25 / 90
25.イベント達成の条件
しおりを挟むレイフは、ホールから飛び出して行くノエルの後ろ姿を見てほっとした。とにかくこの場では関わらずに済んだのだ。
ノエルは、誰かを探すように周囲を見回していた。自分のことを探しているのではないかと思ったレイフは、ひっそりとノエルから見えない場所へと移動した。
その位置にいると、レイフからもノエルの姿は見えないが、言葉のやり取りは聞こえてくる。
またカフェテリアで起きたようなことに巻き込まれるのは、御免被る。
そう考えたレイフは、静かに息を潜めた。第二王子の自分が、このように物陰に隠れるようなふるまいをすることについては、若干の抵抗があったけれども仕方ない。
カフェテリアでノエルが転倒したときは、アラステアがわざとぶつかったのだというノエルの言葉を信じてしまった。そのためにとんだ赤恥をかいたのだ。
あのときのレイフは、アラステアが何者であるかをまったく気にしていなかった。自分の弟であるクリスティアンや、アルフレッドの婚約者であるローランドが親しくしているということも、実は知らなかったのだ。
そういう情報管理の甘さが、レイフの至らぬ点だといわれているところであるが。
そう、アルフレッドもクリスティアンもあの場にたまたま居合わせただけだと。ノエルがぶつかったのは、ただのローランドの学友なのだと思っていたのがレイフの躓きのもとであった。
カフェテリアでのもめ事があってから間もなく、クリスティアンの婚約が決まった。相手は、ラトリッジ侯爵の嫡子だ。王位継承権をいずれ手放す予定の第三王子の婿入り先としては、適切な相手だ。そこでレイフは思い出した。
ラトリッジ侯爵家の紫色の瞳。
カフェテリアでクリスティアンが寄り添うようにしていたあのオメガの学生は、紫色の瞳をしていた。アルフレッドの性格を考えれば、もしアラステアに非があればそれを指摘したであろうし、クリスティアンも庇ったりはしなかっただろう。
「おそらく兄上はあの時、俺の顔を立ててくれたのだな」
ホールの中でローランドはノエルにまったく触れていない。それなのに転倒させられたと騒ぐノエルを見て、カフェテリアでもこういう状況だったのだろうと予想する。あの時のアルフレッドは、それを事故ということにしてアラステアを黙らせたということなのだ。自分がノエルを庇わなければ、彼に非を認めさせて、今回のような騒ぎを再び引き起こすことを防ぐことができたかもしれないのに。
レイフは、カフェテリアで自分を見ていたクリスティアンの冷たい眼差しを思い出して、身震いした。
あの美しい弟は、自分が婚約する予定の人物に対するレイフの行いを見て、何を考えていたのだろうか。
「僕があなたをこの国の王様にしてあげる!」
あの無邪気な言葉に惹かれたのが間違いだったのか。
レイフは、深いため息を吐いてから、ダンスの授業に意識を戻した。
主人公がダンス授業のイベントを達成するには、条件がある。悪役令息ローランドに転倒させられたという主人公が、アルフレッドから庇ってもらうか、レイフにもめ事の仲裁をしてもらうか、どちらかの出来事が起こらなければならないのだ。
アルフレッドが主人公を庇えば、そのままアルフレッドのルートに入る。そして、レイフに仲裁をしてもらえれば、レイフ、エリオット、そしてジェラルドのルートに入り、アルフレッドの攻略は可能性がゼロになるわけではないが困難になる。
しかしながら、今回のイベントを主人公が達成するのは困難であると考えられる状況があった。
そもそも、王子のどちらかの側近となるサミュエルとティモシーの好感度が上がっていないのだ。それがなければ、アルフレッドとレイフの攻略ができる条件は整っていないといえる。今回のダンス授業のイベントは既に達成が難しかったのだ。
「物語の記憶があるとすれば、その状態でどうしてイベント達成を強行しようとしたのかな……?」
クリスティアンはウォルトン公爵邸のお茶会で疑問を口にする。
ノエルの口からこの世界では一般的でない『悪役令息』という言葉が出たのだから、彼はこの物語のことを知っていると考えても良いであろう。
「レイフと仲良くなっているようであるから、仲裁をしてもらえると思ったのではないかな?」
「それはそうでしょうけれど、サミュエル・ロッドフォードとティモシー・ダルトンとは話もしていないはずです。物語では、二人を味方につけなければイベントは達成できない」
アルフレッドの予想にクリスティアンは、この物語がイベント達成するための前提の話をした。そして、アルフレッドルートを意識した行動を取ったことにも疑問がある。あの場で、アルフレッドが主人公を庇ってローランドを責めるなどとは、考えられないからだ。
「前提条件を満たしていなかったから、イベントは達成できなかったのかもしれないね」
ローランドが、スパイスを効かせたミルクティーを飲みながらそう言って微笑んだ。いつもと変わらず凛として美しい。
ローランドは、ノエルに絡まれたというのに堂々としていた。
アラステアから見れば、あのような態度の人物に冤罪をかけるなど難しいことだと思われる。物語では、本当に主人公に意地悪を仕掛けるらしいのだが、現実のローランドは、物語のようにダンスの授業で転倒させるなどというような小さな嫌がらせをすることはなさそうだ。
本当にアルフレッドが心を移したとなれば、ローランドはもっと凄まじいことをするだろう。
アラステアはそう考えながら、チーズ風味の甘くないクッキーを口に入れた。
ダンスの実技試験は既に終わっている。エリオットは、助手をパートナーとして試験を受け、ノエルは別室でこれもまた助手をパートナーとして試験を受けている。ダンス教師にしても、王族やその婚約者がこれ以上巻き込まれるのは避けたいところだったのだろう。
これで、ダンス授業のイベントは達成されないままで終わったことになる。
アラステアはイベントとやらが達成されなければ、これ以上の心配はしなくても良いように思う。しかし、クリスティアンもアルフレッドも、そしてローランドも、そう考えてはいないらしい。
「主人公の行動は読みづらいようであるが、注意していこう」
アルフレッドの言葉を聞いて、三人は黙って頷いた。
次のイベントは、デビュタントの夜会だ。
747
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる