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ケプラーVSコンパルション
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暗闇に沈む古の遺跡。
星理王国の廃墟は、数千年の時を越えてなお、星々の光を反射する石壁を静かに輝かせていた。その中央で、二つの影が向かい合っている。
一方は、白いロングコートを纏った強靭な白人男性――コンパルション=オーバーラプス。
白髪が風に揺れ、白色の瞳が冷たく相手を射抜く。金ボタンが連なるコートの内側で、鎖符《チェインコード》が微かな金属音を立てていた。
もう一方は、深紺と白銀の法衣を纏う長身の男――ケプラー。
白い髪の下、瞳の奥には星空が広がり、肌に刻まれた天球儀の文様が淡く光る。腕の《軌道環(オービタル・リング)》が静かに回転し、周囲の空気を重く歪めていた。
「星の軌道? 不要だ。ボクがロードする」
コンパルションの声は滑らかで、命令形が自然に混じる。
彼が手を広げると、金血ルーンを刻んだ鎖符が展開された。鎖は空中に浮かび、蛇のようにうねりながらケプラーへと伸びる。節ごとに刻まれた IF、WHILE、DO の命令文が、触れた意志を上書きするために輝いた。
ケプラーは静かに微笑む。感情の揺らぎは一切ない。
「宇宙は完璧な法則で動く。ゆえに人間も、その軌道に従うべきだ。君の鎖は、単なるノイズに過ぎぬ」
《軌道環》が輝きを増し、《軌道の強制》が発動する。
鎖の到達軌道が瞬時に予測され、不可視の力で逸らされた。鎖は虚空を切り裂くが、コンパルションは動じない。白金の伊達眼鏡の奥で、白い瞳が鋭く光る。
「星の意志はバグりやすい。だからボクが修正する」
彼は一瞬で距離を詰め、鎖符を突き放った。
鎖はケプラーの法衣を貫き、胸奥へ侵入する。《オーバーライド・ドミネーション》。意思上書き。対象の思考中枢を、自身のサブスレッドへ書き換える絶対支配。
「星のことを考えるな。次はボクが思考する」
――だが。
ケプラーの瞳に映る星空が閃光を放つ。
「《星位予測》」
無数に分岐する未来が一瞬で収束し、最も秩序的な結果が選択される。
鎖は確かに胸を貫いている。だが、その侵入は「許容された事象」に過ぎなかった。ケプラーの意志は、最初から上書きされない軌道に置かれている。
「秩序とは、哀しみすら計算することだ。君の支配は、星の運行に抗う不確定性に過ぎぬ」
ケプラーが手を掲げる。
《楕円の呪縛》が展開され、ケプラーの法則が地上に投影された。コンパルションの身体は不可視の楕円軌道に固定され、どれほど力を込めても同じ位置を巡るだけになる。星々の運行が現実を縛り、運命の網《オービタル・ネット》が遺跡全体に広がった。
「っ……!」
コンパルションは笑みを崩さない。丸印のピアスが揺れ、鎖符がさらに実体化する。
《ゴールデン・コードチェイン》。金血による完全物質化支配鎖が、ケプラーを絡め取ろうと迫る。
鎖が身体を拘束し、意志処理レイヤへの侵入を開始する。
一瞬、ケプラーの瞳の星空が乱れた。
「十二宮体制の崩壊……永遠の天球儀の起動。キミの目的だ。だが――ボクがロードする。ボクのサブスレッドとして」
ケプラーは、低く呟いた。
「《運命の天球儀》」
次の瞬間、世界が再計算される。
人間の生涯、存在の確率、因果の連鎖。すべてが星図として再配置され、ケプラー自身の未来が更新された。
《軌道環》が爆発的に輝き、鎖の支配コードが逆流する。
「な……に……?」
コンパルションの鎖が、逆に彼自身を縛り始めた。
支配コードは反転し、彼の自由意志が“最も安定した軌道”へと固定されていく。逃走も上書きも、もはや選択肢には存在しない。
「永遠の天球儀は、鎖を必要としない」
ケプラーの声は、静かで絶対的だった。
「すべては決定論の世界へ還る」
コンパルションが最後に発動した《パペットフィールド》は、展開される前に消滅した。
その結果すら、すでに星位予測の中に組み込まれていたのだ。
やがて、鎖の光が失われ、遺跡に静寂が戻る。
楕円軌道に固定されたコンパルションは、動くことも、命令することもできない。
ケプラーは彼を一瞥し、背を向けた。
星の法則と鎖のコード。
その勝敗は、すでに決まっていた。
廃墟の空で、星々が静かに巡る。
この戦いの結末は――今、確かに天球に刻まれた。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収されてました。
