獣人の世界で狐族専用の娼婦になりました

プラネットプラント

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第一章

カーと呼ばれている男

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 不意に赤毛の男は身を起こして袖口に隠していたダガーを手にする。
 小さなノックの音がした後、少年の声がした。

「カー、僕だよ」

 隣りで眠っている美穂の目が覚めないように赤毛の男は静かにベッドを降りる。フットボードに引っ掛けてあった上着を羽織り、立てかけてあった愛剣を手にして戸口に近付き、ドアを蹴って開けた。

「うわっ?! 危ないっ!!」

 ドアが当たらない場所に立っていた少年が大げさに避けてみせる。

「何が危ないだ。毎回やってることだし、当たってねーだろ」
「当たっていないからって、していいってわけじゃないんだよ、カー」

 ぷ~と頬を膨らませる様すらよく似合う可愛らしい少年には頭に赤味がかった黄色い髪と同色の耳があり、目も獣の目と言われるアンバーで、髪と同じ色の尻尾があり、獣人としても中々の容姿をしている。

「怒ってねーのに怒ってるふりすんなよ」
「フフフ。わかっちゃった?」

 一転してニヤリと笑うその表情は小悪魔のような魅力がある。

「わかるっつーの。この腹黒少年」
「えー。ひどいなー」
「何、無邪気さアピールしてんだよ。お腹真っ黒なあんたがそんな真似しても、誰も引っかからねーよ」

 言いながら、赤毛の男はどんどん美穂の部屋から離れ、階段を下り始める。

「ひどいなー、カーは」
「ひどくねーよ。奢ってやってるじゃねーか」
「残業なんだから、これぐらい当然だよ」
「ついてこなくていいっつってんのに、勝手についてきてそれかよ?!」
「一人で出歩かせたら、君の嫁がうるさいんだもん」
「嫁じゃねーよ。誰が男を嫁にするんだよ」
「オバハンを嫁にしたいって男は多いんだよ」
「知らねーよ、そんな特殊性癖」
「カーが知らないだけで、男でもオバハンなら可って奴なら、結構いるよ」
「マジか。ありなのかよ」
「オバハンは面倒見良いし、人当たりいいからね」
「信じらんねー」

 やいのやいの言いながら、二人は娼館を出て、赤毛の男が部屋を押さえている宿に入って行き、数分後、出て来た。
 なんの為に宿に寄ったのか、すぐにはわからないが、よく見ると赤毛の男の頭の上に三角の耳が一対ちょこんと乗っている。
 そのまま二人は大通りを通って、宮殿の方に向かう。正門ではない通用門で身分の提示を求められたものの、スムーズに宮殿に入って行く。



 ◇◇



「おはようございます、エドガー様」

 白い狐耳に獣の目と尻尾。それに女性と見まごう容姿の男が広いベッドで眠っている若い男に声をかける。

「おはよう、アルジャーノン。今日も君は麗しいな」

 目を覚ました若い男は眠たげに言う。

「嫌味はやめてください」

 微笑みを浮かべた若い男は顔にかかる髪を右手でかき上げ、フェロモンを駄々洩れにしていたが、いくら女性のような見かけをしているとはいえ、相手は同性である。それに常に微笑んでいるのは目が細いことを隠す為だと知っている側近には、その微笑みはまったく意味がなかった。

「本当のことなのに」

 取り付く島もなく、波打つ白い髪を後ろで緩い三つ編みにしている男は溜め息を吐いた。獣成分が三つしかない平凡な自分を麗しいというなら、獣頭に尻尾、肘から先と脚すべてに獣成分がある絶世の美女である王の寵姫をなんと表現したらいいのか。

「男に美しいというのは、侮辱ですよ」
「そう言うな。お前だから許されることなのだぞ」

 宮殿の多くの者を魅了する微笑も、目鼻立ちのしっかりとした派手な顔立ちの男には通用しない。

「昨夜も抜け出されたのですね、エドガー様。もう少し、自覚を持っていただかなければ困ります。あなたはこの国の王子なのですよ」

 起き上がった王子は尻尾を揺らしながら衣装部屋に向かい、無難な服を手に取る。

「そのようなことだから、お前はわたしの嫁だと言われるのだ。わたしが麗しいと呼んでも致し方なかろう」
「エドガー様」

 困った顔をする三つ編みの男をよそに王子は自分で着替え始めた。朝食をとるだけなので、服は飾りの少ないクリーム色。着替え終わったら上の棚に置かれていた髪の色と同じイヌ科用の獣耳カチューシャを手に取り、壁にかけられた鏡を見ながら、カチューシャ部分を髪で隠して、隠した髪が動かないようにピンで留める。
 獣成分を見せつけようと、手袋と腿の半ばまで見えないドレスを身に付けない絶世の美女から生まれた王子には尻尾しか獣成分がないことを宮殿の誰もが知っている。だが、それでも王家に尻尾だけの者がいることは外聞が悪いので、獣耳カチューシャを付けて獣成分が二つはあるようにしているのである。
 頭を左右に動かして落ちないことを確認して、王子は着替えを手伝わなかった白狐の侍従が待つ寝室に戻る。

「さあ、朝食をとりに行こう」

 微笑みの王子と呼ばれている赤狐の王子はそう言って笑みを深くして、不細工だと言われながらも誰もが魅了されずにはいられない笑みを浮かべた。
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