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第一話
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それはよくある、離婚相談のはずだった。
「えーと……、つまり、中河原さんが不倫をして、その不倫相手と結婚したいから離婚がしたいと、そういうことですか?」
「ええ。もうあの女と夫婦でいる意味はありませんから」
涼しい顔で答える相談者の中河原聡に、秀亮は内心おいおいと呆れながら、努めてなんでもないような顔をする。
中河原はそんな秀亮の内心など気付きもしないで、罪悪感が一切浮かんでいない顔をしている。ポーズではなく、本当に自分に非はないと考えているようだった。
一見爽やかな好青年風の、医師という肩書を持った相談者。妻は大学の准教授で絵に描いたようなエリート夫婦。
事前に記入された相談カードによると、まだ結婚して一年も経っていない。
「不倫をした側は有責配偶者といって、有責配偶者からの離婚請求は基本的に認められないんですよ。相手が応じてくれれば別ですが」
悪びれた様子がかけらもない中河原に説明をするも、彼はいまいちピンとこない様子で首を傾げる。
「一般的にどうかは知りませんが、私とあの女の間に愛なんてものはそもそもありませんから、不倫したから有責だ、と言われても。あの女が愛しているのは私の遺伝子ですし、あの女だって私以上の遺伝子を持った男と出会ったらころりと乗りかえると思いますよ」
心底不思議そうに言う中河原に、秀亮は僅かに眉間にシワを寄せる。あまりに常識外れなことを当たり前のように言う姿に、相談者といえども不快感を覚える。
「相手もそう思っているとは限りませんよ?」
秀亮が重ねて説明しようと口を開くと、中河原はくつくつと笑い出した。
「いやいや、そもそも私たちの出会いがそうですから。良質な遺伝子を持っている、という一点だけで結婚したんですよ」
そこから中河原が語る話は、秀亮には信じがたいものだった。
「私とあの女は、あるクラブで出会ったんです」
曰く、そこは会員制のクラブで、そのクラブの会員になるためには一定のステータスが必要だという。
「紹介制でね。クラブのマスターが身の上を調べた上で、彼のお眼鏡に適えば会員になれるんですよ」
会員になるためには一定以上のステータスが必要だという。学歴、肩書はもちろん、家柄、他の家族の経歴諸々が調べ尽くされると。そして、容姿もある程度整っていなければならない。しかもそれは、造られた美しさであってはならない。生来の美しさが求められるという。
嬉しそうに語る中河原には、その審査に通ったことへの優越感が見て取れる。
「長谷川先生なら、問題なく会員になれそうですね」
はあ、と曖昧に返事をする。中河原としては褒めているつもりなのだろうけれど、いわゆるスペックだけをなぞられているようで、秀亮は居心地の悪さを感じた。
秀亮は今年三年目の弁護士で、歳は二十九歳。日本トップとはいかないまでも誰でも知っている有名私立大学を卒業し、法科大学院を出てストレートで司法試験を突破した。そこだけを抜き出しても、いわゆるハイスペと言って差し支えない。
それだけでなく、ジム通いによって身体は程よく鍛えられており、高身長ではないもののコンプレックスにはならない程度の身長とのバランスは良い。顔は小ざっぱりと清潔感があり、十人いれば七人程度は好ましく感じる程度には整っている。
秀亮自身、自分の持つ強みは理解している。しかし、そういった表面的な条件で自身の価値を判断されることには抵抗があった。
「それで、私たちはそこで出会ったんですよ。そこで出会う男女の目的は一つだけ。よりよい遺伝子を持った相手を見つけること。それだけなんです」
だが、中河原は違うようだ。そういった部分を評価されることに喜びを感じている。自身の持ち物を高く評価されることに価値を見出しているのだろう。きっと、そのクラブに行く人は皆。
共感はできないな、と思いつつも秀亮は相槌を打つ。会員をある程度選ぶクラブなど珍しくもないが、家柄や家族の経歴まで審査の対象にして、あからさまに遺伝子レベルで選別する、というのはあまりに趣味が悪い。選民思想のモデルのようだ。とはいえ、中河原のような人たちにとってはこの上なく都合の良い場所なのだろう。
中河原のクラブを賛美する言葉を聞きながら、そろそろ本題に戻らなければと秀亮が考え始めた時、機嫌よく話していた中河原が大きくため息をついた。
だというのに、と言って中河原は顔を歪ませる。心底不愉快である、という風に。
「賢明な女だと思っていたのに、もっといい相手を見つけたから別れてくれと言ったらヒステリックを起こすなんて。あんな感情的な女とこれ以上やり取りしたくないので、先生よろしくお願いしますよ。有責だなんだとぐちゃぐちゃ言うようなら、ある程度金を渡すくらい構わないですから」
中河原のあんまりな発言に、秀亮は内心ため息を吐きながらもこれ以上言っても仕方ないと諦める。
