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深まりいく秋
「大丈夫って、ちょっと――!!」
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冬野さんと話しても結論が出なくて、それでも悩んでいないように見せかけたまま、金曜日になった。
今日は夏川先輩が勉強を見てくれる日だ。夏休みの終わりに言われた時は呆れたけど、実際には(一回しかしてないけど)なんの問題もない。というか、勉強教えてもらえて助かってる。小テストがバッチリわかったし。
「今日は勉強やめようか?」
「ええっ?!」
二回目で方向転換?!
駄目じゃん! この人、変わってないよ!!
「近くでラリーでもしない?」
げんなりしている私に夏川先輩は想定外なことを言ってきた。
「ラリー?」
「そう。テニスのラリー」
夏川先輩の部屋からラケットを二本持ってきて、近くの公園に行った。
「あれ、このボール。ゴムボールですよ?」
円筒状のケースから出されたボールはどう見てもゴムボールだ。柔らかくても、テニスのボールには見えない。
「軟式テニスのボールだよ。公園は球技禁止のところが多いからね。ルールを破るなら、当たっても怪我をしないものを使わないと」
触ったら少し凹むくらいしか空気を入れていないビーチボールくらい柔らかいから、これなら当たっても痛くなさそう。ボール自体も柔らかい皮みたいな感触だ。
「でも、駄目なら、やっちゃいけないでしょ?!」
禁止されてるんだし。
「ルールは厳しいけど、それは被害が出ないようにしているだけだから。こちらも気を付けておけばいいんだよ」
信じられない!
ルール破りとか、これでもテニス部の部長やってたんだよね?
「いつもこんなことしてるんですか?」
そういえば、親と学校中に私と付き合っているようにみせて、セフレという名の彼女になるしかない羽目にしたような奴だったっけ。バイトが忙しくて自然消滅狙ったら、それも脅してセフレという名の彼女にさせたし。
「自主練の時はスポーツ施設とか、大丈夫なところを利用しているよ。硬式のボールは痛いし、危ないから。遊ぶ分には軟式で軽く打つから、大丈夫」
「大丈夫って、ちょっと――!!」
ボールが飛んできて打ち返しているうちに、夏川先輩が大丈夫だと言った理由がわかった。私は一歩も動かずに、ただ飛んでくるボールを打ち返しているだけでよかった。
走り回る必要があったのは夏川先輩だった。
どこから打ち返されても、私のラケットに吸い込まれるようにボールが飛んでくる。このボールが誰かに当たるとしたら、私が空振りした時と横に飛んだ時だけだ。
その空振りもできないくらい緩やかな山を描いてボールが飛んでくるから、タイミングが早すぎて打ち損じることもない。
力を入れすぎて遠くに飛んでも、逆に弱すぎてほとんど飛ばなくても、コントロールがうまくできなくても、夏川先輩のおかげで難なくラリーが続いて、楽しくなってくる。
いくら楽しくても、帰宅部の私のほうが体力がなくて、先に息が上がってしまった。
「ちょっと、休む?」
帰宅部な私はもう勘弁して欲しいくらいなのに、流石、本職(謎)。走り回ってるのに、まだまだ余裕がありそうだ。
「このまま終わってもいいよ」
助かった。
「終わっていいなら、終わってください」
「もう、気は晴れた?」
安堵の息を吐いていたら、夏川先輩が突然聞いてきた。
「え?!」
ラケットを肩に置いて夏川先輩が気遣わし気に見ていた。
「何かに悩んでいただろ?」
「気付いていたんですか?」
わからないと思った。現に冬野さんは相談して私の悩みが解決したと思っていたし。
「表情が暗かったから、どうかしたのかって」
自分でもわからないうちに暗い表情をしていたらしい。多分、冬野さんも気付いているけど、何も言ってこなかったということは、言い出せなかったんだろう。
悪いことしたな・・・。
「・・・理由は聞かないんですか?」
「理由を聞いて欲しいの? 聞いて欲しいなら、話してくれているんじゃないかな。俺に話したくないから、話さないんだろ?」
「・・・」
正論すぎる。
夏川先輩に言っても、逆に好都合とばかりにあいつに初代浮気した彼女を押しつけられたら嫌だから言えなかった。
「言わないってことは、そういうことなんだよ。俺が言えることは、考え過ぎてもよくないから、困った時には身体を動かして忘れたり、行動したほうがいいってこと。行動したほうが解決するってこともあるしね」
それって、計画性なしって言わない?
