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ガルシェバルVSガシャレル
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紅蓮の王座の奥、焦げた薔薇の香りが玉座の間に満ちていた。
ガルシェバル=ヴォル=カデスは、胸元に残る焼痕の紋章をなぞり、静かに腰掛けている。背後の翼は灰を零し、わずかに揺れるたび空気は熱を帯びた。
扉が音もなく開く。
白い外套の長身――ガシャレル。王冠に穿たれた無数の眼孔が開閉し、室温とは異なる、理解を侵す冷気を運んできた。
ガルシェバルはゆっくり顔を上げる。琥珀と血が溶け合った瞳が、来訪者を量った。
「――ガシャレルか。久しいな、歪王」
低く、抑えた声。その底に、消え残る熱。
ガシャレルは微笑む。白い瞳が、書板を繰るように瞬いた。
「熾烈王よ。相変わらずだ。焚刑の匂いが心地いい。愛の残り香か、罰の余熱か」
ガルシェバルは立ち上がる。二八二センチの巨躯が空気を押し広げ、鎖が鳴り、幻炎が揺れた。
「用件を言え。知の深淵から這い出てきた君が、挨拶だけで来るはずがない」
ガシャレルは一歩、また一歩と近づく。外套の紋様が、意味を拒む言語を紡ぎ始める。
「単純な問いだ。君は『愛』をどう裁く? 愛する者を縛り、焼き、灰にする律法は――正しいのか?」
ガルシェバルの片眼が細まり、もう片眼が狂おしく輝いた。
「愛とは、己を燃やして他者を照らすことだ。影を恐れるな、と僕は言う。愛は焚刑に似る。偽りを焼き、真実を灰にする。それが僕の律法だ。君の知では届くまい。すべてを迷路に変えるだけだ」
ガシャレルはくすりと笑う。慈悲を装った残虐。
「理解しているとも。君は愛を罰として与え、罰を愛として受け取る。美しい倒錯だ。だが――」
彼が手を挙げると、白金の槍《サガーレバ》が虚空に浮かんだ。
「――その光は本当に相手を照らすのか? それとも、君自身を燃やすだけか? 抱擁は灼熱、口づけは裁き。ならば、君に愛された者は、灰になる前に君を見ることすら許されない」
鎖が激しく鳴る。室温が跳ね上がり、空気が歪んだ。
「慎め、ガシャレル」
静かな声。だが祈りのように熱い。
「僕を縛る者よ、同時に僕を解く者でもあれ――そう願う。だが君は問いを迷路に変えるだけだ。僕の愛を虚偽で汚すな」
ガシャレルは首を傾げ、王冠の眼孔すべてがガルシェバルを射抜く。
「汚す? 違う。真実を置いただけだ。君の愛は孤独を王座とする。燃やし尽くすまで解き放てないからだ。君は永遠に灰を抱く」
瞬間、ガルシェバルの右手が閃く。
《ガル=ガボス》が白金に輝き、銃口が定まった。
「――試すか。僕の愛の欠如を」
引き金は引かれない。代わりに紅蓮の鎖が床を走り、ガシャレルの足元へ絡みつく。踏み出すほど自由が焦げ、心が焼ける――はずだった。
ガシャレルは微動だにしない。鎖は音もなく文字へ崩れ、意味を失い、論理の渦へと解体されていく。
「美しい鎖だ。だが僕の領域では、鎖すら『理解した気になる』幻覚になる。君の愛は、僕には知識の一項目。支配の形式、破壊的情熱の記録に過ぎない」
ガルシェバルの翼が大きく広がる。灰が嵐となり、紅蓮が室を染めた。
「ならば、試してみろ」
低く、甘い囁き。
「僕の情念が、君の知を焼けるか。君の虚偽が、僕の愛を迷路に変えるか」
白金の槍が唸り、紅蓮の炎が応える。槍は直線で、炎は円環で迫り、空間が裂ける。衝突の瞬間、熱と冷が噛み合い、爆ぜた余波が玉座を削った。ガシャレルの足元で床が凍り、次の瞬間、熔け落ちる。ガルシェバルの鎖が再び形を成し、今度は意味を拒む火として叩きつけられた。
二人の王は退かない。
灼熱と深淵。愛と虚偽。罰と理解。
紅蓮の王座の間は、静かに、確実に温度を上げていく。
どちらも退かない。
