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昼休みの風景
食事のメニューですら頭痛を引き起こすなんて、この二人は大物すぎる
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「ごめんごめん。無理をさせる気はなかったから、普通に一緒に食べよう」
疲れた声の私に同情してくれたのか、夏川先輩が珍しく譲歩してくれた。
夏川先輩が譲歩してくれたのって、初めてじゃない?
いつも自分に都合の良い流れに持って行ったのに珍しい。
とは言っても、朝と今のやり取りで私の精神力は残り少ない。
「きらら。私、もう、移動する気力がなくなった・・・」
「え? 今日はここで王子様とご一緒できるの?」
「・・・招待してあげて。ついでにもてなしといて。私は倒れてる」
私はきららに後を任せることにして、自分の席で机に突っ伏した。
もう、疲れた。
まだ昼休みなのに、文化祭の後夜祭で罰ゲームまで参加した気分だ。
「実花。夏川先輩がいいなら俺もいいよな?」
突っ伏していると、あいつが口を挟んできた。
「・・・」
ツッコミどころが満載すぎるけど、私はもう何も言う気力が出ない。
疲れた。
そっとしておいて欲しい。
「目の前で三角関係勃発。三竦みを特等席で見られるなんてなんてラッキーなの」
私の席の近くできららがはしゃぎ気味に言う。
朝の再演だからね。
特等席で見られるよ、きらら。
「三角関係じゃない。実花と付き合っていた俺がちょっと浮気して、実花が夏川先輩に相談しただけだ」
「・・・」
お前が言うな!
浮気した挙句、お前が夏川先輩に差し出したくせに、何、自分の都合が良いように軽く言ってんだ?!
これがみんなに憎まれないスキルなのか?!
怒りを口にする気力もない私は机に伏したままでいられてラッキーだった。下手に言い返して、真相を大多数に知られたくない。
「春原。昼は持参しているのか?」
夏川先輩もきららと一緒に移動してきたらしい。近くで声がする。
「やべっ。食堂じゃないなら、購買のパンが売り切れるまでに行かなきゃ」
「・・・」
立ち去るあいつは机に何回かぶつかる音をたてた。運動部なのにぶつかるなんて、よっぽど、慌てているらしい。
「夏川先輩は大丈夫なんですか?」
代わりにもてなし役になったきららが夏川先輩に訊いている。
「栄養の偏りを防ぐぐらいは買って来ているよ」
「じゃあ、実花の机にくっつけて席を作りますね。いいよね、実花」
「・・・」
どうぞ、どうぞ。
後のことはきららにみんな任せているから。
ヒラヒラと手を振る。
「ありがとう」
感謝の言葉をかけるくらいなら、立ち去って欲しいです。
「実花の許可も出たことだし、さっさとやってしまいましょう。夏川先輩。そっちの机、実花の机とくっつけちゃってください」
――――――――――――――――――――
「・・・」
「・・・」
私ときららの目は目の前の二人の前に置かれたお昼に釘付けだ。
菓子パンと総菜パンでできた山の後ろにいるのはあいつ。
アメリカンドッグにコンビニのフライドチキン数個とサラダ(L)の後ろにいるのは夏川先輩。
炭水化物オンリーの食事にサラダとホットスナックな食事。
特に夏川先輩。サラダとホットスナックのどこが『栄養の偏りを防ぐぐらい』だ。偏りすぎてるじゃない。
何も話していないのに頭が痛くなってくる。
いや、あいつか夏川先輩が近くにいるだけで頭痛がしてくる。
それなのに、食事のメニューですら頭痛を引き起こすなんて、この二人は大物すぎる。
私が振り回されるのも仕方ない。
「実花。返すよ・・・」
きららは私にお弁当を返してきた。
あいつと夏川先輩はそれを見逃さない。あいつは私がきららに上げた時から気付いていたし、夏川先輩は私とお揃いのお弁当箱がきららの前にあることを気付いていた。
「きらら・・・」
飢えた野生動物にお弁当を狙われているような感覚がする。
「だって・・・」
そう言って、きららは二人を交互に見る。
「自分でお昼を買って来たんだから、それを私たちが気にすることなんてないじゃない」
「そんなことを言っても・・・」
気まずそうなきらら。
その元凶に視線をさまよわせると、あいつと夏川先輩は捨てられた仔犬のような目で私を見ていた。
「!」
う”っ。
なんて目で私を見てくるんだ。
「実花・・・」
「お弁当・・・」
その呟きと栄養バランスの偏った昼食メニューが私の良心を抉る。
炭水化物だけのおかずや野菜が必要なあいつに、主食となる炭水化物がない夏川先輩。
なんで示し合わせたかのような物ばかり買ってきているんだ?!
もしかして、本当に示し合わせてる?!
いつの間に示し合わせた?!
二人に上げたくはない。
上げたくはないけど・・・きららが食べてくれなかったら無駄になるだけだし。
だけど、きららを怖じ気づかせて食べられないようにしたのも否定できない。
「・・・」
「・・・」
期待に満ちた目でこちらを見ないで。
「あー! もう! わかった! 二人で食べなさいよ!」
「ありがとう、実花」
「ありがとう、実花ちゃん」
「ありがとう、実花」
きららまで泣きそうな表情で拝みそうな勢いで言った。
こいつら・・・。
「三角関係は現実で傍から見るのは色々大変だね」
「きらら。友達をやめたりしないよね? きららがいなかったら、こんなの耐えられないから」
「実花を見捨てたりはしないよ。三角関係の観察はTVか本の中だけにしておくって話」
疲れ切った私たちとは別次元で喜々とお弁当を分け合っている二人を見て、野生動物に餌を与えてはいけない。何故か、その時の私にはその言葉が思い浮かんだ。
それはあながち間違いではなかったと、後々、私は後悔するのだった・・・。
疲れた声の私に同情してくれたのか、夏川先輩が珍しく譲歩してくれた。
夏川先輩が譲歩してくれたのって、初めてじゃない?
いつも自分に都合の良い流れに持って行ったのに珍しい。
とは言っても、朝と今のやり取りで私の精神力は残り少ない。
「きらら。私、もう、移動する気力がなくなった・・・」
「え? 今日はここで王子様とご一緒できるの?」
「・・・招待してあげて。ついでにもてなしといて。私は倒れてる」
私はきららに後を任せることにして、自分の席で机に突っ伏した。
もう、疲れた。
まだ昼休みなのに、文化祭の後夜祭で罰ゲームまで参加した気分だ。
「実花。夏川先輩がいいなら俺もいいよな?」
突っ伏していると、あいつが口を挟んできた。
「・・・」
ツッコミどころが満載すぎるけど、私はもう何も言う気力が出ない。
疲れた。
そっとしておいて欲しい。
「目の前で三角関係勃発。三竦みを特等席で見られるなんてなんてラッキーなの」
私の席の近くできららがはしゃぎ気味に言う。
朝の再演だからね。
特等席で見られるよ、きらら。
「三角関係じゃない。実花と付き合っていた俺がちょっと浮気して、実花が夏川先輩に相談しただけだ」
「・・・」
お前が言うな!
浮気した挙句、お前が夏川先輩に差し出したくせに、何、自分の都合が良いように軽く言ってんだ?!
これがみんなに憎まれないスキルなのか?!
怒りを口にする気力もない私は机に伏したままでいられてラッキーだった。下手に言い返して、真相を大多数に知られたくない。
「春原。昼は持参しているのか?」
夏川先輩もきららと一緒に移動してきたらしい。近くで声がする。
「やべっ。食堂じゃないなら、購買のパンが売り切れるまでに行かなきゃ」
「・・・」
立ち去るあいつは机に何回かぶつかる音をたてた。運動部なのにぶつかるなんて、よっぽど、慌てているらしい。
「夏川先輩は大丈夫なんですか?」
代わりにもてなし役になったきららが夏川先輩に訊いている。
「栄養の偏りを防ぐぐらいは買って来ているよ」
「じゃあ、実花の机にくっつけて席を作りますね。いいよね、実花」
「・・・」
どうぞ、どうぞ。
後のことはきららにみんな任せているから。
ヒラヒラと手を振る。
「ありがとう」
感謝の言葉をかけるくらいなら、立ち去って欲しいです。
「実花の許可も出たことだし、さっさとやってしまいましょう。夏川先輩。そっちの机、実花の机とくっつけちゃってください」
――――――――――――――――――――
「・・・」
「・・・」
私ときららの目は目の前の二人の前に置かれたお昼に釘付けだ。
菓子パンと総菜パンでできた山の後ろにいるのはあいつ。
アメリカンドッグにコンビニのフライドチキン数個とサラダ(L)の後ろにいるのは夏川先輩。
炭水化物オンリーの食事にサラダとホットスナックな食事。
特に夏川先輩。サラダとホットスナックのどこが『栄養の偏りを防ぐぐらい』だ。偏りすぎてるじゃない。
何も話していないのに頭が痛くなってくる。
いや、あいつか夏川先輩が近くにいるだけで頭痛がしてくる。
それなのに、食事のメニューですら頭痛を引き起こすなんて、この二人は大物すぎる。
私が振り回されるのも仕方ない。
「実花。返すよ・・・」
きららは私にお弁当を返してきた。
あいつと夏川先輩はそれを見逃さない。あいつは私がきららに上げた時から気付いていたし、夏川先輩は私とお揃いのお弁当箱がきららの前にあることを気付いていた。
「きらら・・・」
飢えた野生動物にお弁当を狙われているような感覚がする。
「だって・・・」
そう言って、きららは二人を交互に見る。
「自分でお昼を買って来たんだから、それを私たちが気にすることなんてないじゃない」
「そんなことを言っても・・・」
気まずそうなきらら。
その元凶に視線をさまよわせると、あいつと夏川先輩は捨てられた仔犬のような目で私を見ていた。
「!」
う”っ。
なんて目で私を見てくるんだ。
「実花・・・」
「お弁当・・・」
その呟きと栄養バランスの偏った昼食メニューが私の良心を抉る。
炭水化物だけのおかずや野菜が必要なあいつに、主食となる炭水化物がない夏川先輩。
なんで示し合わせたかのような物ばかり買ってきているんだ?!
もしかして、本当に示し合わせてる?!
いつの間に示し合わせた?!
二人に上げたくはない。
上げたくはないけど・・・きららが食べてくれなかったら無駄になるだけだし。
だけど、きららを怖じ気づかせて食べられないようにしたのも否定できない。
「・・・」
「・・・」
期待に満ちた目でこちらを見ないで。
「あー! もう! わかった! 二人で食べなさいよ!」
「ありがとう、実花」
「ありがとう、実花ちゃん」
「ありがとう、実花」
きららまで泣きそうな表情で拝みそうな勢いで言った。
こいつら・・・。
「三角関係は現実で傍から見るのは色々大変だね」
「きらら。友達をやめたりしないよね? きららがいなかったら、こんなの耐えられないから」
「実花を見捨てたりはしないよ。三角関係の観察はTVか本の中だけにしておくって話」
疲れ切った私たちとは別次元で喜々とお弁当を分け合っている二人を見て、野生動物に餌を与えてはいけない。何故か、その時の私にはその言葉が思い浮かんだ。
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