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ガルシェバルVSルーヴァ
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灰の王座の間は、いつものように熱を孕んでいた。
紅蓮の炎が壁を舐め、床の黒鉄を溶かさんばかりに揺らめく。中央に据えられた《熾烈の王座》――溶けかけた冠を戴くその玉座に、ガルシェバル=ヴォル=カデスは腰掛けていた。二百八十二センチの巨躯は微動だにせず、琥珀と血を溶かしたような双眸が、ただ一人、部屋に足を踏み入れた来訪者を捉える。
ルーヴァ=エイシェン。
漆黒のコートを翻し、白銀の髪が灰の粒子を散らす。腰の“ヴァージニア”は、まだ銃口を伏せたままだ。
二人は言葉を交わさず、沈黙で挨拶を済ませた。
やがて、ガルシェバルが低く、静かに口を開く。
「……来たな、灰の王子」
ルーヴァはかすかに微笑む。いつもと変わらぬ、哀しみを湛えた笑みだ。
「熾烈王。お久しぶりですね。相変わらず、暑苦しい部屋だ」
「熱は愛の証だ」
抑揚のない声。その言葉尻に、かすかな炎が灯る。
「……君は冷ましてきたな。その灰は、誰の残りだ?」
ルーヴァは一歩、前に出る。靴音が鉄床に響き、灰が舞い上がった。
「銀警察の、ですね。……正確には、かつての同僚たち。僕が撃ち抜いた心の、残り火です」
ガルシェバルの片眼が細まる。もう片方は、狂おしいほどに輝いた。
「裏切りを灰にしたか。それで、満足したのか?」
「満足?」
ルーヴァは首を振る。
「違います。ただ、必要だった。……彼らは情を捨て、命令に従う機械になっていた。僕は、それを人間に戻したかった」
「人間に戻す、か」
ガルシェバルはゆっくりと立ち上がる。背後で、燃え尽きかけた翼が灰を散らした。
「君は秩序を壊し、律法を焼いた。そして今、ここへ来た」
ルーヴァは静かに銃を抜く。銀の銃身が紅蓮を映し、冷たい光を放った。
「貴方を、止めに来ました」
瞬間、王座の間の温度が跳ね上がる。
ガルシェバルの周囲に、焼灼の鎖が無音で展開し、赤黒い炎がルーヴァの足元へと這い寄った。
「止めに来た、だと?」
その声に、初めて熱が混じる。
「……君は、僕の愛を知らぬのか?」
ルーヴァは動じない。穏やかに、しかし確かに答える。
「知っています。……貴方は、愛するものをすべて燃やし尽くす。だからこそ、止める」
ガルシェバルが一歩踏み出す。床が軋み、熱波がルーヴァの頬を打った。
「愛とは、己を燃やして他者を照らすことだ」
彼は呟く。
「君を照らすためなら、この王座も、この翼も、灰にして構わぬ」
ルーヴァの白い瞳が、わずかに揺れる。
「……僕は、灰から人を再生させることしかできません。貴方のように、すべてを燃やして愛することは」
「ならば、僕と燃えろ」
ガルシェバルは右手を差し伸べる。掌で紅蓮の炎が渦を巻いた。
「共に灰になれば、君が望む“人間の温度”も、永遠に残る」
ルーヴァは銃を構えた。
ヴァージニアの銃口が、ガルシェバルの胸を捉える。
「ごめんなさい……僕は、誰かと並んで生きたかった。でも、貴方と並ぶことは、すべてを終わらせる」
ガルシェバルは微笑んだ。狂おしく、それでいて優しく。
「それでいい。愛は焚刑に似ている。偽りを焼き、真実を灰にする。君が僕を撃てば、僕の愛は完成する」
ルーヴァの指が、引き金を引いた。
銃声。
情の流弾が、ガルシェバルの胸を貫く。
熾烈王の巨躯が、わずかに揺れる。琥珀の瞳に、初めて――本物の驚きが宿った。
「……これは?」
ルーヴァは銃を下ろさないまま、静かに告げる。
「感情です。……貴方が忘れていた、痛みと慈悲と、ただ抱きしめたいという、愚かな願い」
焼灼の鎖が音を立てて崩れ落ちる。
紅蓮の炎は揺らぎ、やがて灰へと変わった。
「……君は、僕に“愛の欠如”を撃ち込んだのか?」
「いいえ」
ルーヴァは一歩、近づく。
「貴方が愛しすぎて壊すのを、止めるための、愛です」
ガルシェバルはゆっくりと膝をついた。背の翼は、最後の一片まで灰となって散る。
「……灰の王子よ。君は、僕を救ったのか? それとも、焼き尽くしたのか?」
ルーヴァはそっと、その肩に手を置いた。
そこに、熱はもう残っていない。
「両方です。……僕たちは、似ている。壊すことでしか、救えない」
