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3.悲劇の引金

国王の勅命

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「陛下。」
アレクシスがクロヴィスに耳打ちをした。

「…アンドレ様の使いがシャンパーニの貴族の元へ、手紙を届けていたようです。」
「…ほう?そいつはどうした?」
「追った兵がシャンパーニで捕え、牢に入れております。」
「よくやった…。」

クロヴィスは立ち上がった。

「アレクシス。白蜜蜂の詳細を聞き出せ。」
「…かしこまりました。」

アレクシスは早速、牢屋へ向かった。
牢には、規則を破った兵や他国に協力した役人など、たとえ国の重役であろうが容赦なく放り込まれている。

「…お前だな。シャンパーニへ出入りしていたのは。」
「………。」

アレクシスがアンドレの使いを問い詰めようとすると、兵士の1人が駆け寄った。

「アレクシスさん!」
「……何だ?」

「…私がこいつを捕えた時に、国王側に協力すると名乗り出た者が。」
「…はっ、どうせ使えない奴だろ。さっさと断れ」

「それが…。アンドレ様の婚約者の妹、だと。」

「……何…?」
「私達で、屋敷の場所は既に把握しております故、…これから、かなり使えるのではないかと…。」
「…婚約者の妹が?もしかしたら、逆に私達を陥れようとしている可能性があるだろう?…少しは警戒したらどうだ。」

「ですが、兄妹で犬猿の仲だと。」
「…ただの謳い文句だ。気にするな。」
「せめて、少し試してみたらどうでしょうか…?」
「それによって、使うかどうかを?」
「はい。」
「…まぁ、それも考えようがある。まず陛下に話してみよう。詳しい話はそれからだ。」
「はい。」

アレクシスは兵士と話してから、牢に入った働き蜂を睨んだ。
「…お前はここで反省をしていろ。国王陛下が一体誰なのか、考えろ。」
「……。」

アレクシスは兵士と共にその場を去った。

「…アレクシスさん。アンドレ様の婚約は必ずや破棄しなければなりません。」
「何だ、当たり前のことを言って。」

兵士は立ち止まり、話し始めた。

「陛下もアレクシスさんでさえも、重大なことを知らないんですよ。」
「陛下と私が知らないこと?」
「…はい。」
「……何だ。」

「……アンドレ様の婚約者は、雄です。」

アレクシスも振り返り、立ち止まった。

「は……?」
「その婚約者の妹が、と言っていたんです。 」
「雄だと…」

「…シャンパーニで子を産める雄蜂が増加していることは事実です。ペリシエの王子が雄と結婚だなんて…全く、有り得ません。」
「……はぁ。それを、陛下が知ったら…どれだけお怒りになるか。」
「…そうですね。」
「必ずや、なんとかしなければ…。」

「このことは陛下に伝えますか?」
「…少し、様子を見る。怒ったまま感情任せになって失敗はしたくないからな。まだ、雌だということにしておけ。」
「はい。」


________数時間前。


アンドレの使いがリシャールに手紙を届けて去ろうとした時、窓からそれを見ていたミシェルが追いかけた。

「……ねぇ。貴方達は何者なの?」
「…貴様こそ誰だ?」
「私はミシェル。 この方から、私の兄に手紙が届けられたわ。」

兵士達が手紙を届けた働き蜂を捕らえている。両腕を縛られて、身動きが取れないようだ。

「おい。お前は誰に手紙を届けたのだ?」
「……くっ…!」
「…言わぬか…。」

剣の刃が首に当てられた。

「手紙の宛先はリシャール・ヤプセレよ。」
「……?」

するとミシェルが続けた。

「…私に手紙は来なかったもの。この巣の中で、後はリシャールしかいないわ。」
「…リシャール?」
「…今度結婚するそうよ。相手は金持ちの黒蜜蜂だとか。貴方達の主人じゃないの?」

兵士達は互いに目配せをした。

「…金持ちだと?」
「…何よ。兄上の結婚相手は何なのか知ってるのはそっちなのでは??」
「……我が国 ペリシエの第一王子、アンドレ王子だ。」
「……ぁ……?」

ミシェルが有り得ないと思っていたことが、起きていた。

「信じられない。」
「妹なのに、知らされていなかったのか?」
「……嘘よ…。王子?」
「……まぁ、信じなくてもいい。今に婚約破棄になるからな。」
「…そうなの?…ということは、国王陛下が婚約に反対なさっているのね」
「当たり前だ。」

