honeybee

RBB47

文字の大きさ
28 / 58
8.降り積もる想い

キャロライン

しおりを挟む

「陛下。」
「……何だ?」

何だか落ち着かない様子のエリソンドが来た。

「……その…」
「なんだよ、言ってくれよ。」
「これが…」
「……これは…?……ヨハン…?」

エリソンドから渡されたのは、ヨハンの名前が彫られたブレスレット。

「…ヨハンが……?」
「…遺体の山の中に…」
「シャンパーニ兵として、あの場にいたというのか」
「はい…、徴兵…されたのではないかと」
「…はぁ……」

アンドレは目を瞑った。

「…リシャール様は、知っているでしょうか」
「…あの子の事だから、きっと察しているのかもしれないな……」
「……そうですか…」

二人は遺体の安置所へ向かった。

「…ウジェーヌ国王によりますと、石碑を建てられるそうです。」
「……あぁ、それがいい。」

ヨハンの遺体もそこにはあった。

「…ヨハン。」
「……。」
「主に会えず…戦でなんか…。主に会いたいよな…」
「…リシャール様の居場所は…」
「分かってる…。」

ヨハンの無念を晴らしてあげようとアンドレはリシャールの元を訪れた。



シャンパーニのとある村にぽつんと建てられた小さな巣。

「………。」
アンドレは躊躇いながらも、ドアをノックした。

「…?」
そっと顔を覗かせたのはリシャールだった。


「…リシャール。君に話があるんだ」

「…私に?」

「……あぁ。」

リシャールは子供達に留守番するよう言って外へ出てきた。

「……どうしたの?」
「…これを……」

差し出したのはヨハンのブレスレット。それを見たリシャールの悲しげな表情は変わらなかった。

「…ヨハン…。」

「エリソンドが見つけてくれたんだ。ヨハンの遺体もまだ安置している。会うか会わないかは君の自由だ。」
「……」

リシャールは頷いた。
アンドレと共に遺体安置所へ向かった。

ヨハンを見つけたエリソンドが、遺体を他とは別に安置していた。


「ヨハン……」
リシャールはヨハンの冷たくなった頬に触れた。悲しげだったけど、微笑んでいた。

アンドレは少しだけ安心した。


「…やっぱり、そうだったのね」
「……?」
「戦が終わったって聞いても、ヨハンが帰って来なかったから。信じたくなかったけど、きっと…そうなのかなって。」
「……」
「でも、会えてよかった。ありがとう、アンドレ様。」
「あぁ……。埋葬は…」
「きっと、戦士達と一緒で良いわ。共に戦った仲ですから。私もまた、会いに来る。」
「分かった。」

リシャールは泣かなかった。

「……リシャール。」
「?」
「…君の巣の近くに、シャンパーニの復興作業が終わるまで居るんだ。…何かあったら、来てくれ…。」

「…分かったわ」
リシャールは笑ってみせた。

その後リシャールは巣に帰り、アンドレは持ち場へ戻った。


「陛下…!リシャール様は…」
「…ヨハンに会えたよ。他の戦士達と共に埋葬して良いそうだ。」
「かしこまりました。」
「……」

何か分からない、遣る瀬無い気持ちが残っている。何かしてあげられたらいいんだけど。

「陛下、着々とシャンパーニの復興作業が進んでいるようです。ウジェーヌ国王から、後日、凱旋を祝してパーティーが開かれるようです。良かったら陛下も参加されないかと、御招待を。フレデリック国王も参加されるそうですよ。」

「……あ、あぁ。」
「…お返事は後ほどでも…」
「いい、行くよ。」
「かしこまりました。その旨をお伝え致しますね。」
「あぁ。ありがとう。」


_______________


後日シャンパーニ城で開催されたパーティーには、フレデリックとアンドレの他にも、シャンパーニの重臣らも参加していた。

「アンドレ国王ではございませんか。」
「あぁ…」
「お初にお目にかかります。」

シャンパーニの重臣の一人であった。
戦の事、復興作業の事、様々な話をしてくれた。穏やかな雰囲気で話すので、アンドレは彼を気に入った。

「セルジュ大臣。」
「あぁ!国王陛下にご挨拶を。」

そこにウジェーヌがやって来た。

「こちらはセルジュ大臣です、私が幼い頃から良くして貰っていたんです。私からもご紹介を。」
「そうだったのですね」

ウジェーヌも慕っているようだ。

「…父上?」
セルジュ大臣の後ろから、顔を覗かせた娘。

「娘のキャロラインです。」
「国王陛下にご挨拶を。」


その娘も穏やかで上品な雰囲気。顔立ちも可愛らしかった。
「お会い出来て光栄です。」

キャロラインは緊張していたようで、何処かぎこちない感じがまた可愛らしい。

少しだけ二人きりになった時間があった。

「あ、アンドレ国王、」
「何だ?」
「…あの、失礼ですが……」
「?」

「…もしかして、ブッドレアですか?」
「えっ何が?」
「あぁ!いや!?その…!ブッドレアの香りがするので、お好きなのかなぁと……!」
「…ははっ、良く分かったね」
「あぁ…えっと、鼻が利くんです、私。」
「…そうなのかい」
「はい!……私もブッドレア、好きなんです。」
「…好みが合いそうだ。」
「えへへ……」

オドオドしているキャロラインを見て、アンドレは思わず笑った。

なんだか、じっと見られている気がする。

「……私に何か付いているか?」

「綺麗な紅の瞳が付いています…」

「……あ、あぁ…」

「申し訳ありません…、変なこと言ってしまって…」

じっと見つめられて、戸惑った。
でも、気付いたことがある。

「…君は、エメラルドグリーンだね。」

彼女はリシャールと同じような瞳の色だった。触れたら罅が入ってしまいそうな儚さ。

「母と同じ色で。自分でも、とても気に入っています」

「……あぁ、綺麗だ。」

「えへへ…お恥ずかしい…」

アンドレは、恥ずかしがる彼女を見て微笑んだ。


_______ この日、この時、アンドレの心が揺れたような気がした。______


「あ……父上に呼ばれましたので。私はこれで失礼致します。…また、お話したいです」
「あぁ、ありがとう。楽しかったよ」
「えへへ…、それでは、また。」
「はい、また。」

キャロラインがセルジュ大臣の元へ去っていった。

「なんや、なんやぁ??」

「……」

気分の良い時には調子の良い奴がやって来る。

「…白蜜蜂のかわい子ちゃんがタイプなん?へぇ~知らんかったわァ」
「……フレデリック。」
「せやアンドレ、側室娶ってないそうやんか」
「……それがどうした」

「あの娘、側室にしたらええやんか」
「…キャロラインは、白蜜蜂だ。」
「だから何?」
「え?」
「白蜜蜂だから、結婚したらあかんの?」
「…そう…先王から言われている。」

と、いう事にしている。

リシャールが俺と結婚できないのなら。
リシャールには、ロナルドがいる。今では他人の妻となり、市民となった。

国王である自分と結婚するなんて、もし出来たとしても、きっとリシャールに災難が降りかかると思った。

また、誰かに反対されて嫉妬されて…。

リシャールにまた何かあったら、元も子も無い。

「つまんねぇ国やな。」
「何だよ。」
「レステンクールはそんな法律無いで?」
「だろうな、」
「自由の国やからな!」
「……そうか。」

「でも…白蜜蜂も悪うないなぁ。みーんなべっぴんさんや。俺の凱旋パレード、白蜜蜂も呼んだろ~っと。」
「好きにしろ。」
「アンドレも来たれや」
「気が向いたらな」
「ちぇっ、つまんねぇ奴やな」

シャンパーニで行われたパーティーは、戦で気が滅入っていたアンドレも、久しく楽しむことができた。


「…アンドレ国王。本日はお越し頂き、ありがとうございました。」
「ウジェーヌ国王。こちらこそ、ご招待頂き感謝しています」
「ウジェーヌ、ほなまた来たるわ」
「はい、またいらしてください。アンドレ国王には、まだ少しだけお世話になりますが。」
「はい。また後ほど。」

ウジェーヌは二人を見送った。

_______________


アンドレが率いるペリシエ軍はもう少しの間シャンパーニに留まり、復興作業に取り掛かることになっていた。

「……はぁ…。」

キャロラインが頭から離れなかった。

瞳だけじゃなくて、リシャールと何処か似ていた。

顔か?それとも、声?いや、違う。何がそう思わせるのか、分からない。

「駄目だ……」

「陛下?」

「外の空気を吸ってくる。」

「かしこまりました、お気を付けて…」

アンドレは切り替えようと、外へ出た。
外は寒い。コートに袖を通さず、ただ羽織った。

「…はぁ……」

目を瞑り、白い息を吐いた。

雪が薄くかかった葉を踏むと、しゃりしゃりと音がする。なんだか、その音も心地よく感じた。


立ち止まっていると、近くから足音がした。誰もいないはずなのに。


「……誰だ?!」


アンドレは声を上げ、剣を握った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...