67 / 74
深まりいく秋
「ほっといてください」
しおりを挟む
「今、時間ある?」
月曜日、夏川先輩の言葉に後押しされた私は昼休みに入ってすぐ、あいつに声をかけた。
「み――秋山」
名前を言い直され、あいつもまだ慣れていないのかと思ったら、悩んでいたことすらおかしく思った。結局、私はその場の怒りで別れを告げて、自分もあいつもまだ別れたという実感がなくて、その癖、私はあいつの心配を勝手にしていて、あいつはあいつで私を苗字で呼び慣れていない。
私が意固地になってしまったから、こんなややこしいことになっているのだ。夏川先輩の要求を受け入れた後、あいつを殴って今まで通り付き合うことだってできたのに、
全部、夏川先輩やあいつが悪いんだけど、私にも悪いとこがあったから、夏川先輩に付け入られてしまったのも事実だ。
「どっちでもいいけど、ちょっと話できないかな?」
「話? いいけど、ここじゃちょっと・・・」
私からあいつに話しかけたことが珍しいのか、あいつが驚いただけじゃなくて、教室中の注目を引いていた。
「下駄箱でいい?」
下駄箱に人がいるのは朝と放課後だけだ。授業のある日は放課後にならないと学校の敷地から出ることを禁じられているから、誰もそこに用がない。
「ああ。そこでいい」
私たちは下駄箱に無言で移動した。私はこれからどう話したらいいのか、頭がいっぱいだったし、あいつも話しかけてこなかった。
「・・・」
「・・・」
ようやく、下駄箱に着いて、ホッとしたぐらいだった。
だけど、そうなると今度は話さないといけないわけで、気まずい。元カノが次の彼女の悪口を言うのだ。未練があると思われても仕方ないし、あいつを振っておいて彼女の悪口を言うなんて最低な行為だ。
いくら夏川先輩の初代浮気した彼女が悪いからといって、言っていいことと悪いことがある。
あいつが本当に初代浮気した彼女を好きだった場合、余計なお世話にしかならない。
でも、私は黙って見ていられなかった。
一度は好きになった相手なのだ。
そんなあいつを初代浮気した彼女の毒牙にかけさせるわけにはいかない。変態の巣窟の元祖浮気女なのだ。
「あのさ。三年の子と付き合ってるの?」
おずおずと話しを切り出したら、あいつは怪訝そうな顔をした。
「それがみ――秋山になんの関係があるんだよ」
「関係大ありだから、言ってるんでしょ? 付き合ってるのがお昼に食堂で一緒にいる人だったら、付き合うのやめて。彼女はとんでもない人だから、亮が傷付くだけだよ」
「どういう意味だよ、ソレ」
大きくなった声があいつの怒りを伝えてくる。
「だから、彼女はとんでもなく人で、犠牲者がたくさんいるんだよ」
「別れた今になって、余計なことに首を突っ込んでくるなよ!」
「でも、亮のこと、ほっとけないよ! 亮のせいで色々あったけど、だからって、あんな人に傷付けられていいなんて思ってないし!」
「実花は俺のことを怒って、幻滅して別れたんだろう?」
「それはそうだけど・・・」
だからって、夏川先輩の初代浮気した彼女の毒牙にかかるのを黙って見ていることなんてできない。
「なら、もう俺のことは放っておいてくれ。別れたんだから、口出ししてくんなよ! ウザいんだよ! 忘れたいのに忘れられないだろ?!」
「・・・っ!」
こんなふうになるのを考えないようにしてきた。でも、泣きそうな顔でそう言うあいつを見て、私は自分が卑怯だったと思った。
あいつは現実を受け入れようと必死で。そんなあいつに私は付き合っている彼女の悪い評判を教えて邪魔をして。
復縁を望んでいたあいつを邪険にしたのは私なのに、あいつが離れて行こうとするのを邪魔するなんて、そんな資格はどこにもないのに。言っていいのかどうか悩んでいたけど、そのこと自体間違っていた。
放っておいてあげるのが私のできる唯一のことなのに、余計なことをしまった・・・。
気付いたら、あいつはもういなくなっていた。初代浮気した彼女のいる食堂に行ったんだろう。
ノロノロと重い足取りで教室に戻ったら、きららと夏川先輩が心配そうな顔をしていた。