ミシェルは笑った。

「何が可笑しい?」
「…リシャールは終わったのね」
「は?」

「……いいわ、協力してあげる。」
「…貴様が?」
「きっと、力になれるわ。この事は誰にも言わないから。何か協力出来ることがあるなら、私に。」
「……。」

兵士はミシェルの話を聞いて、彼女は役立つのではないかと考えていた。


そして、アンドレの婚約者が雄であることも気付いた。


___________



「陛下。彼が例の働き蜂を捕らえたようです。白蜜蜂の居場所も彼が把握しております。」

アレクシスはクロヴィスに働き蜂を捕らえた兵士を紹介した。

「良くやった。で、どこの娘だったんだ?」
「はい。名はリシャール・ヤプセレです。シャンパーニ城付近に巣があったので、国務大臣のご令嬢かと思われます。詳細は調査中です。」
「……なるほどな」

クロヴィスが頷いたのを見て、兵士とアレクシスは目配せをした。

「……ですが、陛下。リシャールの妹だという雌が現れたのです。」
「だから何だ?」
「…こちらに協力するとのことですが。まだ話は進めておりません。」

「なぜ妹が協力するんだ?」
「兄妹で犬猿の仲のようです。」
「…そんなことを信じてどうする。安易に他国の者を信じるな。」
「申し訳ありません…!」

兵士とアレクシスの考えは、あっさりと断られた。


「では陛下、どうなさるおつもりで?」
「……様子を見る。」
「…そうですか。」

兵士は持ち場へ戻り、アレクシスはクロヴィスに呼び止められた。

「……アレクシス。」
「…?…はい。陛下。」
「ジルベールに言伝を。」

「ジルベール国王に?なぜです?」
「…シャンパー二の国民なら、王からの勅命は断れないだろう。」
「……最初の一手、ということですか」
「あぁ。」
「…なるほど。…かしこまりました。」

アレクシスはクロヴィスから言伝を預かり、シャンパー二へ飛び立った。




シャンパー二城内にて、突然の訪問者。

「陛下…!」
「どうした?」

「…ペリシエ国王側近のアレクシス様がお見えに……」
「…ペリシエ?国王側近が?…ま、まず通せ!」
「はい!」

ジルベールの元にやってきたのは、ペリシエ国王側近のアレクシス。ペリシエとも同盟国なので、クロヴィスと親交がありアレクシスの存在も知っていた。今日の突然の訪問に、ジルベールは驚いた。

「ご無沙汰しております。」
「……あぁ、アレクシス。久しぶりだな。…こんな突然に…何の用だ?」

「…相談したいことがございまして。」
「相談?」
「えぇ。」

「皆、下がれ。」
ジルベールは部屋にいた働き蜂達を退室させた。すると、アレクシスは話を始めた。


「…シャンパー二の ある貴族に婚約を破棄するよう諭して頂きたいのです。」
「はい?」

アレクシスがあまりにも単刀直入に言うので、ジルベールは理解出来ず、前のめりになって聞き返した。

「リシャール・ヤプセレ嬢です。ご存知で?」
「……リシャールの婚約を?なぜ君が関わっているんだい?」

「…あぁ、ご存知なのですね。なら、話が早い…。その娘の婚約者が、アンドレ様なのですよ。」
「あ、アンドレ?!リシャールの婚約!?え?!」

ジルベールは取り乱した。

「我が国王は当然、大反対なのですよ。シャンパー二国王のジルベール様は聡明な御方ですから、道理は分かっておられるかと。」
「………。」
「…どうか、御協力願いたいのです。娘は高貴な者ですが、ジルベール国王の勅命には逆らえませんから…。」

ジルベールはリシャールの父・ルイにも公務で支えて貰い、母のフレアとも親しかったので、そう簡単には受け入れることが出来なかった。

「……そこまでしないといけないのか?」
「当たり前です。アンドレ様は国王の嫡男、未来の国王陛下なのです。」

アレクシスの言い方の強さに負けそうなジルベールだが、眉間に皺を寄せ、声を低くして言った。

「……だから何だ?」
「?」

「……種族が違うから、身分が違うから、結婚は認めないということか?そうだろう?」

「当然ですよ。あの娘は、アンドレ様には相応しくないのです。ジルベール様なら、分かって下さるかと……まぁ、残念です。」


ジルベールは、シャンパー二国王の自分に対して中々強い当たりのアレクシスは苦手だ。

とんだ生意気な野郎だな。こいつ。


「…そんな理不尽なことがあろうか。」
「理不尽?これは、状況が違うのです。アンドレ様はただの市民ではないのです!」
「…知ってるよ、それくらい。我が国の白蜜蜂では、女王蜂が務まらないと言いたいのか?」

「…女王蜂にも、ペリシエを継ぐ長子を産むという重役があるのです。か弱い白蜜蜂に、丈夫な子を産めるのかどうか…。」
「では、側室として選ぶ手もあるのでは?」
「…まだ分からないのですか?ペリシエの王族の血に虚弱な白蜜蜂の血が混じるなど…。なんとまぁ……有り得ません。」
「……!」

断る!