王座の間は、静寂に包まれた。
灰だけが、二人をやさしく覆っていた。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収されました。
紅蓮の炎が壁を舐め、床の黒鉄を溶かさんばかりに揺らめく。中央に据えられた《熾烈の王座》――溶けかけた冠を戴くその玉座に、ガルシェバル=ヴォル=カデスは腰掛けていた。二百八十二センチの巨躯は微動だにせず、琥珀と血を溶かしたような双眸が、ただ一人、部屋に足を踏み入れた来訪者を捉える。
ルーヴァ=エイシェン。
漆黒のコートを翻し、白銀の髪が灰の粒子を散らす。腰の“ヴァージニア”は、まだ銃口を伏せたままだ。
二人は言葉を交わさず、沈黙で挨拶を済ませた。
やがて、ガルシェバルが低く、静かに口を開く。
「……来たな、灰の王子」
ルーヴァはかすかに微笑む。いつもと変わらぬ、哀しみを湛えた笑みだ。
「熾烈王。お久しぶりですね。相変わらず、暑苦しい部屋だ」
「熱は愛の証だ」
抑揚のない声。その言葉尻に、かすかな炎が灯る。
「……君は冷ましてきたな。その灰は、誰の残りだ?」
ルーヴァは一歩、前に出る。靴音が鉄床に響き、灰が舞い上がった。
「銀警察の、ですね。……正確には、かつての同僚たち。僕が撃ち抜いた心の、残り火です」
ガルシェバルの片眼が細まる。もう片方は、狂おしいほどに輝いた。
「裏切りを灰にしたか。それで、満足したのか?」
「満足?」
ルーヴァは首を振る。
「違います。ただ、必要だった。……彼らは情を捨て、命令に従う機械になっていた。僕は、それを人間に戻したかった」
「人間に戻す、か」
ガルシェバルはゆっくりと立ち上がる。背後で、燃え尽きかけた翼が灰を散らした。
「君は秩序を壊し、律法を焼いた。そして今、ここへ来た」
ルーヴァは静かに銃を抜く。銀の銃身が紅蓮を映し、冷たい光を放った。
「貴方を、止めに来ました」
瞬間、王座の間の温度が跳ね上がる。
ガルシェバルの周囲に、焼灼の鎖が無音で展開し、赤黒い炎がルーヴァの足元へと這い寄った。
「止めに来た、だと?」
その声に、初めて熱が混じる。
「……君は、僕の愛を知らぬのか?」
ルーヴァは動じない。穏やかに、しかし確かに答える。
「知っています。……貴方は、愛するものをすべて燃やし尽くす。だからこそ、止める」
ガルシェバルが一歩踏み出す。床が軋み、熱波がルーヴァの頬を打った。
「愛とは、己を燃やして他者を照らすことだ」
彼は呟く。
「君を照らすためなら、この王座も、この翼も、灰にして構わぬ」
ルーヴァの白い瞳が、わずかに揺れる。
「……僕は、灰から人を再生させることしかできません。貴方のように、すべてを燃やして愛することは」
「ならば、僕と燃えろ」
ガルシェバルは右手を差し伸べる。掌で紅蓮の炎が渦を巻いた。
「共に灰になれば、君が望む“人間の温度”も、永遠に残る」
ルーヴァは銃を構えた。
ヴァージニアの銃口が、ガルシェバルの胸を捉える。
「ごめんなさい……僕は、誰かと並んで生きたかった。でも、貴方と並ぶことは、すべてを終わらせる」
ガルシェバルは微笑んだ。狂おしく、それでいて優しく。
「それでいい。愛は焚刑に似ている。偽りを焼き、真実を灰にする。君が僕を撃てば、僕の愛は完成する」
ルーヴァの指が、引き金を引いた。
銃声。
情の流弾が、ガルシェバルの胸を貫く。
熾烈王の巨躯が、わずかに揺れる。琥珀の瞳に、初めて――本物の驚きが宿った。
「……これは?」
ルーヴァは銃を下ろさないまま、静かに告げる。
「感情です。……貴方が忘れていた、痛みと慈悲と、ただ抱きしめたいという、愚かな願い」
焼灼の鎖が音を立てて崩れ落ちる。
紅蓮の炎は揺らぎ、やがて灰へと変わった。
「……君は、僕に“愛の欠如”を撃ち込んだのか?」
「いいえ」
ルーヴァは一歩、近づく。
「貴方が愛しすぎて壊すのを、止めるための、愛です」
ガルシェバルはゆっくりと膝をついた。背の翼は、最後の一片まで灰となって散る。
「……灰の王子よ。君は、僕を救ったのか? それとも、焼き尽くしたのか?」
ルーヴァはそっと、その肩に手を置いた。
そこに、熱はもう残っていない。
「両方です。……僕たちは、似ている。壊すことでしか、救えない」
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