秀亮の仕事は道徳や倫理を説くことではない。
「わかりました。話し合いでの解決を目指していきましょう。訴訟までいくと離婚は難しいので、金銭での解決も視野に入れて。すでに別居されているんですよね?」
気持ちを切り替えて今後の対応についてひととおり打ち合わせると、中河原は満足そうに頷いた。
「じゃあお願いしますね。それと……先生、ご結婚はまだなんですよね?」
中河原の視線は秀亮の左手のある場所に注がれていた。そこに、いわゆる既婚者の証はついていない。
「まあ、はい」
歯切れが悪くなるのは、なんとなく嫌な予感がしたから。
「じゃあせっかくなんで、さっき言っていたクラブを紹介しますよ。紹介カードを渡すので、よかったら一度連絡してみてください」
そう言って中河原は財布から一枚の黒いカードを取り出す。
「いや、こういうのをいただくのは……」
固辞しようとするも、強引に手渡される。
「興味がなければ行かなくても結構ですよ。でも、なかなかおすすめなのでとりあえず、ね」
相手は依頼人。そう考えると強く拒否することもできず、秀亮は渋々カードを受け取った。
妻とのやりとりを弁護士に依頼して気が楽になったのか、中河原は上機嫌で帰っていった。
デスクに戻った秀亮は、手に残されたあからさまに質の良い紙で作られた黒いカードを見てため息をつく。
「CLUB……K.E.E.G? どういう……ああ、そういうことか」
クラブの名前まで悪趣味かよ、と口の中で呟く。
しかし、どうにもそのカードを捨てる気にはならなかった秀亮は、それをデスクの中に無造作に放り込んだ。クラブのあり方に疑問はあるものの、そこまで振り切ったやり方に興味がないといえば嘘になる。いかんせん、秀亮は人一倍知的好奇心が強かった。悪趣味だなんだと思いつつも、心のうちには怖いもの見たさのような、うずうずとした気持ちも生じていた。とはいえ、自分の持っているスペックでふるいにかけられることを良しとは思わなかったが。
この時の秀亮は、まさか自分が後日その趣味の悪いクラブに行くことになるとは露とも思っていなかった。
ただ、僅かな好奇心で紹介カードを捨てないという選択をしただけだった。
その後、難航するかと思われた中河原の離婚事件はあっさりと解決した。
「自分のことを自分で解決できず、すぐに弁護士に頼るような軟弱な男の遺伝子なんていらないわ」
とのことで、それを聞いた中河原は能面のような顔をしていた。
なんとも後味の良くない事件だなと思いつつ、次々と持ち込まれる事件の処理で忙しくする中で、中河原のことも趣味の悪いクラブのことも、秀亮の頭からすっかり抜け落ちていった。
「えーと……、つまり、中河原さんが不倫をして、その不倫相手と結婚したいから離婚がしたいと、そういうことですか?」
「ええ。もうあの女と夫婦でいる意味はありませんから」
涼しい顔で答える相談者の中河原聡に、秀亮は内心おいおいと呆れながら、努めてなんでもないような顔をする。
中河原はそんな秀亮の内心など気付きもしないで、罪悪感が一切浮かんでいない顔をしている。ポーズではなく、本当に自分に非はないと考えているようだった。
一見爽やかな好青年風の、医師という肩書を持った相談者。妻は大学の准教授で絵に描いたようなエリート夫婦。
事前に記入された相談カードによると、まだ結婚して一年も経っていない。
「不倫をした側は有責配偶者といって、有責配偶者からの離婚請求は基本的に認められないんですよ。相手が応じてくれれば別ですが」
悪びれた様子がかけらもない中河原に説明をするも、彼はいまいちピンとこない様子で首を傾げる。
「一般的にどうかは知りませんが、私とあの女の間に愛なんてものはそもそもありませんから、不倫したから有責だ、と言われても。あの女が愛しているのは私の遺伝子ですし、あの女だって私以上の遺伝子を持った男と出会ったらころりと乗りかえると思いますよ」
心底不思議そうに言う中河原に、秀亮は僅かに眉間にシワを寄せる。あまりに常識外れなことを当たり前のように言う姿に、相談者といえども不快感を覚える。
「相手もそう思っているとは限りませんよ?」
秀亮が重ねて説明しようと口を開くと、中河原はくつくつと笑い出した。
「いやいや、そもそも私たちの出会いがそうですから。良質な遺伝子を持っている、という一点だけで結婚したんですよ」
そこから中河原が語る話は、秀亮には信じがたいものだった。
「私とあの女は、あるクラブで出会ったんです」
曰く、そこは会員制のクラブで、そのクラブの会員になるためには一定のステータスが必要だという。
「紹介制でね。クラブのマスターが身の上を調べた上で、彼のお眼鏡に適えば会員になれるんですよ」
会員になるためには一定以上のステータスが必要だという。学歴、肩書はもちろん、家柄、他の家族の経歴諸々が調べ尽くされると。そして、容姿もある程度整っていなければならない。しかもそれは、造られた美しさであってはならない。生来の美しさが求められるという。