どちらも、相手を愛し、罰し、理解し、破壊したいと願っていたから。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収されました。
「変なことしないでさっさと死んだら?」――サタリス
「マグマへ飛び込んだらいいんじゃない?」――タルマギシャ
ガルシェバル=ヴォル=カデスは、胸元に残る焼痕の紋章をなぞり、静かに腰掛けている。背後の翼は灰を零し、わずかに揺れるたび空気は熱を帯びた。
扉が音もなく開く。
白い外套の長身――ガシャレル。王冠に穿たれた無数の眼孔が開閉し、室温とは異なる、理解を侵す冷気を運んできた。
ガルシェバルはゆっくり顔を上げる。琥珀と血が溶け合った瞳が、来訪者を量った。
「――ガシャレルか。久しいな、歪王」
低く、抑えた声。その底に、消え残る熱。
ガシャレルは微笑む。白い瞳が、書板を繰るように瞬いた。
「熾烈王よ。相変わらずだ。焚刑の匂いが心地いい。愛の残り香か、罰の余熱か」
ガルシェバルは立ち上がる。二八二センチの巨躯が空気を押し広げ、鎖が鳴り、幻炎が揺れた。
「用件を言え。知の深淵から這い出てきた君が、挨拶だけで来るはずがない」
ガシャレルは一歩、また一歩と近づく。外套の紋様が、意味を拒む言語を紡ぎ始める。
「単純な問いだ。君は『愛』をどう裁く? 愛する者を縛り、焼き、灰にする律法は――正しいのか?」
ガルシェバルの片眼が細まり、もう片眼が狂おしく輝いた。
「愛とは、己を燃やして他者を照らすことだ。影を恐れるな、と僕は言う。愛は焚刑に似る。偽りを焼き、真実を灰にする。それが僕の律法だ。君の知では届くまい。すべてを迷路に変えるだけだ」
ガシャレルはくすりと笑う。慈悲を装った残虐。
「理解しているとも。君は愛を罰として与え、罰を愛として受け取る。美しい倒錯だ。だが――」
彼が手を挙げると、白金の槍《サガーレバ》が虚空に浮かんだ。
「――その光は本当に相手を照らすのか? それとも、君自身を燃やすだけか? 抱擁は灼熱、口づけは裁き。ならば、君に愛された者は、灰になる前に君を見ることすら許されない」
鎖が激しく鳴る。室温が跳ね上がり、空気が歪んだ。
「慎め、ガシャレル」
静かな声。だが祈りのように熱い。
「僕を縛る者よ、同時に僕を解く者でもあれ――そう願う。だが君は問いを迷路に変えるだけだ。僕の愛を虚偽で汚すな」
ガシャレルは首を傾げ、王冠の眼孔すべてがガルシェバルを射抜く。
「汚す? 違う。真実を置いただけだ。君の愛は孤独を王座とする。燃やし尽くすまで解き放てないからだ。君は永遠に灰を抱く」
瞬間、ガルシェバルの右手が閃く。
《ガル=ガボス》が白金に輝き、銃口が定まった。
「――試すか。僕の愛の欠如を」
引き金は引かれない。代わりに紅蓮の鎖が床を走り、ガシャレルの足元へ絡みつく。踏み出すほど自由が焦げ、心が焼ける――はずだった。
ガシャレルは微動だにしない。鎖は音もなく文字へ崩れ、意味を失い、論理の渦へと解体されていく。
「美しい鎖だ。だが僕の領域では、鎖すら『理解した気になる』幻覚になる。君の愛は、僕には知識の一項目。支配の形式、破壊的情熱の記録に過ぎない」
ガルシェバルの翼が大きく広がる。灰が嵐となり、紅蓮が室を染めた。
「ならば、試してみろ」
低く、甘い囁き。
「僕の情念が、君の知を焼けるか。君の虚偽が、僕の愛を迷路に変えるか」
白金の槍が唸り、紅蓮の炎が応える。槍は直線で、炎は円環で迫り、空間が裂ける。衝突の瞬間、熱と冷が噛み合い、爆ぜた余波が玉座を削った。ガシャレルの足元で床が凍り、次の瞬間、熔け落ちる。ガルシェバルの鎖が再び形を成し、今度は意味を拒む火として叩きつけられた。
二人の王は退かない。
灼熱と深淵。愛と虚偽。罰と理解。
紅蓮の王座の間は、静かに、確実に温度を上げていく。
どちらも退かない。
どちらも、相手を愛し、罰し、理解し、破壊したいと願っていたから。
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