「こんな時間まで、どこ行ってたのよ、実花!」
「?」
スマホを見たら、昼休みも終わりかけの時間だった。あいつに声をかけたのは始まってすぐだったから、かなり呆然としていたようだ。
「なんでも――」
「なんでもなくなんかない!」
早口で言おうとしたのを、きららが遮る。
「そうだよ。そんなひどい顔して、なんでもないはずはないだろう?」
夏川先輩もきららと同じ意見だったから、本当になんでもないようには見えないんだろう。
「・・・ひどいのは元からです」
「それなら余計にひどい顔だよ」
「ほっといてください」
余計って・・・。嘘でもそんなふうに言わないでしょうが。
「何があったの、実花?」
きららが事情を聞きだそうとする。心配してくれるのは嬉しいけど、今は言いたくない・・・。
「ご飯食べてからにしない?」
「夏川先輩!! 実花がこんな時にご飯なんか食べられるわけないでしょうが!!」
きららは怒っているけど、いつものようにマイペースな夏川先輩の発言に笑ってしまった。
「実花?! そこ笑うとこ?!」
「こんな時でも夏川先輩はブレないんだよ? 笑うしかないよ」
「お褒めに預かり光栄です。ほら、時間ないから食べてしまおう」
きららの机の上にはまだ手付かずのお弁当が置かれている。
「きららは食べないで待っててくれたの?!」
「当たり前でしょ」
「いい友達を持っているね」
嫌味っぽいけど悪意がなさそうな夏川先輩の机にはペットボトルしかないのを見て、お弁当を渡し忘れていたことを思い出した。
あ。お弁当を鞄から出す前にあいつを捕まえようとしたから、夏川先輩のお昼がまだなのは当たり前だ。
「ごめんなさい、夏川先輩。すっかり忘れてた」
鞄からお弁当を出しながら謝る。
「いいって。早く食べないと授業が始まってしまうよ」
夏川先輩は早く食べようと主張を続ける。
夏川先輩がマイペースで助かった。
でも、ホント、ごめん。
私たちは急いで食べて、どうにか午後からの授業に間に合った。
月曜日、夏川先輩の言葉に後押しされた私は昼休みに入ってすぐ、あいつに声をかけた。
「み――秋山」
名前を言い直され、あいつもまだ慣れていないのかと思ったら、悩んでいたことすらおかしく思った。結局、私はその場の怒りで別れを告げて、自分もあいつもまだ別れたという実感がなくて、その癖、私はあいつの心配を勝手にしていて、あいつはあいつで私を苗字で呼び慣れていない。
私が意固地になってしまったから、こんなややこしいことになっているのだ。夏川先輩の要求を受け入れた後、あいつを殴って今まで通り付き合うことだってできたのに、
全部、夏川先輩やあいつが悪いんだけど、私にも悪いとこがあったから、夏川先輩に付け入られてしまったのも事実だ。
「どっちでもいいけど、ちょっと話できないかな?」
「話? いいけど、ここじゃちょっと・・・」
私からあいつに話しかけたことが珍しいのか、あいつが驚いただけじゃなくて、教室中の注目を引いていた。
「下駄箱でいい?」
下駄箱に人がいるのは朝と放課後だけだ。授業のある日は放課後にならないと学校の敷地から出ることを禁じられているから、誰もそこに用がない。
「ああ。そこでいい」
私たちは下駄箱に無言で移動した。私はこれからどう話したらいいのか、頭がいっぱいだったし、あいつも話しかけてこなかった。
「・・・」
「・・・」
ようやく、下駄箱に着いて、ホッとしたぐらいだった。
だけど、そうなると今度は話さないといけないわけで、気まずい。元カノが次の彼女の悪口を言うのだ。未練があると思われても仕方ないし、あいつを振っておいて彼女の悪口を言うなんて最低な行為だ。
いくら夏川先輩の初代浮気した彼女が悪いからといって、言っていいことと悪いことがある。
あいつが本当に初代浮気した彼女を好きだった場合、余計なお世話にしかならない。
でも、私は黙って見ていられなかった。
一度は好きになった相手なのだ。
そんなあいつを初代浮気した彼女の毒牙にかけさせるわけにはいかない。変態の巣窟の元祖浮気女なのだ。
