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過ぎいく夏
「・・・嫌って言って行かなくていいなら、嫌って言いたいです」
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月曜に駅前のコンビニのバイトに応募してすぐに採用された(崎山さんは突然辞めたみたい)3日目の金曜日――夏川先輩の魔の手から逃げることに成功!
ケータイで連絡なんかしたくないから、お昼休みにバイトで行けないことを言ったら、それで大丈夫だった。
やっぱり、自分も部活で忙しい夏川先輩だから、バイトだって聞けば大人しく引き下がってくれたみたい。
土曜日は何事もなく過ぎ、日曜日。今週どころか、今月の週末はみんなバイトを入れてある。これで今月は安心。
でも、日曜日にはトラブルが待っていた。
店の入り口の来店者を告げるベルが鳴り、入って来た人物を見て私はフリーズした。
そんな私を不審に思った冬野さんが声をかけてくる。
「大丈夫か、秋山」
「う、うん。知り合いだから大丈夫」
なんとか返事をするけど、冬野さんは私から目を離さない。
「本当に? 困ったことや助けがいるならいつでも言うんだぞ? 俺、秋山のことが心配だから」
「わかった」
でも、今はその心配されること自体が煩わしい。
お願い、注目しないで。
夏川先輩との会話で私たちの関係を知られたくない。
知られたいと思うような関係じゃないし、いくら冬野さんがフェミニスト?でも、知ったら私を軽蔑すると思う。
告白紛いを撤回してくれるのはいいけど、セフレをしているようには見られたくない。
それは絶対に回避してやろうとバイトを始めたんだから。
私は店の外に夏川先輩を連れ出して、邪魔にならないところまで連れて行く。
「・・・。いい奴だね。誰?」
本日も格好からして爽やかな夏川先輩はそう言って、小首をかしげる。
「バイトの先輩の冬野さんだよ」
店に入る人に聞かれたくないから、小声で言う。
「そう。じゃ、行こうか?」
冬野さんに興味がないのか、夏川先輩は気軽に誘ってきた。
バイト中だっての!
「行くってどこに?」
腹が立ったから声が低くなる。
「付き合っているんだから、実花ちゃんも僕の為に時間をあけていてくれると思ったんだけどなあ」
あんて、自己中な!
付き合うなんて私言ってないし、時間だって夏川先輩が勝手に決めたのに。
「なんで、私がそっちの都合に合わせないといけないんですか?! 夏川先輩が部活で忙しいように私もバイトで忙しいんです!」
「そう。でも、バイトだからって今週は金土とすっぽかしてくれたから、ただじゃおかないよ」
部活を理由に彼女たちを放置していたくせに、どうして私の時だけこんなにうるさいの?!
放っておいてよ!
それでフェードアウトさせてよ!
「ただじゃおかないって、何するってんですか?」
夏川先輩はニッコリ笑って静かに言った。
「日曜はあまり気遣ってあげられないけど、今日は特別きついことをすることにする」
喧嘩を買ってあげたら、なんか恐ろしいことを言い出した。
気遣ってあげられない?
きついことする?
「は?」
「家まで待たない。ひとけのない場所でヤろうか」
「!!!」
驚きすぎて言葉にならない。
それ、それって・・・!
誰かに見られるじゃない?!
露出狂の気なんかないんですけど!!
「な、な、ななな・・・!」
「カラオケボックスでもいいね。でもそれじゃあ、お仕置きにならないか」
オシオキって、外でですか?!
嫌ー!
信じられないー!
「嫌です嫌です嫌です嫌です。オシオキはやめてください!」
必死になって夏川先輩を止める。
考え直してもらわないと!
何が悲しくて高校生でセフレや野外プレイを経験しないといけないのか?!
「秋山?」
外で話していても私の様子がおかしいからか、冬野さんが店の入り口まで出てきて、声をかけてくる。助けてもらいたいけど、この状況をどう説明して助けてもらえばいいのか、そこまで頭が回らない。
「だ、大丈夫です!」
自ら助けを断ってしまった・・・!
自己嫌悪に陥っている暇なんかなかった。夏川先輩が耳元でとんでもないことを囁いてきた。
「今日はさっさと切り上げてくれるなら、お仕置きは勘弁してあげるけど、実花ちゃんって見かけによらずマニアックなこと好きだから興味あるんじゃない?」
「そんなもんありませんよ!」
つい、声が大きくなってしまって、冬野さんが不審そうに私の名前を呼ぶ。
「すみません。違います! 冬野さんのことじゃないです!」
弁明する私の耳に夏川先輩が囁く。
「だって、今、17時だよ? 高校生って22時までしか働けないんだよね? それで僕と付き合うってことは、帰りが遅くなり過ぎないようにすると実花ちゃんの家で気まずい思いをするか、帰り道に手早くするしかないでしょ?」
「・・・」
下半身で生きている夏川先輩を甘く見ていた。
時間がないなら、ないなりの方法をとるとか、どうなの?
想像することすら怖い。
だって、この人、彼女をNTRれたからって、私をNTRせろって言ってくるような人だよ?
私が想像していること以上のことをやるに違いない。
あいつに騙されて連れて行かれた日は、自分をなんで悪者に見せようとしているのかわからなかったけど、今なら言える。
アレは同じ被害者だった私が作り出した幻想だったと。
この鬼畜としか言えないのが、素なんだ。
テニス馬鹿で自分の思うようにことが運ぶのが当たり前だと思っている鬼畜。それが夏川先輩なのだ。
都合のいい相手(浮気しないセフレ)を逃す性格なんかじゃない。
夏川先輩の魔の手から逃げ出すには・・・浮気するしかない?
歴代の彼女が浮気したのも、夏川先輩から逃げる為?
夏川先輩は浮気された彼女と付き合い続けられないくらいプライドがあるから、どうしても別れたいなら、浮気するしかないってこと?
無理だ。
初彼に浮気されて別れたばかりなのに、浮気なんて上級なことできない。
初心者に浮気なんて上級技、無理だ。
夏川先輩が卒業するまで彼女という名のセフレになるしかない。
「じゃあ、付いてくるよね?」
蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
「・・・嫌って言って行かなくていいなら、嫌って言いたいです」
「それは駄目」
爽やかな笑顔で言われたその言葉に背筋が震える。これ、逆らったらやばい奴だ。
私は店の入り口で心配そうに見ている冬野さんに向かって言った。
「すみません、冬野さん! 今日は早めに上がらせください!!」
こうして、私は夏川先輩とセフレ付き合いをする羽目になってしまったのである。
ケータイで連絡なんかしたくないから、お昼休みにバイトで行けないことを言ったら、それで大丈夫だった。
やっぱり、自分も部活で忙しい夏川先輩だから、バイトだって聞けば大人しく引き下がってくれたみたい。
土曜日は何事もなく過ぎ、日曜日。今週どころか、今月の週末はみんなバイトを入れてある。これで今月は安心。
でも、日曜日にはトラブルが待っていた。
店の入り口の来店者を告げるベルが鳴り、入って来た人物を見て私はフリーズした。
そんな私を不審に思った冬野さんが声をかけてくる。
「大丈夫か、秋山」
「う、うん。知り合いだから大丈夫」
なんとか返事をするけど、冬野さんは私から目を離さない。
「本当に? 困ったことや助けがいるならいつでも言うんだぞ? 俺、秋山のことが心配だから」
「わかった」
でも、今はその心配されること自体が煩わしい。
お願い、注目しないで。
夏川先輩との会話で私たちの関係を知られたくない。
知られたいと思うような関係じゃないし、いくら冬野さんがフェミニスト?でも、知ったら私を軽蔑すると思う。
告白紛いを撤回してくれるのはいいけど、セフレをしているようには見られたくない。
それは絶対に回避してやろうとバイトを始めたんだから。
私は店の外に夏川先輩を連れ出して、邪魔にならないところまで連れて行く。
「・・・。いい奴だね。誰?」
本日も格好からして爽やかな夏川先輩はそう言って、小首をかしげる。
「バイトの先輩の冬野さんだよ」
店に入る人に聞かれたくないから、小声で言う。
「そう。じゃ、行こうか?」
冬野さんに興味がないのか、夏川先輩は気軽に誘ってきた。
バイト中だっての!
「行くってどこに?」
腹が立ったから声が低くなる。
「付き合っているんだから、実花ちゃんも僕の為に時間をあけていてくれると思ったんだけどなあ」
あんて、自己中な!
付き合うなんて私言ってないし、時間だって夏川先輩が勝手に決めたのに。
「なんで、私がそっちの都合に合わせないといけないんですか?! 夏川先輩が部活で忙しいように私もバイトで忙しいんです!」
「そう。でも、バイトだからって今週は金土とすっぽかしてくれたから、ただじゃおかないよ」
部活を理由に彼女たちを放置していたくせに、どうして私の時だけこんなにうるさいの?!
放っておいてよ!
それでフェードアウトさせてよ!
「ただじゃおかないって、何するってんですか?」
夏川先輩はニッコリ笑って静かに言った。
「日曜はあまり気遣ってあげられないけど、今日は特別きついことをすることにする」
喧嘩を買ってあげたら、なんか恐ろしいことを言い出した。
気遣ってあげられない?
きついことする?
「は?」
「家まで待たない。ひとけのない場所でヤろうか」
「!!!」
驚きすぎて言葉にならない。
それ、それって・・・!
誰かに見られるじゃない?!
露出狂の気なんかないんですけど!!
「な、な、ななな・・・!」
「カラオケボックスでもいいね。でもそれじゃあ、お仕置きにならないか」
オシオキって、外でですか?!
嫌ー!
信じられないー!
「嫌です嫌です嫌です嫌です。オシオキはやめてください!」
必死になって夏川先輩を止める。
考え直してもらわないと!
何が悲しくて高校生でセフレや野外プレイを経験しないといけないのか?!
「秋山?」
外で話していても私の様子がおかしいからか、冬野さんが店の入り口まで出てきて、声をかけてくる。助けてもらいたいけど、この状況をどう説明して助けてもらえばいいのか、そこまで頭が回らない。
「だ、大丈夫です!」
自ら助けを断ってしまった・・・!
自己嫌悪に陥っている暇なんかなかった。夏川先輩が耳元でとんでもないことを囁いてきた。
「今日はさっさと切り上げてくれるなら、お仕置きは勘弁してあげるけど、実花ちゃんって見かけによらずマニアックなこと好きだから興味あるんじゃない?」
「そんなもんありませんよ!」
つい、声が大きくなってしまって、冬野さんが不審そうに私の名前を呼ぶ。
「すみません。違います! 冬野さんのことじゃないです!」
弁明する私の耳に夏川先輩が囁く。
「だって、今、17時だよ? 高校生って22時までしか働けないんだよね? それで僕と付き合うってことは、帰りが遅くなり過ぎないようにすると実花ちゃんの家で気まずい思いをするか、帰り道に手早くするしかないでしょ?」
「・・・」
下半身で生きている夏川先輩を甘く見ていた。
時間がないなら、ないなりの方法をとるとか、どうなの?
想像することすら怖い。
だって、この人、彼女をNTRれたからって、私をNTRせろって言ってくるような人だよ?
私が想像していること以上のことをやるに違いない。
あいつに騙されて連れて行かれた日は、自分をなんで悪者に見せようとしているのかわからなかったけど、今なら言える。
アレは同じ被害者だった私が作り出した幻想だったと。
この鬼畜としか言えないのが、素なんだ。
テニス馬鹿で自分の思うようにことが運ぶのが当たり前だと思っている鬼畜。それが夏川先輩なのだ。
都合のいい相手(浮気しないセフレ)を逃す性格なんかじゃない。
夏川先輩の魔の手から逃げ出すには・・・浮気するしかない?
歴代の彼女が浮気したのも、夏川先輩から逃げる為?
夏川先輩は浮気された彼女と付き合い続けられないくらいプライドがあるから、どうしても別れたいなら、浮気するしかないってこと?
無理だ。
初彼に浮気されて別れたばかりなのに、浮気なんて上級なことできない。
初心者に浮気なんて上級技、無理だ。
夏川先輩が卒業するまで彼女という名のセフレになるしかない。
「じゃあ、付いてくるよね?」
蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
「・・・嫌って言って行かなくていいなら、嫌って言いたいです」
「それは駄目」
爽やかな笑顔で言われたその言葉に背筋が震える。これ、逆らったらやばい奴だ。
私は店の入り口で心配そうに見ている冬野さんに向かって言った。
「すみません、冬野さん! 今日は早めに上がらせください!!」
こうして、私は夏川先輩とセフレ付き合いをする羽目になってしまったのである。
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