FULLMOON

藤野 朔夜

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第十一章

エピローグ

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「日本は、室内は靴、ぬぐんですね」
  この部屋を自由に使ってください。とタチナに言われて入った部屋。
  以前はタチナが使っていた部屋らしいが、タチナは恋人と同じ部屋に移動したらしい。
  僕やリグに、一部屋づつ用意しますよ、とも言ってくれたけれど、突然押し掛けてきて、二部屋も占領するのは気が引けたので、一部屋で問題ない、と答えた。十分な広さがあるし、今更リグと別に暮らすとか考えてもいなかったから。
「はい。浴室なんかも違いますよ」
  内装は洋風で、落ち着いた色合いの家具でまとめられていた。
  随所に文化の違いはみえたけれど、とてもいごごちの良い空間なのは、元々使っていたのがタチナだからだろうか。
「何かわからないことがあれば、すぐ連絡くださいね」
  そう言って、タチナは部屋を後にした。
  僕とリグはここへ送らせてもらった、生活用品の片付けがある。
  タチナは僕たちより、一日早く帰国してたけど、まだ片付けがすんでないと言っていたので、引き留めるわけにはいかない。
  この部屋から引っ越したこともあるし、片付けはなかなか進まないものだ。
  僕やリグは、生活に困らない程度の物しか送らず、後は日本で日本に合わせた物を買おうということに落ち着いたから。アメリカのあの部屋に有った家具は売り払って、マンションを後にした。
  結局、ロイ君たちには、会わないまま。否、会えなかった。……会えるはずもなくて。
  タチナは何も事情をきかなかった。
  さっき会った、タチナの弟も。詮索されることなく。ただ彼は、お兄さんの不思議な友人として、僕たちをとらえたみたいだった。
  タチナの弟も、やっぱり光の力を持つ子で。でも、僕たちの正体に気付いてるはずなのに、何も言わなかった。
  不思議な子だな、なんて思ったけど。失礼なことになりそうだし、こちらの事情を深く聞かないでここで暮らして良いって言ってくれた人に、そちらの事情を話せなんて言えるわけなかった。
  不思議な気配はたくさんあったけど、どれも不快なものではなかった。
  なんだろう?と思ってそっちを見ていた僕に、タチナの弟は笑って、
「俺の式神や、式がいるだけですよ」
  と答えてくれた。
  なるほど、こういったモノを自分の使いにしている人間に初めて出逢ったから、新鮮だった。
  嫌な気配じゃなかったのも、よくわかる。
  タチナの恋人にはまだ会えていない。仕事の関係上、帰ってくるのは夕方なんだと言っていた。
「リグ、ね、タチナのことどう思った?」
  タチナの弟には、僕とタチナは似てるって言われた。
  ちょっとびっくりした。僕はタチナみたいに、優しくなんかない。
「ん?普通に良い奴、かな。俺はあの弟の方が不思議な感じして気になる」
  ちょっと考えながらリグは言う。
  気になるって、何だろう。確かに不思議な子だと僕も思ったけど。気になるって何?
「ふーん」
  聞いたのは僕だけど。っていうか、タチナについて聞いただけで、弟については聞いてない。
「っていうかリグ、自分の荷物は自分で片付けてね」
  僕はさっさと自分の荷物を片付けに入ってたけど、リグはのんびりソファでくつろいでる。
  僕がわざわざリグの荷物まで荷解きする気はない。
  自分の物は自分でしまわないと、生活に困るのは自分だし。僕にあれやこれやどこにあるかとかいちいち聞かれるのも嫌だし。
「あー、ちゃんと自分でやる。後で」
  超特急で日本に来たから疲れてるのかな?と思って、それ以上言わないことにした。
  リグはやるって言ったことはちゃんとやるから。大丈夫だろう。
  アメリカの家の家具売り払うのに、リグに急がせたりしたこともあるし。
  荷解きできてなくても、一番に必要な着替えなんかはすぐに出せるようにキャリーケースでも持ってきたから、大丈夫かな。
  でも、段ボールがずっと片付かないで置いてあるのも、何か嫌だ。


  ピンポーン
  ある程度、僕の荷物は片付いたなぁって思ってた時に、チャイムが鳴った。
「あ、タチナだ」
  気配はすぐにわかる。タチナともう一人。
「おじゃまします」
  声が聞こえてくる。
  ソファに座ってて、片付けしてなかったけど、来客の対応は出てくれたんだね、リグ。
  おじゃまします、って、前までタチナの部屋だったのにね。
  おかしくなって笑いながら、リビングへと向かった。
「あ、ザーク。片付けできました?」
  タチナには呼び捨てで呼んでほしい、って言ってあった。
  でも、タチナは自分の弟にも君を付けて呼んでたから、抵抗あったみたい。だけど、呼び捨てで呼んでくれるようになった。
  近付けたみたいで、ちょっと嬉しい。
「僕の分はだいたいは」
  元々多くの荷物を送ってたわけでもないから、キャリーケースで持ってきた分も合わせて荷解きした。
「何か必要な物とか有ったら言って下さいね」
  相変わらず、タチナの笑顔に癒されながら。
  それに、相手への気遣いが半端ない。
  これだけ家具がそろっているのだから、問題ないのに。生活必需品の買えるスーパーなんかは、ここへ来るまでの間に安く売ってる場所を教えてもらっていたから、生活に困ることはないように思える。今のところは。
  日本語がまだちょっと危ういし、スーパーまではいつでも車を出してくれるっていうのには、甘えてしまうかもしれないけど。
「大丈夫。タチナ本当にありがとう」
  これから先、タチナに恩返しできるようにならなきゃ。
  結局押し掛けて、家まで与えてもらってしまってちゃ、意味ないんだよね。
「いいえ、ザークが日本へ来てくれて、僕は嬉しいですから。あ、この人が、僕のかけがえのない人です」
  ちょっと照れたように、タチナは彼を紹介してくれた。
  タチナより背が高くて、タチナを守るっていう意思が強い、綺麗な瞳をもってて。やっぱり、光の力を持った人だった。
  優しいタチナと並ぶと、すごく似合ってる。
「アイリザークといいます。ザークと呼んでください。これからよろしくお願いします。えと……」
「リグアザード・ラミュエール。世話になる」
  リグは僕が言うより早く、自分で自己紹介してくれた。


  こうして、僕たちの日本での生活はスタートした。

 ――――――――――――――――――――――
今までお付き合いくださり、ありがとうございました。
長い間、この話のピリオドが打てなかったことが引っかかってて。やっと終わらせられました。
なんだか色々言いたい事とかあるんですけど、多分言い訳にしかならないので。
日本で暮らす、ザークとリグを、またどこかで書けたら良いなぁ、と思いつつ。
タチナの弟や、恋人の名前を出さなかったのには、一応理由があります、とだけ。
ラストでやっとリグの本名が書けたので、良かった、とだけ。
ではでは、本当に、ありがとうございました!
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