「あのさ。三年の子と付き合ってるの?」
おずおずと話しを切り出したら、あいつは怪訝そうな顔をした。
「それがみ――秋山になんの関係があるんだよ」
「関係大ありだから、言ってるんでしょ? 付き合ってるのがお昼に食堂で一緒にいる人だったら、付き合うのやめて。彼女はとんでもない人だから、亮が傷付くだけだよ」
「どういう意味だよ、ソレ」
大きくなった声があいつの怒りを伝えてくる。
「だから、彼女はとんでもなく人で、犠牲者がたくさんいるんだよ」
「別れた今になって、余計なことに首を突っ込んでくるなよ!」
「でも、亮のこと、ほっとけないよ! 亮のせいで色々あったけど、だからって、あんな人に傷付けられていいなんて思ってないし!」
「実花は俺のことを怒って、幻滅して別れたんだろう?」
「それはそうだけど・・・」
だからって、夏川先輩の初代浮気した彼女の毒牙にかかるのを黙って見ていることなんてできない。
「なら、もう俺のことは放っておいてくれ。別れたんだから、口出ししてくんなよ! ウザいんだよ! 忘れたいのに忘れられないだろ?!」
「・・・っ!」
こんなふうになるのを考えないようにしてきた。でも、泣きそうな顔でそう言うあいつを見て、私は自分が卑怯だったと思った。
あいつは現実を受け入れようと必死で。そんなあいつに私は付き合っている彼女の悪い評判を教えて邪魔をして。
復縁を望んでいたあいつを邪険にしたのは私なのに、あいつが離れて行こうとするのを邪魔するなんて、そんな資格はどこにもないのに。言っていいのかどうか悩んでいたけど、そのこと自体間違っていた。
放っておいてあげるのが私のできる唯一のことなのに、余計なことをしまった・・・。
気付いたら、あいつはもういなくなっていた。初代浮気した彼女のいる食堂に行ったんだろう。
ノロノロと重い足取りで教室に戻ったら、きららと夏川先輩が心配そうな顔をしていた。
「こんな時間まで、どこ行ってたのよ、実花!」
「?」
スマホを見たら、昼休みも終わりかけの時間だった。あいつに声をかけたのは始まってすぐだったから、かなり呆然としていたようだ。
「なんでも――」
「なんでもなくなんかない!」
早口で言おうとしたのを、きららが遮る。
「そうだよ。そんなひどい顔して、なんでもないはずはないだろう?」
夏川先輩もきららと同じ意見だったから、本当になんでもないようには見えないんだろう。
「・・・ひどいのは元からです」
「それなら余計にひどい顔だよ」
「ほっといてください」
余計って・・・。嘘でもそんなふうに言わないでしょうが。
「何があったの、実花?」
きららが事情を聞きだそうとする。心配してくれるのは嬉しいけど、今は言いたくない・・・。
「ご飯食べてからにしない?」
「夏川先輩!! 実花がこんな時にご飯なんか食べられるわけないでしょうが!!」
きららは怒っているけど、いつものようにマイペースな夏川先輩の発言に笑ってしまった。
「実花?! そこ笑うとこ?!」
「こんな時でも夏川先輩はブレないんだよ? 笑うしかないよ」
「お褒めに預かり光栄です。ほら、時間ないから食べてしまおう」
きららの机の上にはまだ手付かずのお弁当が置かれている。
「きららは食べないで待っててくれたの?!」
「当たり前でしょ」
「いい友達を持っているね」
嫌味っぽいけど悪意がなさそうな夏川先輩の机にはペットボトルしかないのを見て、お弁当を渡し忘れていたことを思い出した。
あ。お弁当を鞄から出す前にあいつを捕まえようとしたから、夏川先輩のお昼がまだなのは当たり前だ。
「ごめんなさい、夏川先輩。すっかり忘れてた」
鞄からお弁当を出しながら謝る。
「いいって。早く食べないと授業が始まってしまうよ」
夏川先輩は早く食べようと主張を続ける。
夏川先輩がマイペースで助かった。
でも、ホント、ごめん。
私たちは急いで食べて、どうにか午後からの授業に間に合った。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる