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ルーヴァの活躍記録 壹
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銀警察本部、中央指揮室。
警報が鳴り響いていた。赤い回転灯が白銀の壁を血のように染め、スピーカーから無機質な声が繰り返す。
「コード、ZERO SANCTUM発動。内部反乱確認。全員戦闘配置。繰り返す。コード、ZERO SANCTUM――」
指揮室の巨大スクリーンに、ルーヴァ=エイシェンの姿が映し出されていた。漆黒のコートを翻し、腰の拳銃「ヴァージニア」を抜き、ゆっくりと中央通路を歩いてくる。一人で。
レギウス=キングが玉座のような署長席に座り、冷たい瞳でスクリーンを見つめている。傍らにレイモンド=クワントリルが立ち、大斧を握りしめている。
ヴァロとミレイユは戦術部席から、ルークとビショップは思想分析部席から、それぞれ息を殺して見守っていた。
ルーヴァは歩みを止めない。監視カメラに向かって、穏やかに微笑んだ。
「みんな、久しぶりだね」
通信が一方的に割り込まれる。ルーヴァの声が、施設全体に響き渡る。
「僕はもう、決めた。僕が決める」
レギウスの眉がわずかに動く。
「ルーヴァ=エイシェン。即時降伏せよ。第五規則違反――銀警察に逆らう者は敵。死刑を宣告する」
ルーヴァは小さく笑う。哀しげに、優しく。
「署長。君はいつもそうだった。感情を汚れだと言って、すべてを消毒しようとした。でもね、人間は汚れてこそ生きられるんだ。愛して、憎んで、泣いて、笑って……それが温度だよ」
彼は拳銃を構える。銀色の銃口が、カメラに向けられる。
「僕はもう、機械のように命令で動くのはやめた。愛せるうちは人間だ。そう思った瞬間、僕の世界が変わった」
レイモンドが一歩前に出る。
「脅威確認。抹殺準備」
だが、ルーヴァは動かない。ただ、静かに続ける。
「みんなに、伝えたいことがある。規則を守るほど、世界が壊れていくってことに、気づいてほしい。恐れで縛られた秩序は、結局、誰も救わない」
その時、通路に白銀兵たちが殺到する。銃を構え、ルーヴァを取り囲む。
ルーヴァはゆっくりと両手を広げた。抵抗する気配はない。
「撃てばいい。僕を殺せばいい。でも、僕の言葉は残る。灰になってでも、みんなの心に火を灯す」
兵士の一人が引き金を引く。銃声が響く。
だが、弾丸はルーヴァに届かない。彼の周囲に、灰色の粒子が舞い上がり、弾をすべて吸い寄せる。「灰の祈り」
ルーヴァは歩き続ける。兵士たちは、次々と膝をつく。撃たれたわけではない。心に、何かが蘇ったのだ。「情の流弾」――目に見えない弾丸が、彼らの胸を貫いている。
「感情を……感じる……」(気分が悪い……)
「なぜ、こんなに……痛いんだ……」(吐き気がする……)
兵士たちが武器を落とす。涙を流す者もいる。
スクリーン越しに、レギウスが立ち上がる。
「完全思想汚染……! 完全哲学感染だ!」(大変気分が悪い! 完全に吐き気がっ!!!!)
ルーヴァは中央ホールに到達する。そこに、上層部全員が待ち構えていた。
レギウス、レイモンド、ヴァロ、ミレイユ、ルーク、ビショップ。
ルーヴァは静かに立ち止まる。白銀の髪が風になびき、白色の瞳が全員を等しく見つめる。
「僕は悪になるよ。自ら穢れを引き受けて、みんなを解放するために」
彼は拳銃を構え直す。だが、狙いは誰でもない。天井に向けられた。
「これが、僕の反逆だ」
引き金を引く。
轟音とともに、「ヴァージニア」から放たれたのは通常の弾丸ではない。「哲学感染」の弾頭――思想的ウイルスが、施設全体に拡散していく。
空気が震える。壁が、床が、すべてが灰色に染まる。
全員の胸の奥に、抑え込まれていた感情が、一気に蘇る。
ヴァロが太刀を握る手が震えて顔面蒼白になる。
ミレイユが息を詰めて顔面蒼白になり、胸を抑えて膝から崩れ落ちる。
ルークの沈黙が初めて乱れて顔面蒼白になり、ふらつく。
ビショップは顔面蒼白になり、立ちくらみと目眩がし出して、瞳に涙が浮かぶ。
レイモンドが大斧を振り上げる。
「消すべき脅威……!」
だが、レギウスが手を上げて制する。
署長の声が、わずかに震えていた。
「……ルーヴァ。君は、僕の秩序を壊す気か」
ルーヴァは微笑む。永遠の哀しみを宿した瞳で。
「壊すんじゃないよ、署長。癒すんだ。本来あるべき人間の温度を、取り戻すために」
彼はゆっくりと拳銃を下ろす。
「僕はここで死ぬかもしれない。でも、僕の灰は、みんなの中に残る。そして、いつか……みんなが、自分で決める日が来る」
警報が止む。ZERO SANCTUMが、初めて機能不全に陥る。
ルーヴァ=エイシェンは、静かに中央に立つ。
一人で、すべてに立ち向かいながら。
「僕が決める」
その宣言が、白銀の秩序に、決して消えないひびを入れた瞬間だった。