嬉しそうに語る中河原には、その審査に通ったことへの優越感が見て取れる。
「長谷川先生なら、問題なく会員になれそうですね」
はあ、と曖昧に返事をする。中河原としては褒めているつもりなのだろうけれど、いわゆるスペックだけをなぞられているようで、秀亮は居心地の悪さを感じた。
秀亮は今年三年目の弁護士で、歳は二十九歳。日本トップとはいかないまでも誰でも知っている有名私立大学を卒業し、法科大学院を出てストレートで司法試験を突破した。そこだけを抜き出しても、いわゆるハイスペと言って差し支えない。
それだけでなく、ジム通いによって身体は程よく鍛えられており、高身長ではないもののコンプレックスにはならない程度の身長とのバランスは良い。顔は小ざっぱりと清潔感があり、十人いれば七人程度は好ましく感じる程度には整っている。
秀亮自身、自分の持つ強みは理解している。しかし、そういった表面的な条件で自身の価値を判断されることには抵抗があった。
「それで、私たちはそこで出会ったんですよ。そこで出会う男女の目的は一つだけ。よりよい遺伝子を持った相手を見つけること。それだけなんです」
だが、中河原は違うようだ。そういった部分を評価されることに喜びを感じている。自身の持ち物を高く評価されることに価値を見出しているのだろう。きっと、そのクラブに行く人は皆。
共感はできないな、と思いつつも秀亮は相槌を打つ。会員をある程度選ぶクラブなど珍しくもないが、家柄や家族の経歴まで審査の対象にして、あからさまに遺伝子レベルで選別する、というのはあまりに趣味が悪い。選民思想のモデルのようだ。とはいえ、中河原のような人たちにとってはこの上なく都合の良い場所なのだろう。
中河原のクラブを賛美する言葉を聞きながら、そろそろ本題に戻らなければと秀亮が考え始めた時、機嫌よく話していた中河原が大きくため息をついた。
だというのに、と言って中河原は顔を歪ませる。心底不愉快である、という風に。
「賢明な女だと思っていたのに、もっといい相手を見つけたから別れてくれと言ったらヒステリックを起こすなんて。あんな感情的な女とこれ以上やり取りしたくないので、先生よろしくお願いしますよ。有責だなんだとぐちゃぐちゃ言うようなら、ある程度金を渡すくらい構わないですから」
中河原のあんまりな発言に、秀亮は内心ため息を吐きながらもこれ以上言っても仕方ないと諦める。
秀亮の仕事は道徳や倫理を説くことではない。
「わかりました。話し合いでの解決を目指していきましょう。訴訟までいくと離婚は難しいので、金銭での解決も視野に入れて。すでに別居されているんですよね?」
気持ちを切り替えて今後の対応についてひととおり打ち合わせると、中河原は満足そうに頷いた。
「じゃあお願いしますね。それと……先生、ご結婚はまだなんですよね?」
中河原の視線は秀亮の左手のある場所に注がれていた。そこに、いわゆる既婚者の証はついていない。
「まあ、はい」
歯切れが悪くなるのは、なんとなく嫌な予感がしたから。
「じゃあせっかくなんで、さっき言っていたクラブを紹介しますよ。紹介カードを渡すので、よかったら一度連絡してみてください」
そう言って中河原は財布から一枚の黒いカードを取り出す。
「いや、こういうのをいただくのは……」
固辞しようとするも、強引に手渡される。
「興味がなければ行かなくても結構ですよ。でも、なかなかおすすめなのでとりあえず、ね」
相手は依頼人。そう考えると強く拒否することもできず、秀亮は渋々カードを受け取った。
妻とのやりとりを弁護士に依頼して気が楽になったのか、中河原は上機嫌で帰っていった。
デスクに戻った秀亮は、手に残されたあからさまに質の良い紙で作られた黒いカードを見てため息をつく。
「CLUB……K.E.E.G? どういう……ああ、そういうことか」
クラブの名前まで悪趣味かよ、と口の中で呟く。
しかし、どうにもそのカードを捨てる気にはならなかった秀亮は、それをデスクの中に無造作に放り込んだ。クラブのあり方に疑問はあるものの、そこまで振り切ったやり方に興味がないといえば嘘になる。いかんせん、秀亮は人一倍知的好奇心が強かった。悪趣味だなんだと思いつつも、心のうちには怖いもの見たさのような、うずうずとした気持ちも生じていた。とはいえ、自分の持っているスペックでふるいにかけられることを良しとは思わなかったが。
この時の秀亮は、まさか自分が後日その趣味の悪いクラブに行くことになるとは露とも思っていなかった。
ただ、僅かな好奇心で紹介カードを捨てないという選択をしただけだった。
その後、難航するかと思われた中河原の離婚事件はあっさりと解決した。
「自分のことを自分で解決できず、すぐに弁護士に頼るような軟弱な男の遺伝子なんていらないわ」
とのことで、それを聞いた中河原は能面のような顔をしていた。
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