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第十一話
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表向き順調な実咲との交際はなにも変わらず。その日は少し早めのクリスマスデートをすることになっていた。
「せっかくだもの。人は多いだろうけどイルミネーション見に行かない?」
レストランの予約の時間まではまだ早い。秀亮は実咲の提案を受けて情報番組でも話題になっていたイルミネーションを見に行くことにした。
多くの人でごった返す中、どちらからともなく自然と手を繋ぐ。実咲が人とぶつからないよう人を縫って歩いていると、目当てのイルミネーションが見えてくる。
「クリスマスまでまだちょっとあるのに、すごい人だな」
「そうね。当日なんてもっと大変なことになってるんでしょうね」
そう言いながらも実咲の目はイルミネーションに釘付けで、いつもより目が輝いている。嬉しそうな実咲を見て、秀亮の口角も自然と上がる。
「あれっ秀亮じゃん!」
秀亮がイルミネーションそっちのけで実咲を眺めていると、聞き慣れた声が耳に入る。
「なんだ、悠太もきてたのか」
声の方を振り返ると、しばらく前にサシ飲みをした悠太がいた。隣には婚約者の加奈子もいる。
悠太は秀亮の繋がれた手の先を見てニヤリと笑う。
「なんだなんだ、噂の彼女か」
「こんにちは。秀亮さんとお付き合いしている宇賀実咲といいます」
如才なく挨拶した実咲を見て加奈子が目を丸くする。
「すっごい美人! どこで見つけたのこんな美人」
その目には羨望の眼差し。
加奈子は小柄で、丸みのあるショートボブが似合う癒し系。実咲とは系統が異なるが十分に可愛らしく、秀亮は友梨からよくモテると聞いていた。その加奈子から見ても実咲は憧れを抱くほどの美しさだった。
「実咲、こいつは俺の修習同期の小宮山悠太。隣にいるのが婚約者の加奈子ちゃん」
「婚約者って人に言われるとちょっとドキドキするね」
はにかむ加奈子は歳より少し幼く見える。悠太は体が大きく厳つめの風貌をしているので、同期の中では凸凹カップルと言われていた。
しばらく他愛のない雑談を交わした後、加奈子がじゃあそろそろ、と話を切り上げる。
「秀亮くんに素敵な彼女ができてよかった。せっかくのデート邪魔しちゃ悪いから私たちは行くね」
そう言って手を振りながら二人は歩いていく。二人もこれからどこかへ行く予定があるのだろう。寄り添うように歩く後ろ姿は二人の睦まじさを表していて、秀亮はそれを微笑ましく見ていた。
「修習の同期ってことは、彼も弁護士なのよね?」
「うん、そうだよ」
もう見えなくなった二人から実咲に視線を移すと、彼女は何かを考えるような表情をしていた。
「弁護士でも、ああいうタイプの女を選ぶのね」
「ん? なんの話?」
「典型的な癒し系。少し喋った感じ、そんな賢い子じゃないでしょ? 仕事ができるような子にも見えないし」
「いや、そりゃ実咲ほどじゃないと思うけど」
「男って、プライドが傷つけられるのか知らないけど、能力の高い女を忌避する人が多いじゃない。で、ああいう子がお手頃でちょうどいいのよね。自分が守ってやる、自分がそばにいてあげなきゃ、って酔えるから」
「……その言い方は失礼じゃないか?」
「どうして? 自分より明らかに能力が低くて癒してくれる可愛らしい子。そういう子がいいっていうのは好みの話でしょう? そういう女の方だって強くなろうなんて思ってないんだから、弱いところを好んでもらえるなら利害は一致してるじゃない」
「そうじゃない。悠太や加奈子ちゃんが、そういう風に相手を選んだように言うのは……失礼だろう」
先ほどの二人の姿を思い浮かべる。どちらからもお互いへの気持ちが分かりやすく漏れ出ていた。自尊心を満たす目的や利害の一致で繋がった関係にはとても見えない。
「馴れ初めを詳しく知っているわけじゃないけど、そういう、打算的な条件で結びついたわけじゃないはずだ」
「ああ……愛があるって? ふふ、何それ、秀亮さん面白いこと言うのね」
実咲は、その口から吐かれる毒のような言葉とは裏腹に、汚れを知らないような清純な微笑みを浮かべて秀亮を見上げる。
「まるで、打算で選ぶ関係より、愛で選ぶ関係の方が尊くて価値があると思ってるみたい」
秀亮はその言葉に、ガツン、と殴られたような衝撃を受ける。
「それは」
「私たち、その打算的な条件でお付き合いをしているはずだけど? 私たちの関係は彼らより価値が低いってこと?」
秀亮は咄嗟に反論を紡ぐことができなかった。
実咲の言ったことは図星だった。
中河原からクラブの話を聞いた時に秀亮が不快感を覚えたのは、スペックや条件だけで判断することを否応なくされるシステム。そんなものでパートナーを選ぶことを悪趣味だと感じたのだ。
それは、言い換えれば、感情が伴わない関係を見下していたともいえる。何を重視するかなど、人それぞれであるはずなのに。
「……比べるものじゃないだろう。求めているものも、基準も人によって違うんだから。少なくとも、二人が実咲の言った基準で互いを選んだかわからないのに決め付けるように言うのは違うだろう。あと、加奈子ちゃんの能力を決めつけるのも失礼だ」
「そう……。それは悪かったわ。そんなつもりはなかったのだけど……」
表情が曇る実咲を見て、秀亮は自身が卑怯な言い方をしたことを恥じた。実咲の質問に答えず、彼女を責めるような言い方をしてしまった。
「いや、俺こそ。……それにしても急にどうしたんだ?」
突然二人の関係を断じた実咲。イルミネーションをきらきらした目で見ていた時の様子とはあまりに違う。わずかな時間に、何かあったのか。
「ううん。ちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけ」
まただ、と秀亮は実咲に見えないように強く拳を握る。
実咲は何かを抱えている。それは頑なに愛を否定する様から明らかだった。けれど、その何かを秀亮に開示してくれない。
今も、曖昧に濁して話を終わらせようとしている。
普段ならばここで引き下がってしまう秀亮だが、お互いを信頼しきっている友人カップルを見た直後だからだろうか。ここで踏み込まなければいけない、と常とは異なる行動に出た。
「嫌なことって? 何かあったの?」
少し声が上ずる。
実咲からは、踏み込んで欲しくないという空気を感じていた。それを無視して深く掘り下げることに、緊張したのだ。
実咲だって、その秀亮の意図には気付いていた。けれど。
「なんでもないの。わざわざ話すことじゃないわ。大したことじゃないから」
そう言った実咲は、作られたように美しい笑顔を秀亮に向けた。
その、あまりに完璧で綺麗な笑顔を見て。
秀亮は、自分の中で何かが崩れていくのを感じた。
これでは、ダメだ。このままでは、ダメだ。
ただその思考が頭を占め、強い焦燥感を覚えた。
「せっかくだもの。人は多いだろうけどイルミネーション見に行かない?」
レストランの予約の時間まではまだ早い。秀亮は実咲の提案を受けて情報番組でも話題になっていたイルミネーションを見に行くことにした。
多くの人でごった返す中、どちらからともなく自然と手を繋ぐ。実咲が人とぶつからないよう人を縫って歩いていると、目当てのイルミネーションが見えてくる。
「クリスマスまでまだちょっとあるのに、すごい人だな」
「そうね。当日なんてもっと大変なことになってるんでしょうね」
そう言いながらも実咲の目はイルミネーションに釘付けで、いつもより目が輝いている。嬉しそうな実咲を見て、秀亮の口角も自然と上がる。
「あれっ秀亮じゃん!」
秀亮がイルミネーションそっちのけで実咲を眺めていると、聞き慣れた声が耳に入る。
「なんだ、悠太もきてたのか」
声の方を振り返ると、しばらく前にサシ飲みをした悠太がいた。隣には婚約者の加奈子もいる。
悠太は秀亮の繋がれた手の先を見てニヤリと笑う。
「なんだなんだ、噂の彼女か」
「こんにちは。秀亮さんとお付き合いしている宇賀実咲といいます」
如才なく挨拶した実咲を見て加奈子が目を丸くする。
「すっごい美人! どこで見つけたのこんな美人」
その目には羨望の眼差し。
加奈子は小柄で、丸みのあるショートボブが似合う癒し系。実咲とは系統が異なるが十分に可愛らしく、秀亮は友梨からよくモテると聞いていた。その加奈子から見ても実咲は憧れを抱くほどの美しさだった。
「実咲、こいつは俺の修習同期の小宮山悠太。隣にいるのが婚約者の加奈子ちゃん」
「婚約者って人に言われるとちょっとドキドキするね」
はにかむ加奈子は歳より少し幼く見える。悠太は体が大きく厳つめの風貌をしているので、同期の中では凸凹カップルと言われていた。
しばらく他愛のない雑談を交わした後、加奈子がじゃあそろそろ、と話を切り上げる。
「秀亮くんに素敵な彼女ができてよかった。せっかくのデート邪魔しちゃ悪いから私たちは行くね」
そう言って手を振りながら二人は歩いていく。二人もこれからどこかへ行く予定があるのだろう。寄り添うように歩く後ろ姿は二人の睦まじさを表していて、秀亮はそれを微笑ましく見ていた。
「修習の同期ってことは、彼も弁護士なのよね?」
「うん、そうだよ」
もう見えなくなった二人から実咲に視線を移すと、彼女は何かを考えるような表情をしていた。
「弁護士でも、ああいうタイプの女を選ぶのね」
「ん? なんの話?」
「典型的な癒し系。少し喋った感じ、そんな賢い子じゃないでしょ? 仕事ができるような子にも見えないし」
「いや、そりゃ実咲ほどじゃないと思うけど」
「男って、プライドが傷つけられるのか知らないけど、能力の高い女を忌避する人が多いじゃない。で、ああいう子がお手頃でちょうどいいのよね。自分が守ってやる、自分がそばにいてあげなきゃ、って酔えるから」
「……その言い方は失礼じゃないか?」
「どうして? 自分より明らかに能力が低くて癒してくれる可愛らしい子。そういう子がいいっていうのは好みの話でしょう? そういう女の方だって強くなろうなんて思ってないんだから、弱いところを好んでもらえるなら利害は一致してるじゃない」
「そうじゃない。悠太や加奈子ちゃんが、そういう風に相手を選んだように言うのは……失礼だろう」
先ほどの二人の姿を思い浮かべる。どちらからもお互いへの気持ちが分かりやすく漏れ出ていた。自尊心を満たす目的や利害の一致で繋がった関係にはとても見えない。
「馴れ初めを詳しく知っているわけじゃないけど、そういう、打算的な条件で結びついたわけじゃないはずだ」
「ああ……愛があるって? ふふ、何それ、秀亮さん面白いこと言うのね」
実咲は、その口から吐かれる毒のような言葉とは裏腹に、汚れを知らないような清純な微笑みを浮かべて秀亮を見上げる。
「まるで、打算で選ぶ関係より、愛で選ぶ関係の方が尊くて価値があると思ってるみたい」
秀亮はその言葉に、ガツン、と殴られたような衝撃を受ける。
「それは」
「私たち、その打算的な条件でお付き合いをしているはずだけど? 私たちの関係は彼らより価値が低いってこと?」
秀亮は咄嗟に反論を紡ぐことができなかった。
実咲の言ったことは図星だった。
中河原からクラブの話を聞いた時に秀亮が不快感を覚えたのは、スペックや条件だけで判断することを否応なくされるシステム。そんなものでパートナーを選ぶことを悪趣味だと感じたのだ。
それは、言い換えれば、感情が伴わない関係を見下していたともいえる。何を重視するかなど、人それぞれであるはずなのに。
「……比べるものじゃないだろう。求めているものも、基準も人によって違うんだから。少なくとも、二人が実咲の言った基準で互いを選んだかわからないのに決め付けるように言うのは違うだろう。あと、加奈子ちゃんの能力を決めつけるのも失礼だ」
「そう……。それは悪かったわ。そんなつもりはなかったのだけど……」
表情が曇る実咲を見て、秀亮は自身が卑怯な言い方をしたことを恥じた。実咲の質問に答えず、彼女を責めるような言い方をしてしまった。
「いや、俺こそ。……それにしても急にどうしたんだ?」
突然二人の関係を断じた実咲。イルミネーションをきらきらした目で見ていた時の様子とはあまりに違う。わずかな時間に、何かあったのか。
「ううん。ちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけ」
まただ、と秀亮は実咲に見えないように強く拳を握る。
実咲は何かを抱えている。それは頑なに愛を否定する様から明らかだった。けれど、その何かを秀亮に開示してくれない。
今も、曖昧に濁して話を終わらせようとしている。
普段ならばここで引き下がってしまう秀亮だが、お互いを信頼しきっている友人カップルを見た直後だからだろうか。ここで踏み込まなければいけない、と常とは異なる行動に出た。
「嫌なことって? 何かあったの?」
少し声が上ずる。
実咲からは、踏み込んで欲しくないという空気を感じていた。それを無視して深く掘り下げることに、緊張したのだ。
実咲だって、その秀亮の意図には気付いていた。けれど。
「なんでもないの。わざわざ話すことじゃないわ。大したことじゃないから」
そう言った実咲は、作られたように美しい笑顔を秀亮に向けた。
その、あまりに完璧で綺麗な笑顔を見て。
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