コンデムネイション特集

桂圭人

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おまけ 秘密警察の日常業務

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国家保安局・地下三階。朝の定時、07:00。
ガシャバはいつものように、軍服の襟をぴんと立てて執務室に入った。後ろ刈り上げの白髪は一筋の乱れもなく、前髪が顔の上半分を覆っている。デスクの上には、昨夜のうちに部下がまとめた報告書と、今日の処分リストが置かれている。
彼は椅子に腰を下ろすと、すぐにリストをめくり始めた。無駄な動きは一切ない。

1. 深夜02:14 市民A、SNS上で「自由な選挙を」と投稿。拡散数12。
2. 04:27 市民B、職場で「上層部の腐敗」を同僚に漏らす。証言者3名。
3. 05:50 市民C、夢の中で反体制的な理想を見た疑い(隣人通報)。

ガシャバは赤ペンを取り、1と2に○を付け、3に×を付けた。夢の通報は証拠不十分。無駄な労力は割かない。

ドアがノックされる。

「入れ」

入ってきたのはコンデムネイションだった。白いロングコートは埃一つなく、金のボタンが朝の照明を冷たく反射している。白手袋をはめた手が、断罪スキャナーを軽く抱えている。

「おはよう」  
ガシャバは顔を上げずに言った。

「朝の挨拶は不要だ。業務を」  
コンデムネイションの声はいつも通り、氷のように澄んでいる。

ガシャバはリストを差し出す。
「今日の誤りはこれだ。1と2を優先。3は監視継続」

コンデムネイションはリストを一瞥し、白金のサイバーゴーグルをわずかに光らせる。
「了解した。希望の芽は早いうちに摘むべきだ」

二人は無言で立ち上がる。日常業務の始まりだ。

──08:30 市民Aの自宅前

黒いバンが静かに停まる。中から降りたのは、軍服姿のガシャバと、白いコートのコンデムネイション。

ドアを叩く。すぐに若い男が顔を出す。昨夜の投稿者だ。
「な、何か——」

ガシャバが短く告げる。
「連行だ。抵抗は無意味」

男が後ずさる。目にはまだ「自由」という理想が揺れている。

コンデムネイションが一歩前に出る。ゴーグルが低く唸り、金血レンズが男の瞳を捉える。
「スキャン開始。……希望検出。レベル中」

男が叫ぶ。
「待ってくれ! ただ思っただけだ!」

「誤りだ」  
コンデムネイションの声は揺らがない。  
「理想は秩序を乱す。修正しろ」

破壊光が放たれる。短く、確実に。男は声もなく倒れ、意識を失う。理想は脳内から根こそぎ削除された。

ガシャバは部下に合図する。
「記憶改変後、釈放。次は二度と繰り返さない」

──12:00 局内食堂

二人は並んで食事トレイを持つ。メニューは常に同じ。栄養バランスのみを考慮した無味の食事。

ガシャバはスプーンを口に運びながら、ぽつりと漏らす。
「今日も、秩序は守られた」

コンデムネイションは無表情に答える。
「守るべきは真実だけだ。感情も希望も、不要」

ガシャバはわずかに視線を落とす。
「……痛みは必要悪だ」

コンデムネイションは答えず、ただ静かに頷いた。

──15:00 監視室

モニターが数百。街の隅々までを監視する。

ガシャバは椅子に座り、画面を睨んでいる。コンデムネイションは後ろに立ち、断罪スキャナーを待機状態にしている。

画面に、一人の子供が映る。公園で「大きくなったらみんなが笑える国にしたい」と友達に言っている。

ガシャバの指が一瞬、止まる。

コンデムネイションが静かに問う。
「誤りか?」

ガシャバはしばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと首を振る。
「……まだだ。子供の戯言だ。記録のみ」

コンデムネイションは無言でスキャナーを下ろす。

──19:00 執務室・終業前

ガシャバは今日の報告書に判を押す。

処分完了:2件  
監視継続:47件  
新規検出:9件

コンデムネイションがドアのところで立ち止まる。
「明日も、同じ業務だ」

ガシャバは帽子を手に取り、静かに答える。
「ああ。秩序なくして国家なし」

二人はそれぞれの執務室に戻る。
灯りが消えていく中、地下施設は再び静寂に包まれた。

これが、彼らの日常。
冷徹で、容赦なく、そして——どこかで、かすかに人間の残り香を残しながら。
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