そう言おうとした。しかし。


「…アンドレ様は頑固な御方です故、何としてでもリシャール様と結婚なさるかと。ですから、ジルベール国王に御協力をと思ったのですが。」
「……?」
「それすら受け入れないのでしたら、こちら側も、同盟の件を幾つか取り消すとクロヴィス国王は仰いますが。シャンパー二との貿易や…防衛など…も。」
「……!?」


ジルベールは何も言い返せなかった。


シャンパー二はとても小さな国。豊富な資源に恵まれていても、ペリシエに頼っている物もある。そして、国の安全でさえ守って貰っている面もある。

言ってしまえば、ペリシエの信頼と協力を無くすとシャンパー二は無い。

 こうなってしまったら、シャンパー二がどうなるか分からない。蜜蜂界で一番大きい国相手に、戦をしても勝てる訳がない。あちらから攻められれば、瞬殺だろう。

「……そ、そこまでするのか?」
「えぇ。クロヴィス国王は本気のようですが。……たった一匹の貴族の婚約を破棄するように、勅命を下すだけですよ?…それすらも拒むとは、以ての外…。」

眉を上げ、左の口角を上げて嘲笑うアレクシスの悪い癖。ジルベールは強く拳を握った。

「……分かったよ、考えておく。」
「感謝します…!」
「今日の所は勘弁してくれ。」
「はい。では、私はこれで。良いご報告をお待ちしております。…失礼致します。」
「あぁ……。」

許せない。
ジルベールは、アレクシスの背中を見届け、悔しそうに王座の肘掛を殴った。

すると、ルシアン妃が来た。
「…貴方、その通りにするのですか?」

「ルシアン。…聞かれてたか。」
「ごめんなさい。盗み聞くつもりは無かったんだけれど……。」
「別に構わないよ。だが…まさか、アンドレがリシャールと…。」
「…私も驚きました。ペリシエ国王が動くくらいですから、きっと事実かと。」
「あぁ。きっとそうだ。」

国王夫妻は少し考えるように俯いた。

「ペリシエとの同盟無しに、シャンパー二がやっていけないのも、事実だからな……」
「……。」

ルシアン妃は考えていた。

どの選択を取れば、リシャールが幸せになるのか。暫く黙り込み、考えていた。そして、

「…貴方。」
「なんだ?」

「…アンドレとの婚約を破棄させましょう。」

「え?…おい、リシャールの想いも考えよ、」
「考えてこそよ。」
「?」

「クロヴィス国王は、どんな手でも使う方よ。例え、アンドレが逆らっても、2人が危険に晒されるだけ。……2人の想いが叶う時は、今じゃないのかも…」
「……ルシアン。」


ジルベールは頷いて、側近のジャンを呼んだ。

「ジャン。」
「はい、陛下。」
「…リシャール・ヤプセレをここに。」
「かしこまりました。直ちに。」

ジャンは直ぐに飛び立った。


暫くしてから、ジャンはリシャールを連れて来た。

「陛下。リシャール様をお連れしました。」
「……入れ。」
「どうぞ。」

「…国王陛下と王妃にご挨拶を。」
「楽に。」
「感謝します…」

ジルベールとルシアンは、リシャールの首に巻かれた黒いレースのチョーカーとガーネットの指輪を見て、目配せした。

「…リシャール。婚約は真のようだな。」
「…あ……、はい。」

リシャールも自身のチョーカーに気付いた。

「実は、ペリシエ国王から言伝を…。その……」

ジルベールは申し訳なさそうに躊躇った。リシャールは全てを察した。なぜ、国王にわざわざ呼ばれたのか、なぜペリシエの国王から言伝をされるのか。

「…婚約を破棄するように?」
「……。」

ジルベールが言葉に詰まるので、ルシアンはリシャールに聞いた。

「リシャール。アンドレ王子との婚約なのでしょう?」
「…はい。」

「そのチョーカーを付けているということは…既に、彼と契りを交わしているのね。」
「……はい。」
「…まぁ…」

ルシアンはリシャールの腹に目がいった。少しだけ腹が膨らんでいるように見えた。気のせいだろうか。

「…陛下、王妃。心配には及びません。婚約を破棄するように、ペリシエ国王とアンドレ王子にお話を。」

「…リシャール。」
「構いません。こうなることは承知の上でしたから。国境を越え、種族を越え、身分も越えるなど、認められないと覚悟しておりました。私のことは、御心配なく。」
「……。」

悲しげに微笑むリシャールを見て、国王夫妻は言葉が出なかった。
何とかしてあげたい、けど。国を背負う身として、どうすることも出来なかった。

「他に用がなければ、私はこれで。失礼致します。」
「…リシャール……。」

2人はため息をついた。

「こんなにも、私が無力だとは…。」
「そんなことはございません。…他に、私達がリシャールに出来ることを探しましょう。」
「……あぁ。」


シャンパー二城を飛び立った、静かに涙を流すリシャールの腹は確かに膨れていた。



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