灰の王子は、反逆を完遂した。
死ぬ覚悟で、生きる道を選んだ。
警報が鳴り響いていた。赤い回転灯が白銀の壁を血のように染め、スピーカーから無機質な声が繰り返す。
「コード、ZERO SANCTUM発動。内部反乱確認。全員戦闘配置。繰り返す。コード、ZERO SANCTUM――」
指揮室の巨大スクリーンに、ルーヴァ=エイシェンの姿が映し出されていた。漆黒のコートを翻し、腰の拳銃「ヴァージニア」を抜き、ゆっくりと中央通路を歩いてくる。一人で。
レギウス=キングが玉座のような署長席に座り、冷たい瞳でスクリーンを見つめている。傍らにレイモンド=クワントリルが立ち、大斧を握りしめている。
ヴァロとミレイユは戦術部席から、ルークとビショップは思想分析部席から、それぞれ息を殺して見守っていた。
ルーヴァは歩みを止めない。監視カメラに向かって、穏やかに微笑んだ。
「みんな、久しぶりだね」
通信が一方的に割り込まれる。ルーヴァの声が、施設全体に響き渡る。
「僕はもう、決めた。僕が決める」
レギウスの眉がわずかに動く。
「ルーヴァ=エイシェン。即時降伏せよ。第五規則違反――銀警察に逆らう者は敵。死刑を宣告する」
ルーヴァは小さく笑う。哀しげに、優しく。
「署長。君はいつもそうだった。感情を汚れだと言って、すべてを消毒しようとした。でもね、人間は汚れてこそ生きられるんだ。愛して、憎んで、泣いて、笑って……それが温度だよ」
彼は拳銃を構える。銀色の銃口が、カメラに向けられる。
「僕はもう、機械のように命令で動くのはやめた。愛せるうちは人間だ。そう思った瞬間、僕の世界が変わった」
レイモンドが一歩前に出る。
「脅威確認。抹殺準備」
だが、ルーヴァは動かない。ただ、静かに続ける。
「みんなに、伝えたいことがある。規則を守るほど、世界が壊れていくってことに、気づいてほしい。恐れで縛られた秩序は、結局、誰も救わない」
その時、通路に白銀兵たちが殺到する。銃を構え、ルーヴァを取り囲む。
ルーヴァはゆっくりと両手を広げた。抵抗する気配はない。
「撃てばいい。僕を殺せばいい。でも、僕の言葉は残る。灰になってでも、みんなの心に火を灯す」
兵士の一人が引き金を引く。銃声が響く。
だが、弾丸はルーヴァに届かない。彼の周囲に、灰色の粒子が舞い上がり、弾をすべて吸い寄せる。「灰の祈り」
ルーヴァは歩き続ける。兵士たちは、次々と膝をつく。撃たれたわけではない。心に、何かが蘇ったのだ。「情の流弾」――目に見えない弾丸が、彼らの胸を貫いている。
「感情を……感じる……」(気分が悪い……)
「なぜ、こんなに……痛いんだ……」(吐き気がする……)
兵士たちが武器を落とす。涙を流す者もいる。
スクリーン越しに、レギウスが立ち上がる。
「完全思想汚染……! 完全哲学感染だ!」(大変気分が悪い! 完全に吐き気がっ!!!!)
ルーヴァは中央ホールに到達する。そこに、上層部全員が待ち構えていた。
レギウス、レイモンド、ヴァロ、ミレイユ、ルーク、ビショップ。
ルーヴァは静かに立ち止まる。白銀の髪が風になびき、白色の瞳が全員を等しく見つめる。
「僕は悪になるよ。自ら穢れを引き受けて、みんなを解放するために」
彼は拳銃を構え直す。だが、狙いは誰でもない。天井に向けられた。
「これが、僕の反逆だ」
引き金を引く。
轟音とともに、「ヴァージニア」から放たれたのは通常の弾丸ではない。「哲学感染」の弾頭――思想的ウイルスが、施設全体に拡散していく。
空気が震える。壁が、床が、すべてが灰色に染まる。
全員の胸の奥に、抑え込まれていた感情が、一気に蘇る。
ヴァロが太刀を握る手が震えて顔面蒼白になる。
ミレイユが息を詰めて顔面蒼白になり、胸を抑えて膝から崩れ落ちる。
ルークの沈黙が初めて乱れて顔面蒼白になり、ふらつく。
ビショップは顔面蒼白になり、立ちくらみと目眩がし出して、瞳に涙が浮かぶ。
レイモンドが大斧を振り上げる。
「消すべき脅威……!」
だが、レギウスが手を上げて制する。
署長の声が、わずかに震えていた。
「……ルーヴァ。君は、僕の秩序を壊す気か」
ルーヴァは微笑む。永遠の哀しみを宿した瞳で。
「壊すんじゃないよ、署長。癒すんだ。本来あるべき人間の温度を、取り戻すために」
彼はゆっくりと拳銃を下ろす。
「僕はここで死ぬかもしれない。でも、僕の灰は、みんなの中に残る。そして、いつか……みんなが、自分で決める日が来る」
警報が止む。ZERO SANCTUMが、初めて機能不全に陥る。
ルーヴァ=エイシェンは、静かに中央に立つ。
一人で、すべてに立ち向かいながら。
「僕が決める」
その宣言が、白銀の秩序に、決して消えないひびを入れた瞬間だった。
灰の王子は、反逆を完遂した。
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