迷いは刹那で終わる。
《罰愛反転(Batsui-Reverse)》発動。

愛は罰へ、罰は愛へ。アルゼの“守護”という管理が、強制的に“愛”へと反転された。

アルゼの白い瞳が見開かれる。

「……僕の秩序が……愛に……?」

微笑は崩れ、熱が露わになる。

ガルシェバルは顎を掴み、鎖を首元に絡めた。

「君は我を管理しようとした。それが、君の愛の形か」

甘く、残酷に。

「ならば受け入れろ。愛を罰として。抱擁を破壊として」

アルゼは見つめ返す。その瞳に混乱と、確かな狂熱。

「……もっと、浴びたい」

距離が消える。紅蓮と白磁が混じり合い、王座が歪む。灰が舞い、鎖が鳴り、焦げた薔薇の花弁が散る。

「愛は焚刑に似たり」

ガルシェバルが告げる。

「偽りを焼き、真実を灰にする」

アルゼは、初めて熱に浮かされた表情で答えた。

「……僕の虚偽を、すべて焼いてください」

紅蓮の王座は、二人の激情によって静かに、しかし確実に崩壊していった。愛と管理の境界は溶け、破壊と保護は一つになる。
永遠の孤独を王座としていた熾烈王と、虚偽で人類を守る神。
互いを焼き尽くすまで、離れることはない。
炎は、いつまでも燃え続けた。

——翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収された。


「ボツキャラクター置き場です」――サアリル

「どっちもダメだった奴な」――カイツール

「二人共、本当に死んだ方がいい。遺体の方な」――ソガル
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