呆れたけど、聞いていて悩むのが馬鹿らしくなった。
そう思ったら、身体から力が抜けて、ドッと疲労感が押し寄せてきた。
「帰る前にちょっと休ませてください。私は夏川先輩みたいな体力馬鹿じゃないんですから」
そう言った時、私は笑っていた。
今日は夏川先輩が勉強を見てくれる日だ。夏休みの終わりに言われた時は呆れたけど、実際には(一回しかしてないけど)なんの問題もない。というか、勉強教えてもらえて助かってる。小テストがバッチリわかったし。
「今日は勉強やめようか?」
「ええっ?!」
二回目で方向転換?!
駄目じゃん! この人、変わってないよ!!
「近くでラリーでもしない?」
げんなりしている私に夏川先輩は想定外なことを言ってきた。
「ラリー?」
「そう。テニスのラリー」
夏川先輩の部屋からラケットを二本持ってきて、近くの公園に行った。
「あれ、このボール。ゴムボールですよ?」
円筒状のケースから出されたボールはどう見てもゴムボールだ。柔らかくても、テニスのボールには見えない。
「軟式テニスのボールだよ。公園は球技禁止のところが多いからね。ルールを破るなら、当たっても怪我をしないものを使わないと」
触ったら少し凹むくらいしか空気を入れていないビーチボールくらい柔らかいから、これなら当たっても痛くなさそう。ボール自体も柔らかい皮みたいな感触だ。
「でも、駄目なら、やっちゃいけないでしょ?!」
禁止されてるんだし。
「ルールは厳しいけど、それは被害が出ないようにしているだけだから。こちらも気を付けておけばいいんだよ」
信じられない!
ルール破りとか、これでもテニス部の部長やってたんだよね?
「いつもこんなことしてるんですか?」
そういえば、親と学校中に私と付き合っているようにみせて、セフレという名の彼女になるしかない羽目にしたような奴だったっけ。バイトが忙しくて自然消滅狙ったら、それも脅してセフレという名の彼女にさせたし。
「自主練の時はスポーツ施設とか、大丈夫なところを利用しているよ。硬式のボールは痛いし、危ないから。遊ぶ分には軟式で軽く打つから、大丈夫」
「大丈夫って、ちょっと――!!」
ボールが飛んできて打ち返しているうちに、夏川先輩が大丈夫だと言った理由がわかった。私は一歩も動かずに、ただ飛んでくるボールを打ち返しているだけでよかった。
走り回る必要があったのは夏川先輩だった。
どこから打ち返されても、私のラケットに吸い込まれるようにボールが飛んでくる。このボールが誰かに当たるとしたら、私が空振りした時と横に飛んだ時だけだ。
その空振りもできないくらい緩やかな山を描いてボールが飛んでくるから、タイミングが早すぎて打ち損じることもない。
力を入れすぎて遠くに飛んでも、逆に弱すぎてほとんど飛ばなくても、コントロールがうまくできなくても、夏川先輩のおかげで難なくラリーが続いて、楽しくなってくる。
いくら楽しくても、帰宅部の私のほうが体力がなくて、先に息が上がってしまった。
「ちょっと、休む?」
帰宅部な私はもう勘弁して欲しいくらいなのに、流石、本職(謎)。走り回ってるのに、まだまだ余裕がありそうだ。
「このまま終わってもいいよ」
助かった。
「終わっていいなら、終わってください」
「もう、気は晴れた?」
安堵の息を吐いていたら、夏川先輩が突然聞いてきた。
「え?!」
ラケットを肩に置いて夏川先輩が気遣わし気に見ていた。
「何かに悩んでいただろ?」
「気付いていたんですか?」
わからないと思った。現に冬野さんは相談して私の悩みが解決したと思っていたし。
「表情が暗かったから、どうかしたのかって」
自分でもわからないうちに暗い表情をしていたらしい。多分、冬野さんも気付いているけど、何も言ってこなかったということは、言い出せなかったんだろう。
悪いことしたな・・・。
「・・・理由は聞かないんですか?」
「理由を聞いて欲しいの? 聞いて欲しいなら、話してくれているんじゃないかな。俺に話したくないから、話さないんだろ?」
「・・・」
正論すぎる。
夏川先輩に言っても、逆に好都合とばかりにあいつに初代浮気した彼女を押しつけられたら嫌だから言えなかった。
「言わないってことは、そういうことなんだよ。俺が言えることは、考え過ぎてもよくないから、困った時には身体を動かして忘れたり、行動したほうがいいってこと。行動したほうが解決するってこともあるしね」
それって、計画性なしって言わない?
呆れたけど、聞いていて悩むのが馬鹿らしくなった。
そう思ったら、身体から力が抜けて、ドッと疲労感が押し寄せてきた。
「帰る前にちょっと休ませてください。私は夏川先輩みたいな体力馬鹿じゃないんですから」
そう言った時、私は笑っていた。
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