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3.悲劇の引金
イエローダイヤ
しおりを挟むあの子だ。
イエローダイヤの似合うあの子。
アンドレはゆっくりとリシャールに近付いた。リシャールは驚いて、咄嗟に立ち上がった。
「……はっ…!!ごめんなさい!勝手に立ち入ってしまって…!!」
アンドレは微笑み、リシャールの手を握った。
「…リシャール。」
「……覚えてて下さったのですね。」
「いや…忘れられないんだ。」
「…アンドレ様…。」
美しいドレスが腰辺りに大きく汚れている。
「…それ…どうしたんだ?」
「あぁ…ワインをこぼしてしまって。」
「…腰にこぼすか?」
「…の、飲み方が下手なのですよ」
リシャールのエメラルドグリーンの瞳を覗き込んだ。頬を赤くして目を逸らされる。
「そうかい?…誰かにかけられた、のではないか?」
「…いいえ。こぼしてしまったのです。こんな姿で申し訳ございません」
「なぜ謝るんだ。顔を上げて。」
目線を上げると、リシャールの耳にも美しいイエローダイヤが飾られている。
「……そなたはいつ見ても美しいんだな」
「…そんな…」
真っ白い肌が赤く染まっている。
愛おしい。
「…リシャール。」
「……!?」
アンドレはリシャールを引き寄せ、キスをした。身長の高いアンドレに抱かれるがままに、リシャールはつま先立ち。足が浮いてしまいそう。
リシャールもアンドレの背中を抱いた。
憧れの彼のキスは、舌を舐められ唾液を吸い取られてしまうようで。
苦しい。けど、嬉しくて、幸せで。
「…リシャール。君にこれを。」
「…これは…」
アンドレから渡されたのは、ペリシエの象徴とも云われ、彼の瞳のような深紅のガーネットの指輪。
リシャールの左薬指にはめられた。
「…私と結婚しようリシャール。」
「えっ…」
彼は微笑む。
薬指にはめられたガーネットは美しく輝く。
アンドレの妃である証拠のように。
そして、もっと輝く彼の瞳を見つめた。
「…でも…アンドレ様は王族の方なのでしょう?」
「…あぁ。」
「私は相応しくない…」
「リシャールしか考えられないんだ。」
「……。」
「…リシャール。」
「アンドレ様…」
彼の声は重く低く、耳だけでなく全身に残る。
「…リシャール、」
「……!」
二人は熱いキスを交わした。
お互いの蜜を味わい、混ぜて、飲み込んで。
「…リシャール。」
「はぁっ……」
腰にくる低い声で名前を囁かれ、リシャールは腰を抜かした。
「…アンドレ様…?」
尻餅をついたリシャールを立ち尽くしたまま見つめるアンドレは勃起していた。
これが、黒蜜蜂の雄か。
リシャールは、はっきりと認識した。
「…リシャール。」
「きゃっ…!アンドレ様……」
アンドレは四つん這いで咄嗟に逃げようとしたリシャールの腰を掴み、ドレスをたくし上げた。
勃起した交尾器をリシャールの刺針室に挿入した。
「んぁっ…」
「リシャール……。リシャール…」
リシャールの身体はアンドレの腰に揺さぶられる。
「…リシャール…」
アンドレはリシャールを愛おしそうに呼ぶ。
「あっ…あぅ…あぁんっあんっあんっ……」
後ろから揺さぶられ、抱きしめられた。
リシャールの顎を引き寄せ、また熱いキスを交わす。
「…アンドレ様っ…」
「…リシャール。」
「出しちゃだめ…なか…出しちゃ…らめ…」
「…なぜだ?」
「らめ……」
リシャールは初めての交尾に蕩けるばかり。
「…リシャール、俺の子を孕むんだ。」
「…私……ぉ、雄…ですからっ…」
「…そんなこと…既に分かってる。」
「なんでっ……」
「身体付きも、雌と少し違ったから。シャンパーニではよくあることだと知っている。」
「でも……」
「構わない。リシャールは雄でも何でもいいんだ。俺はリシャールを選んだんだ。」
「ぁ…アンドレ様……」
「…リシャール……出すぞ、出す…ぞ…」
「アンドレ様っ…あぁんっ!」
「リシャール!」
アンドレはリシャールの輸卵管に射精した。
リシャールは腹の中で精子が放出されるのを感じていた。
「あ……ぁ……あぅ…」
「……リシャール、これを。」
「……?」
後ろから首に巻かれたのは、指輪と同じガーネットが付いたチョーカー。
「…他の雄には渡さない。いいな?」
「…アンドレ様…」
再びキスを交わす。
「甘いんだな…ブッドレアの蜜だ。」
「…アンドレ様も…ブッドレアがお好き?」
「あぁ。大好きだ。」
「…良かったぁ…」
「…リシャール、君の甘い蜜が欲しい。」
「…私にも…アンドレ様の、注いで下さい…」
二人は結合したまま何度もキスを交わした。
__________
「…2人きりにして大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。いざとなったときも兵士が駆けつける。」
「…いざという時…とは?」
「知らん」
「…お二人様、相思相愛なのではないですか?」
「だとしても、結婚は認められない。」
「…もう…つまらん国だ。」
ヨハンは扉の向こう側を覗いた。
「あららっ」
「何だ。」
「……これは…」
「は?」
エリソンドも覗くと、熱いキスを交わし交尾する主人の二人。交尾標識であるチョーカーも、リシャールに着けられている。
「…なっ…?!厄介なことになったな…」
「厄介ではありません。」
「厄介だ。お前らは良いかもしれないが、アンドレ様がこれからどうなるか……」
「…そんなに駄目なのですか。」
「本当は私もアンドレ様を応援し、結婚を賛成したいが…。陛下が何と仰るか。」
「厳しいお人なのですね。」
「厳しい、だけで済めば良いのだが。」
「…ふぅん……。」
「エリソンド。」
「うわっ、びっくりした。はい、お呼びでしょうか。」
扉がいきなり開いたと思えば、服も髪も乱れ、息を切らしたアンドレ。
「アンドレ様、大丈夫なのですか。」
「あぁ…はぁ…寝室に行く。はぁ、君は…リシャールのお付きか?」
「はい、ヨハン・クロードです。」
「そうか、ヨハンもエリソンドに付いていくといい。俺は窓から入る。」
「かしこまりました。」
アンドレは扉をバタンと閉めた。
「どんだけやったんだよ、」
エリソンドは思わず口にした。
「…ヨハンはここにいてくれ。」
「はい…どちらへ?」
「令嬢や大臣たちの大目玉である、ぺリシエ第一王子の不在は怪しまれるだろうから、私が行くんだよ」
「なるほど。」
「他人事かよ。」
会場の様子を見に、部屋を離れたエリソンド。
「アンドレ様なら、お部屋でお休みになっています。緊張されておりましたから。」
決まり文句のようにアンドレの行方を聞いてきた者たちを説得して回った。遂にはクロヴィスにもアンドレの行方を聞かれ、嘘が通じなくなってきたと分かった。
「どんだけやったら気が済むんだよ!」
エリソンドはしびれを切らし、未だリシャールの喘ぎ声が聞こえてくる寝室に声をかけた。
「アンドレ様、そろそろお戻りになってください。」
「……あ、あぁ。分かった。」
寝室の扉の向こうで、アンドレとリシャールは愛を誓い合った。
「必ず、君を迎えに行くよ。愛してる、リシャール。」
「私も愛しています。」
______________
次の日、ペリシエ城にて起こった。
アンドレは国王である父、クロヴィスに呼び出され、王座の前に立たされていた。
「アンドレ。」
「…父上。」
「相手は見つかったのか?」
「…はい。」
「そうか!…どこの娘だ?」
「……シャンパーニです。」
アンドレが正直に答えると、クロヴィスは血相を変えた。
「……は…?シャンパーニだと?相手は白蜜蜂だと言うのか?」
「仰る通りです。ですが、私にも結婚相手を選ぶ権利があるかと。」
「……お前はペリシエの跡継ぎだ。相手が黒蜜蜂でないだなんて…。これからのペリシエを継ぐ子供は白蜜蜂の血が混じるのは断固として許されない。」
「…私が選んだのです。」
クロヴィスは王座から立ち上がり、剣を抜いた。使用人達は驚いて口が開いたままだ。
そして、剣はアンドレの首に当てられた。
「……私が国王陛下である事を忘れるな。」
「……。」
「お前が私に歯向かえば、息子だろうが首を切れるんだからな。覚えておけ。」
「…なら、私は誰と結婚をすれば?」
「お前が選んだのが黒蜜蜂だったなら、話は別だったが。」
「…私は彼女以外考えていません。」
剣が首の皮膚に触れる。
「……私の弟のジョゼも白蜜蜂と駆け落ちしたが。未だに、ルグラン家の大恥だ。…我が息子に恥をかかされる訳にはいかないんだよ。」
「私は、王家を離脱する覚悟はあります。」
「……何を言っておる?」
「私の代わりはいるはずです。…跡継ぎはルカに。」
そう言って、アンドレはクロヴィスの手を下ろした。
ルカ・ルグラン。アンドレの弟。ペリシエの第二王子に当たる。
「…失礼します。」
「待て!アンドレ!アンドレ…!」
アンドレは去った。
「はぁ……」
クロヴィスはため息をついた。そして、側近に告げた。
「…エリソンドをここに呼べ。」
____________
一方で巣に到着したリシャールは、アンドレと夢のような時間にまだ浸っていた。
「良かったですね、リシャール様。」
「…本当に……いいのかな」
アンドレから貰ったチョーカーに触れた。
色の白いリシャールには浮いて見えてしまう黒のレースと紅のガーネット。
「……そのチョーカーが証拠ですよ」
「…何の証拠になると?」
「愛の証拠とか……婚約の証拠に決まってるじゃないですか!…ま、きっとあちらも結婚式の準備に取り掛かってますよ!」
「……そうかな…。」
「それに…アンドレ様と誓ったのでしょう?」
「…えぇ。必ず迎えに来る…って。」
少し恥ずかしがっている様子のリシャールを見て、ヨハンは笑みがこぼれた。
「なら、こちらも準備しなきゃですよ」
「……えぇ。」
「さ、取り掛かりますよ!」
そして、リシャールが黒蜜蜂の彼と結ばれたとヨハンから話が伝わっていき、働き蜂達は喜んで結婚の準備を始めた。
しかし、この吉報には喜ばない者もいた。
「兄上?」
「ミシェル。どうしたの?」
「どうしたのじゃないわ。」
ミシェルがリシャールの王台へずかずかと入ってきた。
「とぼけないでよ。何よ、相手が黒蜜蜂ですって?」
「…悪いの?」
「……純血の白蜜蜂のヤプセレ家に、黒蜜蜂の血が混じるのね?!それこそママとパパが悲しむわ。」
「…どうして反対するの?私が嫁ぐの。そうすれば、ヤプセレ家の女王蜂は貴方になるんだよ?貴方にとって良い話でしょう?」
「……ヤプセレ家の財産はほとんど兄上に!」
「……ミシェル。」
「…何よ。そのチョーカー。どうして宝石まで付いてるの?」
「彼から貰ったの。」
「……もういい!さっさと出ていけばいいわ!」
ミシェルは大きく音を立てて扉を開け、颯爽と出ていった。
「……リシャール様。気にしなくていいんですよ。あれは、ただの嫉妬ですよ。まさか、ペリシエの王子と結婚するとは知らずに。」
「……アンドレ様と結婚することは、言っていないのね?」
「そうです。黒蜜蜂と、としか言っていないんです。」
「まぁ……そうだったのね。どうして?」
「あー…何となく?結局は、知ることになると思うので。」
「そう…。」
リシャールは疑問に思ったが、何となく察した。自分と同じ不安があると。
本当に、大国の王子に嫁いでもいいのか。
種族も違う。身分も違う。
「なんだか。荷が重くなってきたわ。」
「……何ですか?」
「………」
リシャールは、一度よく考えた。
「……私ったら……馬鹿じゃないの。」
「え?」
「アンドレ様に考え直してもらわないと。」
「えっ?何をですか?」
「結婚なんて、出来る訳ないわ。」
「アンドレ様に会ってくる」
「ちょちょちょ!?無理ですよ!?」
ヨハンは動揺するリシャールを止めた。
「…どうしよう。」
「必ず迎えに来ると、仰ったのでしょう?…信じて待ちましょう。さ、座って。」
「…はぁ…。」
ヨハンに言われるがままに、リシャールは結婚の準備を進めた。
「兄上が結婚なんて。有り得ないわ。」
ミシェルは怒り狂っていた。
嫉妬なのか、ただの憤りなのか。
彼女も結婚は決まっていた。相手は舞踏会で会った、雄の白蜜蜂。同じく貴族の次男坊。婿を貰う形だ。
「何よ。宝石の付いたチョーカーだなんて。相手は金持ちなのね。」
ミシェルはリシャールの付けていた高級感溢れるチョーカーを思い出した。
「まさか…王族?いやいや、そんな訳…。」
国ごとに違う王族のチョーカー。
一般市民はレースのみで作られることがほとんど。貴族では琥珀が付いていることが多い。ヤプセレ家のチョーカーもそうだ。
シャンパーニの王族は白のレースに美しい黄色のシトリン。そして金の装飾が付いている。
マルグリットは黒のレースにオレンジのトパーズ。さらに金の装飾がなされている。
そして、ペリシエの王族は黒のレースに、紅のガーネット、銀の装飾も付いている。
「……あれは確かに宝石だったわ。琥珀じゃない。……赤…?…ペリシエ?」
ミシェルはさらに別の事を思い出した。
〝貴方も何処かの国王に惚れられるに違いないわ。そして、貴方はいつしか妃となり、威厳のある王様に、ずっと愛され生きていくわ。〟
シャンパーニで行われた舞踏会の時。リシャールに向けて、ルシアン妃が話していた。
「……そんな、有り得ないわ…。」
リシャールの白く細い首には、紅のガーネットが輝いていた。
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