星理王国の廃墟は、数千年の時を越えてなお、星々の光を反射する石壁を静かに輝かせていた。その中央で、二つの影が向かい合っている。
一方は、白いロングコートを纏った強靭な白人男性――コンパルション=オーバーラプス。
白髪が風に揺れ、白色の瞳が冷たく相手を射抜く。金ボタンが連なるコートの内側で、鎖符《チェインコード》が微かな金属音を立てていた。
もう一方は、深紺と白銀の法衣を纏う長身の男――ケプラー。
白い髪の下、瞳の奥には星空が広がり、肌に刻まれた天球儀の文様が淡く光る。腕の《軌道環(オービタル・リング)》が静かに回転し、周囲の空気を重く歪めていた。
「星の軌道? 不要だ。ボクがロードする」
コンパルションの声は滑らかで、命令形が自然に混じる。
彼が手を広げると、金血ルーンを刻んだ鎖符が展開された。鎖は空中に浮かび、蛇のようにうねりながらケプラーへと伸びる。節ごとに刻まれた IF、WHILE、DO の命令文が、触れた意志を上書きするために輝いた。
ケプラーは静かに微笑む。感情の揺らぎは一切ない。
「宇宙は完璧な法則で動く。ゆえに人間も、その軌道に従うべきだ。君の鎖は、単なるノイズに過ぎぬ」
《軌道環》が輝きを増し、《軌道の強制》が発動する。
鎖の到達軌道が瞬時に予測され、不可視の力で逸らされた。鎖は虚空を切り裂くが、コンパルションは動じない。白金の伊達眼鏡の奥で、白い瞳が鋭く光る。
「星の意志はバグりやすい。だからボクが修正する」
彼は一瞬で距離を詰め、鎖符を突き放った。
鎖はケプラーの法衣を貫き、胸奥へ侵入する。《オーバーライド・ドミネーション》。意思上書き。対象の思考中枢を、自身のサブスレッドへ書き換える絶対支配。
「星のことを考えるな。次はボクが思考する」
――だが。
ケプラーの瞳に映る星空が閃光を放つ。
「《星位予測》」
無数に分岐する未来が一瞬で収束し、最も秩序的な結果が選択される。
鎖は確かに胸を貫いている。だが、その侵入は「許容された事象」に過ぎなかった。ケプラーの意志は、最初から上書きされない軌道に置かれている。
「秩序とは、哀しみすら計算することだ。君の支配は、星の運行に抗う不確定性に過ぎぬ」
ケプラーが手を掲げる。
《楕円の呪縛》が展開され、ケプラーの法則が地上に投影された。コンパルションの身体は不可視の楕円軌道に固定され、どれほど力を込めても同じ位置を巡るだけになる。星々の運行が現実を縛り、運命の網《オービタル・ネット》が遺跡全体に広がった。
「っ……!」
コンパルションは笑みを崩さない。丸印のピアスが揺れ、鎖符がさらに実体化する。
《ゴールデン・コードチェイン》。金血による完全物質化支配鎖が、ケプラーを絡め取ろうと迫る。
鎖が身体を拘束し、意志処理レイヤへの侵入を開始する。
一瞬、ケプラーの瞳の星空が乱れた。
「十二宮体制の崩壊……永遠の天球儀の起動。キミの目的だ。だが――ボクがロードする。ボクのサブスレッドとして」
ケプラーは、低く呟いた。
「《運命の天球儀》」
次の瞬間、世界が再計算される。
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《軌道環》が爆発的に輝き、鎖の支配コードが逆流する。
「な……に……?」
コンパルションの鎖が、逆に彼自身を縛り始めた。
支配コードは反転し、彼の自由意志が“最も安定した軌道”へと固定されていく。逃走も上書きも、もはや選択肢には存在しない。
「永遠の天球儀は、鎖を必要としない」
ケプラーの声は、静かで絶対的だった。
「すべては決定論の世界へ還る」
コンパルションが最後に発動した《パペットフィールド》は、展開される前に消滅した。
その結果すら、すでに星位予測の中に組み込まれていたのだ。
やがて、鎖の光が失われ、遺跡に静寂が戻る。
楕円軌道に固定されたコンパルションは、動くことも、命令することもできない。
ケプラーは彼を一瞥し、背を向けた。
星の法則と鎖のコード。
その勝敗は、すでに決まっていた。
廃墟の空で、星々が静かに巡る。
この戦いの結末は――今、確かに天球に刻まれた。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収されてました。
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